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【税理士が解説】居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例

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税理士桐澤
税理士桐澤

新型コロナウイルス感染症による社会経済への影響が長期化する中、生活スタイルの変化や収入の減少などの理由でご自宅の売却を計画されている方もいるかと思います。

自宅の売却は人生の中で何度もあるものではないので、「自宅を売却するのは初めてなんだけど、売却したら確定申告が必要なの?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、自宅の売却に伴う所得税の取り扱いについて、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例を中心に詳しく解説します。

この記事の監修者

税理士桐澤

税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。

土地建物を譲渡した場合の課税関係(原則)

特例の解説を行う前に、まずは原則について簡単に解説します。

土地や建物を譲渡した場合の譲渡所得に対する所得税額は、事業所得(自営業の方の所得)や給与所得(会社員の方の所得)などの所得とは分離して計算することになっています。

土地や建物の譲渡によって譲渡益が生じた場合と譲渡損失が生じた場合に分けて、それぞれの課税関係について簡単に解説します。

(1) 譲渡益が生じた場合

譲渡益が生じた場合は確定申告をする必要があります。

譲渡所得に対する税率は、土地や建物の所有期間が譲渡した年の1月1日現在で5年を超えるかどうかで変わります。

5年を超えない場合の税率は39.63%で(内訳は所得税が30.63%、住民税が9%です)、5年を超える場合の税率は20.315%です(内訳は所得税が15.315%、住民税が5%です)。

(2) 譲渡損失が生じた場合

譲渡損失が生じた場合は確定申告をする必要はありません。

土地や建物の譲渡損失は、事業所得や給与所得などの所得とは通算できないのが原則ですので、譲渡損失の金額が何円あろうが、その年に納付すべき所得税の額は変わりません。

居住用財産を譲渡した場合の特例の概要

居住用財産を譲渡した場合の特例の概要

居住用財産とは

土地や建物のうち、次のいずれかに該当するものを「居住用財産」と呼びます。

  • 現に居住している(住んでいる)家屋(国内にあるものに限ります、以下同じ)
  • 以前は居住していたが現在は居住していない家屋(一定のものに限ります)
  • 上記いずれかの家屋の敷地として使っていた土地
  • 災害によって家屋が滅失した場合のその土地(一定のものに限ります)

つまり、「居住用財産」とは、「自宅の土地建物」と言い換えることができます。

「自宅の土地建物」ですから、貸家、別荘、店舗専用建物などは、敷地も含めて「居住用財産」には該当しません。

譲渡益が出た場合

居住用財産の譲渡により譲渡益が出た場合の特例は次の3つがあります。

これらの特例については、この記事のメイントピックですので、後ほど詳しく解説します。

  • 3,000万円特別控除の特例
  • 軽減税率の特例
  • 居住用財産を買い換えた場合の特例

譲渡損失が出た場合

居住用財産の譲渡により譲渡損失が出た場合の特例は次の2つがあります。

  • 居住用財産を買い換えた場合の特例
  • 住宅ローン残高が残っている場合の特例

これらの特例については詳しく解説しないため、特例の適用要件と効果を簡単に紹介します。

(1) 居住用財産を買い換えた場合の特例

 

①適用要件

適用を受けるためには、次の要件を全て満たす必要があります。

下線部は、住宅ローン残高が残っている場合の特例と適用要件が異なる箇所です。

  • 居住用財産を譲渡した年分の確定申告を行うこと
  • 譲渡年の1月1日時点で5年超所有している居住用財産であること
  • 他人への譲渡であること(親族への譲渡ではないこと)
  • 譲渡年の前年、前々年に居住用財産の譲渡益の特例または譲渡損失の特例を受けていないこと
  • 譲渡年の前年、譲渡年、譲渡年の翌年のいずれかに新たに一定の居住用財産を取得し、取得した年の翌年までの間にその居住用財産に居住していること

 

②効果

譲渡損失の額を他の所得(事業所得や給与所得など)と通算することができます。

たとえば所得が給与所得しかない会社員の方であれば、譲渡損失の金額次第では、居住用財産を譲渡した年の所得税額を0円にすることが可能です。

また、その年で引ききれなかった譲渡損失の金額は、居住用財産を譲渡した年の翌年、翌々年において、それぞれの年に生ずる他の所得と通算することも可能です(引ききれなかった譲渡損失の金額を繰り越すには、確定申告が必要です)。

 

(2) 住宅ローン残高が残っている場合の特例

 

①適応要件

適用を受けるためには、次の要件を全て満たす必要があります。

下線部は、居住用財産を買い換えた場合の特例と適用要件が異なる箇所です。

  • 居住用財産を譲渡した年分の確定申告を行うこと
  • 譲渡年の1月1日時点で5年超所有している居住用財産であること
  • 他人への譲渡であること(親族への譲渡ではないこと)
  • 2年以内に居住用財産の譲渡益特例を受けていないこと
  • 居住用財産の譲渡契約の前日に住宅ローン残高があること
②効果

譲渡損失の額と譲渡資産にかかる一定の住宅ローンの金額から譲渡資産の譲渡対価の額を控除した残額のいずれか少ない金額を、他の所得(事業所得や給与所得など)と通算することができます。

その年で引ききれなかった譲渡損失の金額は、居住用財産を譲渡した年の翌年、翌々年において、それぞれの年に生ずる他の所得と通算することも可能です(引ききれなかった譲渡損失の金額を繰り越すには、確定申告が必要です)。

 

譲渡益が出た場合の特例のまとめ

譲渡益が出た場合の特例のまとめ

続いては、譲渡益が出た場合の特例について紹介します。

次の表は、譲渡益が出た場合の特例の適用要件、効果、重複適用の可否をまとめたものです。

適用要件 効果 重複適用の可否
3,000万円特別控除の特例 居住用財産を譲渡したことなど 所得金額から3,000万円を控除(マイナス)できます
軽減税率の特例 所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡したことなど 一定の所得金額までの税率が14.21%に軽減されます(内訳は所得税10.21%、住民税4%です)
居住用財産を買い換えた場合の特例 所有期間が10年を超える居住用財産を対価1億円以下で譲渡したことなど 譲渡益の全部または一部を繰り延べることができます 不可

3,000万円特別控除の特例

適用要件

適用を受けるには、次の全ての要件を満たすことが必要です。

  1. 自分が住んでいる家屋を譲渡すること、もしくは家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。以前に住んでいて今は住んでいない家屋や敷地・借地権の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡することが必要です
  2. 譲渡した年の前年及び前々年にこの特例、居住用財産を買い換えた場合の特例、または居住用財産の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと(前年、前々年において軽減税率の特例の適用を受けていても、譲渡した年に3,000万円特別控除の特例の適用を受けることはできます)
  3. 譲渡した家屋や敷地について、他の特例(たとえば、土地収用法に基づいて土地が収用された場合の特別控除)の適用を受けていないこと
  4. 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
  5. 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと

効果

譲渡益(売却価格-取得費-譲渡費用)の金額から、3,000万円と譲渡益のいずれか少ない金額を控除することができます。

他の特例との重複適用の可否

軽減税率との重複適用はできますが、居住用財産を買い換えた場合の特例との重複適用はできません。

適用を受ける場合の注意点

適用を受ける場合は、次の点に注意が必要です。

(1) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の全ての要件を満たすことが必要です。

  • その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
  • 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場など、建物の敷地以外の用途に使っていないこと

(2) 適用対象外の家屋

次の家屋は、3,000万円特別控除の特例の適用対象外です。

  • この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
  • 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居している家屋
  • 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋

(3) 住宅借入金等特別控除との重複適用不可

3,000万円特別控除の特例の適用を受けた場合は、その適用を受けた年、翌年、または翌々年に新たに取得した居住用財産について住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の特例の適用を受けることはできません。

3,000万円特別控除の特例の適用を受けた方が得か、住宅借入金等特別控除の適用を受けた方が得かは、慎重な検討が必要です。

(4) 「特別な関係」の範囲

特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

適用を受ける場合の必要書類

適用を受ける場合は確定申告が必要です。

確定申告書を提出する際には、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】を確定申告書に添付して提出する必要があります。

譲渡所得の内訳書は、税務署で取得することができます。

また、居住用財産の譲渡契約日の前日において、その居住用財産の所在地と譲渡人の住民票住所が異なる場合は、戸籍の附表の写しも提出する必要があります。

戸籍の附表の写しは市区町村の役場で交付を受けることが可能です。

軽減税率の特例

適用要件

適用を受けるには、次の全ての要件を満たすことが必要です。

下線部は、3,000万円特別控除の特例にはなかった適用要件です。

  1. 自分が住んでいる家屋を譲渡すること、もしくは家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。以前に住んでいて今は住んでいない家屋や敷地・借地権の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡することが必要です
  2. 譲渡した年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと(3,000万円特別控除の特例とは異なり、譲渡した前年及び前々年に3,000万円特別控除の特例、居住用財産を買い換えた場合の特例、または居住用財産の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていても、譲渡した年に軽減税率の特例の適用を受けることはできます)
  3.  譲渡した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
  4. 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
  5. 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
  6. 譲渡した年の1月1日において譲渡した家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること

効果

長期譲渡所得の金額に対する適用税率が、所得金額6,000万円以下の部分については14.21%(内訳は所得税が10.21%、住民税が4%)に軽減されます。

なお、6,000万円を超える部分については20.315%(内訳は所得税が15.315%、住民税が5%)ですので、長期譲渡所得に対する通常の税率と同じです。

原則と特例の税率は次のとおりです。

所得が6,000万円以下の部分

原則 特例 軽減率
20.315% 14.21% 6.105%

所得が6,000万円を超える部分

原則 特例 軽減率
20.315% 20.315% 0%

他の特例との重複適用の可否

3,000万円特別控除の特例との重複適用はできますが、居住用財産を買い換えた場合の特例との重複適用はできません。

適用を受ける場合の注意点

適用を受ける場合は、次の点に注意が必要です。

下線部は、3,000万円特別控除の特例にはなかった注意点です。

(1) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の全ての要件を満たすことが必要です。

  • その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
  • 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場など、建物の敷地以外の用途に使っていないこと
  • 取り壊された家屋及びその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること

(2) 適用対象外の家屋

3,000万円特別控除の特例と同じです。

(3) 住宅借入金等特別控除との重複適用不可

3,000万円特別控除の特例と同じです。

(4) 「特別な関係」の範囲

3,000万円特別控除の特例と同じです。

適用を受ける場合の必要書類

適用を受ける場合は確定申告が必要です。

確定申告書を提出する際には、次の書類を確定申告書に添付して提出する必要があります。

下線部は、3,000万円特別控除の特例にはなかった必要書類です。

① 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】

② 譲渡した居住用財産の登記事項証明書

②の登記事項証明書が必要なのは、「所有期間が10年を超える」ということを示すためです。

②は法務局の窓口で交付を受けることができる他、オンラインで請求して自宅や会社などに郵送してもらうことも可能です。

詳細は法務局のホームページをご確認ください。

登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です

出典:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html

居住用財産を買い換えた場合の特例

適用要件

適用を受けるには、次の全ての要件を満たすことが必要です。

下線部は、3,000万円特別控除の特例にはなかった適用要件です。

(1) 自分が住んでいる家屋を譲渡すること、もしくは家屋とともにその敷地や借地権を譲渡すること。

以前に住んでいて今は住んでいない家屋や敷地・借地権の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡することが必要です

(2) 譲渡した年の前年及び前々年にこの特例、3,000万円特別控除の特例、軽減税率の特例、または居住用財産の譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと

(3) 譲渡した家屋や敷地について、他の特例(たとえば、土地収用法に基づいて土地が収用された場合の特別控除)の適用を受けていないこと

(4) 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること

(5) 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと

(6) 譲渡した年の1月1日において譲渡した家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること

(7) 居住期間が通算で10年以上あること

(8) 譲渡代金が1億円以下であること

(9) 買い換える居住用財産について、次の要件を満たすこと

① 建物の床面積が50平米以上であること

② 土地の面積が500平米以下であること

③ 中古住宅である場合には、建築後25年以内であること

なお、買い換える居住用財産について、建築後25年を超えていても新耐震基準(1981年6月から適用されている耐震基準)を満たす建物であればこの特例の適用を受けることができます。

効果

譲渡代金よりも買い換えた居住用財産の取得に要した金額の方が高い場合は、譲渡益に対する課税が将来に繰り延べられます(免税となるわけではありません)。

たとえば、取得費が2,000万円の居住用財産Xを3,000万円で譲渡し、4,000万円で新たな居住用財産Yを取得したとします。

この場合、居住用財産を買い換えた場合の特例の適用を受けないときは、3,000万円から2,000万円を引いた1,000万円に対して課税がなされます。

一方、この特例の適用を受ける場合、譲渡代金(3,000万円)よりも買い換えた居住用財産Yの取得に要した金額(4,000万円)の方が高いので、この譲渡における譲渡益に対する課税はなされません。

この譲渡益に対する課税は、買い換えた居住用財産Yを譲渡するときに行われます。

たとえば、4,000万円で取得したこの居住用財産Yを、即座に4,000万円で売却する場合を考えます。

4,000万円で取得した居住用財産Yを4,000万円で売却するわけですから、譲渡益は0円であるように思えます。

しかしながら、この時点で居住用財産Xの譲渡時に課税が繰り延べられた金額(1,000万円)に対して課税がなされるというルールになっています。

他の特例との重複適用の可否

他の特例との重複適用はできません。

適用を受ける場合の注意点

適用を受ける場合の注意点は、軽減税率の特例と同じです。

適用を受ける場合の必要書類

適用を受ける場合は確定申告が必要です。

確定申告書を提出する際には、次の書類を確定申告書に添付して提出する必要があります。

下線部は、軽減税率の特例にはなかった必要書類です。

① 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】

② 譲渡した居住用財産の登記事項証明書

③ 居住用財産の譲渡契約書

④ 買い換えによって取得した居住用財産の登記事項証明書

③が必要なのは「譲渡対価が1億円以下」であることを示すため、④が必要なのは買い換えた居住用財産の建物・土地の面積などを示すためです。

なお、買い換えによって取得した建物が中古住宅であって建築後25年を経過しているものであるときは、これらの他に新耐震基準に適合していることを証する書類(耐震基準適合証明書など)の提出も必要です。

まとめ

以上、自宅の譲渡益及び譲渡損失に対する所得税の課税関係について、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例を中心に解説しました。

譲渡益が出た場合の3つの特例は、どれも譲渡益に対する税額を圧縮する効果を持っています。

重複適用が不可であったり、細かな適用要件があったりするので、特例の適用漏れや適用誤りがないよう、必要に応じて税理士などの税務専門家に相談されることをおすすめします。

響き税理士法人のスタッフ

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税理士 桐澤寛興
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