相続に関するトラブルを予防するには遺言書の準備が大変重要です。多くの方は内容面として相続人間の遺産の分配をどのように調整しようかということに強く意識が向くと思います。
もちろん遺産の取り分を調整することも遺言書の重要な要素になりますが、その遺言内容を確実に実現させたいならば遺言執行者を設定することも検討しましょう。
本章では遺言執行者になれる人や必要な資格などについて詳しく解説していきます。
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
遺言執行者の役割
最初に遺言執行者とはそもそもなぜ必要なのか、その役割を簡単に押さえておきます。
被相続人は誰にどの財産をどれだけ相続させるのかを考えながら、その思いを遺言書に記すことになります。
実際に相続が起きた後は、各財産の名義変更や登記などを実施しなければなりませんが、基本的には相続人同士で協力しながら進める必要があり、これが難しいケースでは手続きがなかなか進まないこともあります。
遺言執行者はこの任務を一手に引き受ける立場で、相続人間の立場の違いなどに捕らわれることなく、粛々と遺言内容の実現に向けて実務手続きを行います。
遺言の内容を実現させるために実務を執行する、という意味合いから「遺言執行者」と呼ばれます。
全てのケースで必ず遺言執行者が必要になるとは限りませんが、遺言執行者がいた方が相続に関する手続きをスムーズに処理できます。
またケースによっては必ず遺言執行者が必要になることもあります。
遺言には遺産分配以外にも指定できる項目があり、子の認知について遺言書に記載した場合や、相続人を排除する旨を遺言書に記載する場合、相続発生後の手続において必ず遺言執行者が必要になります。
遺言執行者になるための資格は不要
相続発生後の実務手続きを担う遺言執行者ですが、この職に就くにあたり特別な資格は必要ありません。
弁護士や司法書士などの資格を持つ専門家がなることももちろんできますが、特に資格を有しない人でもなることができます。
ですから相続人の誰かが遺言執行者になることもでき、特段資格など保有していなくても問題ありません。
もちろん、法律の専門家である弁護士や司法書士などであれば、日常で関連業務を行っていることから知見やノウハウを有しているので、スムーズな遺言執行手続きが望めるでしょう。
これと比べると素人たる相続人が遺言執行者になった場合、経験のなさから実務手続きに戸惑ったり、時間がかかってしまうことは考えられます。
また各士業関連法で制限される業務も遺言執行者であれば遂行可能であるという特徴を見ることもできます。
例えば、不動産の名義を変更するための登記手続きは、司法書士の資格を有しない者が手続きを受任すると司法書士法違反となります。
しかし遺言執行者になる者は、遺言執行者たる資格において登記手続きをする義務が生じるため、司法書士法違反に問われることがなくなります。
遺言執行者には、遺言内容を実現させるための広範囲な権限が付与されるので、他の法律で制限される行為もその職務を担う範囲で行うことができます。
ただし、法的に問題なく行えるからといっても実際の手続は様々な資料を用意しなければならなかったり、各方面に手続きの相談をしなければならなかったりと、かなり大変な作業です。
これを考えると専門家に遺言執行者をお願いした方が安全と考える人も多く、その場合は弁護士などの専門家に就任をお願いすることになるでしょう。
遺言執行者になれない人もいる
遺言執行者になるために法律的には特に資格を必要としないとお話ししましたが、一定の者は遺言執行者になることができないルールになっています。
以下の者は遺言執行者になることができないので覚えておいてください。
①未成年者
遺言執行者は重要な職責を担う立場で、間違いがあると相続人の利害を大きく傷つけてしまいます。
そのため未成年者は遺言執行者になることができません。
成人していればOKということですが、成人しているかどうかの判断は相続発生時点で行います。
遺言書作成時点で未成年者であっても、相続発生時点で成人していれば遺言執行者になることができます。
②破産者
遺言の執行では様々な財産を取り扱うため、破産者については遺言執行者になれないことになっています。
ただしこれは、破産の手続きを裁判所で行い、免責許可が確定するまでの間です。
免責許可が確定すると復権扱いとなり、破産者の職業制限などもなくなります。
同様に復権後は遺言執行者になることができるので、破産者が遺言執行者になれないのは期間限定と考えてください。
パターン別遺言執行者が選ばれる道筋
遺言執行者が選ばれる道筋は以下のようにいくつかパターンがあります。
①遺言書による指定
一つは被相続人となる方が遺言書で遺言執行者を指定する方法です。
相続発生時に上で見た未成年者や破産者など遺言執行者になれない立場の者でなければ、遺言書で指定した人物に当該職務を任せることができます。
ただし遺言書で指定された人物は必ず遺言執行者の職に就かなければならないわけではなく、就任を断ることも可能です。
ですから遺言書で遺言執行者を指定する場合、生前に当該職務をお願いしたいと考える人物と話し合い、了解を得ておくことが大切です。
②遺言書による遺言執行者の選任者の指定
遺言執行者は相続人間の利害を調整しなければならないなど重要な役割を担う職ですから、不適当な人物を指定してしまうと遺族の間に対立を生じさせてしまう可能性もあります。
そのため遺言書で指定するとしても時間をかけて熟慮する必要があるのですが、ケースによってはその余裕がないということも考えられます。
病床にあり死期が近いと予想されるが、自分で行動して色々と調べたり、関係者に話を聞くような時間的、体力的な余裕がないというケースもあります。
そのような場合は遺言執行者自体ではなく、当該職にふさわしい者の選任を任せられる人物を指定することもできます。
一定の信頼を置ける人物を選任者に指定することで、相続発生時点でふさわしいと思える人物を遺言執行者として選任してもらえます。
③家庭裁判所での選任手続き
遺言で遺言執行者やこの選任を任せる人物の指定がない場合、あるいは指定された者が就任を拒否したような場合、相続人は家庭裁判所に対して遺言執行者の選任申し立てを行うことができます。
子の認知や相続人の廃除手続きなどで遺言執行者が必須の事案では、遺言による指定がなければこの申し立てが必ず必要になります。
家庭裁判所による選任の場合も、事前に就任をお願いする人物には承諾を取っておくようにしましょう。
まとめ
本章では遺言執行者になれるのはどのような人か見てきました。
遺言執行者になるために特に資格などは必要なく、未成年者や破産者以外であればだれでもなれるので、必ずしも弁護士などの専門家である必要はありません。
ただし遺言執行者の実務はかなり大変ですので、法務手続に詳しい専門家の方がスムーズな処理が望めるのは確かです。
より確実に、スムーズな処理を優先するならば専門家に依頼する方が安心と言えます。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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