親名義の家、つまり「実家」を相続した場合相続税は課税されるのでしょうか。結論を言えば「相続税の課税対象」です。ただし「誰が相続するのか」によって課税される税額は異なります。これは分割協議により決定します。
そこで今回は、親名義の家の相続税の計算方法から相続するための「分割の種類」そして特例が適用できるかどうかについて紹介しましょう。
目次
親名義の家は相続税が課税されます
親名義の家に子が住んでいるという場合、相続が発生すると「もともと自分は住んでいたから」といって、子は「相続財産ではない」と思ってしまいがちです。
しかし公的には「親」が所有しています。
そのため、いくら「子」が同居していたとしても名義が親である限り親が所有しているわけです。
相続が発生すれば、親名義ですから子には相続財産として相続税が課税されます。
遺産分割協議で所有者を決定
相続が発生すると相続財産は「遺産分割協議」によって所有者を決めます。
当然、亡くなった被相続人の配偶者とその子しかいなければこの2人で被相続人の財産を分ける(分割する)ことになりますし、子が多ければその人数分で分けることになります。
一般的には、分割協議を行うことで被相続人の財産が明確になり相続人の数も明確になることで、民法をもとにした法定通りの分割が行えるようになります。
親名義の家の相続税の計算方法
まず、「親名義の家」といってもひとくくりで考えるわけにはいきません。
家は「土地と建物(家屋)」で構成されています。
これはマンションでも戸建てでも同じです。
建物は役所が発行している固定資産税評価証明書で相続税評価額が分かります。
土地の評価方法は「倍率方式による評価方法」と「路線価方式による評価方法」の2種類あり、路線価も倍率も国税庁が発表する路線価により決定します。
この方法により土地と建物の合計額が相続財産として計算されます。
自宅以外の相続財産も一緒に計算
当然ですが、相続財産は「親名義の家」だけではありません。
被相続人が所有していたものすべてが相続財産です。
例えば、家以外に別荘や絵画を所有していた場合にはそれも相続財産ですし株式や車を所有していた場合にはそれも相続財産として認識されます。
これらすべての資産を合計し、もし借入などの負債があればそれを控除して相続税率をかけて相続税を計算します。
当然、基礎控除は誰もが適用できる権利ですからその分も相続財産から控除します。
参考までに基礎控除は以下の通りです。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
これで基礎控除額が決まります。
例えば亡くなった被相続人の配偶者と子供が2人いれば法定相続人の数は3人となり、
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
上記が基礎控除の額となります。
単純に、親名義の家の相続税評価額が3,000万円でそれ以外の相続財産を合わせても4,000万円しかないという場合であれば、基礎控除内でおさまり相続税は発生しないことになります。
法定相続人は誰なのか
さて、相続が発生すると相続財産の把握も大切ですが基礎控除に関係する「法定相続人」を把握しなければなりません。
昔とは違い、今はシングルマザーやシングルファーザーなど子供はいるが親は一人、現実的にはもう片方の親は生きていて認知しているというケースも珍しくありません。
この「認知している子」だからと言って、相続が発生したときに被相続人が分かっているのかといえば別問題です。
「認知はしているが黙っている」場合や、実は「再再婚で、初婚の時の子については誰も知らない」ということもあるでしょう。
このような場合、実際に相続が発生したときにはどのように認識するのでしょうか。
それは被相続人の戸籍謄本(除籍謄本)です。
ただし除籍謄本の場合は、最終本籍があったところの役場でしか取得できないため注意が必要です。
では、戸籍謄本には何が記載されているのでしょうか。
戸籍謄本にはその人の親子関係、婚姻関係、養子関係、後見などの記載があります。
(ただし抄本には「本人」の記載しかないため、相続の時には謄本が必要です)
わかりやすく言えば、よく言う「バツイチ」は離婚により婚姻関係がなくなったために戸籍「×(バツ)」が記載されることから言われていますが、それだけ戸籍はその人の「生まれてから亡くなるまで」の生い立ちを記しているものになります。
戸籍謄本により、法定相続人を明らかにすることで基礎控除を計算するときにも誤りのない金額が計算できます。
また、「子」だと思っていた人が実は違うというケースもあるかもしれません。
この場合は法定相続人から外れますから、やはり戸籍謄本により正しい把握が必要です。
自宅(実家)の評価方法
では同居している子から見れば親名義であっても「自宅」ですが、この自宅はどのように評価するのでしょうか。
先にも触れましたが、「家屋」と「土地」の2つに分けて評価し、その合計を自宅分として計算します。
実際に「家屋」と「土地」はどのように計算を進めるのでしょうか。
その計算過程について解説します。
家屋の評価方法
家屋の評価方法は非常に単純で、全国一律で「固定資産税評価額×1.0倍」という倍率方式と決まっています。
固定資産税評価額は、毎年春に役所から送られてくる固定資産税の評価明細により確認できますので、単純にその金額と考えれば問題ありません。
土地の評価方法
土地の評価方法は、「路線価方式」「倍率方式」の2種類があります。
どちらも国税庁により発表されるため、地域により価格差はあるもののもともとの評価を決める基準は日本全国で統一されています。
「路線価方式」を一言でいえば、自宅がある土地の面している道路に付された標準価格(路線価)を基準に評価し計算する方法です。
「倍率方式」は、固定資産税評価額にそれぞれの地域で決められている倍率をかけて評価する方法です。
固定資産税評価額は、家屋の場合と同様に役所から届く固定資産税評価明細により確認できます。
参考までに、路線価方式を採用する場合には相続する自宅の土地の奥行き・間口・形状など土地の評価に影響を及ぼす要因を考慮して計算します。
(これらは別に評価方法があります)
父が被相続人の場合、母が相続すべきか子が相続すべきか
父名義の自宅にその配偶者である母と子(ここでは以降「自分」として表現)が住んでいる場合、果たして母が相続する方がいいのか、自分が相続する方がいいのかという問題が発生します。
もちろん子は自分だけではありませんが、仮に同居している子が自分しかいない場合であれば、恐らく兄弟姉妹は住んでいる自分を無視することはないでしょう。
また仮に子は自分だけではないと主張されたとしても、配偶者と子という立場に変わりはありません。
そこで、「母が相続する」方がいいのか「自分が相続する」方がいいのかを決める判断基準としてメリットとデメリットを紹介しましょう。
母名義にする場合
先にも紹介しましたが、相続税を計算するときには親名義の家のほかの財産もすべて合計して計算します。
そのため、母には「配偶者控除」と呼ばれる基礎控除以外の控除がありこれを利用することで相続税を低くすることができます。
では、具体的なメリットとデメリットについて紹介します。
メリット
- 配偶者控除が利用できる
→膨大な遺産があり、相続税の課税対象となる資産が1億6000万円以上ある場合、
1億6000万円までは、配偶者控除で相続税が課税されないことができる。
- 二次相続で相続放棄をする可能性がある場合
→非常に稀なケースですが、その自宅を自分や兄弟姉妹が将来相続しないことがすでに決まっている場合には、今居住する必要がある母に名義変更しておくのもよいでしょう。
- 特別な要件なしに「小規模宅地の特例」が適用できる
デメリット
- 認知症になってしまうと実家が売却できなくなる
→自分よりも親は高齢です。
認知症になることも考えておかなければなりません。
認知症になると「法的な判断を自分でできない」とみなされるため、簡単に実家を売却することができなくなります。
- 二次相続時の相続税が高額になる
→基礎控除は法定相続人の数で決まります。
例えば現状法定相続人が4人いたと仮定して、単純に1名減るわけですから次の法定相続人は3人です。
一人当たり600万円の控除ですから、この600万円全額が無くなってしまうのです。
- 相続登記が2回必要
→二次相続とも関連してきますが登記が2回発生すれば、2回分の司法書士への登記費用と登録免許税が発生します。
登記費用も個人の場合は高いと感じる人が多いため、できれば回避したいところです。
子名義にする場合
自分名義にする場合、母が亡くなってもその時の相続で自宅を計算する必要がなくなります。
(いわゆる二次相続)
そのため、母は母で自身の財産を所有している場合には自宅を先に自分名義に変えてしまうのも将来の相続対策となります。
では具体的にどのようなメリットとデメリットがあるのか紹介します。
メリット
- 二次相続の財産を減らすことができる
→法定相続人も母の分が減少しますが、自分に自宅がすでに移っていることで自宅分の相続財産を減少させることができます。
- 納税資金に困った場合には売却できる
→納税資金に限らず、自分名義に変えておくことで将来の資金調達がしやすくなります。
デメリット
- 自分と兄弟姉妹で共有することは現実的ではない
→平等のように感じるが、共有することで簡単に売却ができなくなる
- 「小規模宅地の特例」を受けるには要件を満たしていなければならない。
親名義の土地に「小規模宅地の特例」は適用できるのか
子である自分が親名義の土地を相続した場合、以下の要件を満たせば小規模宅地の特例は適用できます。
その要件とは大きく分けて「居住継続要件」と「保有継続要件」です。
この2種類について次で解説していきます。
要件を満たせば適用できる
先にも紹介しましたが、自分(同居親族)が自宅を相続する場合の「居住継続要件」と「保有継続要件」について紹介します。
居住継続要件とは、「被相続人が亡くなる前から相続税の申告期限まで引き続きそこに居住すること」です。
保有継続要件とは、「親名義の宅地等を相続税の申告期限まで保有していること」です。
申告期限は被相続人が亡くなってから10カ月あることから、最低でもおおよそ10カ月と考えられます。
また居住要件を満たすためだけに自分が住民票を移したという場合は、小規模宅地の特例は適用できませんので注意が必要です。
しかし「家なき子の特例」ができ、配偶者や同居親族以外の親族が相続する場合でも、その要件を満たせば小規模宅地の特例が適用できることになりました。
その特例の要件を簡単に紹介すると次のようになります。
- 亡くなった人に配偶者や同居親族がない
- 宅地を相続した親族は、相続の3年前までに「自己または自己の配偶者」「3親等以内の親族」「特別の関係がある法人」の持ち家に住んだことがない
→平成30年の改正により「3親等以内の親族」「特別の関係がある法人」が追加されました。
- 相続した宅地を相続税の申告期限まで保有
- 相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがない
→一度も所有したことがなければ、特別考える必要はありません。
まとめ
親名義の家に住んでいて、親が亡くなり子はそのまま継続して居住するとしても、親が亡くなれば親名義である限り相続税がかかります。
この親名義の家は親の相続財産です。
親名義の家を相続する場合、誰が相続するのが一番いいかを判断するには「二次相続」と相続財産の合計額が重要なカギを握ります。
一般的には子が相続するのが望ましいとされますが、相続財産が多い場合には配偶者がいったん相続しておくというのも1つの方法です。
ただし、配偶者は子よりも高齢でいつ亡くなるかわかりません。
このことを考慮したうえで、実際に誰が相続するのがベストなのか判断する必要があります。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。