生産緑地所有者は、2022年の生産緑地問題に対峙するにあたり、そのまま生産緑地を保有し続けるだけでは、固定資産税や相続税の負担が増加すること等の様々な問題が見込まれます。
固定資産税、相続税、農業の後継者、土地の承継等、これらの問題は様々な人が関与し解決には難解なことが多く、難解であること故にこれらの問題に着手をすることをためらうことも多いものです。
しかしこの2022年問題が身近に迫るなか、これらの問題は考えざるを得ない状況であるといえます。
今回は、生産緑地の2022年問題のその問題点と対処法についてご紹介いたします。
様々な問題がありますが、生産緑地所有者や農業後継者等の負担が少なくなるような、最適な対処法を一緒に考えていきましょう。
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
生産緑地とは
生産緑地とは、都市計画制度のひとつである生産緑地地区制度によって指定を受けた市街化区域内の農地等のことをいいます。
生産緑地地区制度では、緑地機能に着目して、公害や災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等に役立つ農地等を計画的に保全し、良好な都市機能の形成を図ること目的として自治体が指定を行っています。
生産緑地を指定する自治体は、東京23区、首都圏、近畿圏、中部圏内の政令指定都市、首都圏整備法、近畿圏整備法、中部圏開発整備法に規定する一定の区域内にある市です。
生産緑地の対象
生産緑地地区の対象となる土地は、現に農林漁業の用に供されている農地等であり、かつ下記の要件を満たすものです。
- 生活環境機能及び公共施設等の敷地の用に供する土地として適していること
- 面積が一団で500㎡以上、市区町村の条例の定めがある地域では300㎡以上の農地等であること
- 農林漁業の継続が可能であること
- 農地利害関係者の生産緑地指定を受けることに対する同意があること
生産緑地の指定を受けた場合のメリット
生産緑地の指定を受けた場合には、下記のメリットがあります。
固定資産税の負担を抑えることが出来る
固定資産税とは、土地や家屋等の1月1日時点の所有者に対して課される税金です。
市街化区域内の農地の固定資産税の課税対象となる評価額は、生産緑地の場合は農地評価、生産緑地以外の場合は宅地並み評価によって算出をされます。
農地評価とは、農地利用を目的とした売買実例価格を基準とした評価額を用いることであり、宅地並み評価とは、近傍の宅地の売買実例価格を基準として評価した価格から造成費相当額を控除した価格を用いることをいいます。
農地は一般的に宅地よりも評価額が低いことから、市街化区域内の農地は生産緑地指定を受ける方が、固定資産税の負担を抑えることが出来ます。
相続税の負担を抑えることが出来る
相続税とは、相続が発生し財産を引き継ぐ際に、その財産を受け取った人が受け取った財産額に応じて課される税金です。
生産緑地の評価額
受け取った財産に生産緑地が含まれる場合、その生産緑地の財産としての評価額は、その土地が生産緑地でないものとして評価した価額から10~35%の一定の控除額を差し引いたものとして算出がされます。
生産緑地でない土地よりも生産緑地は10~35%低い評価額となる、つまり納めるべき相続税額が生産緑地でない土地よりも低く算定され、相続税の負担を抑えることが出来ます。
農地の評価ついては下記コラムをご参照ください。
納税猶予、免除
上記に加えて、この相続税額について納税猶予を受けることが出来ます。
農業を営んでいた人が死亡し、その農業を営んでいた土地を引き継いだ場合には、一定の要件を満たすことで、農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例を適用させることが出来ます。
納税猶予の特例を適用した場合には、取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、その取得した農地等について相続人が農業の継続又は特定貸付け等を行っている場合に限り、その納税が猶予されます。
更にこの猶予された税額は、一定の要件を満たすことで納税が免除されます。
この農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例の適用を受ける農地の要件に、生産緑地が含まれます。
生産緑地は納税の猶予及び免除の対象となる事から、相続税の負担を抑えることが出来ます。
納税猶予額については下記コラムをご参照ください。
納税猶予の特例を適用するための被相続人の要件
下記のいずれかに該当をする必要があります。
- 死亡の日まで農業を営んでいた人
- 農地等の生前一括贈与をした人
- 死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人又は農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人
- 死亡の日まで特定貸付け等を行っていた人
納税猶予の特例を適用するための相続人の要件
下記のいずれかに該当をする必要があります。
- 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人
- 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人
- 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした人
- 相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った人
特例農地等の要件
下記のいずれかに該当をする必要があります。
- 被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地又は採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
- 被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていたもの
- 相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの
納税が免除される要件
下記のいずれかに該当をする場合、納税が免除されます。
- 特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合
- 特例の適用を受けた農業相続人が特例農地等の全部を租税特別措置法第70条の4の規定に基づき農業の後継者に生前一括贈与した場合
- 特例農地等のうちに平成3年1月1日において三大都市圏の特定市以外の区域内に所在する市街化区域内農地等について特例の適用を受けた場合において、当該適用を受けた農業相続人が相続税の申告書の提出期限の翌日から農業を20年間継続したとき
農地等として維持するための助言を自治体より受けることが出来る
生産緑地として指定を受けた場合には、農業を続ける必要があります。
その農業を維持するための助言や、土地交換のあっせんを自治体より受けることが出来、他の農地よりもその維持がしやすくなります。
生産緑地の指定を受けた場合のデメリット
一方で、生産緑地の指定を受けた場合には、下記のデメリットがあります。
生産緑地の管理の義務
生産緑地の所有者は、その生産緑地を実際に農業等のために利用すること、及びその農業等が継続して可能となるように設備等を維持管理することが義務となっています。
農地としての利用以外への転用や転売は出来ません。
この義務は生産緑地として指定を受けてから30年間、又はその所有者の終身とされています。
つまり生産緑地の指定を受ける場合は農業を営み続ける必要があり、その土地の使用方法や所有者の職について制限を受けることがデメリットとなります。
生産緑地の開発等の制限
生産緑地に指定を受けた土地では、建物の建築や土地の造成工事が出来る対象が指定をされ、建築物においても制限を受けることがデメリットとなります。
生産緑地内に建築することが出来るものは、下記のものです。
- 生産又は集荷の用に供する施設
- 生産資材の貯蔵又は保管の用に供する施設
- 処理又は貯蔵に必要な共同利用施設
- 休憩施設その他
- 生産緑地内で生産された農産物等を主たる原材料とする製造、加工施設
- 生産緑地内で生産された農産物等又は上記において製造加工されたものを販売する施設
- 生産緑地内で生産された農産物等を主たる材料とするレストラン
生産緑地の買い取り
生産緑地の指定を受けた場合には、上記のようなメリット、デメリットがあり、これはその土地が生産緑地としての指定の解除を受けるまで続きます。
指定の解除の方法とは、生産緑地の買い取りを自治体に申し出ることです。
買い取りは自治体による営農状況の聞き取り、買い取り要件に該当するかの判断等が行われ、実際に買い取りが行われるまでに6ヶ月程度の時間を要します。
買い取りの手続きの方法や必要な書類は、自治体ごとに異なりますので、自治体への問い合わせが必要です。
この買い取りを申し出ることの出来る生産緑地とは、下記の要件のいずれかに該当をするものです。
- 生産緑地に指定されてから30年を経過しているもの
- 農業の主たる従事者が死亡、又は故障したもの
自治体が買い取りを行わなかった場合には、他の農業者へのあっせんを行います。
あっせんを行ってもなお3ヶ月以内に所有権の移転が行われなかった場合には、開発行為の制限が解除され、農地以外への転用が可能となります。
生産緑地の2022年問題
生産緑地の指定は生産緑地法によるものです。
この生産緑地法は農地に対して1974年に制定されたもので、その後1992年に改正がされ、市街化区域内の農地は、農地として保全する生産緑地と宅地などに転用される宅地化農地に明確に分けられました。
つまり生産緑地が自治体により指定を受けた、はじめの年が1992年です。
2022年は1992年から30年後にあたりますが、ここで上記にてご紹介しました内容を確認しますと、生産緑地の管理義務は生産緑地として指定を受けてから30年間、そして生産緑地の買い取りの申し出が可能となるのは指定されてから30年間でした。
30年を経過した2022年以降、生産緑地はいつでも買い取りの申し出が出来るようになります。
つまり、2022年は生産緑地として指定された土地を保有し続けるか、買い取りを申し出るか、又は下記でご紹介します特定生産緑地として指定を受けるか、の選択を、生産緑地所有者は迫られることとなり、下記でご紹介する様々な影響、問題の発生が予測されることから、2022年問題といわれています。
特定生産緑地の指定とは
生産緑地所有者の2022年に選択すべき方法として、特定生産緑地の指定を受けることが挙げられます。
特定生産緑地の指定を受けることで、生産緑地としてのメリットを10年間延長して受けることが出来ます。
特定⽣産緑地の指定は、⽣産緑地指定から30年経過する前に受ける必要があり、30年経過後は指定を受けることは出来ません。
特定生産緑地の指定を受けた場合には、指定期間を10年で更新をすることが出来ます。
特定生産緑地制度の詳しい内容については下記コラムをご参照ください。
固定資産税への影響と対処法
生産緑地の買い取りを申し出る、又は特定生産緑地としての指定を受けずに生産緑地として保有をし続けると、その固定資産税は農地課税から宅地並課税へ5年間で段階的に上昇し、固定資産税の負担が増加します。
宅地並課税の固定資産税は、その土地の買い取りの申し出を行わない限り、農地の所有者に対して納付が求められます。
固定資産税の支払いの観点からの対処法としては、特定生産緑地の指定を受けることで引き続き農地としての評価を受ける、賃貸住宅用の土地に転用をする、その土地を売却する等の方法が考えられます。
特定生産緑地の指定を受ける方法では、その土地をそれまでの生産緑地と同様に評価を受けることで、引き続き同程度の固定資産税の負担に抑えることが出来ます。
次に賃貸用住宅用の土地に転用をする方法では、住宅用の土地では、一般的な土地よりも固定資産税が低くなる軽減措置が設けられています。
このことにより、特定生産緑地の指定を受け農地としての評価を受けるよりも高くはなりますが、一般的な土地よりも固定資産税の負担を抑えることが出来ます。
また固定資産税の負担を抑えることのみならず、その賃貸住宅により固定資産税の負担やその他の住宅を維持するための費用を上回る収益が農業を続ける収益よりも多いと見込まれるようであれば、土地活用の方法としては最も手元に資金が残る方法であるといえます。
最後に買い取り申請等により土地を売却する方法では、土地の所有者で無くなることにより、固定資産税の負担は無くなります。
相続税の納税猶予への影響と対処法
生産緑地の買い取りを申し出る、又は特定生産緑地としての指定を受けずに生産緑地として保有をし続けると、既に受けている相続税の納税猶予は適用されますが、将来的に相続税の納税猶予を受けようと考えた際には納税猶予を受けることが出来なくなります。
一方で特定生産緑地の指定を受けた場合には、その特定生産緑地の所有者が死亡した際には相続税の納税猶予が受けることが出来ます。
相続税の納税猶予の観点からの対処法としては、上記のことから、既に相続税の納税猶予を受けているか、また農業の後継者がいるかによって異なる方法が挙げることが出来ます。
まず相続税の納税猶予を受けており後継者がいる場合においては、その後継者が死亡した際の相続税の納税猶予を受ける可能性を考慮して特定生産緑地の指定を受けることが最も負担の少ない方法として挙げられます。
次に相続税の納税猶予を受けており後継者がいない場合においては、その後継者が死亡した際の相続税の納税猶予を受ける可能性を考慮するための特定生産緑地の指定を受けることは必要ありません。
しかし2022年の時点で買い取りの申請を行うと、相続税の計算上は30年ではなく、終身営農が要件であり猶予していた税額に加えて30年分の利子税が発生することから相続税の負担が増えてしまいます。
よって現在の就農者が死亡した後に買い取りを申し出ることが最も負担の少ない方法として挙げられます。
次に相続税の納税猶予を受けておらず後継者がいる場合においては、既に相続税の納税猶予を受けている場合と同じく特定生産緑地の指定を受けることが最も負担の少ない方法として挙げられます。
最後に相続税の納税猶予を受けておらず後継者がいない場合においては、相続税の納税猶予に関して問題が生じる可能性が少ないため、買い取りの申請を行うことが最も負担の少ない方法として挙げられます。
社会的な影響
2022年を機に買い取りを申し出る生産緑地所有者は大勢いると予想がされます。
この結果、土地の供給が過多となり、不動産価格の暴落が想定されています。
また買い取りを申し出ない場合であっても、宅地への転用を行う生産緑地所有者の発生も予想されます。
賃貸用住宅等への転用の結果、住宅の供給が過多となり、買い取りの申し出がない場合も、買い取りの申し出が行われる場合と同様に、不動産価格の暴落が想定されます。
不動産価格の暴落は、生産緑地所有者が買い取りを申し出る場合に買い取り価格が低くなってしまう、買い取りを申し出ずに転用をする場合においても、不動産収益が低くなってしまう等のデメリットがあります。
また生産緑地所有者以外の、その土地の近隣の不動産所有者においても、販売価格や賃貸価格を下げざるを得ず、不動産収益が低くなってしまう等のデメリットがあります。
その土地にこれから居住しようと考える人にとっては不動産の購入価格が低くなるというメリットがありますが、需要と供給のバランスのとれた安定した不動産価格、人の流入や流出の少ない安定した地域になるまでは数年かかると考えられます。
特定生産緑地の指定を受けることは必ずしも最適解ではない
特定生産緑地の指定を受けることで、メリットを10年間延長することが出来ますが、その10年後に特定生産緑地の指定を引き続き受けることを検討する場合に、農地以外の転用の価値があるのか、買い取りの申し出により換金が可能なのか、ということを検討する必要があります。
また10年間の延長には、営農する期間が10年伸びることを必須とします。
この期間及び10年後に農業に従事できる人がいるのかという後継者問題についても検討をする必要があります。
農業の後継者問題は社会的な問題であり、特定の休暇が無いためワークライフバランスがとりにくい、収入が得られにくい、重労働であるというイメージが農業にはあるといわれています。
新規に参入するには敷居が高い職業であると感じられていることのみならず、親が農業をしている人がいる場合でも、その職を継ぎたくないと感じる子は多いようです。
上記では固定資産税や相続税の納税猶予についての対処法をご紹介しましたが、特定生産緑地の指定を受けることを選択した場合には、常に後継者問題が伴っています。
このような点を踏まえると、必ずしも特定生産緑地の指定を受けることが最適解とはいえません。
税金を支払ってでも就農をすることを避けたい、他の土地活用方法を検討したい、土地を手放したいと考える人には、特定生産緑地の指定を受けることはお勧めすることが出来ません。
どの選択をするか考えるにあたり、固定資産税や相続税の負担は今後どうなるのか、農業を引き継いで行っていくための仕事としての展望は今後どうなるのか、農業を行っている人は様々な面から情報を収集し、よく話し合いを行って関係者全員の負担が少なくなるような選択をしていく必要があります。
まとめ
生産緑地の2022年問題とは、1992年に生産緑地として指定をされた土地が、30年後である2022年に生産緑地として保有し続けるか、買い取りの申し出を行うか、特定生産緑地の指定を受けるかの選択を迫られる時期が訪れることであり、その選択により生産緑地所有者の固定資産税や相続税の負担の問題、また社会的な問題が発生することです。
この生産緑地問題を解決する方法は、短期的には特定生産緑地制度を活用することですが、それでは本質的な解決にならず、中長期的には様々な課題が残されています。
その生産緑地にはどのくらいの相続税が発生するか、既に納税猶予の適用を受けているか、どのくらいの納税猶予を受けているか等の『相続税問題』、将来の農業を誰が、どのように承継していくかという『後継者問題』、対象となっている生産緑地を宅地に転用して有効活用が可能なのかという『宅地としての有効利用可能性問題』という様々な問題があります。
このような問題に対して、特定生産緑地制度の活用のみならず、最適となる方法を模索する必要があるといえます。
ご不明な点がございましたら、弊社までお気軽にご相談頂ければと思います。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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