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知っておきたい相続税の最高裁判例ニュース

2022年4月、相続にまつわるとある裁判で、最高裁が下した判決がニュースになりました。相続税が0円なのか否かを決定する裁判で、最終的に相続人の敗訴が決定。結果として、相続人は、相続税2億8,000万円+過少申告加算税4,300万円、併せて3億3,000万円もの支払いを命じられました。

平成27年に行われた税法改正によって、相続税は今や限られた富裕層だけに発生する問題ではありません。そのため、財産の規模は違えど、相続が発生する可能性があるすべての人にとって、今回の判例は軽視することのできない判例だと言えるでしょう。

そこで今回は、なぜその判決が話題になったのか、争点を解説していきます。判例により示された、今後相続税が発生する人が取るべき行動についてもお伝えします。ちょっと難しい話になりますが、できるだけわかりやすく解説します。ぜひ、最後までお付き合いくださいね。

2022年4月に最高裁で出された判決

では、2022年4月に最高裁で出された判決とはどのようなものなのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

裁判の概要は?

裁判の争点になったのは、ズバリ「不動産価格の評価方法」です。

事の始まりは、2008年に被相続人Aさんが、当時代表取締役を務めていた会社の事業継承について、銀行に相談し、その一環として孫と養子縁組をしたことです。

2009年、生前の被相続人Aさん(当時90歳)が6億3,000万円もの多額の銀行借入をし、東京都杉並区にマンション(以下:杉並マンション)を8億3,700万円で購入しました。

このとき、銀行の稟議書には「相続対策のため不動産購入を計画。購入資金につき、借入の依頼があったもの。」との記載がありました。さらに、Aさんは続けて同年に同銀行から3億7,800万円ほど、妻から4,700万円借り入れ、5億5,000万円を投じて神奈川県川崎市にもマンション(以下:川崎マンション)を購入。その3年後の2012年、Aさんは亡くなり、相続が発生します。

相続人は、不動産の相続税を算定する場合の基準とされる「路線価評価」や「固定資産評価」に基づいて財産評価を行い、相続税は「0円」であると申告しました。しかし、税務署では先ほどの二物件のマンションの評価額は、財産評価の例外規定である「評価通達6項」を適用し、「路線価評価」ではなく、「不動産鑑定」により評価すべきと判断。

その結果、申告から約3年後の2016年に3億3,000万円の追徴課税の処分が下されました。処分を不服に思った相続人側は、追徴課税の処分の取り消しを求め、法廷は地裁、高裁、最高裁までもつれ込みます。

結局、最高裁でも判決は覆ることなく、相続人は追徴課税を免れることができなかった、というのが、今回の裁判の概要です。

裁判の詳細は?

裁判の概要がわかったところで、詳細について説明していきましょう。

被相続人A 2012年に他界(94歳)
相続人 5人(妻、長女、長男、次男、孫養子(次男の子、2008年8月にAと養子縁組))

相続が発生したのはおよそ10年ほど前、94歳の男性が被相続人でした。相続人は全部で5人。構成は上表の通りです。

注目しておくべきは相続人に含まれている孫養子が養子縁組をした時期。2008年の8月にAさんと養子縁組をしています。この時期が後ほど重要になってきます。

続いて、当初相続税申告した時の相続財産、相続税額についてみてみましょう。

相続財産 杉並マンション 2億0004万円
川崎マンション 1億3366万円
上記マンション合計 3億3,370万円
その他の財産 6億9,800万円
相続財産合計(a) 10億3,170万円
負の財産 不動産購入のための借入債務 ▲9億9,500万円
葬式費用 ▲203万円
負の財産合計(b) 9億9,703万円
相続財産合計(c)
((a)-(b))
3,467万円
基礎控除(d) 5000万円+(1,000万円×5人)※2012年時点 1億円
課税遺産総額
(c)-(d)
▲6,533万円
相続税額 0円

争点になった二つのマンションは、わかりやすくするため他の財産とは分けて表示しています。

購入時は杉並マンションが8億円、川崎マンションが5億円を軽く超えていましたが、路線価評価を用いたことで、どちらも購入価格の半値以下になっています。一方、負の財産は、被相続人Aさんが銀行・妻から借り入れたときの借入金が、ほぼそのまま残っている形です。

その結果、相続財産の合計は3,467万円とされ、基礎控除の1億円を大幅に下回る計算に。基礎控除内となるため、相続税は0円となります。

上記が、相続人が当初算出した相続税額です。

不動産鑑定による評価額は?

では、税務署が妥当とした「不動産鑑定評価」では、二つのマンションがどのような評価額になったのかを見てみましょう。

購入額 路線価評価額 不動産鑑定額 売却額
杉並マンション 8億3,700万円 2億0004万円 7億5,400万円
川崎マンション 5億5,500万円 1億3366万円 5億1,900万円 5億1,500万円

価格を比較するため、購入額と売却額も記載しました。相続発生から9ヶ月後、相続した孫養子により、川崎マンションは売却されています。

上表の通り、路線価評価額だけが著しく低いことがわかりますね。他の評価額と比べて、4分の1程度の価格となっています。

最高裁が下した判決は?

すでにお伝えしたとおり、結局、最高裁でも判決は覆ることなく、相続人は追徴課税を課されました。

3年にも及ぶ長い争いでしたが、最高裁判所においても国税当局を支持した今回の判決は「行き過ぎた不動産を活用した節税対策」に待った!をかけるものになったといえるでしょう。

なぜ認められなかった?

では、なぜ相続人たちの訴えは認められなかったのでしょうか?今回、訴えが棄却とされたことには、いくつかの理由があります。

棄却された理由
  • 不動産鑑定評価額での評価は違法ではない
  • 意図的に相続税を節税する目的があった
  • 他の納税者に不公平である
それぞれの理由について、見ていきましょう。

不動産鑑定評価額での評価は違法ではない

先ほどの表でお伝えしたとおり、路線価評価額は不動産鑑定評価額を大きく下回り、およそ4分の1の金額になっています。相続人は、相続税法22条の「時価」での鑑定の適法性を訴えていました。カンタンに言えば、「高く評価しすぎでしょ!?」というところでしょうか。

しかし、最高裁では「路線価と時価の金額の差が大きいかどうかは関係ありません。今回は、税務署が出した評価額が時価と認められる価額なので、違法性はないです」と結論を出しました。

意図的に相続税を節税する目的があった

今回の相続では、意図的な節税対策と考えられる行為がいくつか認められました。

  • マンションを購入した時期と被相続人の年齢
  • マンションを購入するための高額な借入
  • 銀行の稟議書に記載されていた借入理由
  • マンションを購入する5か月前に、孫と養子縁組をした
  • 相続発生後、9ヶ月で川崎マンションを売却
まず、マンションを購入した時期が相続が発生するわずか3年前でした。マンション購入時、すでに被相続人Aさんは90歳。人生100年時代とは言いますが、ちょっとご高齢ですよね。そして、マンションを購入するために行った多額の借入金。借入金は負の財産として、相続財産から差し引くことができるため、結果的に相続時には税金を抑えることができます。

さらに、借り入れを行った際、銀行の稟議書に記載された借り入れの理由に「相続対策のため不動産購入を計画」と記載。近い将来、発生することが予想される相続税の税負担を軽減させることが目的だと考えられてしまいました。

また、銀行に事業継承を相談し、その一環で孫と養子縁組をした時期がマンション購入の5か月前と比較的近い時期に行われていたことも、相続税対策だと推測。結果として、孫養子は二棟のマンションを相続していて、相続発生後9ヶ月には川崎マンションを売却してしまった点も着目されてしまいました。

一般的に相続開始から、少なくとも1年以上は相続不動産を売却するべきではありません。

他の納税者に不公平である

税法には、前提として「平等原則」があります。同じ状況にあるものは、同じように取り扱われるべきだよね?というのが「平等原則」。Aさんや相続人らの一連の行動から考えてみましょう。

相続発生目前で銀行からお金を借り入れてまで、マンション二棟を購入したことは、相続税の負担を軽減させるための節税対策であるという事は、否定できません。そして、このような節税対策はすべての納税者が行うわけではありません。

また、仮にしようと思っても、資金が潤沢に必要なことや借入金の審査に通る必要があるため、できない人も多くいます。そういったなかで、最高裁は「購入したマンションを路線価評価額で算出することは、他の納税者にとって税負担の不公平さが生じる」と判断しました。

適切な節税対策とは?

今回の判決の結果により、特に不動産を使った節税対策にはさらに「適切な節税対策」が必要になったと言えます。

適切な節税対策には、当たり前ですが「過度な節税にならない」事が大切です。相続税の申告では、基本的に今まで通りの路線価評価額や固定資産税評価額による算定になることが多いでしょう。

ただ、今後、不動産の節税対策を行うには以下の点に気を付ける必要があります。

不動産節税対策の注意点
  • 近いうちに相続が発生すると考えられる人が購入者になること
  • 購入のタイミングが相続発生と近い
  • 購入に多額の借入金を充当
  • 不動産の購入目的が節税対策
上記の4点は一度判例が出ている以上、税務署としても指摘しやすくなります

相続がいつ発生するかはもちろんわかりませんが、購入時期と相続発生の時期が近くなるほど、過度な節税対策を疑われる可能性が高いでしょう。購入に多額の借入金が必要になる場合も、租税回避行為と考えられやすくなります。節税目的であることを全面に出すのもNG。書面への記載は特に気を付けましょうね。

節税対策しすぎないことも大切

今回の判決は、一連の相続税対策の流れを総合的に鑑みて出されたものです。不動産による節税対策が必ずしも認められないというわけではありませんが、最高裁での判例が出たことは少なからず影響があります。

「行き過ぎた節税対策により、追徴課税された例がある」ことは覚えておきましょう。とはいえ、どの程度までが適切な節税対策と言えるのか、なかなか判断は難しいものですよね。不動産だけに限らず、事業継承含め節税対策を考えている場合は、税理士など税務問題に詳しい専門家に相談するのがよいでしょう。

今回のケースでは、相続発生より3年も前に行った不動産の購入が指摘されました。財産の移動や変更が相続発生に近いほど、節税対策と捉えられる可能性が高くなります。少しでも相続税について不安があるなら、できるだけ早めに専門家に相談するのがおすすめです。

まとめ

今回は、2022年4月に最高裁で判決が出された、相続税のニュースについてお伝えしました。結果的に訴えは認められませんでしたが、それ以上に数年間にも及ぶ相続人の心労を考えると、判決が下されるまでの日々は、さぞ気が気じゃなかったでしょう。この判例は税理士業界だけでなく、不動産業界にも大きな激震が走りました。

ただ、今回の裁判でもどの程度の対策ならOKで、どこからが違法なのかは明確に示されることはありませんでした。実際、不動産価格が争点になった相続税の裁判で、相続人が勝訴するパターンもあります。財産やその人を取り巻く環境はそれぞれあるため、一概に明確にできないというところでしょうか。

今回のケースは所有財産がかなり多い、いわゆる「富裕層」で起こったものです。しかし、冒頭で伝えたとおり、相続税法の改正により相続が発生する件数はここ5年以内でうなぎのぼりに増えています。自分は関係ない、と思っていても複数の不動産や有価証券、株券があるならば相続税の納税が必要になる可能性があります。

繰り返しになりますが、相続の準備をするのに早すぎることはありません。ぜひ、早めに、適切な行動をとって、財産を残す側も、受け取る側も不安のない毎日を過ごしましょう!

東京地裁訴訟資料:
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2019/pdf/13304.pdf
東京高裁訴訟資料:https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2020/pdf/13417.pdf
最高裁判例:
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/105/091105_hanrei.pdf
相続人勝訴の例:https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2020/pdf/13463.pdf

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ABOUT US
税理士 友野祐司
税理士法人レガシィ勤務を経て2011年に響き税理士法人に入社、相続税専門の税理士として、横浜を中心に相続税申告のサポートをを行っています。どこよりも、素早い対応を心がけておりますので、少しでも相続税に関して、不安や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。