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生前贈与の非課税枠は110万円以内!枠を有効利用するために知っておきたいポイント

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税理士桐澤
税理士桐澤

配偶者や子ども、孫などに現金や有価証券などの財産を生前贈与すると、原則として贈与税が課税されます。ただし、贈与税には110万円の基礎控除額があるため、贈与により受け取った財産の価額が基礎控除額内であれば一般的には贈与税は非課税となります(贈与税が課税されません)。

この記事では、贈与税の計算の仕組み、贈与税額の計算の注意点、及び毎年基礎控除額ギリギリの贈与を繰り返す場合の注意点などについて解説します。

贈与税は年110万円まで非課税

一万円の札束

贈与税とは

贈与税は個人からの贈与によって財産を取得した場合にその取得した財産に課税される税金で、贈与によって財産を取得した人が贈与税を納める義務を負います(相続税法1条の4)。

この根拠法令からも分かるように、贈与税は相続税法に規定されている税目です(「贈与税法」という法律は存在しません)。これは、贈与税が相続税では課税できないところを補完しているためです。

相続税は、「相続または遺贈」という「人の死」を契機に財産を取得した人を納税義務者とするため、「人の死」よりも前、つまり生前に財産を贈与をされてしまうと課税することができません。それだと相続税の規定が骨抜きにされてしまうので、「財産を贈与」により取得した場合は贈与税を課すことで、無償で財産を取得した人に対して公平な税負担を求めています。

贈与税の計算の仕組み

贈与税には、原則課税(暦年課税)と特例による課税(相続時精算課税)の二種類があります。それぞれの制度の概要と税額計算の仕組みについて、以下で解説します。

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原則課税(暦年課税)

原則的な贈与税額の計算は、次のステップで行います。

  1. その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。
  2. ①の合計額から基礎控除額である110万円を差し引きます。この基礎控除額は、その人の属性(年齢、性別、障害の有無)にかかわらず一律110万円です。
  3. ②に贈与税の税率を乗じて税額を計算します。原則課税(暦年課税)の場合の税率は、基礎控除後の課税価格によって異なります(10%から55%までの8段階です)。

②の基礎控除額が110万円であるため、「贈与税は年110万円まで非課税」と言われます

贈与税は、「財産を贈与した人」ではなく「財産をもらった人」をベースに考えますから、ある年に5人からそれぞれ100万円をもらった場合と、1人から100万円をもらった場合とで、贈与税額の計算における基礎控除額は変わりません。なお、上記の計算の仕組みからも分かるように、贈与により取得した財産が110万円を超えると一気に贈与税額が生じるというわけではありません。

たとえば、贈与により取得した財産が111万円の場合は、基礎控除後の課税価格は1万円です。基礎控除後の課税価格が200万円までの場合の贈与税率は10%ですから、この場合の贈与税額は1,000円となります。もっとも、納付すべき贈与税額が100円でもあれば贈与税の申告が必要である点は注意が必要です。

相続時精算課税

相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に贈与税の申告書を提出する必要があります。

この特例の適用を受けた贈与者から贈与を受ける財産については、2,500万円の特別控除額がありますが、この場合は原則課税(暦年課税)の基礎控除額110万円を控除することはできなくなりますので、注意が必要です。

なお、この特例の適用を受けていない贈与者から贈与を受ける財産については基礎控除額の110万円を控除することが可能です。要するに、特別控除の適用を受ける場合は基礎控除の適用を受けることができず、特別控除の適用を受けない場合は基礎控除の適用を受けることができるということです(二者択一です)。

また、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産についてはその選択をした年分以降全てこの制度が適用され、原則課税(暦年課税)へ変更することはできない点も合わせて注意が必要です。相続時精算課税を選択した場合の贈与税額の計算は、次のステップで行います。

  1. 相続時精算課税に係る贈与者から、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。
  2. ①から、2,500万円-去年以前で使った特別控除額を引きます。引いた結果がマイナスの場合は0とします。②が0の場合はその年の贈与税額は0円です。
  3. ②が0でない場合は、②の金額に20%の税率を乗じて贈与税額を計算します。相続時精算課税を適用する場合の税率は、原則課税(暦年課税)と異なり、課税価格の額に左右されません(一律20%です)。
税金と書かれた積み木の画像

贈与税額の計算にあたっての注意点(原則課税)

原則課税における贈与税額の計算にあたっての注意点は次の二点です。

  1. 複数人から贈与を受けた場合
  2. 現金以外の資産の贈与を受けた場合

① 複数人から贈与を受けた場合

上述したとおり、贈与税の基礎控除額は財産を「もらった人」単位で考えますから、同じ年に複数人から贈与を受けた場合はその贈与を受けた財産の額を合計する必要があります。

たとえば、Aさんから100万円、Bさんから90万円の贈与を受けた場合は、二人から贈与を受けた財産の合計額は190万円ですから、基礎控除額110万円を引いた残額に対して贈与税が課税されます。特に、1年の間に多くの人から贈与を受ける人は、たとえ一人当たりの金額が少額であっても積もり積もって基礎控除額である110万円をうっかり超えてしまう可能性もあるので注意が必要です。

② 現金以外の資産の贈与を受けた場合

贈与を受けた財産は、その贈与を受けた時点の時価で評価されます。現金の場合は現金の額面で評価(つまり現金100万円は100万円として評価)しますが、現金以外の財産の場合は額面や贈与者が取得した価額とは異なる評価となることに注意が必要です。

たとえば、甲さんが、祖父である乙さんからA株式会社(東京証券取引所に上場している企業)の株式1,000株の贈与を受けた場合を考えてみます。

乙さんが50年前にA社株式を取得したときは1株1,000円の価値だったため、乙さんのA社株式1,000株の取得価額は100万円でした。乙さんは、甲さんに贈与税の負担が生じるのを避けたいと思っていたところ、100万円分の贈与であれば基礎控除額内であるため、甲さんに贈与税の負担は生じないと考えていました。

ところで、贈与財産が上場株式(金融商品取引所に上場されている株式)である場合の評価方法は、財産評価基本通達169において定められています。財産評価基本通達169の内容は次のとおりです。

上場株式の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。

(昭47直資3-16・平2直評12外・平15課評2-15外・平20課評2-5外改正)

  1. (2)に該当しない上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所(国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式については、納税義務者が選択した金融商品取引所とする。(2)において同じ。)の公表する課税時期の最終価格によって評価する。ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。
  2. 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価する。

つまり、単純な贈与によって贈与された上場株式の贈与財産評価額は、課税時期(上場株式が贈与された日)の最終価格(いわゆる終値)で評価するのが原則です。

ただし、その課税時期の最終価格が、課税時期の月の毎日の最終価格の平均額、課税時期の前月の毎日の最終価格の平均額、及び課税時期の前々月の毎日の最終価格の平均額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額により評価します。

たとえば、上記それぞれのA社株式の最終価格が次のとおりだったとします。

  • 贈与があった日(2021年3月26日)の最終価格:6,000円
  • 贈与があった日の月(2021年3月)の毎日の最終価格の平均額:5,000円
  • 贈与があった日の前月(2021年2月)の毎日の最終価格の平均額:7,000円
  • 贈与があった日の前々月(2021年1月)の毎日の最終価格の平均額:7,500円

財産評価基本通達の順序とは逆ですが、まずは「課税時期の月の毎日の最終価格の平均額、課税時期の前月の毎日の最終価格の平均額、及び課税時期の前々月の毎日の最終価格の平均額のうち最も低い価額」を見つけると判定がスムーズです。上記の例だと、5,000円がその価額となります。

次に、その価額と「課税時期の最終価格」を比較します。「課税時期の最終価格」は6,000円ですので、5,000円の方が低いことが分かります。

以上から、A社株式の財産評価額は1株あたり5,000円であることが分かりました。甲さんは1株あたり5,000円の株式を1,000株贈与されていますから、500万円の財産を贈与により取得したことになります。

このケースでは、祖父である乙さんの考えは誤りであり、相続時精算課税制度の適用を受けない限り、甲さんに贈与税の納税義務が生じてしまうという結果となりました。現金以外の財産の贈与を受ける場合は、こういったことにならないよう、贈与を受ける財産の評価方法を贈与前に理解することが重要です。

なお、課税時期の月の毎日の最終価格の平均額、課税時期の前月の毎日の最終価格の平均額、及び課税時期の前々月の毎日の最終価格の平均額のうち最も低い価額は、証券会社から送付される残高証明書に掲載されている他、日本取引所グループのホームページで確認することができます。

毎年110万円の贈与を受ける場合の注意点

一万円と封筒

「定期贈与」の注意点

ここまで説明してきたとおり、贈与税の基礎控除額は1年あたり110万円です。

この基礎控除額は「使わなかったら翌年に繰り越せる」といった性質のものではないので、同じ金額を贈与するのであれば毎年コツコツ贈与して、1年間で贈与を受ける財産の合計額を110万円以下に抑えた方がベターです。

たとえば1年で300万円の贈与を受けるのと1年100万円ずつの贈与を3年間(計300万円)受ける場合とでは、次のとおりの差があります。

 贈与税額贈与税の申告義務
1年で300万円の贈与を受ける場合19万円あり
1年100万円ずつの贈与を3年間受ける場合0円なし

もっとも、「1年100万円ずつの贈与を3年間受ける場合」の贈与税額が0円となるためには、税務調査においてその贈与が「定期贈与」(贈与総額が決まっていて、毎年定額でその金額が贈与される性質のもの)であると認定されないことが重要です。

たとえば、「丙は、2021年以降3年間に渡って、毎年4月1日に金100万円を丁に贈与するものとし、丁はこれを承諾した」という贈与契約を締結していた場合は、定期贈与であるとの認定を受けるリスクが非常に高いと考えられます。

定期贈与であると認定された場合、贈与契約をした年(この例だと2021年)に、総額の金額(この例だと300万円)を贈与する契約をしたものとされるため、たとえ現金の受け渡しが毎年100万円であったとしても贈与税が課税されることになります。この点、国税庁のホームページでは、次のように説明しています。

質問
親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか?
答え

定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。

ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。

なお、その贈与者からの贈与について相続時精算課税を選択している場合には、贈与税がかかるか否かにかかわらず申告が必要です。

【出典】国税庁ホームページ

確定申告書の画像

定期贈与と認定されないための方策

それでは、税務調査において定期贈与であると認定されないためにはどうしたらよいでしょうか。そのために、次の二点を実施することを推奨します。

  1. 毎年贈与契約書を作成する
  2. 贈与時期及び贈与額を毎年変える

毎年贈与契約書を作成する

まずは、定期贈与であると認定されるような贈与契約書を作成しないことが重要です。

「定期贈与であると認定されるような贈与契約書」とは、たとえば「丙は、2021年以降3年間に渡って、毎年4月1日に金100万円を丁に贈与するものとし、丁はこれを承諾した」といったものです。

もっとも、後々のトラブルを回避するためにも贈与契約書は作成しておくべきなので、面倒でも贈与契約書を毎年作成することを推奨します。贈与契約書が毎年締結されている、つまり契約としては単発の贈与なのであれば、税務調査官がそれを「定期贈与である」として更正処分(課税処分)をするのは非常に困難だと考えられます。

なお、そのような場合であっても、他の証拠(たとえば、贈与契約書に定期贈与であることを匂わせるような文言があるなど)によって定期贈与であると認定される可能性はありますから、贈与契約書の書き方には留意が必要です。

心配であれば、税理士などの専門家に相談してもよいでしょう。

贈与時期及び贈与額を毎年変える

定期贈与であるとの認定を避けるためには1の方法(毎年贈与契約書を作成する)だけでも十分だと考えますが、念には念を入れたい方は、贈与時期及び贈与額を毎年変えることを推奨します。

たとえば、ある年は4月に100万円、次の年は7月と10月にそれぞれ40万円ずつといった贈与方法であれば、外形的(贈与契約書)にも実質的(贈与時期及び贈与額)にも定期贈与と考えるのは難しくなります。

その他の方法

上記1及び2以外の方法として、毎年基礎控除額をわずかに上回る金額(たとえば111万円や120万円)を贈与した上で贈与税の申告を行う方法も考えられます。

ただ、わずかながらも贈与税額が生じること、及び贈与税の申告をする手間が生じる(税理士に依頼するのであればその費用も生じる)ため、あまり推奨はできません。

まとめ

以上、贈与税の計算の仕組み、贈与税額の計算の注意点、及び毎年基礎控除額ギリギリの贈与を繰り返す場合の注意点などについて解説しました。

贈与税の基礎控除額をうまく使えば贈与税額を発生させずに贈与を受けることが可能ですが、定期贈与と認定されないために、適切な贈与契約書を作成することを推奨します。

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響き税理士法人のスタッフ

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税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。