最近、「相続税はお金持ちだけの問題じゃなくなった」という話を聞いたことはありませんか?日本では、数年前に相続税の税制改正が行われ、富裕層以外でも相続税が発生する可能性が高くなりました。「自分の親の時には相続税は発生しなかったから、自分の時にも大丈夫」なんて思っていると、思わぬ落とし穴があるかもしれません。
そこで今回は、相続税の申告があなたにとってどのくらい身近になっているのか、申告件数や遺産の平均額の推移についてお伝えします。相続税が発生した場合に、どのように相続税を算出するのかについても触れていくので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
目次
相続税の申告件数はどのくらい?
では、実際、相続税の申告件数はどのくらいなのでしょうか?死亡者数と課税件数の推移をグラフで見てみましょう。
データ参考財務省URL:https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e07.htm
折れ線グラフが死亡者数、棒グラフが課税件数を表しています。死亡者数は昭和から令和に至るまで、変わらず緩やかに上昇。一方、課税件数では平成26~27年に課税件数が倍増しています。
直近の令和2年と大幅に課税件数が増加した平成26~27年のデータについて、詳しくみていきましょう。
令和2年
令和2年分の死亡者数はおよそ 1,373,000 人で前年とほぼ変わらない数字でした。
高齢化が進み、平成20年代以降少しずつですが着実に、死亡者数は増加しています。死亡者数のうち、相続税が課税される人の数が「課税件数」となり、その数は120,372件でした。亡くなった方のうち、およそ8.8%の人が相続税の申告が必要だったということですね。
過去の相続税申告件数は?
最新の令和2年は「およそ9人に1人が相続税を払った」という結果でした。それでは、過去の相続税の申告件数はどうだったのでしょうか?特に動きが大きかった、平成26年と27年に絞って見ていきます。
平成26(2014)年
平成26年の死亡者数は1,273,025人とほぼ、令和2年と同じ数字でした。
一方、課税件数は56,239件で、令和2年と比較して半分以下と非常に少なくなっています。亡くなった方のうち、相続税の申告が必要だった方はたった4.4%だったのです。
平成27(2015)年
平成27年の死亡者数は1,290,510人と平成26年、令和2年よりも17,000人ほど多い同じ数字でした。
注目すべきは課税件数。なんと、103,043件で、前年の平成26年の二倍近くになっています。課税件数と亡くなった方のうち相続税の申告が必要な方は、令和2年にかなり近い数字になっているのです。
平成27年に大幅に増えた理由
では、なぜ平成27年に急激な相続税の課税件数の増加が起こったのでしょうか?答えは、「相続税法の改正が行われたため」です。
- 基礎控除額が6割に引き下がった
- 取得金額2億円以上の税率を引き上げた
基礎控除額の引き下げ
一つ目のポイントは、「基礎控除額が6割に引き下がった」こと。
相続税は、受け取った財産の合計額が基礎控除額を超えるときに支払う税金です。相続財産から基礎控除を超えた金額に、税金がかかることになります。
税制改正により基礎控除は以下のように変更されました。
改正前 5,000万円 + 1,000万円 × 相続人
改正後 3,000万円 + 600万円 × 相続人
計算式だけ見ても、よくわからないですよね。
配偶者と子2人の計3人の相続人、相続財産が7,000万円の場合で想定してみましょう。
【基礎控除額の計算】
改正前 5,000万円+1,000万円×3=8,000万円
基礎控除額 8,000万円 相続財産7,000万円なので、相続税ナシ
改正後 3,000万円+600万円×3= 4,800万円
基礎控除額 4,800万円 相続財産7,000万円で、差額2,200万円に相続税がかかる!
このように、同じ相続財産であっても税制改正前は相続税が発生しないのに、改正後では発生するようになりました。相続税が発生するハードルが下がった、と考えるとわかりやすいでしょうか。
結果として、基礎控除額の引き下げにより相続税が発生する人、つまり相続税の申告件数が増えたということです。
高額な相続の税率を引き上げた
もう一つの税法改正のポイントが、「取得金額2億円以上の税率を引き上げた」ことです。
相続税は受け取った相続財産に応じて税率が異なる、超累進課税を採用しています。税法改正により、2億円を超える相続財産を受け取る場合の税率は、以下のように変更されました。
各法定相続人の取得金額 | 税率 | 控除額 | ||
---|---|---|---|---|
改正前 | 改正後 | 改正前 | 改正後 | |
1 億円以下 | 変更なし | 変更なし | ||
1 億円超~2 億円以下 | 40% | 40% | 1,700 万円 | 1,700 万円 |
2 億円超~3 億円以下 | 40% | 45% | 1,700 万円 | 2,700 万円 |
3 億円超~6 億円以下 | 50% | 50% | 4,700 万円 | 4,200 万円 |
6 億円超 | 50% | 55% | 4,700 万円 | 7,200 万円 |
表の通り、1億円以下の取得金額であれば、改正前と変わりません。ここで注意する点は、取得金額は「各法定相続人の分」であるということです。相続財産の総額ではなく、「それぞれの相続人が受け取る財産の額」であることに注意しましょう。
つまり、相続人の一人が受け取る金額が2億円を超える場合に、税率が上がったということです。税法改正により、受け取る遺産が高額になるほど大きく影響が出るようになりました。そこで気になるのが、「遺産の額」ですね。
実際に、遺産の金額はどのように推移しているのか「遺産の平均額の推移」を見てみましょう。
遺産の平均額はいくら?
税法改正が行われる直前の平成26~令和2年の遺産の平均額を表にまとめました。
課税価格/年分 | 平成21 | 26 | 27 | 28 | 令和元年 | 2 |
---|---|---|---|---|---|---|
合計額(億円) | 101,230 | 114,881 | 145,714 | 148,021 | 158,021 | 163,937 |
被相続人一人あたり 金額(万円) | 21,798.60 | 20,427.30 | 14,141.10 | 13,980.10 | 13,709.10 | 13,619.00 |
データ参考:前述財務省URLと同じ
上記の通り、平成26年から27年にかけて、課税価格の合計額は増えています。一方、被相続人一人当たりの金額は26~27年にかけて、約7割ほどに減額。
過去のデータからさかのぼって、それぞれ詳しく見ていきましょう。
2009(平成21)年
今から10年前、大規模な相続税法の改正が行われるよりも前の平成21年。課税価格の合計額(以下、合計額)は101,230億円、被相続人一人当たりの課税価格(以下、一人当たりの課税価格)は21,798万円でした。
平均額でありながら、一人当たり2億円を超えているので、富裕層でなければ相続税が発生しなかったこともうなずけます。
平成26(2014)年
大規模な相続税法の改正が行われる前年の平成26年。合計額は114,881億円と5年前の21年より、10,000億円ほど増加しました。
一方、一人当たりの課税価格はやや少なくなっているものの、平成21年からほとんど横ばいであまり変わっていません。
平成27(2015)年
税法改正が行われた平成27年の合計額は145,714億円と税法改正の影響を受け、前年よりも30,000億円ほど上がっています。
その一方で、一人あたりの課税価格は14,141万円と、前年の7割ほどの数字に減りました。相続が発生する人が増えたものの、一人当たりが支払う相続税額は少なくなっていることがわかります。
令和2(2019)年
令和2年の課税価格の合計額は163,937億円です。課税価格の合計額は、緩やかに上昇を続け、令和2年がバブル期以降もっとも高い数字となっています。今後も上昇していくことが想定されます。
一方、被相続人一人当たりの課税金額は13,619万円。上表に記載した過去10年はもちろん、平成元年~令和までのあいだでも、最も低い数字になっています。
一人一人が支払わなければならない相続税額は軽減されてきている、と考えてよいでしょう。
一人当たりの課税価格は10年前より下がっている
令和2年のデータは、10年前の平成21年と比較して課税価格の合計額、つまり相続税の対象となる財産はおよそ1.6倍にまで増えています。これは、多くの財産が相続税の対象になることを示しています。
一方で、注目すべきは被相続人の一人当たりの課税価格の金額。こちらは10年前と比べて、6割ほどに減っているという結果になりました。したがって、相続人が負担する相続税は軽くなっているという結論になります。
「相続税が発生する可能性が高くなった」という話を聞いて、不安な思いをすることも多いでしょう。しかし、多少の相続税が発生することがあっても、早い段階から適切な節税対策をしておけば、過剰に不安にならなくても大丈夫です。
続いては、その理由について説明していきます。
相続税の算出方法
先ほどの例に出した、配偶者と子2人の計3人の相続人、相続財産が7,000万円の場合で想定してみましょう。相続財産が7,000万円のうち、相続税の対象となる課税財産は2,200万円でした。
この場合の相続税の計算の流れは、ざっくりとあらわすと以下のようになります。
- 相続人ごとに受け取る法定相続分に従い、取得する財産の金額を計算
- 相続人ごとに税率に応じた税額を算出
- 相続人ごとに算出された税額をまとめて、相続税の総額を計算
相続人ごとに取得する財産の法定相続分は、以下のようになります。
【子A、B】配偶者が取得した残りの財産の1/2を子で案分するので、今回は1/4ずつ
したがって、取得する財産の金額は以下のようになります。
【子A】2,200万円×1/4=550万円
【子B】2,200万円×1/4=550万円
ここに、相続税で定められている税率、控除額を差し引き、相続人ごとの相続税額を計算。
【子A】550万円 × 税率10%-控除額ナシ = 相続税額55万円
【子B】550万円 × 税率10%-控除額ナシ = 相続税額55万円
115万円+55万円+55万円=225万円 今回の場合の相続税の総額は225万円となります。
法定相続分通りで、財産を案分したとすると、
【子A】相続税総額225万円 × 1/4 = 56万2000円
【子B】相続税総額225万円 × 1/4 = 56万2000円
さらに、配偶者の特別控除を使用すれば、配偶者分の相続税は0円になります。したがって、支払うべき相続税額は子ABの合計額およそ113万円に。
確かに、113万円なくなってしまう!と考えれば高額ですが、7,000万円の財産を受け取って110万円の納税で済むと考えれば、そこまで大きな金額ではないように感じませんか?
また、生前に対策をとっておけば、さらに節税することができるかもしれません。まずは、相続税が発生する心配がある人は、税理士に相談してみましょう!
まとめ
今回は、相続税の相続税申告件数と遺産平均額の推移についてお伝えしました。相続税の申告件数は平成26年の相続税の税法改正により大幅に増えました。
一方で、遺産の平均額は減っており、結果として、より多くの人に少しずつ相続税を払ってもらうというイメージになりました。ただし、遺産が2億円を超える富裕層にとっては、改正前よりもさらに重く、厳しい税率となっています。
節税対策にはさまざまな方法がありますが、必ずしも適切であると認められない場合があるので注意が必要です。実際、行き過ぎた節税対策を講じたことで、税務署より追加徴税を課された例もありました。相続人は追徴課税を不服として提訴していましたが、最高裁でも訴えは認められず、結果として多くの税金を支払う事に。どこまでが適切な節税対策であるかは、一般人に判断することは難しいのが現実です。
相続税や贈与税について不安に思うこと、疑問に思うことがある方は自分一人で抱えず、一度税理士に相談してみるのが良いでしょう。相続や相続にかかる対策には、事前の準備がなによりも大切です。支払うべき相続税を事前に知っておくことも、大切な相続準備の一つ。
ぜひ、後悔することがないよう、早めの対策を行いましょう!
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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