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不動産を活かした節税は、相続税において重要
不動産を活かした節税は、相続税対策のなかで非常に肝要です。なかでも、家を建てることはとても有効な手段と言えます。
なぜなら、不動産は相続財産の中でもっとも大きな割合で、財産全体のおよそ35%ほどを占めているためです。また、近年、現金・預貯金も不動産の割合に並びつつあり、全体のおよそ34%ほどとなっています。ただ、ご存じの方も多いかもしれませんが、現・預金は控除などがなく、持っている額のすべてが財産評価額となります。
一方で、不動産は評価額の算定や控除などが多く認められていることで、財産の評価額が減額する可能性があります。財産全体に占める割合の大きな不動産が、ちょっとしたポイントを活かすことで、有効な節税対策になるのです。
相続財産構成内容:https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2021/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
相続税対策には家を建てるのが有効
不動産として持っているのが有効です。ただし、今ある土地を更地のまま所有したり、更地だけを新しく購入するのはあまりおすすめしません。実は、固定資産税は「住宅用地の特例」が適用されることによって、大幅に固定資産税が軽減されます。
相続税の土地の評価額は固定資産税評価額によるため、固定資産税が軽減されることはすなわち、相続税の財産評価の軽減にも繋がるのです。相続税対策に不動産を利用するのであれば、まず、土地+建物セットで行うのが効果的でしょう。
また、固定資産税が減額されることは、毎年課税される固定資産税も軽減されます。更地のまま持っているよりも、遊んでいる土地は有効利用するのがおすすめです。
持ち家・賃貸用住宅どちらも◎
ひと口に「家を建てる」と言っても、自分たちが住む家や賃貸向けの住宅など、いくつか種類があります。結論から言えば、「持ち家でも、賃貸用住宅でもどちらでもOK」です。
それぞれの節税効果は異なりますが、どちらも相続税の節税対策になります。節税効果の高さだけを考えると、土地や建物を自分で使用できないという制限があるため、賃貸住宅の方が有効になるでしょう。
税法上の財産評価額が引き下げられる
では、なぜ家を建てることが相続税の節税対策になるのでしょうか?その理由は、「不動産は税法上の財産評価額が引き下げられる」ため。不動産の中でも、相続税において土地は「路線価評価額」で、建物は「固定資産評価額」によって評価されます。
路線価評価額や固定資産税評価額は、多くの場合で購入した時の金額より下がります。
不動産を活用することが、相続税の有効な節税につながることがわかりますね。
現金として持っているよりも受けられる控除が多い
前章では、不動産は財産の評価方法が変わることで、相続税において評価額が下がることをお伝えしました。さらに、不動産は現金・預貯金よりも税金面で優遇されている場合があります。つまり、不動産は同じ額面を現金で所持しているよりも、受けられる控除が多くなるのです。
不動産、特に住宅により受けられる控除は以下のようなものがあります。
- 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方が住んでいた土地など、特定の土地に適用されます。さらに、相続する人が配偶者や同居家族など一定の要件を満たすことで、330㎡(およそ100坪)まで最大80%も土地の価格を減額することが可能です。
小規模宅地等の特例は、貸家の敷地としている場合でも適用することができ、この場合の限度面積は200㎡(およそ60坪)、最大50%の減額になります。
上記の通り、小規模宅地等の特例は、相続税の評価に非常に大きな影響を与えるため、要件はかなり厳しいものになっています。
具体的な対策法
家を建てることが、相続税対策において有効な手立てであることをお伝えしました。では、実際どのような方法をとればよいのでしょうか?
今回は、具体的な対策法として、「子どもの住宅を購入する方法」と「賃貸用物件を購入する方法」の二つをご紹介します。
子どもの住宅を購入
まず、親の資金・親の名義で子どもの新居として、5000万円を投じてマンションを購入します。建物の固定資産税評価額は、再構築費のおよそ50~70%が目安です。再構築人はもう一度その建物を建てた場合にかかる費用のことを言います。
したがって、再構築費の60%である場合、購入したマンションの固定資産税評価額は3000万円ほどになります。5000万円を現金として所持しているよりも、2000万円減額できます。
親のマンションを子どもに住まわせるため、贈与税の課税を心配する方もいるかもしれませんが、常識の範囲内であれば、心配する必要はありません。
家賃については子が親に支払う必要はありませんが、もし支払う場合、収益物件の購入とみなされるため、さらなる相続税の節税が可能になります。
賃貸用物件の購入
次に、賃貸用物件を購入する例。
1億円を使い、5000万円の土地と5000万円の建物を購入した場合を想定してみましょう。自宅用であれば、土地は4000万円、建物は3500万円ほどになることを、「税法上の財産評価額が引き下げられる」の節でお伝えしました。
この建物が賃貸住宅用だった場合、土地と建物にそれぞれ借地権が認められます。さらに細かく算出すると実際に賃貸されている割合、つまり賃貸割合により左右されます。今回は満室で想定しましょう。
相続税における、借地権がある場合の土地・建物の評価は次のようになります。
土地の固定資産税評価額は3500万円、このうち全国一律の借地権が30%認められるため、3500万円×(1-30%)で、相続税評価額は2,450万円になります。建物についても同様に借地権が認められます。
評価額の式にある借地権割合①は、その土地がどこにあるかにより異なり、90~30%まで、10%刻みで決められています。土地の借地権割合①については路線価表で確認することができ、路線価の値の後ろに記載されているアルファベットで分かります。
上記に当てはめると、土地の路線価評価額は4000万円×(1-借地権割合①90%×借地権30%×賃貸割合100%)で3,460万円になります。土地3,460万円、建物2,450万円、合計5,910万円になり、1億円よりも大幅に減額できることがわかります。
あまりに大幅な減額で、税務調査の対象になるのでは?と心配になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これはあくまでも評価額の引き下げによるものなので、過度な心配は無用です。
安心して利用していただきたい有効的な方法なので、ぜひ検討してみてください。
行き過ぎた節税対策には注意
上記のような不動産の財産評価額の引き下げは、相続税にとって正当な方法です。
しかし、不動産の財産評価の引き下げは、あくまでも、相続税などの節税対策が目的ではなく、不動産の有効利用の結果、行われたものでなければなりません。つまり、明らかに節税目的と考えられる不動産の購入などは、違法と判断される場合があるということです。
実際に2022年4月、行き過ぎた不動産を活用した節税対策により、0円と算出した相続税を3億3000万円追徴課税された例があります。
もちろん、この事案は不動産の購入時期や節税目的のための購入であった事など、いくつもの要因が重なって出された結論です。必ずしも、不動産の節税対策がすべて認められないわけではありません。
ただ、この一件が最高裁判所で認められたことにより、税務署が不動産を活用した節税対策に「NG」を出しやすくなったことは確かです。上記の最高裁の事案については、別記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらをご確認ください。
不動産を活用した相続税の対策は、専門家を交えながら行うことをおすすめします。
適切な節税には、早めの対策を
不動産を活用した相続税対策には、いくつか注意するべきポイントがあります。
- 不動産を購入してから相続発生まで、少なくとも3年以上経過していること
- 購入者に相続の発生の時期が近づいていることが明確でないこと
- 購入時に多額の借入金をしていないこと
- 不動産の購入目的が節税対策ではないこと
相続税対策として家を建てることは、不動産の評価額の引き下げを利用した有効な手段です。ただ、それを行う時期や方法は慎重になる必要があります。
上記のような事態を避けるため、不動産を活用した相続税対策には早めに動くことが大切です。
借入金を利用する場合はその金額や、どの程度なら節税目的でないと判断されるか等は専門家の助言を参考にするのが良いでしょう。不動産を活かした適切な節税対策については、ぜひ税理士など、相続税のプロにご相談ください。
今回の記事を参考に、上手に節税して、ムダなく無理なく、相続税と向き合ってくださいね。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
しかし、5000万円で土地を購入し、5000万円の建物を建てた場合、評価額はそれぞれ路線価評価額と固定資産税評価額により評価されます。路線価評価額は公示価格の80%、固定資産税評価額は公示価格の70%ほどで計算されるため、土地は4000万円、建物は3500万円ほどに。
現預金で持っている場合が1億円であるのに比較して、不動産に持ち変えることで7500万円ほどに減額できることになります。