
親子・夫婦間など、家族にお金を貸すことはよくありますが、もしもその金額が大きい場合に「金銭消費貸借契約書」は必要でしょうか。
結論から言うと、家族間であっても大きな金額を貸し借りする場合には、金銭消費貸借契約書は必要です!
家族間で大きな金額を貸し借りする際に、きちんとした契約書がないと「贈与」とみなされ、贈与税が課税されるおそれがあるためです。
そこで、本記事では親子や夫婦間など、家族間におけるお金の貸し借り時に欠かせない「金銭消費貸借契約書」の必要性について解説します。貸し借り時の注意点にも触れますのでぜひご一読ください。
目次
この記事の監修者

税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
金銭消費貸借契約とは?

住宅建築時や進学時など、家族間でお金を貸し借りすることは決して珍しいことではありません。その際に、大きな金額を動かすのであれば「金銭消費貸借契約書」を用意することが大切です。
では金銭消費貸借契約書とはどのような契約書であり、なぜ必要なのでしょうか。この章では、本契約の概要や契約書に記載する内容について解説します。
金銭消費貸借契約の概要
金銭消費貸借契約とは、お金の貸し借りに関する契約内容を記載した書面のことです。消費貸借契約については民法587条に規定されています。
民法587条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
金銭消費貸借契約とは上記の中で、当事者の一方が受け取るものが「金銭」です。金銭を貸し、金銭で返してもらう契約を意味します。
お金などの貸し借りは「口約束」でも成立します。しかし、「借りた・借りていない」などのトラブルを避けるためにも、多くの契約では「書面」を作成します。
契約書に記載する主な内容
金銭消費貸借契約書には、主に貸主と借主との間で決めた借入条件を中心に記載します以下の①~⑦に加えて、親子・夫婦間であっても連帯保証人や抵当権を付けることも可能です。
- 当事者(貸主・借主)に関する情報
住所、氏名、それぞれの署名(もしくは記名)と押印など - 借り入れる金額
- 返済期日・返済回数
- 返済の方法(例・銀行振込、持参する等)
- 利息および利率
- 遅延損害金
- 期限の利益喪失(懈怠約款)
詳しい書面の書き方については、関連記事もご一読ください。リンク先に金銭消費貸借契約書のテンプレートもあります。
家族間の貸し借りで金銭消費貸借契約書がないとどうなる?

口約束でも成立する金銭消費貸借契約ですが、親子・夫婦間でお金を貸し借りする場合にどうして契約書を作る必要があるのでしょうか。
返済が滞らないようにする、契約書があることで安心する、といった理由も挙げられますが、契約書がなければ「贈与」とみなされるおそれがあるからです。
なぜ金銭の貸し借りが贈与とみなされるのか
「転職が軌道に乗ったら返済を開始してね」
「お金に余裕がある時にぼちぼち返してくれたらいいよ」
家族間のお金の貸し借りの場合、上記のようにゆるやかな口約束の下で契約を交わすことが多いでしょう。しかし、書面での契約書がなく、返済期日や方法が曖昧な場合、金銭消費貸借契約を証明できないため税務署が「贈与」と判断するケースが後を絶ちません。
たとえば、親から子へお金を貸す場合「出世払い」にしてしまうと長期間に渡って返済が行われていないため、実質贈与であるとみなされやすくなります。
また、夫婦間でも夫が高齢であり、返済回数が長期間に設定されていると、事実上返済が終わらないため贈与とみなされる可能性が高くなります。
知っておきたい贈与とみなされやすい4つのケース
では、どのようなケースで金銭消費貸借契約とみなされやすいのでしょうか。以下4つで解説します。
- 明らかに返済ができない高額の貸付金額のケース
現在の借主側の収入では明らかに返済できない貸付金額の場合、贈与とみなされやすくなります。 - 契約書がない
高額の貸付があるにもかかわらず、金銭消費貸借契約と証明できる契約書がないと、贈与とみなされやすくなります。 - 無利子のケース
本来金銭消費貸借契約なら、お金を貸す以上は返済の際に「利子」(利息)が発生します。しかし、親子・夫婦間では貸した金額を同じ金額を返済してくれればOKとしてしまうものです。しかし、無利子のケースは贈与と疑われやすくなります。 - 返済方法・期日があいまい
借主から貸主への返済方法が曖昧であったり、返済期日が設定されていないような場合、実質贈与であると税務署がみなす可能性があります。
金銭消費貸借契約と贈与はどちらが有利?

家族間でお金を動かす場合、ここまで読んでいただくと金銭消費貸借契約と贈与のどちらが有利なのか知りたい方も多いでしょう。そこで、この章では2つの方法について違いを説明します。
金銭消費貸借契約が有利なケース
金銭消費貸借契約の場合、契約書作成によって返済回数や期日、利子等を記すことになります。そのため、家族間でも確実にお金を返済してほしい場合は金銭消費貸借契約を交わしましょう。
正しい金銭消費貸借契約を交わした上でお金を借りている家族が亡くなったら、相続財産から債務控除ができます。たとえば、夫からお金を借りていた妻が返済途中で亡くなった場合、妻の相続財産から残債が控除できます。
贈与が有利なケース
贈与は贈与者から受遺者へ財産をあげる行為ですので、財産をもらった受遺者に返済義務は生じません。しかし、贈与時には「贈与税」がかかることもあります。
贈与税には基礎控除があり、暦年贈与で年間110万円以内の贈与であれば課税されません。
また、高額な財産を贈与したい場合は「相続時精算課税制度」を活用することで、最大2,500万円まで贈与税なしで贈与が可能です(ただし、相続時に合算され課税対象となります)。
■暦年贈与における注意点
年間110万円以下であっても毎年同じ日に同じ金額の贈与が続いていると、連年贈与とみなされ、贈与税が課税されるおそれがあります。贈与にも落とし穴はあるため注意が必要です。
親子・夫婦間でお金を動かす前に税理士へ相談するメリット

親子・夫婦間であっても、慎重にお金を動かさなければ贈与とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。そこで、実際にお金を動かす場合には税理士へご相談されることがおすすめです。この章では相談するメリットを2つに分けて解説します。
1.お得な贈与方法がわかる
贈与方法には暦年贈与や相続時精算課税制度以外にも贈与方法があります。たとえば、住宅の購入時に親子間で金銭消費貸借契約をご検討されるケースもあるでしょう。
住宅の新築や増改築のタイミングでは、直系尊属(親や祖父母)から直系卑属(子や孫)へお得に贈与できる制度があります。
本制度は「住宅取得等資金の贈与」と呼ばれるもので、2026年(令和8年)12月31日までに行われた贈与なら、最大で1,000万円まで非課税で贈与できます。また、本制度は暦年贈与や相続時精算課税制度と併用もできます。
税理士にご相談いただくと、親子や夫婦間でお金を借りたい理由をヒアリングすることで、お得に利用できる贈与についてもご説明できます。
住宅取得等資金の贈与については、以下もご一読ください。
2.相続税・贈与税対策のアドバイスもできる
金銭消費貸借契約や贈与を使って親子・夫婦間でお金を動かす場合には、相続税についても知識を得ておくことが大切です。
たとえば、金銭消費貸借契約を避けて相続時精算課税制度を選択する場合、最大2,500万円まで贈与税は非課税となるものの、相続財産には加算されます。そのため、相続税の納付資金は納付資金を用意しておくべきケースがあります。
また、金銭消費貸借契約についても、曖昧な契約方法にしておくと贈与税の課税を免れないおそれがあります。税理士は相続税・贈与税の専門家として、用意すべき書類や金銭を動かす方法をアドバイスできます。
まとめ
本記事では親子・夫婦間などでお金を貸し借りする際に、知っておきたい「金銭消費貸借契約」について詳しく解説しました。
贈与と疑われないようにするためには、家族間であっても大きな金額を貸し借りする場合には、金銭消費貸借契約書をきちんと書面として残しておくことが大切です。
金銭消費貸借契約の前には、贈与の利用とどちらが有利になるか比較するためにも、税理士へご相談ください。
横浜市を中心に多くの相続税のご相談をいただいている響き税理士法人では、贈与のアドバイスにも力を入れています。まずはお気軽にご連絡ください。

戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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