子供が住宅を購入するときに、ご両親から資金援助を受けるという場合は、少なくないと思います。通常、1年間あたり110万を超える生前贈与には贈与税が課税されます。
しかし、子供が住宅を購入するための資金援助であれば、年間110万円に加えて一定金額まで贈与しても、贈与税が課税されない特例があります。これは一見、お得に見えるでしょう。しかし、この特例には、実は、この特例を使わない方が税金対策になる場合が存在します。どういった場合なのでしょうか。今回は、住宅取得等資金の贈与税の特例について解説します。
目次
条件
住宅取得等資金の贈与の特例を利用するためには、贈与を受ける人の要件、そして住宅等の要件を満たしていなければなりません。
贈与を受ける人の要件
住宅取得等資金の贈与の特例を利用できるのは、住宅取得資金の贈与を行った人の直系卑属とされています。
配偶者の親は直系卑属に対する贈与ではないため、配偶者の親からの贈与は非課税にならないことには注意してください。また、贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であることが必要です。
住宅等の要件
新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下であることが必要です。店舗兼住宅を新築・取得した場合には、その家屋の床面積の1/2以上が居住の用に供されることが求められます。
住宅を取得した場合は、新築の住宅だけでなく、中古の住宅も対象です。この場合、取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築されたものとされています。ただし、耐震基準を満たしていることが証明されたものであれば、それ以前に建築された家屋でも適用の対象となります。
なお、住宅を新築する場合には、その敷地となる土地の取得も対象になります。対象となる住宅は、日本国内のものに限られます。
非課税限度額
この法制度の非課税限度額は、条件区分で変わります。
消費税率の区分 | 契約締結日 | 省エネ住宅 | 一般住宅 |
---|---|---|---|
家屋に対する消費税が8% | ~2015年末 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2016年1月~2020年3月 | 1,200万円 | 700万円 | |
2020年4月~2021年12月 | 1,000万円 | 500万円 | |
家屋に対する消費税が10% | 2019年4月~2020年3月 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020年4月~2021年12月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
ちなみに土地売買には元来、消費税は課税されません。
タイミング
贈与を受けるタイミング
住宅取得資金贈与の特例が適用されるためには、住宅購入前に贈与を受けておく必要があります。住宅購入後の住宅ローンや生活費の穴埋めに贈与されたものは、非課税にはなりません。
- 贈与を年末に行うとその後が大変
実際、暦年贈与の基礎控除110万円を効率的に利用するために、年末に贈与を行う方もいらっしゃるでしょう。年末に贈与を行ってから居住開始の要件となっている翌年3月15日までは3か月を切っています。贈与を受けた時点で新居を購入する契約まで完了しており、あとは引渡しを受けるだけという場合が多いでしょう。ただし、そこから引っ越しを行い、役所での手続きをしなければならないことを考えると時間の余裕がたっぷりあるとは言えません。
住宅の取得が具体的になり、いつ契約を結ぶのかなどがはっきりしてから贈与を行っても遅くありません。
居住開始のタイミング
住宅取得資金贈与の特例を利用するには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始する必要があります。しかし、理想の物件に出会えなかったり、建築工事が進まなかったりなどで住宅取得が長引けば、居住開始期限に間に合わなくなる可能性もあるでしょう。早すぎる贈与はこの理由のため良くないと言えます。
贈与はなるべく住宅取得の直前に受けるようにしましょう。
贈与税の申告
贈与税の申告も特例を利用するための条件です。注意が必要なのこの特例の適用によって贈与税が0円になる場合でも、申告を行わなければならないということです。
失敗事例
住宅ローン控除制度の利用と併用する場合
住宅ローン制度は住宅取得等に関して、銀行ローンを組んだ場合に、毎年、源泉徴収で納税された金額から一部が還付される制度です。一年の間、源泉徴収された額が多いほど、還付される金額は多くなりますから、高額納税者ほど得します。住宅取得等資金贈与の非課税の特例は、住宅ローン控除制度と併用が可能です。
住宅ローン減税制度だけに絞り込んで計算したら、贈与の非課税特例を利用しないほうがお得という結果になります。
将来、親の住宅を相続する予定がある場合
通常、自宅の相続があった場合、小規模宅地等の特例を受けられます。小規模宅地等の特例は土地の評価額が最大8割減額になる減税制度です。大きなメリットがある制度として知られています。
ところが、住宅取得等資金贈与の非課税の特例を利用すると、小規模宅地等の特例を受けられなくなってしまいます。どちらの制度を利用すれば税金面で有利となるかは、実際にシュミレーションして、計算してみて初めて分かることです。
将来、親の住宅を相続する予定がある場合に、住宅取得等資金贈与の非課税の特例を利用するかは、事前に検討しておく必要があります。小規模宅地等の特例は自宅の土地評価額の減税ですから、地価が高い大都市居住の方々には身近になってくる制度です。事前によく検討しましょう。
まとめ
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は、基本的に良い制度であると言えます。注意点としては、まず申告は必ず必要になること。納税の必要がなくても、翌年3月15日までに必ず申告してください。
次に、将来の小規模宅地等の評価減についてです。別居していても、持家のない親族であれば特例を受けることができるケースがあります。あえて子供に住宅を持たせないという対策もあります。慎重にご検討いただければと思います。
今回の記事が住宅取得等資金の贈与についての理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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