相続を考えるとき、知っておかなければならない法律は「民法」「相続税法」の2つです。同じ相続のことなのに、法律が2つもあるなんてややこしいですね。しかし、どちらかの法律だけで考えると、将来ご自身が税金面で思わぬ損をしたり、他の相続人とのトラブルを招いたりする事態になりかねません。
そこで本章では、相続に関する「民法と相続税法」の違いと相続時に注意すべき点について詳しく解説します。
複雑で分かりにくいイメージの相続ですが、手続きや税の申告には期限があるものもあるため、「なんだか難しそうだから…」と放置してしまうのは危険です。
今のうちにポイントを押さえて、将来の相続で損をしないよう備えましょう。
目次
「民法と相続税法」の違いは?どちらが優先する?
相続の際、専門家に相談すると「遺産分割上(民法上)は○○だけど、税法上は○○ではなく、になる。」といった説明を受けることがあります。
これは、基本的な相続のルールは民法による一方、税が関わるときは相続税法が民法を修正する規定を置いているためです。
民法では、相続の条文は882条以下にあります。
「相続は、死亡によって開始する」という五七五調の条文から始まり、法定相続人の順位や相続放棄の方法、遺留分の計算方法など、相続に関するさまざまな決まりを置いています。
民法があるなら、相続税法は必要ないのでは?と考える方も多いかもしれません。
しかし、民法が決めているのはあくまで権利関係等の一般的なルールにすぎません。
税額の計算など、細かい税のルールについては相続税法の規定によることになります。
さらに、相続税法は、課税の公平性という独自の観点から民法に一定の修正を加えています。
民法と相続税法は、別の趣旨で作られた法律なのです。
法律の世界では、一般法よりも特別法が優先するという原則があります。
原則=民法、例外=相続税法というイメージを持っておくと分かりやすいです。
相続時には具体的に何を注意すればいい?
ここからは、具体例とともにみていきましょう。
養子100人もうけても、基礎控除は最大2人まで
民法と相続税法の違いでまず混乱しやすいのが、養子の数です。
ひと言でいえば、養子は何人もうけてもよいが、基礎控除が認められる養子の数のみ税法上限定されています。
民法上、養子の数に制限はありません。
そのため要件さえみたせば100人と養子縁組することも可能です。
そして養子は実子と同様に、法定相続人としての身分を有します。
この点は、税法上も同じです。
しかし、税法上、法定相続人が多くなるほど相続税が少なくなる仕組みになっていることから、養子をたくさんもうけて相続税を少なくしようとする人が出てきてしまいます。
これでは課税の公平という税法の趣旨が損なわれてしまいますね。
そこで相続税法は、基礎控除が認められる養子の数に限度を設けているのです。
具体的には次のような定めを置いています。
① 実子がいる場合、仮に養子が2人以上いたとしても、基礎控除が認められる養子は1人だけ
② 実子がいない場合、仮に養子が3人以上いたとしても、基礎控除が認められる養子は2人まで
このように、相続税の計算上相続人にカウントできる養子は限られます。
養子縁組自体は何人とでもできますが、養子の数を増やして不当に相続税を引き下げることはできないので注意しましょう。
相続放棄しても、税法上の法定相続人の数は変わらない
養子の人数と同様に、不当な租税回避を封じるための税法上のルールがあります。
それは、相続放棄があった場合の法定相続人の人数についての定めです。
相続放棄とは、相続人の意思によって、相続財産を一切承継しない旨の意思表示をいいます。
相続放棄があると、次順位の相続人に相続順位が繰り上がります。
例えば、第一順位の子2人が相続放棄をし、続けて第二順位の父母が相続放棄をした場合、第三順位の兄弟姉妹に法定相続人の立場が繰り上がることとなります。
ここで、兄弟姉妹が3人いた場合、法定相続人の人数は、当初の子2人から兄弟姉妹3人に変わります。
これが民法上の原則です。
しかし、これを相続税の計算の場面でも維持すると、上述の養子縁組の例と同様に基礎控除の額を増やす目的で相続放棄をして、不当に法定相続人の数を増やすことができてしまいます。
そこで相続税法では、相続税の計算上、法定相続人の人数は相続放棄がなかったものとした場合の法定相続人の人数によることとされています。
つまり、第一順位の子2人が相続放棄をしても、法定相続人の数は2人に維持されたままということになります。
意図的に相続放棄をして租税回避することはできません。
財産の評価額の「ずれ」による不満が起こる
遺産分割の際の財産の評価も、トラブルが生じやすいところです。
民法上、相続財産を計算するときには「遺産分割の時点」での時価が基準になるのに対し、相続税の計算上は、「亡くなった時点」での評価が基準となります。
使われる時価も異なり、相続税の計算のときだけ少し安くなることがあります。
これは、相続税を法で定めた以上に課税してしまうことのないよう考慮されているためです。
そうすると、亡くなった時点から遺産分割を行うまでの間に相続財産の時価が変動すれば、民法と税法とで評価額がずれてしまいます。
遺産分割で公平に財産を分けた結果、税金の負担が公平ではなくなってしまうようなことが起きてしまうのです。
現金や預金は価値が一目瞭然ですが、不動産のように価値が変動するものの場合には「自分だけ税金の負担が重い。
不公平だ」といった不満のもととなるため、注意が必要です。
まとめ
ここまで見てきたとおり、民法と相続税法の違いは思わぬトラブルのもとになります。
遺産の分け方は、遺言書があれば①遺言書により、遺言書がない場合は②遺産分割協議で相続人全員の話し合いにより決めることになります。
遺言書があればその内容に従うのみですから、相続でトラブルが起きやすいのは②の場合が多いといえるでしょう。
特に資産家の相続では税額も大きくなるので、生前から遺言書で生前の意思をはっきりとさせておくことが大切です。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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