贈与税と相続税は、「一体化」が噂されていることをご存じでしょうか。実は、令和2年(2020年)に政府与党が発表した「令和3年度税制改正大綱」に、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する旨が記載されていたのです。
では、2024年5月現在において相続税と贈与税はどのように運用されているのでしょうか。この章で詳しく解説します。
目次
2024年現在|急な一体化は未定
2024年現在において、相続税と贈与税はまだ一体化されていません。現在贈与を進めている方は、慌てずにご一読ください。
高齢化社会が急速に進んでいる日本においては、若年層への贈与は停滞傾向にあり、税制のしくみは今後見直していくべきと考えられています。また、相続時の財産隠しを防ぐためにも、相続税と贈与税は諸外国の税制を参考に変更していく方向で検討されています。
一体化が噂された理由とは
相続税と贈与税は、現時点では一体化していません。しかし、冒頭に述べたように税制大綱という、今後の税の方針を占う場において一体化という表現が行われたため、広く報道されてきました。
そもそも、戦前の日本では生前の贈与財産と相続財産を合計して課税する、一生累積課税というしくみが運用されていました。昭和28年には廃止されていますが、今後はこのような課税方式に近付くかもしれません。
また、一体化に先行するような形で、贈与のしくみに大きな変更が行われています。詳しくは後述します。
税制改革で今後変更される可能性はある
相続税や贈与税は、すでに変更が始まっており、今後一体化に向けての動きが加速することが予想されています。
急な税制の変更で、「もっと早く節税を始めればよかった」と後悔しないためにも、相続税・贈与税を家族全員で考える機会を持つことがおすすめです。
特に贈与は、これまで「富裕層の特権」のように感じている方が多いしくみでした。しかし、賢く活用すれば、次世代の資産として有効に移していくことができます。
家族が穏やかに暮らせる基盤を作るために、サラリーマン世帯の方も積極的に贈与を検討されると良いでしょう。
2024年最新版|相続税と贈与税の変更点とは
この章では、2024年最新版の相続税および贈与税の変更点を、わかりやすく解説します。
暦年贈与の変更点
2024年1月1日以降、暦年贈与で受けた財産が、相続財産に加算される期間(相続税の持ち戻し)が相続開始前3年から7年へと延長されました。期間は順次延長されます。また、延長された4年間についての贈与は、総額100万円まで相続財産に加算しません。
暦年贈与は「廃止」の噂もありますが、本年度は廃止されていません。ただし、以前よりも相続財産に加算される期間が延びてしまったため、注意が必要です。
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相続時精算課税制度の変更点
相続時精算課税制度は、2024年1月1日以降に2点の改正がありました。
①110万円の基礎控除の創設
②土地・建物が被災した場合、一定以上の被害が認められた場合は相続税の対象となる価格は見直し
これまで基礎控除枠がなかった相続時精算課税制度は、若干お得になると言えるでしょう。ただし、暦年贈与と併用はできず、1度相続時精算課税制度へ切り替えてしまったら、暦年贈与に戻すことはできません。
教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与における変更点
教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与における変更点もあります。
①教育資金の一括贈与の非課税措置の延長
教育資金の一括贈与は、2023年3月末までが非課税措置期限とされていましたが、2026年3月末まで延長されています。最大1,500万円の非課税金額には、変更点はありません。
②結婚・子育て資金の非課税措置の延長
こちらの制度も、贈与時に1,000万円まで非課税措置が設けられていましたが、期限が2025年3月末まで延長されています。
③住宅資金贈与の特例も非課税措置が延長
2023年末で終了とされていた、子や孫への住宅資金贈与の特例についても延長が決定しています。2026年末まで、最大1,000万円が非課税となります。
(省エネなどの住宅用家屋は1,000万、それ以外は500万円)
本制度は省エネ等住宅用家屋の要件に変更があります。省エネ等住宅用家屋はこれまで省エネ性能について以下のように定めていました。
・断熱等性能等級4以上 または 一次エネルギー消費量等級4以上
変更後は、
・断熱等性能等級5以上 かつ 一次エネルギー消費量等級6以上
へと変更されています。適用期限は2023年末でしたが2026年まで延長されました。
今後相続税や贈与税にはどのような対策が必要?
相続税や贈与税については、今後も変更が行われる可能性が高く、ゆくえをしっかりと注視しておきたいものです。
相続税は家族の死去によって始まる課税であり、被相続人が所有していた財産すべてが課税対象となります。ある日突然納税と向き合わざるを得ない可能性があり、「手元に現金がない」と頭を抱える方も少なくありません。
一方の贈与は、相続税よりも税率が高いものの、贈与する財産にしか課税されないという特徴があります。そこで、この章では相続税や贈与税について、今後どのような対策が必要なのか解説します。
暦年贈与は終活ではなく早めの開始へ変更しよう
暦年贈与は生前贈与の持ち戻し対象期間が延びたことにより、従来よりも不利なしくみに変わったと言っても良いでしょう。しかし、暦年贈与には以下に挙げるメリットがあります。
・家族以外の第三者へも贈与できる
・期間が長くなればなるほど、相続税や贈与税の節税効果が上がる
相続は遺言書がなければ、財産を継承できる方が相続人に限られます。内縁の方や、お世話になった方は相続できません。法定相続順位によっては、父母や祖父母、兄弟姉妹も相続人になることはできません。
しかし、贈与なら財産を挙げたい贈与者と、受け取る受遺者の間で同意していれば、誰でも受け取ることができます。
暦年贈与はこれまで、「終活」の一環として、高齢者世代が活用することが多かったですが、早くから贈与を開始することで、節税効果がアップします。
また、生前贈与の持ち戻しは、「相続又は遺贈によって財産を取得する人」のみが対象となるため、相続人ではない孫への生前贈与は対象になりません。ただし代襲相続、遺言による取得、相続時精算課税制度による贈与は対象外であることは押さえておきましょう
終活には相続時精算課税制度を視野に入れよう
これまで暦年贈与と比較すると、使用される頻度は少なかった相続時精算課税制度も、活用を検討してみましょう。相続時精算課税制度には、以下のメリットがあります。
・2,500万円まで非課税で贈与ができる
暦年贈与の場合、2,500万円まで贈与しようとすると約23年もかかってしまいます。しかし、相続時精算課税制度で手元に資金があるなら、1度で贈与が可能です。まとまった資金を子や孫に贈与したい場合は、検討されることがおすすめです。
・2,500万円を超えても課税の税率は低い
2,500万円を超えて贈与したい場合でも、暦年贈与より低い税率しか適用されません。暦年贈与で2,500万円以上贈与する場合、税率は45%を超えます。一方の相続時精算課税制度なら、一律で20%と定められています。
ただし、相続時精算課税制度は、小規模宅地等の特例が使えなくなったり、贈与税の申告が必須となるなどのデメリットもあります。ご自身がどちらの贈与方法に適しているのかは、税理士に相談の上で決めることがおすすめです。
マンションや生命保険への投資は堅調
相続税と贈与税の一体化も予想できる現在、相続や贈与と並列して未来に託せるような投資を検討している方も多いでしょう。
マンションや生命保険は以前から知られている相続対策ですが、現在もこの2つは堅調な投資対象と言えるでしょう。詳しくは以下です。
・マンション投資のメリット
マンションへの投資は、現金や預貯金と比較すると評価が下がるため、相続税対策に有効です。賃貸マンションの場合はさらに評価が下がります。また、小規模宅地等の特例が適用できればさらに評価が下がります。
マンションは憧れの不動産を所有できるメリットはもちろん、相続税対策にも有効です。ただし、マンションには老朽化による修繕コストや、賃貸物件の場合や賃料のリスクも背負うことになります。
借入をしてマンションを購入する場合は返済リスクもあるため、慎重に検討しましょう。
・生命保険に加入するメリット
生命保険は死亡や疾病に関する保険を用意でき、ライフプランを支えてくれる大切な保険です。相続税・贈与税の一体化を見据えて、生命保険を相続税対策に使う方法も今一度整理しておきましょう。
生命保険はまとまった資金として生かせるため、相続税への納税に充てることも可能です。
生命保険は非課税枠が設けられており、「500万円×法定相続人数の数」分が控除できます。受取人が相続人に指定されている必要があるためご注意ください。
なお、生命保険金は相続放棄をすると非課税枠にはカウントできないものの、保険金自体は受け取れるというメリットもあります。
しかし、死亡保険金にかかる税金は受取人によって異なります。詳しくは以下ですので、この機会にご一読ください。なお、所得税がかかる場合は住民税も発生します。
(例・契約者は夫とする)
保険契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 発生する税金の種類 |
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
夫 | 妻 | 夫 | 所得税 |
夫 | 妻 | 子 | 贈与税 |
相続税には使える控除や特例の適用を忘れずに
相続時には使える控除や特例が豊富に用意されています。相続税を抑えるためには欠かせないものですが、適用が漏れてしまうおそれがあります。
たとえば、小規模宅地等の特例は相続税の申告書を提出する必要があるほか、申告期限前に売却を追えてしまうと適用されないという注意点もあります。
一般に広く活用されている制度は以下をご確認ください。
特例・控除名 | 適用できる内容 |
小規模宅地等の特例 | 相続財産の価格を減らす |
基礎控除 | 相続財産の価格を減らす |
・配偶者控除・未成年控除・障害者控除・相次相続控除・贈与税額控除 | 相続税額から控除する |
生命保険金や死亡保険金 | 非課税限度額がある |
まとめ
この記事では、相続税と贈与税の一体化について、2024年最新版の情報を詳しく解説しました。相続税や贈与税は今後も制度が大きく変わっていく可能性があるため注意が必要です。
大切な資産を次世代に引き継いでいくためにも、贈与や相続税対策は、早めに開始しましょう。相続税や贈与税、相続対策のお悩みは、お気軽に響き税理士法人にご相談ください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。