数年前に相続税の課税対象が拡大したことを受けて、以前よりも相続税に対する興味関心が高まってきているように感じます。
「小さい宅地は税金の優遇がある」という情報をテレビや雑誌でご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。
その方の中には、相続が生じた時の準備をしようと思ってインターネットで「小さな宅地+税金」で検索したら検索結果が固定資産税に関するものしか表示されず、頭を捻った方もいるかもしれません。
小規模宅地に対する優遇特例は相続税と固定資産税に設けられています。
これから、この二つの税目それぞれの特例についてわかりやすく解説していきます。
目次
特例のまとめ
次の表は、それぞれの特例の適用対象の資産、効果、適用を受ける方法、注意点をまとめたものです。
この後、それぞれの内容について詳しく解説します。
相続税 | 固定資産税 | |
適用対象の資産 | 被相続人などの
・330平米以下の居住用土地 ・400平米以下の事業用土地 ・200平米以下の貸付事業用土地 |
200平米以下の住宅用地 |
特例の効果 | 相続税の課税対象額が次の金額になる
・居住用土地:評価額の2割 ・事業用土地:評価額の2割 ・貸付用土地:評価額の5割 |
固定資産税の課税標準額が
通常の6分の1になる |
適用を受ける方法 | 申告期限内に相続税の申告書を提出する(相続税額が0円でも申告書の提出要) | 土地所在地の市区町村(東京都特別区の場合は都税事務所)に対して住宅用地申告書を提出する |
適用を受ける際の注意点 | ・特例の対象となる土地を相続税の申告期限まで保有している必要あり
(居住用土地で被相続人の配偶者が取得した場合は除く) ・相続時精算課税制度を使って贈与された土地は適用対象外 |
1月1日において建物が建っていない土地は原則として住宅用地とはされない |
相続税における小規模宅地等の特例
適用対象となる資産は?
適用対象資産は、次の資産のうち限度面積に達するまでの部分です。
資産 | 限度面積 |
被相続人または被相続人の親族の住居の敷地 | 330平米 |
被相続人の事業に使っていた土地(貸付事業用土地は除く) | 400平米 |
被相続人の貸付事業に使っていた土地 | 200平米 |
なお、住居の敷地について、相続があったときに被相続人またはその生計一親族が住んでいた住居の敷地であることが必要(つまり空き家の敷地では特例の適用を受けられない)なのが原則です。
ただし、「被相続人が老人ホームに入居しているため空き家になっていた」という事情であれば、原則にかかわらず小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
また、被相続人が貸付けていた土地であっても、被相続人とその親族が支配していた同族会社への貸付けの場合は、「被相続人の事業に使っていた土地」として取り扱われます(つまり、限度面積が400平米になります)。
特例の効果は?
相続税の課税価格に算入すべき価額の計算において法定の割合が減額されます。
その結果、その土地の相続税評価額のうち課税される割合は次のとおりとなります。
資産 | 課税される割合 |
被相続人の住居の敷地 | 2割 |
被相続人の事業に使っていた土地(貸付事業用土地は除く) | 2割 |
被相続人の貸付事業に使っていた土地 | 5割 |
特例の適用を受ける方法は?
特例の適用を受けるためには、相続税の申告を申告期限までに行うことが必要です。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
もっとも、コロナ禍の環境下では「10か月以内」という期限を守ることができる方ばかりではないでしょうから、そういった方への配慮として、相続税の申告書に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載すれば申告期限後に提出された申告書であっても期限内申告として取り扱われる特例があります。
この特例の適用を受けるに際して、事前申請などは不要です。
特例の適用を受ける際の注意点は?
上述したとおり、特例の適用を受けるためには、相続税の申告を期限までに行うことが必要です。
小規模宅地等の特例を適用した結果相続税が0円になったとしても申告期限までに申告を行う必要があるので、注意しましょう。
また、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合、適用対象の土地は、原則として相続税の申告期限まで処分することはできません(被相続人の配偶者を除く)。
更に、小規模宅地等の特例は相続または遺贈により取得した土地について適用されますから、相続時精算課税制度を使って被相続人の生前に贈与を受けた土地は適用の対象外です。
相続時精算課税制度はメリットもありますが、こういったデメリットもあるので、制度を使うか否かは慎重な検討が必要です。
固定資産税における小規模宅地の特例
適用対象となる資産は?
適用対象資産は、「住宅用地」に該当する土地のうち、200平米までの部分です。
居住用家屋の敷地であれば、原則として土地面積の100%が住宅土地に該当します。
一つの建物に住居部分と住居以外の部分(店舗、事務所など)が混在する家屋(これを「併用住宅」といいます)の敷地の場合は、家屋全体のうち住居部分の占める割合によって、何%が住宅土地に該当するか決まります。
居住部分が全体の50%以上を占める場合は土地面積の100%が住宅土地に該当しますから、たとえば1階が店舗兼事務所で2階と3階が住居である併用住宅の敷地は、土地面積の100%が住宅土地に該当します。
特例の効果は?
固定資産税の課税標準額が通常の6分の1に軽減されます。
たとえば、課税標準額が3,000万円の土地の場合、通常の固定資産税額は42万円です(3,000万円に固定資産税率1.4%を乗じた金額です)。
一方、この特例の適用受けると課税標準額が500万円になりますから、固定資産税額は7万円で済むことになります。
なお、住宅用地に該当する土地のうち200平米を超える部分であっても、住宅用地の特例によって固定資産税の課税標準額は通常の3分の1に軽減されます。
特例の適用を受ける方法は?
特例の適用を正しく受けるためには、土地所在地の市区町村(東京都特別区の場合は都税事務所)に対して住宅用地申告書を提出することが必要です。
申告書の記載方法や提出先などは市区町村の条例で定められるため、詳しくは土地所在地の市区町村へ問い合わせるとよいでしょう。
特例の適用を受ける際の注意点は?
住宅用地に該当するためには、原則としてその年の1月1日時点で建物が完成していることが必要です。
1月1日時点で建物の建築が未着手の場合や、建物が建築中の場合は住宅用地に該当せず、固定資産税の軽減特例を受けることはできません。
もっとも、既存住宅を取り壊して新たに住宅を建築する場合は、1月1日の時点で建物が完成していなくても住宅用地に該当するものとして取り扱う規定の適用を受けられる可能性があります。
詳しくは土地所在地の市区町村へ問い合わせるとよいでしょう。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。