特別受益に時効はある?民法改正も含めて解説します

税理士友野
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相続人が被相続人から受けた①遺贈、②婚姻・養子縁組のため若しくは生計の資本として受けた贈与を「特別受益」といいます。

家族から遺贈や贈与を受けたことのある方は、「自分が受け取った財産が特別受益にあたるのか」「将来の相続分は減ってしまうのか」、「何年前の贈与まで遺産に含めて計算するのか」など、気になることが少なくないでしょう。

「特別受益の持戻し」およびその免除は、相続財産を計算する際に非常に重要となる考え方です。

また、2019年の民法改正では、関連規定の改正もありました。

今回は、特別受益に時効があるのか?について、特別受益の持戻しおよびその免除などについて、民法改正を含めて解説します。

特別受益とは

「特別受益」という用語は聞き慣れないものですので、いまいちイメージが湧かない方がほとんどでしょう。

特別受益は、民法の相続法分野に規定されています。

特別受益とは何か

「特別受益」とは、相続人が被相続人から受けた特別な財産的利益を意味します(民法903条1項)。

 

被相続人から相続人が遺贈を受けたり、生前贈与を受けたりしたときは「特別受益」にあたりえます。

例えば、1億円の財産を所有する母が、結婚することが決まった娘A子に対して婚姻費用として1000万円を生前贈与したときは、その1000万円は「被相続人から、…婚姻…のため…贈与を受けた(民法903条1項)」ものとして、特別受益に該当します。

特別受益をめぐるトラブルは遺産分割時に起こる

特別受益をめぐるトラブルは、生前贈与を行った人(上記の例では母)が亡くなって遺産分割をするタイミングで起こります。

 

上の事例で、母は1000万円の生前贈与をしているため、亡くなった時点での遺産が1億円から9000万円に減少しています。

生前贈与を受けたA子としては、「遺産は9000万円」と考え、遺産分割では遺産を9000万円と考え、他の相続人と相続分に応じて分配したいと考えるでしょう。

一方、A子以外の、特別受益を受けていない相続人としては、「A子は生前に1000万円もの生前贈与を受けているのだから、その分を考慮して計算しなければ不公平だ。

」と不満を持つはずです。

 

生前贈与で渡した財産は、「遺産の前渡し」ともいわれており、「特別受益」は、被相続人の生前の出来事でありながら、亡くなった後の遺産分割と密接に関係しているのです。

特別受益があるとどうなるのか

法定相続分を考えるうえでは、特別受益を亡くなった時の遺産に足し戻して相続分を計算しなければいけません。

これを「特別受益の持戻し」といいます。

 

先ほどの例では、A子が生前贈与で受け取った財産額を持戻して相続分を計算します。

つまり、亡くなった時点での遺産9000万に特別受益1000万を足し合わせて、1億円を相続財産と考えます。

そのうえで、相続人が子2人(A子とB男)であれば法定相続分はそれぞれ2分の1ですので、5000万円をB男が相続します。

一方、生前に1000万円を受け取っていたA子は、本来の相続分5000万円から贈与を受けた金額を差し引いた4000万円を相続することになります。

このように、特別受益は相続分の計算の際に「持戻し」を行うことで、相続人間の公平が図られているのです。

もっとも、民法はあくまで私的自治をベースにしたルールですので、相続人同士で「A 子が贈与で貰っていた分は持戻さなくてよい」と合意すれば、9000万円をきっちり相続割合で分割しても、法律上問題ありません。

特別受益は相続税の対象ではない

通常、遺産分割の際に分け合った財産は、相続税の課税対象となります。

しかし、特別受益は生前に受け取ったものであるため、相続税の対象とはなりません。

ただし、被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けた相続人は、相続税の申告時、相続税課税価格に贈与額を加算しなければならないため、注意が必要です。

この制度は「生前贈与加算」といいます。

特別受益の種類

先ほどの例では、親が生前に子へ婚姻費用を渡すと特別受益にあたると紹介しました。

ただし、親族間の金銭的援助が、すべて特別受益になるかというと、そうではありません。

特別受益の種類は、民法で定められています。

特別受益は、「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」のみ

まず、特別受益は、「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」に限られます。

食費や医療費のような日常生活で当たり前の出費や、学費、額の少ないお小遣い程度のものは、特別受益にはあたりません。

特別受益にあたるのは、扶養的金銭援助を超える、大きな財産的利益といえる場合です。

子供が新居を購入する際の頭金の援助、婚姻や養子縁組の際の持参金や支度金が挙げられます。

民法903条1項によれば、特別受益の種類は次のようにまとめることができます。

 

被相続人の相続人に対する

①すべての遺贈

②以下のいずれかに該当する贈与

婚姻のための贈与

養子縁組のための贈与

生計の資本としての贈与

 

では、1つずつみていきましょう。

遺言書での遺贈

被相続人は、生前に遺言書を作成することにより、自己の相続発生時に、特定の者に対して財産を譲る旨を定めることができます。

このような「遺言による贈与」を法律上、「遺贈」といいます。

 

相続人に対して行われた遺贈は、すべて特別受益として持戻しの対象になります。

婚姻のための贈与

婚姻のための贈与とは、結婚する際に親から受け取る持参金や支度金、結婚生活のための家具購入費用などのことです。

結納金や結婚式の費用については、親が子に当然持たせるものと古く考えられていた影響で、現在でも特別受益に含めないのが実務の現状です。

ただ、今後の社会一般の常識が変化していくにつれて、金額や内容次第では、特別受益に該当することもありえるでしょう。

養子縁組のための贈与

養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組とがあるところ、普通養子縁組の場合には、養子は養親だけでなく、実親の相続人にもなります。

普通養子縁組を行うにあたり、実親が子に対して持参金を持たせていた場合には、それが実親の相続時に特別受益に該当します。

生計の資本としての贈与

「生計の資本としての贈与」とは、住宅購入のための資金や宅地の贈与、事業を始めるに際しての開業資金や独立資金の贈与、田や畑などの農地の贈与などを指します。

これらの贈与を被相続人から受けていた場合、特別受益の対象となり得ます。

多額な生命保険金で、例外的に特別受益に含まれるとき

相続人の一人が受取人となり、被相続人が支払っていた生命保険契約

があった場合、被相続人死亡時に発生する生命保険金請求権は、受取人固有の財産であり相続財産ではない以上、原則として特別受益には含まれません。

もっとも、「諸般の事情」を考慮して、相続人間の不公平が著しいというべきときは、例外的に特別受益に含まれることがあります。

「諸般の事情」としては、被相続人が相続人中の一人を受取人に指定したことがその者への生活保障の意図であったか否か、受取人の生活状況、保険金の額やその額が相続財産に占める割合などを勘案し、「特別受益」に該当するか否かを総合的に判断することになります。

特別受益にあたるかの判断は難しい

特別受益に該当するかどうかの判断は曖昧で不明確なところがあります。

生活費や学費など、「生計の資本としての贈与」に該当すると思われるものでも、親としての扶養義務の範囲内と評価できるものであれば、特別受益にあたらないと判断されますし、逆に、名目上は単なる結納金であっても、金額の大きさなどを考慮して、「婚姻のための贈与」として特別受益に含めて考える場合もありえます。

ご自身が受けた生前贈与が特別受益にあたるかどうか迷われた際には、弁護士など相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

特別受益に時効はある?

両親から生前贈与を受けてから何年も経過しているときは「何年前の特別受益まで持戻しの対象となってしまうのだろう」と不安に思われるでしょう。

特別受益に時効はあるのか?について、2019年民法改正も含めて解説します。

2019年民法改正前:相続分の計算上は、特別受益に時効はない

まず、2019年改正前の民法下でのルールを説明します。

特別受益には、時効という概念は存在しません。

そのため、改正前のルールでは、極端なことをいえば、40年前、50年前の生前贈与であっても、持戻しの対象になっていました。

 

ただし、通常、時の経過とともに証拠が散逸していくため、現実問題として、何十年前の生前贈与を立証できるのかという問題は残ります。

2019年民法改正 特別受益となる贈与は相続開始より10年以内のみ

上述の通り、特別受益には時効の概念はありません。

そして、改正前民法下では、被相続人が亡くなる数十年前に行われた贈与であっても、特別受益となる可能性がありました。

しかし、2019年7月1日に施行された改正民法により、新たな規定が加わりました。

すなわち、相続人に対する贈与は、原則として被相続人の死亡前10年以内になされたものに限り特別受益に該当することとされました。

(ただし、贈与の当事者である被相続人と相続人とが、遺留分を有する他の相続人に損害を加えることを知りながら贈与した場合には、10年前の日よりも前になされた贈与も持ち戻しの対象となります。

つまり、被相続人が70歳で1000万円を贈与した後、80歳で亡くなったときは10年以内の特別受益になるので持戻しが必要だが、81歳で亡くなったときは、原則として持戻しの対象とはなりません。

ここで注意しなければならないのは、上記の改正民法のルールは、2019年7月1日よりも前に発生した相続に関しては適用されません。

 

そのため、被相続人が亡くなる10年以上前に行われた贈与であっても、相続開始時(被相続人が亡くなった時点)が2019年7月1日よりも前であれば、旧民法に従い、特別受益となる可能性があります。

改正法適用前の相続に関しては、例えば被相続人の死亡より10年以上前になされた贈与であっても、特別受益となる可能性があるということです。

特別受益の持戻し免除

「特別受益の持戻し」とは、特別受益に該当する遺贈または贈与の価額を相続財産価格に組み入れたうえで、受益者の取得分を清算し、各相続人の相続分を計算することをいいます。

他方で、「特別受益の持戻し免除」という制度があります。

特別受益の持戻し免除とは

親から子供に対して新居の購入費の援助をしたなら、それは特別受益に該当し、遺産分割の際は、持戻して分け方を決めるのが原則です。

しかし、もしも、贈与の際に「この分は持戻さなくてもよい」との意思表示があった場合には、持戻す必要はありません。

これを特別受益の持戻し免除の意思表示といいます。

 

先に挙げた例でいえば、母からA子に贈与した1000万について、母が「持戻さなくてよい」との意思表示をしていれば、遺産分割を行う際には9000万の遺産を2分の1ずつ、A子とB男で分けることになります。

2019年改正民法により、特別受益の持戻し免除は、被相続人の意思表示によって行うことができる旨が明文化されました(民法903条3項)。

そして、持戻し免除の意思表示は、書面に残さなくても、口頭だけでも成立します。

ただし、後になって「やっぱり言っていない」などとトラブルになった際に備えて、持戻し免除の意思表示をする際は書面に残した方が賢明です。

 

2019年民法改正 特別受益の持戻し免除の意思表示の推定

改正前民法下の制度では、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である相続人が、他方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈または贈与することは、原則として、特別受益にあたるものとして取り扱われていました。

そのため、受益者は、遺贈又は贈与を受けなかった場合と同じ金額でしか相続財産を受け取ることができませんでした。

しかし、通常、夫婦の一方から配偶者に対して遺贈や贈与が行われるときは、夫婦関係における長年の貢献に報いるとともに、遺された配偶者の生活を保障するために行われることが多いはずです。

にもかかわらず、配偶者の居住用不動産の取得が特別受益に該当するとなると、預貯金等の取得分が減少し、かえって遺された者の生活が脅かされてしまいかねません。

そこで、2019年7月1日施行の民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対して居住用の不動産を遺贈または贈与したときは、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました。

 

つまり、結婚20年以上の夫婦間による自宅の遺贈または贈与については、持戻し免除の意思表示があったかなかったかに関わらず、意思表示があったものとされ、持戻しが免除されます。

 

ただし、婚姻期間が20年に満たない夫婦の場合には、この規定の適用はありません。

そのため、婚姻期間が20年に満たない場合に、配偶者に対して自宅の土地、建物を遺贈または贈与する場合には、あえて「特別受益の持ち戻しを免除する」と遺言書等で明示しておく必要があります。

トラブル防止には遺言書を活用

特別受益のトラブルは、親子間の贈与に限りません。

例えば、後妻への生前贈与を特別受益に含めて計算すべきと前妻の子が主張するなど、夫婦間の贈与をきっかけに問題となることもありえます。

トラブルを避けるためには、贈与の際に持戻し免除の意思表示を書面に残したり、遺言書を活用したりと、事前の策を打っておくことをおすすめします。

 

特別受益の計算方法

特別受益が発生する場合には、相続分の計算方法が通常のやり方とは異なってきます。

具体的には、次のような計算方法により各相続人の相続分を算出することになります。

  • 特別受益を受けた相続人の相続分

(相続開始時の相続財産の価額 + 特別受益額)× 法定相続分 - 特別受益額 = 相続分

  • 特別受益を受けていない相続人の相続分

(相続開始時の相続財産の価額 + 特別受益額)× 法定相続分 = 相続分

なお、「特別受益額」は、相続開始時の価額で算出されることになります。

具体例1:法定相続分の範囲内で特別受益が発生した場合

相続財産:5000万円

相続人:子Aと子Bの2名、Aが1000万円の特別受益を受けたケース

  • 特別受益を受けたAの相続分

(5000万円+1000万円)× 1/2 - 1000万円= 2000万円

  • 特別受益を受けていないBの相続分

(5000万円+1000万円)× 1/2 = 3000万円

具体例2:法定相続分を超える特別受益が発生した場合

相続財産:5000万円

相続人:子Aと子Bの2名、Aが6000万円の特別受益を受けたケース

  • 特別受益を受けたAの相続分

(5000万円+6000万円)× 1/2 - 6000万円 =

-500万円

※法定相続分を超えて贈与を受けた受益者の相続分は、このようにマイナスで算出されます。

このマイナス分500万円は、返す必要はありません。

  • 特別受益を受けていないBの相続分

(5000万円+6000万円)× 1/2 = 5500万円 →5000万円

まとめ

今回は、遺産の前渡しともいわれる「特別受益」に時効はあるか?について、最近の民法改正をふまえて解説しました。

特別受益には、時効の概念はないものの、2019年民法改正により、原則として被相続人が亡くなる前「10年以内」の贈与に限り、特別受益に該当し得るものとなりました。

また、婚姻20年以上の配偶者に対する自宅贈与については、原則として特別受益の取扱いを受けないという規定も新設されました。

これらの改正をきっかけに、特別受益の持戻し、あるいは持戻し免除を主張する相続人が出てくるなど、新たなトラブルが起きる可能性があります。

無用な相続トラブルを避けるには、遺贈や生前贈与のときは、日時とともに書面に記録しておくことに加え、遺言書にも「この分は特別受益として取り扱わないように」と付言しておくことが鍵となるでしょう。

特別受益については法律の定めも曖昧ですので、色々と判断に迷われることも多いはずです。

特別受益でお悩みの際は、相続の専門家に相談して、事前の相続対策をしておくことをおすすめします。

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ABOUT US
税理士 友野祐司
税理士法人レガシィ勤務を経て2011年に響き税理士法人に入社、相続税専門の税理士として、横浜を中心に相続税申告のサポートをを行っています。どこよりも、素早い対応を心がけておりますので、少しでも相続税に関して、不安や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。