遺言書を残す方法には自筆証書遺言と公正証書遺言があり、一般的には公正証書遺言が勧められています。
公正証書遺言には自筆証書遺言にはないメリットが多いですが、効力にはどのような違いがあるでしょうか。
税理士へのご相談も多い遺言について、本記事では自筆証書遺言と比べた際の「効力の違い」や効力の発生時期、また相続が発生した後の手続きについて解説しますので、ぜひご一読ください。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
公正証書遺言は安心できる遺言方法
「公正証書遺言」とは、公正証書の方式で作成された遺言書のことを指します。
そもそも公正証書は遺言書だけでなく、ビジネスや離婚時など重要な場面にて、契約書などを効力のある形で保管するために利用されています。
この章では、公正証書遺言についてわかりやすく解説します。
公正証書とは
公正証書は、全国に約300カ所ある中立的な法律の専門家である公証人(元裁判官など公務員の立場となる)が作成にかかわっています。
その書面に書かれた内容について「公証人が証明する」という効果があります。
身近なところでいうと、協議離婚をする際には養育費などの取り決めを強制執行ができる内容の公正証書にすることで、万が一約束が守られなかった際には強制執行ができるようになります。
公正証書として遺言書を作るメリット
公正証書として遺言書を作成する場合、遺言者が確かにその遺志として残した遺言書であることを公的に証明できます。
正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、自筆証書遺言とは異なり「遺言書の偽造や変造、故意による破棄」などを防ぐ高い効果もあります。また、公正証書遺言には以下のメリットもあります。
- 証人が2名以上いるため、安全性が高い
- 公証人は自宅や病院にも出張してくれる(出張費は必要)
- 家庭裁判所による検認手続きが不要
- 字が書けなくても遺言書を残すことができる
公正証書遺言は自筆しなくてもよいため、年齢やご病気などを理由に自筆ができない方でも、安心して遺言書を残すことができるのです。
公正証書遺言がまさかの無効に?驚きのケースとは
安全性の高い遺言書として知られる公正証書遺言ですが、無効になることはあるでしょうか。この章では無効となってしまう驚きのケースについて、わかりやすく解説します。
遺言者本人の遺言能力に問題があった場合
遺言書作成時点で遺言を残すだけの判断能力が本人になかった場合は、遺言が無効になります。例として、認知症やすでに昏睡状態にある方は遺言内容を自分で理解し、自身の意志で遺したと言えない可能性があります。
ただしその場合でも、公証人が本人の遺言能力を確認して公正証書遺言を作成するため、無効となるリスクは自筆証書遺言と比べると低いでしょう。
口授ができていなかった
公正証書遺言を作成する時、遺言をする人(遺言者)は公証人に遺言内容を口頭で伝える必要があります。この作業を「口授」と言います。
口授された内容を公証人が書き留め、遺言者本人に対し遺言内容を読み上げて「これで間違いありませんか」と内容を確認します。
この一連の作業が必要である、と民法で定められており、口授ができていない場合は遺言書が無効になります。(民法第969条)
ただし、公正証書遺言で口述が難しい場合、遺言者本人が紙に遺言内容を記して公証人に示すなど代替策もあります。
証人の不在や不適格があった
公正証書遺言の作成は自筆証書遺言とは異なり、2名の証人を用意する必要があります。
遺言の当日に2名の証人の前で、遺言内容を口授する必要があるためです。用意できていない場合は無効となります。
また、証人になれない人が証人となっていた場合も無効です。(民法第974条)
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
上記のように、民法で証人になれないと規定されている人が証人として立ち会った公正証書遺言は無効になります。
公序良俗に反する遺言内容だった
遺言者が遺した遺言内容が公序良俗に反する内容だった場合、たとえ公正証書遺言であっても無効となる場合があります。
わかりやすく言うと、「道徳的にこの内容はいかがなものか?」とされるものです。
たとえば「私の全財産は、愛人〇〇に譲る」などの記載があったら、残された家族の大切な住まいなども失いかねません。判断は個別に行う必要がありますが、遺言内容の無効を巡って争いになる可能性は高いでしょう。
公正証書遺言と自筆遺言証書|2つの遺言書に効力に違いはある?
比較されることが多い自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、この2つの間で「効力」の違いはあるのでしょうか。
どうせ書き残すなら、「効力が強い方にしたい」と思っている人も多いでしょう。そこで、この章では2つの遺言書について効力の視点から詳しく解説します。
2つの遺言書に効力の違いはない
自筆証書遺言と公正証書遺言は、作り方は大きく違いますが、遺言書としての効力に違いはありません。しかし、遺言書の効力は、以下のルールがあります。
- 後に作られた遺言書の方が効力がある
遺言書は、「後に作られている方に効力がある」のです。日付が最新の方が優先されます。そのため、先に公正証書遺言を作っていても、思い立って後日に自筆証書遺言を作ったら、自筆証書遺言が優先されます。
遺言書は公正証書遺言であっても、本人の意思でいつでも書き換えることができます。そのため、複数の遺言書が見つかったら日付を必ず確認する必要があります。
最新版と旧式版の遺言書が見つかり、内容が異なる箇所がある場合は、最新版が採用されると覚えておきましょう。
公正証書遺言の効力とは|いつから発揮できる?
公正証書遺言が見つかったら、残されたご家族としてはいつからその効力が発揮されるのか気になるところでしょう。この章では効力の発揮時期について詳しく解説します。
遺言書の効力は遺言者が死亡した時に発揮される
遺言書の効力が発揮できるのは、遺言者が死亡した時です。つまり、相続が発生した時です。
公正証書遺言、自筆証書遺言のいずれであっても生前に効力を発揮することはありません。(民法第985条)
すぐに効力が発揮できないものもある
遺言書は遺言者の死亡後すぐに効力が発揮されますが、「手続き」をしなければ効力が発揮できない内容もあります。詳しくは以下です。
- 子の認知
遺言書で子を認知する場合、遺言執行者が一定の手続きをする必要があるため、効力の八期まで時間がかかります。
- 財団法人の設立
財団法人の設立には定款を公証人が認証するなど、さまざまな手続きを要しますので、本人死亡と同時に法人が設立されるものではありません。
- 条件付きの遺言
「孫が20歳になったら不動産を遺贈する」など、遺言に付いて条件が付いている場合は、条件が整うまで効力は発揮されません。(ただし、この例では遺言者が死去時にすでに20歳を超えていたら、すぐに効力が発生します)
公正証書遺言はある!でも遺産分割協議は必要?
公正証書遺言がある場合、記載されている内容に沿って相続人へ遺産を分けていきます。では、公正証書遺言があっても、遺産分割協議は必要なのでしょうか。
相続人全員の同意があれば遺産分割協議は可能
公正証書遺言が残されていても、相続人全員の同意があれば遺産分割協議をすることは可能です。たとえば、遺言者が書き残した財産は、すでに生前に売却されて失われていることもあります。記載のない財産について相続人全員で話し合うべきパターンも考えられるでしょう。
相続人全員が同意していれば、遺産分割協議を実施し公正証書遺言とは異なる内容で遺産分割協議書を作成できます。
相続人の一部が同意しない場合はどうなる?
相続人のうち、一人でも反対している場合は遺産分割協議はできず、公正証書遺言の内容が優先されます。
また、遺産分割協議中に意見が対立し、不成立となった場合は協議不成立となります。この場合も公正証書遺言の内容が優先されます。
被相続人が死亡した後の流れ
家族が亡くなり、公正証書遺言が見つかったら一体どのように手続きを進めればよいでしょうか。この章で詳しく解説します。
公正証書が見つかったら
公正証書遺言は検認がいりません。自筆証書遺言のように家庭裁判所に持ち込む必要はないため、そのまま記載内容に沿って手続きを進めます。
ただし、公正証書遺言は、自動的に相続人へ遺言書の存在を知らせてくれるものではありません。生前に存在を伝えるか、死後でも見つけてもらいやすいように正本や謄本(写しのこと)を家族が見つけられるような場所に保管しておきましょう。
公正証書遺言が見つからなかったら
公正証書遺言がある、とわかっていても見つからない場合、最寄りの公証役場で検索することができます。
検索すると、公正証書遺言の原本が保管された公証役場がわかります。謄本の再発行ができますので依頼しましょう。(郵送可)
遺産分割協議を行う
公正証書遺言の遺言内容を見て、遺産分割協議が必要になったら相続人全員の同意の下で遺産分割協議の必要性の有無を検討します。一部の相続人を参加させずに協議をしても、無効となるため注意しましょう。
遺産の名義変更をする
遺産分割協議を行わなかった場合、公正証書遺言で指示されたとおりに遺産分割をし、財産をもらう相続人の名義人への名義変更を進めます。
遺産分割協議で内容が決定した場合は、その内容に沿って進めます。
遺言執行者が指定されている場合
遺言執行者とは、遺言内容を滞りなく進めていくために選ばれる人を意味します。複雑な内容の遺言を執行してもらう場合は弁護士や行政書士など、法律の専門家にお願いすることも可能です。
公正証書遺言で遺言執行者が指定されており、遺言者の死去後に遺言執行者が就任した場合は、遅延なく遺言内容に沿って手続きを進めます。
相続人に対して相続財産の目録をわたして、分割など相続にまつわる手続き全般を執行します。
遺言執行者と相続人が対立したらどうする?
遺言書の内容に沿って手続きを進める場合でも、相続人がその内容に納得できず、両者が対立してしまったらどうすればよいでしょうか。
もしも、納得できない理由が「遺留分の侵害」だった場合は、遺留分を受け取る権利が相続人にあるため、請求できます。また、トラブルがまとまらない場合は裁判所に判断を依頼することもできます。
まとめ
この記事では、公正証書遺言について効力などを中心に、自筆証書遺言との比較も交えながら詳しく解説しました。
遺言の効力の強さは自筆証書遺言と変わりはなく、複数の遺言書が存在する場合は新しく作成された遺言の効力を優先します。
公正証書遺言は公証人の下で作成されるため、安全性の高いものです。しかし、遺言者の判断能力が低下しているなどのケースでは無効となるおそれもあります。
しかし、自筆証書遺言よりも紛失や偽造のリスクは低く、検認も不要のためスピーディーに相続手続きを進めることもできます。
もしも遺言書を検討する場合は、公正証書遺言のメリットを今一度確認した上で、作成にのぞまれることがおすすめです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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