相続分野では多くの法律用語や専門用語が使われるので、普段意識していない人にとってはなかなか大変かもしれません。情報収集のためにネットなどを参考にしても、やはり独特の用語が多く使われているので理解するのが大変とおっしゃる方も多いです。
ただ、言葉の意味を正しく捉えておかないと誤った判断につながる可能性があり、そうすると自身が不利益を被る危険も出てきます。
この回では相続人と被相続人の意味や立場の違いを法律的な観点から分かりやすく解説しますので参考になさってください。
被相続人は亡くなる人のこと
まず「被相続人」は相続の原因を起こす方で、つまりは亡くなる方です。ですからこちらが相続財産を残す側という立場です。「被(ひ)」とは、「~される」という意味を持つので、言葉的には相続される立場ということになりますね。同様の用語を挙げてみると理解が強まるかもしれません。
- 被代理人~代理される人
- 被扶養者~扶養される人
- 被保険者~保険をかけられる人
どうでしょうか、被相続人が相続される人=亡くなる人というイメージが掴めたでしょうか?
財産を引き継ぐのは相続人
被相続人が財産を残す側ですから、反対に財産を引き継ぐのは相続人ということになります。相続人は相続する側=財産を引き継ぐ立場です。
相続する=相続人=財産を引き継ぐ
相続される=被相続人=財産を残す
まとめると以上のようになります。
さて、相続では被相続人(亡くなる人)を基準に考えますので、一つの相続事案では被相続人は必ず一人しかいないことになります。反対に、相続人は一人となることもあれば複数となることもあります。相続人が誰になるのかはそのケースごとに判断が必要で、民法という法律で相続人となれる人物についてルールが決められています。次の項で見ていきましょう。
相続人となれる人物は?
民法上で決められている、相続人となれる人物のことを法定相続人といいます。法定相続人は被相続人の配偶者、子、直系尊属(親や祖父母など)、兄弟姉妹の4種類の人物で、このうち配偶者は生きてさえいれば必ず相続人になれます。それ以外の3つには順位があり、上から順に生きていれば相続権を取得し、下位の者は相続権を得ることができません。
相続順位 | 被相続人との関係 |
---|---|
第一順位 | 配偶者 |
第二順位 | 子 |
第三順位 | 直系尊属 |
第四順位 | 兄弟姉妹 |
このように下の世代が上の世代に代わって相続することを代襲相続と言い、第一順位の子に関しては下の世代が生きていれば、孫、ひ孫とどんどん下の世代に代襲が続いていきます。他に代襲が起きるのは兄弟姉妹ですが、こちらの代襲は1世代のみ、つまり兄弟姉妹の子の世代までという違いがあります。
引き継げる財産の額(法定相続分)
法定相続人がどれだけの財産を引き継げるかという基本的なルールも、民法に「法定相続分」として定められています。誰が相続人になるかの別に、法定相続分は以下のようになっています。
相続分1 | 相続分2 | |
---|---|---|
相続人が一人の場合(配偶者のみなど) | 左記の者が全額 | |
配偶者と子の場合 | 配偶者が二分の一 | 子が二分の一 |
配偶者と直系尊属の場合 | 配偶者が三分の二 | 直系尊属が三分の一 |
配偶者と兄弟姉妹の場合 | 配偶者が四分の三 | 兄弟姉妹が四分の一 |
子や直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合は等分となります。遺言書が無い場合などは基本的に各相続人につき上記の取り分となりますが、被相続人は遺言によって上記とは異なる配分で相続分を指示することができます。
相続分は遺言で指示もできる
民法の法定相続分の規定は絶対ではなく指針という位置づけとなるため、被相続人は遺言書で誰にどの財産をどれだけ引き継がせたいのか、法定相続分にとらわれず自由に考えて指示することができます。その際、現預金だけでなく不動産なども対象になりますから、それらの金銭的価値を考えて、相続人の間で不満が出ないように調整する必要があります。
この点、例えば「全財産を愛人に譲る」など相続人にとってあまりに酷となる場合の手当として、「遺留分」という制度があることを知っておきましょう。法定相続人のうち配偶者、子、直系尊属には最低限の遺産の取り分として一定の遺留分が保証されており、遺言書で遺留分を侵害する内容を記した場合、遺留分を持つ権利者は手続きを行うことで自身の遺留分を取り戻すことができます。
遺産全体にかかる遺留分は、直系尊属のみが相続人となるケースでは遺産の三分の一、それ以外のケースでは遺産の二分の一です。そこから、実際に誰が相続人となるかの別によって個々人の遺留分の額が変化します。遺留分の計算は素人の方には大変難しいので、弁護士などの専門家に相談するようにしてください。なお兄弟姉妹には遺留分の権利がありません。
相続分は別途協議で調整もできる
被相続人が遺言書を残した場合でも、相続人全員の合意があれば遺産分割協議を行って遺言による指示とは異なる取り決めをすることが可能です。遺言書の作成から時が経つと、相続発生時とは状況が大きく変わっていることも考えられます。
相続発生時点で遺言の内容が現実的でなくなっているということも十分考えられるので、そのようなケースでは相続人全員の合意の下で協議をし、別途の取り決めをすることができます。ただし一人でも反対すると協議自体ができない、あるいは協議がまとまらないということになり、その場合は遺言の内容が優先されます。
遺言書が残されていない場合は基本的に上で見た法定相続分が適用となりますが、こちらの場合も相続人全員の合意をもって遺産分割協議を行い、法定相続分とは異なる取り決めとすることができます。
まとめ
本章では相続人と被相続人の意味や立場の違いについて詳しく見てきました。亡くなる人が被相続人となり、当人が残した遺産を相続人が引き継ぐというのが相続の基本的な捉え方です。1事案につき被相続人は必ず一人ですが、相続人は複数となることがあり、相続人となれる人物はだれか、どの相続人がどれだけの財産を引き継げるかを個別の事案で考えていく必要があります。
相続人となれる人物については配偶者以外の法定相続人が順位制となっていることと代襲相続のルールがあることに留意し、相続分については遺留分のルールがあることに留意しましょう。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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