遺産相続では様々なトラブルが生じます。特に近年、デジタル遺産に関するトラブルが増えています。不動産や預金などといった一般的な遺産よりも情報が少なく、問題や対策について詳しく知りたいと思っている方が多いのではないでしょうか。
この記事では、デジタル遺産とは何か、問題や対策についても解説いたします。
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
デジタル遺産とは
デジタル遺産とは、パソコンやスマートフォンにデジタル形式で保存されている財産のことです。オンライン及びオフラインのあらゆる財産がデジタル遺産になります。明確な定義はありませんが、財産扱いになるものは幅広いため、知らずに放置しておくとトラブルに発展することがありますので注意してください。
具体的には、次のようなものがあります。
ネットバンク預金
ネットバンク預金とは、ネット銀行の口座に入っている預金のことです。ネットバンクとは、従来の銀行のように実店舗を持たず、手続きをネット上だけで完結できる銀行です。銀行窓口やATMに行かずに、パソコンやスマートフォンで振込や残高照会などができるため便利です。
しかし、通帳が存在しないため、本人以外が存在を把握するのが難しいというデメリットもあります。手数料が安いという理由でネットバンクを利用する人が増えているため、相続の際も把握漏れがないように注意してください。
仮想通貨
仮想通貨とは、電子データのみでやりとりが行われる通貨のことです。従来の通貨のような法的効力がなく、インターネット上の取引で用いられます。ビットコインという仮想通貨が登場してから、アルトコインという新しい仮想通貨も誕生しました。元々はインターネット上のみで使えるものでしたが、仮想通貨取引所ができてから、仮想通貨と法定通貨を交換することができるようになり、一気に利用者が増えました。
仮想通貨は通常の法定通貨とは異なり、管理するための国家や中央銀行のような組織がありません。”ピア・トゥー・ピア”という方式が採用されており、利用者同士で取引の情報が管理されます。発行数に上限があるものが多く、流通量に対する需要と供給によって価格が変動する仕組みになっています。近年、ビットコインは価格高騰しており、急速に利用者が増えているため、被相続人も利用している可能性が高いです。
FX
FXとは、Foreign Exchangeの略で、外国為替という意味です。日本円を外国通貨に換える取引を外国為替取引と呼び、通貨の価格変動を見ながら取引する投資をFXといいます。FXは少額の資金でスタートでき、少ない資金で多額の投資資金を動かすことができます。
仕組みは海外旅行時の外貨両替と同じで、為替レートが良いタイミングで交換すれば利益を得ることができるというものです。パソコンやスマートフォンを使ってインターネット上で取引を行うため、存在を見落としやすいです。少額の資金で始めることができ、取引方法も簡単に調べることができるようになったため、利用者が増えています。把握漏れがないように注意してください。
スマホ決済アプリ残高
スマホ決済アプリの残高もデジタル遺産の一つです。スマホ決済はキャッシュレス決済の一つで、スマートフォンのアプリにお金をチャージしておけば、どこでも買い物ができるというものです。財布に現金を入れて持ち歩く必要がなく、経済産業省がキャッシュレス決済によるポイント還元を推し進めていることで、急速にユーザーが増えています。テレビCMで頻繁に宣伝されていることもあり、若者に限らず幅広い年齢層の方が利用し始めています。
決済方法としては、非接触IC決済やQRコード決済などがあり、支払いのタイミングも自分で選ぶことができます。前払いで決済したい場合は、事前にスマホ決済アプリにお金をチャージします。チャージした分だけの利用になるため、使い過ぎる心配がありません。
即時支払いしたい場合は、レジでの決済時に銀行口座の残高から直接利用額を引き落とすリアルタイムペイメントを利用します。銀行残高以上の金額を利用することはできません。後払いしたい場合は、事前に登録済みのクレジットカードで支払いを行うポストペイを利用します。クレジットカードの支払い時のように、暗証番号やサインをする必要がないため便利です。
スマホ決済アプリは便利で利用者が増えているため、注意しましょう。
サブスクリプションサービス
サブスクリプションサービスとは、毎月定額料金を支払うことで利用できるサービスのことです。具体的には、Netflixのような動画配信サービスやSpotifyのような音楽配信サービスなどがあります。
こういったサブスクリプションサービスは、クレジットカードや銀行口座から直接自動で引き落とす設定になっている場合が多く、気付かないまま支払いを続けてしまうケースがあります。誰もが当たり前のように利用していますので、注意しましょう。
ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングとは、事業者がインターネット上でファンドの募集を行い、投資家から出資を募って、集めた出資金を貸し付ける仕組みのことです。個人のお金を企業などに貸付け、企業から支払われた利息から個人がリターンとして分配金を得るというもので、近年利用者が増えています。
背景には老後2000万円問題などがあり、資産形成を試みる個人が多くなっています。被相続人がソーシャルレンディングを行っていないか、しっかりと確認してください。
SNSアカウント
SNSアカウントもデジタル遺産の一つです。以前はSNSは若者向けのものでしたが、最近は高齢者の利用率も高くなっています。特にフォロワー数が多いアカウントは価値が高く、個人情報も大量に残っている可能性が高いため、注意が必要です。
さらに、SNSの代表格ともいえるTwitterでは、投げ銭ができる機能が実装されています。実は被相続人がインターネット上では有名人で、多額の投げ銭を貰っていたというケースも考えられます。SNSアカウントもデジタル遺産であるということを覚えておいてください。
オンラインゲームのポイント
オンラインゲームのポイントもデジタル遺産の一つです。ポイントだけでなく、スマートフォンのゲーム内でしか利用できないコインなども含まれます。課金をすることで有利に進められるゲームが多く、課金している人の割合も増えています。
被相続人がどんなゲームをやっているのかをしっかりと把握しておきましょう。
起こりうる問題
このように、デジタル遺産には様々な種類がありますが、問題が起こることがあります。起こりうる問題について、確認していきます。
遺産を把握できない
そもそも遺産を把握できないという問題があります。デジタル遺産は他の遺産と比べ、存在に気付きにくいものです。本人しか把握していない場合が多く、運用金額が少額であるという理由で、本人も存在を覚えていない場合もあります。
テクノロジーの進化によって、誰でも気軽にインターネット上で資産運用ができるようになりましたが、その気軽さが問題の原因になってしまっています。
有料サービスの放置
動画サイトや音楽配信サイトの有料サービスの契約を放置してしまい、契約解除をしないまま費用を支払い続けてしまう問題があります。
プラスのデジタル遺産だけでなく、マイナスのデジタル遺産もあるのです。中には高額な有料サービスもありますので、放置していると想定外の損失が生じる可能性があります。日頃からどういった有料サービスを利用しているのか確認しておきましょう。
遺産分割協議のやり直し
相続財産について話し合い、遺産分割協議が完了した後にデジタル遺産が見つかった場合、全てやり直しになります。
少額ならまだしも、仮想通貨やネットバンク預金などに多額の財産が残っていた場合、見過ごすわけにはいきません。ただでさえ遺産分割協議では問題が起きやすく、デジタル遺産の抜け漏れでさらにトラブルに発展してしまう可能性があります。遺産分割協議の際には、デジタル遺産の存在について言及するようにしましょう。
セキュリティ情報が分からない
IDやパスワードなどのセキュリティ情報が分からないという問題があります。デジタル遺産の存在を把握していても、管理アカウントにログインできなければ何もできません。
インターネット上のみで扱っている資産は、インターネット上でしか手続きを行うことができないため、セキュリティ情報がなければ相続することは不可能です。
相続税の増加
デジタル遺産も相続遺産の一つですので、存在が発覚したら自ずと相続税も増加します。相続税が増加するだけでなく、デジタル遺産の把握漏れによって申告がやり直しになった場合、延滞税や過少申告加算税などの税金を追加で支払わなければならないケースがあります。
相続税やその他の税金が増加するというトラブルを回避するためにも、入念にデジタル遺産の存在を確認してください。
SNSアカウントの乗っ取り
長期間放置されているSNSアカウントは、乗っ取られるリスクが高いです。アクティブなアカウントであれば、定期的にパスワードを変更するなどセキュリティ対策を実施することができますが、放置すればするほど乗っ取られる可能性が高まります。最近は匿名で利用できるSNSが多いため、被相続人のものだとは気付かず、後でトラブルが起きた際に発覚するというケースがあります。
アカウントが乗っ取られて、詐欺などに使用され被害者が出た場合、思わぬところで加害者の疑いをかけられてしまいます。SNSは匿名で利用できても個人情報の入力が必須ですので、すぐにアカウントの持ち主が特定されます。そういったトラブルに巻き込まれないように、被相続人のSNSアカウントは直ちに削除するようにしましょう。
相続で問題にならないようにすべき対策
こういった問題が起きないようにすべき対策があります。一つずつ確認していきましょう。
セキュリティ情報を紙に書く
まず考えられる対策は、IDやパスワードなどといったセキュリティ情報を紙に書いておくというものです。パソコンやスマートフォンに情報を残していても、媒体が壊れたり失くしてしまったりした場合、情報を紛失してしまいます。紙に書くというアナログな方法を使えば、火事などで燃えない限り安全です。
デジタルの情報ほどアナログな方法で管理しておいた方が良いかもしれません。
遺言書に記載する
デジタル遺産について、遺言書に記載しておくというのも対策の一つです。利用しているサービスやデータなどを洗い出し、一つずつ丁寧に記録していきます。どういった遺産がどれくらいあるかを書いておけば、親族は楽に相続手続きを進めることができます。
エンディングノートを作成する
エンディングノートを作成するのも有効な対策の一つです。エンディングノートとは、人生の終末について書いたノートのことです。遺言書には法的効力がありますが、エンディングノートにはありません。そのため、自分の希望を伝えつつ、判断は親族に任せることになります。
あくまで自分の希望を書くだけですので、親族同士の話し合いで相続のやり方を決めることが可でき、トラブルの回避に繋がります。
デジタル遺産を現預金などに替えておく
デジタル遺産は管理が難しいため、生前に全て現預金などに替えておくというのも有効な対策です。
デジタル遺産に関する法整備は十分ではないため、問題が生じた際の判断が分かれるケースが多くなっています。トラブルを複雑にしないためにも、現預金などに替えておくのがおすすめです。
資産一覧を作成する
デジタル遺産を含めた全ての遺産をリスト化し、一覧を作成するというのも有効な対策の一つです。何年も使っておらず放置しているネットバンク口座などでも、入念に確認しておきましょう。少額でも残っていれば相続の対象になります。記憶を辿りながら、一つずつ丁寧に確認し、資産一覧を作成しましょう。その一覧を参考にすれば、親族はスムーズに相続の手続きを進めることができるはずです。
後から見つかる場合を想定しておく
後から見つかる場合を想定しておくのも有効な対策の一つです。遺産分割協議書を作成する際に、もし後から新たな遺産が見つかった場合の対応を細かく決めておきましょう。
どういった種類の遺産がどれくらい見つかったら誰にどの程度配分するかということを先に決めておけば、トラブルに発展しにくくなります。
生前に話し合いを行う
生前に話し合いを行うのも有効な対策の一つです。亡くなった場合を想定して話をするのは難しいかもしれませんが、トラブルを避けるためには大切です。相続人と被相続人で話し合いの時間をしっかりと設けて、どういったデジタル遺産があるかを確認し合うべきです。
こういったコミュニケーションをしておくことで、問題を防ぐだけでなく、お互いを大事に思っているということを改めて認識することができます。
まとめ
いかがでしたか。本日は、デジタル遺産について、相続で問題にならないようにすべき対策を解説致しました。
この記事を参考に、デジタル遺産の相続に関する準備を進めていただければ幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続税のお悩み一緒に解決しましょう
お気軽にご相談ください!