相続税の時効は7年です。時効があるということは、申告納付の義務を免れ、逃げ切ることが出来る可能性があるのでは、と期待する方もいらっしゃるかもしれません。しかし、税金の申告納付の義務は、簡単に免れることが出来るものではありません。相続税の納付義務をバレずに7年を経過するというのは非常に難しいことです。
今回は、国税の時効に関する決まりと、なぜ納付義務が税務署にバレるのか、そしてバレた場合のペナルティについてご紹介致します。
目次
相続税の時効は7年、国税の時効とは?
国が税金を納税者である国民から得る権利には時効としての期間制限があります。無制限に得る権利を保有してしまうと、納税者の法的安定や国税の画一的執行に影響を及ぼす可能性があるためです。
相続税を含む国税の期間制限には、賦課権の除斥期間と徴収権及び還付金等の還付請求権の消滅時効があります。
賦課権の除斥期間
賦課権とは、税務署長が国税債権を確定させる処分として、更正、決定及び賦課決定を行うことが出来る権利のことです。
賦課権の期間制限には除斥期間の制度が設けられています。完成猶予や更新の中断がないこと、権利の存続期間があらかじめ設定されていて、その期間の経過によって権利が絶対的に消滅すること等の特徴があります。
徴収権及び還付金等の還付請求権の消滅時効
徴収権とは、既に確定した国税債権の履行を求め、収納することが出来る権利のことです。
国税の徴収権及び納税者の国に対する還付金等の還付請求権は、私債権と同様に時効制度が設けられていますが、徴収権及び還付金等の還付請求権は私債権とは異なり、利益を放棄することが出来ないこと等の特徴があります。
賦課権の除斥期間の年数
相続税の申告納付の時効が7年である、というのは賦課権の除斥期間の年数に起因します。除斥期間は3年、5年、7年、10年の区分に分かれています。
除斥期間の起算日
賦課権の除斥期間は、税務署長が納税義務の確定手続を行うことが出来る期間です。
このことから、納税義務が成立していても、未確定のまま賦課権の除斥期間を経過した場合には、賦課権の行使による納税義務の確定は出来ません。相続税の申告納税方式であることから、賦課権を行使できる期間の起算日は、法定申告期限の翌日です。還付請求申告書が提出されたものについては、その提出日の翌日が起算日となります。
一方で賦課課税方式による国税の除斥期間の起算日は、課税標準申告書の提出を要する国税については、その提出期限の翌日、課税標準申告書の提出を要しない国税については、その納税義務の成立した日の翌日です。
3年の除斥期間
課税標準申告書の提出を要する国税であり、申告書の提出があったものに係る賦課決定の除斥期間は3年です。
5年の除斥期間
更正、決定及び賦課決定の除斥期間については、原則5年です。
7年の除斥期間
偽りその他不正の行為により、税額の全部若しくは一部を免れもしくは還付を受けた国税についての更正決定等又は偽りその他不正の行為により、その課税期間において生じた純損失等の金額が過大である納税申告書を提出していた場合における、純損失等の金額についての更正の除斥期間は、7年です。
10年の除斥期間
法人税に係る純損失等の金額でその課税期間において生じたものを増加させ、もしくは、減少させる更正又は当該金額があるものとする更正の除斥期間は、10年です。
徴収権及び還付金等の還付請求権の消滅時効の年数
徴収権の消滅時効の年数
国税の徴収権の消滅時効は5年とされ、その起算日は、原則としてその国税の法定納期限の翌日です。
還付金等の還付請求権の消滅時効の年数
還付金等の還付請求権の消滅時効は5年とされ、その起算日は、その還付を請求することが出来る日です。
相続税の申告納付は逃げ切れる?
相続税の時効は7年ですが、この期間において相続税の申告納付を行わずに逃げ切ることは可能なのでしょうか。
結論から申し上げますと、逃げ切りは難しいと考えられます。逃げ切りが難しいといえるのは、相続税の発生について税務署が様々な方法により認識をすることが出来るためです。どんな方法により税務署は相続税の発生を認識することが出来るのか、ご紹介致します。
税務署のKSKシステム
KSKシステムとは、国税総合管理システムのことであり、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告納税の事績や各種の情報を入力することにより、国税債権等を一元的に管理するとともに、これらを分析して税務調査や滞納整理に活用するなど、地域や税目を越えた情報の一元的な管理により、税務行政の根幹となる各種事務処理の高度化、効率化を図るために導入したコンピュータシステムです。
相続税においては、死亡届が提出される市区町村役場には、死亡届を受理した日の翌月末までに税務署に対してその死亡情報を提供する義務があります。その通知により、税務署はKSKシステムを用いて過去の申告データを調べ、収入が多かった被相続人や不動産所得のあった被相続人等の相続人へ相続税の申告案内を発送します。
このように、KSKシステムの存在により、税務署は相続税が発生することが予測される被相続人の存在を把握することが出来ます。
税務署の強力な調査権限
税務署はKSKシステムを利用することが出来る他、本人の了解を得ずに様々な情報を得られる権利を有しています。相続税においては、相続税の課税対象となる財産について、下記のような手段を用いて情報を収集します。
預金や有価証券情報の照会
税務署は銀行や証券会社に対して、預金や有価証券の情報を照会をすることが出来ます。相続開始時点の残高のみならず、過去に遡り預金や有価証券の動きも把握することが出来ます。
不動産情報の照会
税務署は市区町村役場から死亡情報を得ることが出来ると共に、不動産の保有情報を照会することが出来ます。またその被相続人の所有をしていた不動産が相続人に引き継がれたという情報も、法務局から得ることが出来ます。
生命保険金情報の照会
生命保険金が保険会社により支払われると、保険会社は支払調書を税務署に提出を行います。このことから、生命保険金の支払い金額や契約者の情報を税務署は得ることが出来ます。
バレた場合のペナルティ
上記のような様々な方法により、税務署は相続税の申告納税の義務が相続人にあるかを把握することが出来るため、相続税の申告納付を行わずに逃げ切ることは難しいといえます。相続税の本来の申告納税期限である被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告納税を行わずに無申告としていた場合には、様々なペナルティが発生します。
どのようなペナルティが課せられるのか、ご紹介致します。
延滞税
延滞税とは、税金が定められた期限までに納付されない場合に、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課せられる、利息に相当をする税金です。
延滞税が課せられる場合
下記のような事例の場合に、延滞税が課せられます。
- 申告等で確定した税額を法定納期限までに完納しない場合
- 期限後申告書又は修正申告書を提出した場合で、納付しなければならない税額がある場合
- 更正又は決定の処分を受け、納付しなければならない税額がある場合
延滞税の割合
法定納期限が令和3年1月1日以後である場合、下記の割合で延滞税が課せられます。
- 納期限の翌日から2ヶ月を経過する日まで
年7.3%、又は延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い割合
- 納期限の翌日から2ヶ月を経過した日以後
年14.6%、又は延滞税特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合
延滞税の計算期間の特例
偽りその他不正の行為により国税を免れた場合等を除き、下記の場合には一定の期間を延滞税の計算期間に含めないという特例があります。
- 期限内申告書が提出されていて、法定申告期限後1年を経過してから修正申告又は更正があった場合
- 期限後申告書が提出されていて、その申告書提出後1年を経過してから修正申告又は更正があった場合
- 確定申告書を提出した後に減額更正がされ、その後さらに修正申告又は更正があった場合
無申告加算税
無申告加算税とは、申告期限内に申告をしなかった場合に本来納付すべき税額に対して課せられる税金です。
無申告加算税が課せられる場合
下記のような事例の場合に、無申告加算税が課せられます。
- 期限後申告を行った場合
- 決定の処分を受け、納付しなければならない税額がある場合
期限後申告であっても、正当な理由がある場合、法定申告期限から1ヶ月以内に自主的に行われていること等の場合には、無申告加算税は課せられません。
無申告加算税が課せられない正当な理由とは
期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる事実とは、災害、交通や通信の途絶その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由があると認められる場合のことであり、相続人間に争いがある等の理由により、相続財産の全容を知り得なかったこと又は遺産分割協議が行えなかったことは、正当な理由には該当をしません。
無申告加算税の割合
下記の割合で無申告加算税が課せられます。
- 納付すべき税額が50万円まで・・・15%
- 納付すべき税額が50万円超・・・20%
重加算税
重加算税とは、事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合等に罰金として課せられる税金です。
事実の仮装隠蔽とは
相続税において、事実が仮装隠蔽されている場合とは、下記の事例の場合をいいます。
- 相続人又は相続人から遺産の調査、申告等を任せられた人が、帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をしている場合
- 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮している場合
- 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせている場合
- 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得る場合
- 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこともしくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告している場合
重加算税の割合
意図的に申告しなかった場合の重加算税の割合は、無申告加算税の基礎となる税額の40%に相当する重加算税が課せられます。
過少申告加算税
延滞税、無申告加算税、重加算税は相続税の期限内申告納税を行わずに無申告としていた場合にペナルティとして課せられる税金ですが、期限内申告であっても課せられるペナルティもあります、それが過少申告加算税です。
過少申告加算税が課せられる場合
下記のような事例の場合に、過少申告加算税が課せられます。
- 税務署の調査を受けた後で修正申告を行う場合
- 税務署から申告税額の更正を受けた場合
期限内に提出をした申告内容が過少申告となったことに正当な理由がある場合、税務署の調査を受ける前に自主的に修正申告した場合には、過少申告加算税はかかりません。
過少申告加算税が課せられない正当な理由とは
期限内に提出をした申告内容が過少申告となったことについて正当な理由があると認められる事実とは、税法の解釈に関し申告書提出後新たに法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈とが異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由がある場合等のことであり、税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくものは該当をしません。
過少申告加算税の割合
過少申告加算税の割合は、新たに納めることになった税金の10%相当額です。
ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%になります。
まとめ
相続税の時効は7年です。相続税のみならず、国税には時効である期間制限として、賦課権の除斥期間と徴収権及び還付金等の還付請求権の消滅時効を定めています。
時効が定められているものの、各税金の申告納付を免れることは、税務署の強力な個人の情報を照会し所有する権利により、難しいことといえます。更に税務署の照会により、恣意的に税金の申告納付義務を免れようとしたことが発覚した場合には、本来納める税金に加えて、重いペナルティが課せられます。結果として、期限内に正しく申告納付を行うことが、最も負担が少ない方法だといえます。
相続税の申告納付について、正しく期限内に行うことが難しいと考える方には、専門家のご利用をお勧めしております。是非弊社までお気軽にご相談ください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。