亡くなった人の介護や事業の手伝いに長年尽力していた人にとって、故人を支えてきた日々は相当な苦労があったでしょう。献身的にサポートを続けてきた方にとっては、他の相続人と平等に遺産を分けるのは不公平に感じる場合もあります。実は、故人の介護などに貢献したことが認められた場合、他の相続人よりも財産を多く相続できる寄与分という制度があります。
ただ、寄与分が認められるのは非常にハードルが高く、しっかりとした事前準備が必要になるのが実情です。そこで今回は、寄与分についてわかりやすく解説していきます。
寄与分が認められる要件や計算方法、認めてもらう方法についてもまとめています。親御さんの介護や事業の手伝いをしてきた方、これからする予定がある方はぜひ参考にしてください。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
寄与分とは?
寄与分とは相続人が被相続人の介護や事業の手伝いで財産の維持や増加に貢献した場合に、法定相続分より多くの財産をもらえる制度です。
具体的には、以下のような行動が考えられます。
- 亡くなった方の事業の手伝いをしたり、財産を増やした
- 亡くなった人の介護などで、財産の維持や増加させた
あなたが長年故人の介護や事業の手伝いをしていた場合には、寄与分が認められ相続財産が増える可能性があります。
認められる要件
寄与分が認められるには、下記のようないくつかの要件があります。
- 【特別性】特別の寄与であること
- 【無償性】対価を得ていない(無償で行っていた)こと
- 【継続性】一定の期間、継続して寄与行為が行われていたこと
- 【専従性】片手間ではなく、寄与行為に専念していた
- 【因果関係】寄与行為と被相続人の財産の維持・増加に因果関係があること
- 貢献していたのが、相続人であること(相続人以外には、特別寄与分がある)
- 上記までの主張を裏付ける資料を提出できること
寄与分を認めてもらうためには、上記の要件をすべて満たさなければなりません。
特に【 】内の5つの要件は、実際に行っていた寄与行為により詳細な基準があります。要件を揃える厳しさや他の相続人との折り合いがつかないことなどから、寄与分を認めてもらうのは難しい場合が多いです。しかし、行った寄与行為で基準をしっかり満たせれば、寄与分が認められる可能性も期待できます。
5つの寄与行為
寄与行為として認められるのは、以下の5つがあります。
- 家業従事型
- 金銭等出資型
- 療養看護型
- 扶養型
- 財産管理型
介護をした場合や金銭的に面倒を見た場合など、いくつかのパターンが寄与行為として認められます。それぞれの行為に当てはまる内容や具体例は、以下の通りです。
寄与行為 | 行為の内容、例 |
---|---|
家業従事型 | 被相続人の家業を手伝っていた
例:被相続人の経営している店を相続人が10年無休で手伝っていた |
金銭等出資型 | 被相続人に対してお金を出してあげた
例:被相続人の家のリフォーム代やローン返済に資金を出してあげた |
療養看護型 | 被相続人の療養介護をしていた
例:入院や施設への入所が必要な被相続人を、相続人が他の仕事をせず数年間に渡り介護していた。相続人の介護により、本来看護師などに支払う報酬の出費を抑えることができた。 |
扶養型 | 被相続人を扶養し、生活の面倒を見てあげた
例:身体が不自由で働けなかった被相続人の生活費にかかる多くの部分を負担していた |
財産管理型 | 被相続人の財産を管理することで、財産の維持や増加に貢献した
例:被相続人が所有する不動産を代理で売却し、交渉や買い手探しなどに尽力した。 |
特別な貢献であるかや報酬の有無、財産維持への因果関係などは、5つの寄与行為ごとに求められる要件が異なります。5つの寄与行為について、先に説明した寄与分が認められる要件とあわせて詳しく見ていきましょう。
家業従事型
家業従事型は、被相続人の家業(農業や商工業など)に従事した場合に認められます。寄与分が認められるか否かのポイントは以下の通りです。
※ 下表の「重要視」欄は、それぞれのパターンで重要視されるポイントで、◎が最重要視、〇が重要視されることを表しています。
ポイント | 認められる要件 | 重要視 |
---|---|---|
【特別性】 |
| |
【無償性】 |
| 〇 |
【継続性】 |
| 〇 |
【専従性】 |
| 〇 |
【因果関係】 |
| 〇 |
家業従事型の寄与行為の判定では、無償性・継続性・専従性・因果関係が重要視されます。労務に従事していても一般的に妥当と考えられる報酬をもらっていたり、片手間で行える程度の手伝いをしていただけでは認められません。また、相続人の労務により財産を維持・増加させることができたと認められることも重要です。
金銭等出資型
金銭等出資型が認められるのは、被相続人に金銭や不動産など財産上の利益を提供した場合です。寄与分が認められる要件とポイントは、以下のようになります。
ポイント | 認められる要件 | 重要視 |
---|---|---|
【特別性】 |
| 〇 |
【無償性】 |
| 〇 |
【継続性】 | - | |
【専従性】 | - | |
【因果関係】 |
| 〇 |
金銭等出資型の寄与行為の判定では、特別性・無償性・因果関係が重要です。相続人が金銭や財産を提供したことで、被相続人が財産を維持・増加できた結果が必要になります。また、あくまでも被相続人個人に対して財産を提供することもポイントです。
被相続人が所有する会社に金銭出資をしても利益を得るのは会社であるため、被相続人への貢献にはなりません。したがって、被相続人所有の会社に出資しても寄与分は認められないため注意してください。
療養看護(介護)型
療養看護(介護)型は、相続人が被相続人の療養や介護に従事した場合に認められます。寄与分が認められるポイントや要件は、以下の通りです。
寄与分のポイント | 認められる要件 | 重要視 |
---|---|---|
【特別性】 |
| ◎ |
【無償性】 |
| 〇 |
【継続性】 |
| 〇 |
【専従性】 |
| 〇 |
【因果関係】 |
|
療養看護(介護)型では無償性・継続性・専従性が重要ですが、特に特別性が重要視されます。また、被相続人が療養や介護を必要とする状態だったかも重要です。その上で、医療機関や介護施設に頼らず相続人が被相続人の世話をしていたことが必要になります。
一時的に入院や施設に入所していた場合には、その期間の寄与分は認められないので注意してください。週に数回様子を見に行く程度は親族の協力の範囲とされ、特別の寄与には当たりません。
被相続人の療養介護に専念し、相当の負担を要していた事実が必要です。
扶養型
扶養型は、相続人が被相続人を扶養し、被相続人の出費を抑えて財産が維持された場合に認められます。寄与分が認められるポイントや重要視される点は以下の通りです。
寄与分のポイント | 認められる要件 | 重要視 |
---|---|---|
【特別性】 |
| ◎ |
【無償性】 |
| 〇 |
【継続性】 |
| 〇 |
【専従性】 | - | |
【因果関係】 |
|
扶養型の寄与行為の判定で最も重要視されるのは特別性、次いで無償性・継続性です。特に同居の場合は互いに扶養の義務を負うため、分担で家事をしていても特別な寄与とは言えず、寄与分は認められません。
また、相続人が被相続人名義の家にタダで生活していた場合は、寄与分が認められても家賃相当額が減額されることがあります。
財産管理型
財産管理型が認められるのは、被相続人の財産を管理し財産形成に寄与した場合です。寄与分が認められるか否かの要件や重要視されるポイントは以下になります。
寄与分のポイント | 認められる要件 | 重要視 |
---|---|---|
【特別性】 |
| 〇 |
【無償性】 |
| 〇 |
【継続性】 |
| |
【専従性】 | - | |
【因果関係】 | 相続人の行為により、被相続人の財産を維持・増加させることができたか? | 〇 |
財産管理型の寄与行為の判定では、特別性・無償性・因果関係が重要です。また、寄与相続人による財産管理が必要だったことも重要になります。
寄与分の計算方法
寄与分の金額は原則、相続人同士の話し合いで決定されます。また寄与分の額には定められた基準はないため、金額を決める事でも争族の火種になる可能性もあります。
寄与分の計算方法は具体的には定められていないものの、寄与行為の種類に応じて以下のように計算されることが多いです。
寄与行為 | 具体的な計算方法の例 |
---|---|
家事従事型 | 寄与相続人が本来受け取るべき年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数 |
金銭等出資型 | 贈与した金額×貨幣価値変動率×裁量的割合 |
療養看護型 | 看護師・介護士の日当額×療養看護日数×裁量的割合 |
扶養型 | 負担した扶養料×期間×(1-寄与相続人の法定相続分) |
財産管理型 | 管理・売却を第三者に委任した場合の報酬額×裁量的割合 |
個別の事案に応じて判断する割合のこと。寄与相続人と被相続人の関係性や寄与行為の種類・経緯などの事情を考慮し、寄与分の範囲を検討する。
金銭等支出型は9割程度、療養看護型では5~8割(平均して0.7)が一般的。
寄与相続人が相続人から生活費を受け取っていた場合など、生活費負担が軽減されていた場合に控除される割合
上記はあくまでも目安であり計算方法の通りに寄与分が決まるわけではありません。寄与行為の内容や度合い、期間などさまざまな事情が加味されて決定されるのです。
算出方法
では、療養看護型と家事従事型の寄与行為について具体的な算出方法を見ていきましょう。
被相続人の要介護度 | 要介護3(介護報酬基準額5,840円) |
介護期間 | 4年 |
裁量的割合 | 0.7 |
上記のケースで療養介護型の寄与分の算式に当てはめると以下のようになります。
介護士の日当額5,840円×療養看護日数1,460日(365日×4年)×裁量的割合0.7=596万8480円
寄与分 | 596万8480円 |
寄与相続人が本来受け取るべき年間給与額 | 230万円 |
従事期間 | 3年 |
生活控除割合 | 30% |
上記のケースを家事従事型の寄与分の計算式に当てはめます。
寄与相続人の年間給与額 230万×(1- 生活費控除割合 30%)× 寄与年数 3年=483万円
寄与分 | 483万円 |
寄与行為は度合いや期間に基づいて計算されますが、すべてケースバイケースです。具体的な寄与分の計算は非常に難解なので、税理士や弁護士に相談しましょう。
相続分の計算方法
寄与分が算出された場合、寄与分がそのまま寄与相続人の財産にプラスされると考える人もいるでしょう。しかし、実際は寄与分を相続財産から差し引き、残った相続財産を相続人全員で分割します。
寄与相続人とそれ以外の相続人の相続税の計算方法はそれぞれ、以下の通りです。
【寄与相続人の相続分】 | (遺産総額 - 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分 |
---|---|
【その他の相続人の相続分】 | (遺産総額 - 寄与分)× 法定相続分 |
つまり、本来の法定相続分の財産にプラスして寄与分がもらえるわけではなく、遺産から寄与分を先取りし、残りを法定相続分で分けることになります。相続発生後に被相続人の遺産が増えることはないので、法定相続分の財産に単純に足されるわけではないのは当然ではありますね。
しかし、この部分が腑に落ちていないと、寄与分の金額に過剰に期待してしまいます。寄与分は被相続人の限られた財産の中から分けるため、予想よりも少額になることは少なくないのです。
寄与分が認められにくい理由
寄与分は認めてもらうのが難しく、その理由には以下の点が挙げられます。
- 要件を満たすのが困難
- 証拠が必要
- 争続の火種になることも
寄与分には厳しい要件のクリアや寄与行為が事実と認められる証拠が必要です。また争族の火種になってしまうケースもあるため、寄与分を主張する際には他の相続人への配慮も大切にしてください。
要件を満たすのが困難
寄与分が認められにくい理由のひとつに、要件を満たすのが困難という点があります。なかでも「特別の寄与」の法律的な要件は厳しく、「特別」であることが認められない場合が多いです。
法律上、同居家族が被相続人の世話や面倒を見るのは当然であるとされています。そのため、食事をずっと作っていたことや身の回りの世話をしていただけでは「特別」と認められないでしょう。
施設への入所が必要なレベルの介護を寄与相続人がすべて行っていた場合など、通常はできない働きをした場合にのみ認められます。この他務めていた会社を辞めて無給で被相続人の事業をサポートし、事業の維持に貢献した場合なども認められやすいでしょう。
証拠が必要
寄与分を認めてもらうには、寄与を行った証拠と根拠も必要です。寄与行為の証拠はさまざま考えられますが、以下のようなものが挙げられます。
【療養看護型】 |
|
---|---|
【家事従事型】 |
|
他の相続人や裁判所に寄与分を認めてもらうためにも、証拠になるものはしっかりと保管しておくよう心がけましょう。
争続の火種になることも
寄与分が認められにくい理由には、すべての相続人の同意を得にくいことも挙げられます。
たとえ一人でも同意しない相続人がいた場合、残念ながら寄与分は認められません。寄与分を認めてしまえば他の相続人が取得できる遺産は減るため、こころよく思われないことも多いでしょう。
最初は寄与相続人の働きに感謝し寄与分に好意的だった相続人も、時間の経過とともに心変わりし反対するケースもあります。寄与相続人は他の相続人よりも亡くなった方と近い関係にあることが多く、そのことで思わぬ誤解や対立を生むことも想定できます。
寄与分の主張により、相続人間に溝ができ争族の火種になってしまう可能性があることも理解しておきましょう。
寄与分を認めてもらう方法
具体的に寄与分を認めてもらう方法には、次の3つの方法があります。
- 遺産分割協議で主張
- 弁護士に依頼する
- 調停を起こす
まず相続人全員で話し合う遺産分割協議で主張し、うまくいかなければ弁護士や家庭裁判所を利用します。それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議で主張
まず一番最初に寄与分を主張するタイミングが遺産分割協議です。遺産分割協議では相続人全員でどのように遺産を分けるかを話し合います。「もっと遺産がほしい!」と思っているわけではなく、被相続人の生前にあった苦労や尽力を認めてもらいたいことを伝えましょう。
そのためには、事前の準備をしっかり行うことが重要です。寄与分について他の相続人に丁寧に説明し、自分が寄与分をもらえる程度の働きをしたことを主張してください。
弁護士に依頼する
遺産分割協議で解決できず寄与分を認めてもらえなかった場合、弁護士に依頼することも可能です。弁護士に依頼することで、寄与相続人の良い方向にサポートをしてくれます。
また素人の寄与相続人の説明や交渉よりも説得力があり、その他の解決策などの提案も期待できます。ただし、弁護士に依頼した場合には一定の費用が必要です。
報酬額は遺産額や依頼する事務所により異なるため、正式な依頼前にしっかり確認してください。
調停を起こす
遺産分割協議がまとまらず弁護士にも依頼しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。申し立てるのは「寄与分を定める処分調停」もしくは「遺産分割調停」です。
【寄与分を定める処分調停】 | 寄与分に関する事項についてのみ話し合う調停手続き |
---|---|
【遺産分割調停】 | 中立公正な調停委員会が調整し、相続人全員が合意できる具体的な解決策を目指す手続き |
遺産分割調停では相続人同士の話し合いはなく、それぞれの相続人が調停委員に意見を述べます。調停委員が寄与分にあたると考えれば、納得していない相続人に対して調停委員が説得してくれます。
特別寄与料とは
特別寄与料とは、相続人以外の親族が特別の寄与をした場合に相続人に対して請求できる寄与に応じた金銭です。本来、寄与分は相続人にのみ認められていましたが、2019年以降の相続では相続人への特別寄与料の請求権が認められるようになりました。
特別寄与料のポイントは、以下の通りです。
- 主張できる親族は「被相続人の6親等内の血族もしくは3親等内の姻族」
- 通常の寄与分の要件と同様に、無償で特別の寄与をした
- 特別寄与料の金額は原則として当事者間の協議で決められる
- 特別寄与料で遺産を取得したら、相続税額が2割加算される
特別寄与料を主張できる親族は相続人の妻や甥っ子、はとこまでが含まれます。通常の寄与分と同じく無償で、被相続人の財産の維持や増加させた特別な寄与を行ったことが要件です。
特別寄与料の金額は原則当事者間の協議により決められ、話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所に協議に変わる処分の請求ができます。特別寄与料が認められた場合は相続人以外が財産を取得するため、相続税額は2割加算される点にも注意が必要です。
請求期限に注意
特別寄与料は請求期限に注意が必要です。
- 特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った日から6カ月を経過するまで
- 相続開始から1年を経過するまで
相続もしくは相続人を知った日から半年、相続を知らなくても1年を経過した場合は請求ができなくなります。遺産分割協議がまとまるのを待っていたら請求期限に間に合わなかった!ということもあるため、注意してください。
まとめ
今回は寄与分についてお伝えしました。寄与分は長年の介護や事業への尽力が相続時に認められる限られた機会です。
一方で、特別の寄与が認められるのは難しく、他の相続人の理解を求めたり、証拠を集めておく必要もあります。相続人同士の遺産分割協議で話し合いますが、必要に応じて家庭裁判所や弁護士にお願いする場合もあるでしょう。
寄与分の算出方法は複雑なので、主張する場合には事前に専門家へ相談がおすすめです。日々の介護や事業に尽力してきた人、尽力している人はぜひ、寄与分の請求を検討してみてくださいね。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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