相続時精算課税制度のメリットは、60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子供や孫に財産を贈与する際、一定の金額までなら贈与税がかからないことです。
相続時精算課税制度は大きな金額を贈与できるので、便利な制度ではあります。
ただし「相続時精算」という名称の通り、相続時には贈与した財産を相続財産に加えて相続税を計算する必要があります。
税金の支払いを先送りするだけで、本当に節税効果があるのか疑問に感じる方もいるでしょう。
本記事では、相続時精算課税制度の概要と、土地を贈与してもらった場合の注意点について詳しく解説します。
目次
この記事の監修者

税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、親や祖父母からまとまった財産を生前贈与しやすくする制度です。
最大2,500万円までは、贈与時に贈与税がかかりません。
ただし、完全に非課税になるわけではなく、相続時には「生前贈与した財産」も相続財産に加えて相続税を計算します。
つまり、「贈与時の税負担を抑え、相続時にまとめて精算する制度」と考えると分かりやすいでしょう。
対象となるのは以下の通りで、贈与を受ける側が利用するかどうかを選択できます。
・60歳以上の父母・祖父母
・18歳以上の子・孫
制度の流れを簡単にまとめると、以下の通りです。
① 生前に財産を贈与する
② 2,500万円までは贈与時の贈与税が非課税
③ 相続時に、贈与した財産も含めて相続税を計算する
2,500万円を超えた分には一律20%の贈与税が課税されますが、この税額も相続時に精算されます。
同一の贈与者からであれば、限度額まで何回でも利用が可能です。
父からの贈与には相続時精算課税制度を選択するが、母からの贈与には暦年贈与を利用するという使い方もできます。
ただし以下の点には十分注意が必要です。
相続時精算課税制度は、一度選択したら取り消しができません。
また、2024年1月1日以降の贈与からは年間110万円の基礎控除が新設されましたが、2,500万円の特別控除を超えた分には引き続き一律20%の贈与税が課税されます。
相続時精算課税制度を使うメリット

メリットを正しく理解することで、自分に合った活用方法が見えてきます。
ここでは3つのメリットを解説します。
2,500万円まで非課税で贈与できる
この制度の最大のメリットは、2,500万円という大型の控除です。
暦年贈与では年間110万円までしか非課税控除が適用されないため、2,500万円を非課税で贈与しようとすると約23年かかります。
相続時精算課税制度を利用すれば、一度に2,500万円まで贈与税がかからずに贈与できます。
贈与額の合計が2,500万円を超えた分も、一律20%の課税にとどまる

贈与額の合計が2,500万円を超えた場合でも、超えた分に対しては一律20%の贈与税が課税されます。
暦年贈与では、贈与額が大きくなるほど税率も上がり、最大55%の税率が適用されるケースも。
高額な財産を贈与する際は、制度選びによって税負担が大きく変わるでしょう。
相続時の争いが防止できる
特定の人物に財産を渡したい場合、この制度を活用することで生前に財産を移転でき、相続時の争いを防げます。
例えば会社経営者が次男に事業を承継させたい場合、生前に株式や事業用資産を贈与しておけば、後の遺産分割協議でトラブルになるリスクを減らせます。
生前贈与をしないまま亡くなると、意図した通りに財産が引き継がれないケースもあるためです。
贈与者に財産の配分に希望がある場合や、相続で争いが起きそうな場合に有効な手段です。
相続時精算課税制度を使うべき人

この制度が向いているのはどのような人でしょうか。
6つのケースを順に確認していきましょう。
相続財産が基礎控除の範囲内の人
相続する財産の総額が、相続税の基礎控除額以内に収まる人は、相続時精算課税制度を活用するメリットがあります。
この制度で生前贈与された分と相続財産を合計した額が基礎控除額以内であれば、将来的に相続税がかかりません。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
すでに110万円超の贈与をしている人
暦年贈与では年間110万円以内なら贈与税がかかりませんが、超過累進課税のため贈与額が多くなるほど税率が上がります。
| 贈与額 | 税率 |
|---|---|
| 110万円以内 | 非課税 |
| 110万円超 | 累進課税(最高55%) |
110万円を超える贈与が発生している場合は、相続時精算課税制度への切り替えも選択肢のひとつです。
財産の評価額が有利なタイミングで贈与したい人

相続時精算課税制度では、「贈与した時点の価格」を基準に相続税が計算されます。
そのため、次のようなタイミングで贈与を行うと、相続税対策につながる可能性があります。
| ケース | 節税につながる理由 |
|---|---|
| 将来値上がりが見込まれる財産 | 価格が低いうちに贈与することで、将来の値上がり分を相続税評価額に含めずに済む |
| 一時的に値下がりしている財産 | 評価額が低いタイミングで贈与することで、相続税評価額を抑えられる |
具体例で確認してみましょう。
【具体例①:値上がりが見込まれる土地】
・贈与時の土地価格:2,000万円
・10年後の土地価格:6,000万円(再開発で値上がり)
相続時に土地価格が6,000万円になっていても、相続税は「贈与時の2,000万円」を基準に計算されます。
そのため、値上がりした4,000万円分は相続税評価額に含まれません。
【具体例②:値下がり時に贈与した株式】
・購入時の株式の時価総額:2億円
・贈与時の株式の時価総額:1億円(値下がり時に贈与)
その後、相続時に株価が2億円まで回復したとしても、相続税は「贈与時の1億円」を基準に計算されます。
相続時にさらに値下がりしていた場合でも、相続税は「贈与時の価格」を基準に計算されます。
価格変動の大きい財産は、贈与のタイミングを慎重に判断しましょう。
収益を生む財産がある人
収益物件を子などに生前贈与することで、節税につながる可能性があります。
生前贈与した場合としない場合の違いは以下の通りです。
| 項目 | 生前贈与した場合 | 生前贈与しない場合 |
|---|---|---|
| 不動産収入 | 贈与を受けた人の収入になる | 相続財産に積み上がる |
| 相続税への影響 | 相続財産が増えない | 多額の相続税が課税されるリスクあり |
1,000万円以上の相続には15〜55%の相続税がかかるため、数百万単位で税額が変わる可能性もあります。
事業承継がある人
親族内で事業承継を行う場合は、後継者へ自社株式や事業用資産を引き継ぐケースが一般的です。
ただし、会社規模の財産は金額が大きくなりやすく、暦年贈与の基礎控除110万円では対応しきれないことも少なくありません。
そのような場合に、相続時精算課税制度の活用が有効です。
特に、以下のようなケースでは節税につながる可能性があります。
・自社株式の評価額が一時的に下落している
・将来的に会社業績の回復が見込まれる
・後継者へ早めに株式を移転したい
例えば、株価が低迷しているタイミングで贈与を行えば、相続税は「贈与時の低い価格」を基準に計算されます。
その後、会社の業績回復によって株価が上昇した場合でも、値上がり後の価格では計算されないため、相続税の負担を抑えられる可能性があります。
相続時精算課税制度を使うべきでない人

ここでは、相続時精算課税制度を利用しない方が有利になるケースを紹介します。
制度によっては、別の特例や暦年贈与を利用した方が節税につながる場合もあります。
暦年贈与を使いたい人
一度でも相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの暦年贈与は使えなくなります。
コツコツと長期間にわたって財産を移転させたい人や、贈与する対象者が多い人は暦年贈与を選択した方がよいでしょう。
暦年贈与を利用する際の注意点は以下の通りです。
・法定相続人への贈与については、相続開始7年前の分から相続税の対象となる。
・贈与をした事実の証明が必要になるので、贈与契約書の用意が必要になる。
被相続人と同居している人に土地・建物を引き継ぎたい人

被相続人と同居している相続人に自宅を引き継ぐ場合は、相続時精算課税制度を利用しない方が有利になるケースがあります。
なぜなら、相続時精算課税制度を使って生前贈与をすると、「小規模宅地等の特例」が使えなくなる可能性があるためです。
小規模宅地等の特例とは?
被相続人が住んでいた土地について、一定の要件を満たせば相続税評価額を大幅に減額できる制度
居住用宅地の場合は、330㎡まで評価額を最大80%減額できる可能性があります。
【具体例】
・土地の相続税評価額:1億5,000万円
・小規模宅地等の特例を適用
→ 最大80%減額
→ 評価額は3,000万円まで圧縮可能
例えば、父親と同居している息子が、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けた場合、小規模宅地等の特例が適用できなくなる可能性があります。
その結果、本来受けられた大きな節税効果を失ってしまうケースもあります。
小規模宅地等の特例は適用要件が複雑なため、利用を検討する際は専門家へ相談することをおすすめします。
住宅取得のために資金贈与を受ける人
住宅購入資金の贈与を受ける場合は、「住宅取得等資金贈与の非課税特例」を優先した方がよいケースがあります。
この制度は、住宅取得資金として贈与を受けた場合に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
非課税限度額は、住宅の種類や契約時期によって異なります。
相続時精算課税制度との大きな違いは、次の2点です。
・相続時に贈与分を持ち戻して精算する必要がない
・暦年贈与との併用が可能
住宅取得資金の援助を受ける際は、まず住宅取得等資金贈与の非課税特例が利用できないか確認するとよいでしょう。
相続時精算課税制度で土地を贈与する場合の注意点

相続時精算課税制度は、大きな財産を早めに移転できる便利な制度です。
しかし、使い方によっては税負担が増えるケースもあるため、事前に注意点を理解しておくことが大切です。
暦年贈与が使えなくなる
相続時精算課税制度を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与については、暦年贈与へ戻せなくなります。
そのため、年間110万円の基礎控除を活用した贈与ができなくなります。
ただし、適用されるのは「同じ贈与者」からの贈与のみです。
例えば、父から相続時精算課税制度を利用していても、母からの贈与には暦年贈与を利用できます。
どちらの制度が適しているかは、届出前によく検討しましょう。
必ず贈与税の申告が必要になる
贈与額の大小にかかわらず、税務署への申告が義務付けられています。
以下の書類を税務署に提出しなければなりません。
・贈与税の申告書
・相続時精算課税選択届出書
暦年贈与では110万円以内であれば申告不要なため、手続きの負担が増える点に注意が必要です。
小規模宅地等の特例が使えなくなる

相続時精算課税制度を利用して土地を生前贈与すると、「小規模宅地等の特例」が適用できなくなる可能性があります。
小規模宅地等の特例は、相続税評価額を大きく減額できる制度のため、結果として税負担が増えてしまうケースもあります。
自宅の土地を同居家族へ引き継ぐ場合は慎重な判断が必要です。
登録免許税や不動産取得税の負担が増える可能性がある
不動産を生前贈与した場合は、贈与税や相続税以外にも税負担が発生します。
代表的なものは、次の2つです。
・登録免許税
・不動産取得税
相続による取得よりも税負担が大きくなるケースもあるため、事前に確認しておきましょう。
節税にならないケースがある
相続時精算課税制度は、「利用すれば必ず節税になる制度」ではありません。
制度を利用すると贈与時の税負担は軽減されますが、相続時には、相続時精算課税制度を利用した財産も含めて相続税が計算されます。
基本的には「課税の繰り延べ」という性質が強い制度です。
ただし、大きな財産を早めに移転したい場合には、有効な選択肢となることもあります。
まとめ:相続時精算課税制度の土地贈与は専門家に相談を

本記事では、相続時精算課税制度の概要とメリット・活用すべき人・注意点について解説しました。
ポイントをまとめると以下の通りです。r
・2,500万円までは贈与時の贈与税が非課税になる
・一度選択すると取り消しができず、暦年贈与も使えなくなる
・小規模宅地等の特例が使えなくなる点に注意が必要
相続時精算課税制度は使い方によって大きな節税効果が期待できる一方、誤った利用で損をするリスクもあります。
響き税理士法人では、相続時精算課税制度に関するご相談に丁寧に対応しています。
まずはお気軽にご連絡ください。

戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。



















