一般の方にとって、遺言書を書くのは想像以上に難しいものです。この記事を読み、正しいルールと文例を知ることで、遺言書の書き方がしっかりと理解できます。
今回は、全財産を相続させたい場合の遺言書の書き方についてご説明します。
遺言書
遺言書とは、自分の死後に誰にどの程度の財産を相続させるかを、はっきりと記した文書のことです。
相続税申告
遺言書を残すメリットとして、まず相続税の申告に役立つことが挙げられます。
遺産を相続し、相続した遺産が基礎控除額を上回った場合には、相続税の申告を行なわなければなりません。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日から10ヶ月目までに行わなければならないのが原則です。受け取った遺産の金額が大きいと、それにともない相続税額も大きくなります。ただ税額を軽減してくれる控除があります。
この控除の主なものとして、故人の配偶者に相続税が発生したときの「配偶者控除」と、故人が生前に住んでいた住居を相続した場合の「小規模宅地等の特例」があります。もしもこのどちらかの控除を受けたいという場合には、申告期限内に申告を行わなければなりません。
そして遺言書がない場合に申告するには、「遺産分割協議書」が必要になります。この遺産分割協議書は、相続人の内誰か1人でも合意していなければ認められません。そういった事態を防ぐためにも、遺言書に誰にどのように遺産を配分するかについて、しっかりと記しておくことで、相続人達にとっても相続を安心して行えます。また遺産に関する申告がスムーズになります。
相続争いを避けることができる
遺言書を残しておくことで、大きなメリットになるのが「相続人同士の争いを回避できる」という点です。
いわゆる争族を避けることができます。遺言書の効力は強く、遺言書に記載された内容は一定の拘束力を持ちます。相続人たちも合意せざるを得ないのです。不用意な争いを避けるためにも、遺言書はしっかりとした形で残すことをおすすめします。
法定相続人でない人に遺産を相続させられる
遺産相続ではどうしても法定相続人である子や孫にしか財産を残せない、と考える方も少なくありません。ですが、遺産は血縁者ではなくても相続させることができます。
法定相続人ではない方に遺産を相続させるには、その旨をしっかりと遺言書にて言及すべきです。
遺言書を書くのは想像以上に難しい
遺言書はいつでも書けると考えている方も少なくないですが、現実には、いつでも好きなタイミングで書けるというわけではありません。
遺言を残すには、遺言の内容を理解し判断できる能力が必要となってくるからです。そのため、いわゆる認知症などになってしまうと、遺言書は作成できません。
早めの遺言書作成がおすすめ
自ら書く遺言書を「自筆証書遺言」と呼びます。この自筆証書遺言は1つでも法的不備があると、なんの効力も持たないただの紙になってしまう恐れがあります。
作成には法律上の定めも多く、一般の方が自筆証書遺言を書くには、法的な知識を身につけなければなりません。こうした点からも、遺言書はまだ元気で法律をしっかりと理解できるうちに作成するに越したことはありません。
遺言書の種類
自筆証書遺言
そのため、この自筆証書遺言を残す方も多いです。しかし、自筆証書遺言には細かい決まりがあり、ひとつでも誤りがあると、法的効力が無効になってしまいます。その意味で、とても注意が必要な書き方です。
公正証書遺言
公証役場の公証人に、遺言書に記したい内容を伝え、それに基づいて遺言書を作成してもらいます。自筆で全て記すのではなく、公証人に遺言書を作成してもらうので、自筆証書遺言より安心して遺言として残せるというメリットがあります。
遺言書は公証役場で保管されます。そのため紛失の恐れもありませんし、死後すぐに相続の手続きができるという特徴があります。ただし公正証書遺言には、記載する財産額に応じた料金が発生します。費用がいくらかかるのか遺言書の作成前から、しっかりと把握しておきましょう。
秘密証書遺言
自分以外の他の人に中身を見られることがないので、相続に関して誰かに知られたくないような情報がある場合には、秘密証書遺言のかたちとすれば良いでしょう。公証役場に預けた遺言書は、被相続人の死後に、公証人によって存在を明らかにされます。もしも自分の死後に、遺言書を紛失してしまうような恐れなどがある場合などは、秘密証書遺言として公証役場へ持っていくことをおすすめします。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言には、決まり事があります。万が一、形式が守られておらず不備が出てしまうと、せっかく作成した遺言書も有効とならず、ただの紙きれになります。
そのため、正しい遺言書の書き方のポイントをご紹介します。
必ず本人の手書きでなくてはならない
自筆証書遺言という名の通り、絶対に、本人の手書きでなければいけません。きれいな仕上がりの書類にしたいからといって、ワープロを使うことはできません。
血縁者であっても、代筆は認められない
いくら血の繋がった家族や親族だとしても、代筆は認められません。必ず、本人の直筆で書きましょう。
本人の肉声であっても、音声での遺言は認められない
自筆証書遺言は、本人による直筆・書面でなければなりません。音声での遺言は認められません。
誰に何を相続させるのかをしっかりと明記しなくてはならない
遺言書には、誰に何を相続させるのかについて、詳しく書く必要があります。相続するものによっても、書き方は違ってきます。きちんと調べて記入することが大切です。
日付をしっかりと記載する
自筆証書遺言を作成した日の日付を書きましょう。「令和3年1月吉日」などのような省略した書き方はいけません。しっかりと、何年何月何日に書いた遺言書なのかがしっかりと分かるように、記入しましょう。
署名と押印を忘れない
相続内容をきちんと記し終えたら、文の最後に自分の名前を書いて、印鑑をしっかりと押してください。一生懸命遺言書を記したにも関わらず、文末の署名と押印を忘れてしまっては、遺言書は無効になります。
複数枚に及ぶ場合は契印をする
遺言書に記したいことが、複数枚に及ぶ際には、契印をしてください。本人が作成したものだという信憑性がより増すからです。契印をするときには、実印での契印が理想的であると言えます。
誤字や脱字があった場合には書き直したほうが無難
自筆証書遺言を作成していて、ついうっかり誤字や脱字をしてしまった場合、訂正の仕方にもしっかりとした決まりがあります。遺言書の訂正の仕方は、民法で定められています。
もしも民法で定められた通りに訂正がなされていなかった場合には、その訂正は無効となります。訂正が無効になるとは、「訂正した事実がなかったもの」として、訂正前の内容で把握されることになります。
また、無理に訂正しようと何重にも線を引いたりして、元の文字が読めなくなってしまった場合には、読めなくなってしまった部分は「記載されていなかった」という扱いになってしまいます。ですから、誤字や脱字の訂正、内容の追加や除外をしたいという場合には、改めて遺言書を一から作ったほうが無難ですし、安心です。その際には、書き損じた遺言書はシュレッダーや細かく切り刻むなどして、しっかりと廃棄することを忘れないようにしましょう。
文例
遺言に付言事項を記載する
遺言に「付言事項」を記載する方法は、確実というわけではないのですが、ある程度の効果が期待できます。
「遺留分」は自動的に貰えるというものではなく、遺留分を貰う権利のある人が「遺留分欲しい!」と請求する事ではじめて貰えるものです。そのため、遺留分を請求する・しないの自由は、遺留分を貰う権利保有者にあるのです。
付言事項とは、簡単に言うと「遺言者の想い」です。付言事項は遺言書に必ず書かなければいけないというものではありません。そして書いたからといって法的な拘束力は、全く、ありません。ただただ「遺言者の想い」を記載するものです。
ただし、付言事項には法的な拘束力は全くない「お願い」なので、書いたとしても遺留分を請求されてしまう可能性は残ります。そのため、全財産を妻に100%相続させられる保証までには至りません。遺言書だけでは100%の保証まで行かないということがお分かりいただけたかと思います。
ただ、遺言書を作成する際に付言事項を書き添えて、遺言者が亡くなる前に遺留分を請求できる人に対して、自分の気持ちを直接しっかり話しておくことで、残された妻に全財産を相続させる事も可能であるケースも少なくないと思います。
遺言書が無効になるパターン
自筆証書遺言が無効となる場合
- 日付の書き忘れや押印がされていない
- パソコンやワープロを使って書かれている
- 訂正した個所について、きちんと要件を満たした訂正のされ方ではない
- 土地や建物について、登記事項とは違う敷地面積や地番が書かれている
前提として、土地や建物を相続させる場合は、登記事項に書かれている内容を正確に記さなければいけません。
公正証書遺言が無効となる場合
- 公正証書遺言が作成された日付に、認知症が発生していたと認められた
- 公正証書遺言を作成したときに立ち合わせた証人が以下の人だった
- 未成年者・推定相続人、受遺者、これらの配偶者及び直系血族者・公証人の配偶者・4親等内の親族、書記及び代理人
前提として、公正証書遺言を作成するには、証人2人の立ち合いが必要となります。
秘密証書遺言が無効となる場合
- 本人の自筆ではない
- 訂正した個所について、きちんと要件を満たした訂正のされ方ではない
- 遺言書の印と同じ印を、封筒の綴じ目部分に押印しなければならないが、押印されていない
前提として秘密証書遺言は、自筆証書遺言のように本人による自筆の署名が必要です。
注意点
遺言書を作成するにあたって、色々な決まり事があるので、しっかり認識しなければなりません。ここでは、遺言書の作成で特に気を付けたいポイントをご紹介します。
相続内容について、しっかりと決めてから作成する
遺産相続は、故人が生前懸命に生きて築き上げたものを他者に譲り渡すことです。相続の相手は本当に良いのか、相続内容も問題ないか、ということについて、しっかりと意思を固めてから作成に入りましょう。
遺言者の意思はもちろん、遺言者が亡くなった後、相続人同士の関係がギクシャクしないかということも考慮することが大切です。
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言、それぞれの長所と短所を理解する
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言には、それぞれ良いところもあれば、短所と感じる部分も存在します。自分にはどの形式の遺言が合っているのかをきちんと把握しましょう。
ミスがないか、作成後の確認を怠らない
遺言書を書き終えたら、抜けている箇所はないか、押印はきちんとされているかというふうに、念入りに確認することが大切です。ひとつでも不備があれば、遺言書は無効になってしまいます。心配な方は、専門家にサポートしてもらうと良いでしょう。
まとめ
以上、遺言書の内容や書き方について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。よく理解できたという方も、いらっしゃることでしょう。遺言書は、法定の要件があり、これを満たさないとせっかく書いた遺言書が無効となってしまうので注意が必要です。
また、内容についても慎重に検討しなければ、後々親族間の争いが発生する可能性もあります。遺言書の作成については、相続問題に詳しい専門家に助言をもらわれることをお勧めいたします。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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