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認知症の親が書いた遺言書に効力はあるか?

税理士友野
税理士友野

認知症にかかると、事物を正しく認識して適切に判断する能力が低下します。そのため、認知症にかかった遺言者は、遺産の配分方法を複雑に定める遺言書を作成することは難しくなります。ただし、簡単な内容となる遺言書であれば、認知症の程度に応じて、遺言公正証書を作成することが可能なケースもあります。

そういった場合に遺言書を作成でき、どういった場合には遺言書を作成できないのでしょうか。そこで今回は、認知症の親が書いた遺言書に効力はあるかについて説明します。是非、ご参考にしてください。

遺言書があれば「争族」になりにくい

親が死んだときに遺産をどう分けるかで相続人の間で争いが発生してしまうことを「争族」と言ったりします。遺言書があれば、相続人に法律上保障されている一定の相続財産である遺留分が侵害された場合を除き、相続人はたとえ内容に不満があっても法的には争う方法が限られます。

そのため、遺言書がない場合よりも「争族」になりにくい、と言えるかもしれません。

遺言者の遺言能力

そもそも、認知症だからといって遺言書が、絶対に、作成できないというわけではありません。遺言は、遺言者が15歳以上で、遺言能力を有していれば、作成できます。遺言能力とは、簡単に言えば、遺言を残す本人が、遺言の内容を理解して、その結果、自分の死後にどのようなことが起きるかを理解することができる能力のことです。

これは、一般的に商売や高価な物の売買の有利不利を判断するような能力よりは低い程度のものを意味するといわれています。一方認知症の人で、遺言能力に問題がある場合には、作成した遺言は無効となってしまいます。

認知症

一方、認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。具体的には、記憶障害・見当識障害・認知機能障害などのことです。

このうち認知機能障害は、判断能力の低下を意味します。そのため、認知機能障害は遺言能力に影響を与える可能性があります。ただし医学的な認知症の診断と遺言能力の判断は異なります。認知症だからと言って、必ず、遺言能力がないと即断することはできません。認知症でも遺言能力が残っている場合や一時的に遺言能力を取戻す場合もあります。

争族を避けるために遺言書が有効な場合も

遺言を残してから相続が開始するまでには、ある程度の期間が空くことになります。そのため、遺言書の内容が相続人らに明らかになった後に、相続人の間で遺言時における遺言者の遺言能力が問題にあがるといったことが起きるケースは少なくありません。

遺言者の遺言能力が相続のときに問題になる理由は、遺言書の作成が、法定相続分とは異なる相続分を定めることや、遺産分割の方法を指定することや、法定相続人以外の方へ遺贈することを定めることに繋がるからです。

基本的に、遺言書はすべての相続人の希望を反映させる形にはなりえません。言い換えると、遺言書が存在することで、法定相続分の遺産を相続できなくなる相続人も出てくることになりえます。このような法定相続分を相続できない相続人は、遺言書は無効であって欲しいと考えるかもしれません。

もし、遺言書が作成された時に遺言者には遺言能力がなかったという材料・事実などが判明すれば、遺言書が無効であると主張して、ほかの相続人らと争いたいと考えるケースもあるでしょう。遺言書作成時には、多くの場合、遺言者にはきちんと遺言能力があったということを確認できる医師の診断書を取得しておくといったことが行なわれています。これは、医学的な所見から遺言書の有効性を相続人に理解してもらえる助けになります。

例えば
自分の「氏名」「住所」「生年月日」「子どもや親の名前」「財産は何があるのか」簡単に言えないようであれば、遺言能力はないと判断されます。この場合は、遺言書を作ることはできません。しかし単に物忘れが激しくなったというような、軽度の認知症であれば作成することはできます。

また、成年被後見人(認知症の方等)でも、以下の民法に定められた要件を満たせば遺言書を作成することができます。

  • 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時的に回復していること
  • 医師が2人以上立ち会うこと
  • 立ち会いをした医師は、遺言者が遺言をする時において、事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、署名・押印すること

遺言の内容が複雑か否かで判断は分かれる

「全財産を○○に相続させる」など遺言内容が簡単な内容であれば、遺言書作成時に遺言能力があったと判断されるケースが増えます。反対に、多数の財産があって、複数人に割合を指定して財産を割り当てる場合など遺言内容が複雑になればなるほど、遺言能力があったと判断されにくくなります。

医療記録などの準備

医師による診断書や介護記録などから、遺言作成当時に遺言者には遺言能力があったかなどが確認できることがあります。また、看護記録には遺言者の当時の様子が記録されている場合があるので、そのような事情も考慮されます。

長谷川式認知症スケール(HDS―R)

遺言能力に関して、多くの場合は、認知症が問題になります。高齢社会となった現代では、認知症の患者数は増加しています。遺言書を作成するときに遺言者が認知症にかかっていることは、今では珍しいことではありません。

しかし、認知症であるからと言って、必ずしも、遺言公正証書が作成できないと断言できません。認知症の方でも遺言能力を備えていることがあるからです。認知症の進行度を測定する方法として、「長谷川式認知症スケール」と呼ばれる評価方法が利用されています。

「長谷川式認知症スケール」は、認知症をスクリーニングすることを目的に用いられる簡易的な認知機能テストです。記憶を中心とした大まかな認知機能障害の有無を調べます。1974年に聖マリアンナ医科大学・神経精神科教授だった長谷川和夫氏らによって開発され、今では認知症の診断にあたって信頼性の高い評価方法として、日本国内の多くの医療機関で使用されています。遺言の無効訴訟においても、この長谷川式認知症スケールの評価点が示されています。

ただし、長谷川式認知症スケールの評価点だけで、遺言能力を直接的に判定することはできないことには注意が必要です。そもそも、遺言書の効力について遺言者の遺言能力が問題となったときに最終的な判断を下すのは、法律を専門とする裁判官であり、医師ではないことをしっかりと認識しておく必要があります。とはいっても、本人の認知症に対する医学的な評価は、遺言者の遺言能力を見る際に、参考になる資料であるということができるでしょう。

上記のようにある認知症患者の遺言書が作成可能かどうかについては、本人の遺言能力の問題もあり、認知症の状況について医師の診断書も参考にしつつ、総合的に判断することが必要です。

公正証書遺言

遺言書の有効性をもっとも高いものにするためには、公証役場の公証人にお願いして公正証書で遺言書を作成する方法が良いでしょう。

親がすでに認知症になっている場合、公証人から医師の診断書の提出を求められます。診断書に記載された判断能力の程度が法定後見制度の「後見・保佐・補助」の3区分のうち保佐相当の段階までであれば、多くの場合、公証人は遺言能力があると判断して公正証書遺言を作成します。

そして公正証書遺言が作成されていれば、後日、親が認知症であったことを理由に遺言書の有効性を争われたとしても、遺言書が無効であると判断されるケースは大幅に少なくなります。公正証書遺言の作成では、遺言者から公証人に対して遺言の内容が口頭で伝えられ、公証人が公正証書として作成します。そして、成人の証人二名が立ち会って遺言書が作成されます。

ただし、公正証書遺言の場合でも相続の開始後に遺言書の無効について裁判で争われ、その結果として遺言書の無効が認められている事例も僅かですが存在しています。法定の手順に従って遺言書の作成をすすめることができれば、遺言者の遺言能力と関係なく遺言書が完成することが皆無であるとは断言できません。公正証書遺言であれば、必ず、遺言書が有効であるとも断言できません。

遺言能力の認定は非常に難しいものです。医師や公証人であっても、完全に正しく認定するということはできません。遺言書は法定の手続きによって作成されるだけです。

遺言書は無効だと主張したい場合の方法

仮に公正証書遺言が無効であると主張したい場合、その主張を行う側から遺言無効確認の調停や民事訴訟などを提起する必要があります。

それでは公正証書遺言の無効を主張する場合、被相続人に遺言能力がなかったことをどのように立証したらよいのでしょうか?

遺言の有効性に疑問を感じたら調停や訴訟に

遺言の無効を主張しても、相手方が納得しなかった場合は、原則として最初は家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。そして、調停でも話し合いがつかなかった場合に、遺言無効確認訴訟を地方裁判所に提起することになります。

もっとも、当事者間の対立が激しく、調停をしたとしても不調になる可能性が高い場合は、調停を経ずに遺言無効確認訴訟を提起したとしても、そのまま訴訟手続きの審理を行ってくれるケースもあります。遺言の無効を主張したい場合には、介護記録や医療機関の看護記録などを取り寄せるべきです。

介護施設や医療機関によって対応はまちまちではありますが、相続人から依頼があれば、開示してもらえる場合があります。また、弁護士に依頼すれば、弁護士会照会手続を利用することができ、開示してもらえる可能性は大幅に高くなるでしょう。さらに裁判所からの命令などであれば、資料が入手できる可能性はさらに高まります。また、市区町村から介護保険の認定調査票を取り寄せてもよいでしょう。

介護保険の認定調査票には、意思の伝達、短期記憶、金銭の管理、日常の意思決定などの能力を評価した結果が記載されており、遺言能力があったのか否かに関する有益な資料となります。

相続財産が目減りした場合の次善策

被相続人となる人がすでに重度の認知症などで遺言書を遺しても無効となる可能性が高く作成できない場合などは、相続開始後に以下のことを主張して、自分の相続する財産を増やすことができる可能性があります。

  1. 遺留分侵害額請求をする

被相続人の遺言能力がなくなる前に、「遺産は全て長男に相続させる」など他者に遺産を集中させる内容の遺言があった場合には、遺留分侵害額請求を検討します。遺留分は法定相続人に認められている最低限保証されている相続分で、遺言よりも優先されます。ただし、法定相続人の中でも被相続人の兄弟姉妹及び甥・姪には遺留分がありません。

  1. 特別受益の持ち戻し

被相続人の生前に、多額の贈与を受けていた相続人がいる場合は、それらの贈与分を特別受益として遺産に持ち戻すことを主張できる可能性があります。

  1. 介護を担っていた場合は寄与分
被相続人の生前、無償で長年介護をしていた相続人は、寄与分を主張できます。

まとめ

ここまで認知症の親が書いた遺言書に効力はあるか?について説明してきました。よく理解できたという方も、いらっしゃることでしょう。認知症の親が書いた遺言書に効力はあるかを判断するにあたっては専門的な理解や知識が必要となりますので、専門家によくご相談ください。

今回の記事が相続に関する皆様の理解を深めるきっかけになれば、幸いです。

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ABOUT US
税理士 友野祐司
税理士法人レガシィ勤務を経て2011年に響き税理士法人に入社、相続税専門の税理士として、横浜を中心に相続税申告のサポートをを行っています。どこよりも、素早い対応を心がけておりますので、少しでも相続税に関して、不安や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。