父親が亡くなったと思ったらすぐに母親も亡くなってしまった…という状況を「二次相続」といいます。両親が高齢であればあるほど、こういった状況はたびたび見たり聞いたりしますよね。
この時、一回目の相続(一次相続)の際に二次相続まで見すえて相続対策をすることはこれから負担しなければならない相続税の軽減につながり、残された相続人の今後の精神面、金銭面での負担が減ることにもつながります。
本章では一次・二次相続の解説、一部事例にそって二次相続対策が必要となる理由等を説明します。
そもそも二次相続ってなに?
二次相続とは、一回目の相続で相続人となった人(配偶者つまり母親)が亡くなった時に起こる2回目の相続を指します。
たとえば、父・母・子ども2人の家族があるとします。父が先に亡くなった場合、母と子ども2人が相続人となります。
これを一次相続と呼びます。
つぎに母が死亡した場合、子どものみが相続人となります。
これを二次相続といいます。
つまり、二次相続では親が残した財産をすべて子どもに引き継ぐことになります。
そして、一次相続の際に相続税が最小金額になるように考え遺産分割したとしても、二次相続の際にその分相続税の負担額が大きくなってしまう可能性があるのです。
そのため、一次相続の際に二次相続のことまで考え、遺産分割を行うことが望ましいのです。
その理由は次の章で紹介します。
一次相続の時、二次相続のことまで考えなければいけない理由
相続人が減るため基礎控除額が下がる
相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人数の計算式で計上します。
相続財産のうち、この式で出した基礎控除額を超える金額に課税されます。
二次相続では一次相続の時よりも相続人の数が減っているため、それに比例して基礎控除額も少なくなります。
基礎控除額が少なくなると課税対象となる相続財産は増えるため、相続税も高くなります。
配偶者控除が適用できない
相続税には配偶者へ税額軽減の優遇措置を設けています。以下2点の条件でいずれかに該当すれば優遇措置が受けられます。
①配偶者が法定相続割合で取得した相続財産か
②1億6千万円までで取得した相続財産か
一次相続時は配偶者がいるので条件に適応さえすれば、相続税は少なくなります。
でも、二次相続ではすでに両親は他界しているので、この措置は適応できなくなり相続税は高くなります。
小規模宅地等の特例が使えない場合がある
聞きなれない方も多いと思いますので、小規模宅地等の特例について説明しますと、小規模宅地等の特例とは相続する物件の一定の敷地における限度面積80%または50%の相続税を減らせる制度を指します。
自宅の土地が330㎡までであれば80%もの相続税を減額することが可能なため、税額軽減の対策として多くの方に使われる特例です。
配偶者の税額軽減で相続税がかからないことが多いため配偶者が相続することが一般的ですが、二次相続の場合には子どもがその自宅で同居していた実態がある等の条件に該当するかが重要となります。
実際には子どもも結婚し別の居住地で住まいがあることの方が多く、この特例が適用できないケースが見られます。
二次相続を見すえた対応策が必要です!
このような理由があるため二次相続まで考えた対応策をとる必要があります。
次の章では二次相続まで考えた対応策を紹介します。
年ごとの非課税枠を利用して、子どもや孫に計画的に生前贈与を行う
一次相続が起きた時から徐々に子どもや孫に財産を贈与することも有効的な二次相続対策です。
本来、贈与には贈与税という税金が課せられますが、毎年110万円(贈与される1人あたり)までの贈与であれば税金はかかりません。
毎年子どもや孫に分散贈与して、将来の相続財産を少しずつ減らすことができます。
ですが、相続開始前3年以内で被相続人から相続人に贈与された財産は相続財産として課税対象となるので早い段階で計画的に贈与を行うことが大事です。
生命保険に加入し、非課税枠を利用する
生命保険の加入には2つのメリットがあります。
1点目は死亡保険金の非課税限度額がある点です。
一次相続で相続財産を取得した配偶者が自分自身を「被保険者」に、子どもを「保険金受取人」に設定し生命保険に入るとします。
被相続人の死亡時、子どもが受け取った死亡保険金は相続税の対象となりますが死亡保険金の非課税限度額(500万円×相続人の数)が適用されるため、相続税を減額することができます。
2点目は比較的早めに資金として準備できる点です。
被相続人が死亡すると預貯金が凍結されたり、その手続きに追われたりですぐに現金化できない場合があります。
その点、生命保険の死亡保険金は保険会社に所定の手続きを取るだけで支払われることが多いので、納税資金や葬儀費用の確保が可能です。
配偶者居住権を利用する
この配偶者居住権とは2020年4月から創設された新しい権利です。
遺産となる自宅に関する権利を「所有権」と「居住権」の2つの権利に分離させることによって、複数の相続人に各権利の相続ができ、配偶者は住みなれた住まいと生活資金の両方を手にすることができるようになりました。
また、この配偶者居住権は配偶者自身の死亡や一定の期間が過ぎると消失します。
単純に考えて遺産となる自宅の価値が変わらないとするなら、この居住権が消えればそれに伴って所有権の価値は増えると考えることもできます。
ですが、配偶者の死亡で消えた配偶者居住権であっても、一定の期間が満了した配偶者居住権であっても自宅の所有者へ相続されたことにはならず、相続税も課せられません。
家族を含めた第三者に譲ったり、売ったりすることのできない特別な権利といえます。
一次相続の際に自宅の権利を配偶者居住権と所有権に分けて相続しておくと、相続税を減らすことが期待できます。
ですが、事例によってこの配偶者居住権を利用しない方が節税になる場合もあるので、一次相続の際に二次相続が起きた場合のシミュレーションをしておくことが大切です。
一次相続での相続財産の割合額を調整する
一般的に一次相続の際に配偶者への分配が多くなりがちですが、あらかじめ配偶者への割合を少なくして、子どもへの分配を多めにすることで全体的でみた税額を減額させることができます。
具体的な事例にそって確認していきましょう。
遺産の総額:1億円
一次相続の被相続人:夫、相続人:妻、子ども1人 合計2人
二次相続の被相続人:妻、相続人:子ども1人 合計1人
【一次相続】
妻:100% 子:0%
相続税…妻0円(配偶者の税額軽減の利用)子:0円
【二次相続】
子:100%
相続税…子:1220万円 ≪相続税額合計≫1220万円
【一次相続】
妻:50% 子:50%
相続税…385万円
【二次相続】
子:100%
相続税…子:160万円 ≪相続税額合計≫545万円
ご紹介しましたとおり、相続税を節約するためには二次相続まで考えて分配を調整する必要性がわかります。
同居している子どもがいれば一次相続で実家を子どもに引き継ぐ
よく耳にするのは、夫が先に亡くなり残された自宅は妻が相続することが多い事例ですが、同居中の子どもが自宅を引き継げば、小規模宅地等の特例の適用により子どもの相続税が大幅に減らすことが期待できます。
ですが、小規模宅地等の特例には同居に関する実態や条件があるので活用できるかどうかは事前に条件等を確認することが大切です。
相続財産の最終的な位置づけを考え、子ども等に移す
賃貸住宅等の不動産経営で継続的な家賃収入がある場合は一次相続で配偶者へ引き継ぐと配偶者の財産を増やすことにつながり、二次相続の際に子どもが負担する相続税を増加させることが考えられます。
子どもがいる場合は一次相続の時に配偶者ではなく子どもへ引き継がせると二次相続時の相続税を多額に減らすことにむすびつきます。
相次相続控除、数次相続控除を利用する
また耳なれない単語が出てきたと思いますので、それぞれの控除について解説します。
①相次相続控除
相次相続とは一次相続の際に発生した遺産分割協議や不動産登記、相続税の申告が終了後、一次相続から二次相続が発生するまでの期間が10年以内で度重なって相続が発生することを指します。
その相次相続には次にあげる要件を満たしていることで相次相続控除を受けられます。
・二次相続の相続人であること
・一次相続から二次相続発生まで10年以内であること
・一次相続で発生した相続税をきちんと納税している
つづいて、数次相続控除について解説します。
②数次相続控除
数次相続とは一次相続が発生して相続税の申告や不動産登記、遺産分割協等が終了していない10年以内に新たな相続が発生することを指します。
数次相続控除は、一次相続時に発生した相続税額のうち一定額を控除されることを意味します。
解説しましたとおり、相続人に対して税負担が過重にならないように控除が設けられていることがあるので、相次いで相続が発生した場合は活用できる控除があるかどうかその都度確認することをおすすめします。
まとめ
一次相続での税負担が最小限になるよう分配したとしても、二次相続で負担する相続税額が多額になると全体的でみた税額が大きくなってしまう可能性があります。
二次相続を考える上で大事なのは「最終的にだれが遺産を引き継ぐのか」「どんな状態で引き継ぐのか」を念頭におき二次相続シミュレーションを行い、計画的に二次相続対策を進めることがあげられると思います。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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