父が亡くなり母と子で父の財産を相続する場合、母に全ての財産を相続させたいと考える方は多いでしょう。特に母が高齢の場合、これからの生活のために現金や預貯金、これまで暮らしてきた住宅を母のものにしたいと考えるケースは少なくありません。
では、母が全て相続することになった場合「遺産分割協議書」にはどのように記載すればよいでしょうか。
そこで、本記事では父の財産を母に全て相続させるための遺産分割協議書について、税理士がわかりやすく書き方のポイントを解説をしていきます。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
遺産分割協議書には何を記載する?
遺産分割協議書とは、被相続人の財産を誰が、どのように相続するのか遺産分割協議で合意した内容について証拠として作成する書面のことです。
遺産分割協議書は預貯金口座の解約や、不動産の相続登記など、被相続人の財産を引き継ぐ手続きの際に必要となります。では、どのような内容を記載するものでしょうか。この章で簡潔に紹介します。
遺産分割協議書に記載すべきこと
①被相続人の情報
まず、被相続人に関する情報を記載します。
被相続人の氏名・生年月日、死亡年月日・死亡時の住所を記載します。
②被相続人が遺した財産
次に、被相続人が残した財産(遺産)の内容を記載します。遺される財産は被相続人によって異なりますが、一般的に多い財産としては現金・預貯金・有価証券・不動産などが挙げられます。
被相続人の借金や滞納税などの債務も含むため注意が必要です。正しく財産内容を記載するためにも、遺産分割協議前に財産調査を漏れなく行いましょう。
③相続人の情報と署名、実印の押印
相続人全員の情報も記載します。相続人の氏名・生年月日・住所を記載しましょう。
また、署名した上で実印を押印します。
④作成日時
遺産分割協議書はいつ作成したのかも、明確に記載する必要があります。遺産分割協議を終えた日と、相続人全員が合意し、実印を押印した日付も入れます。
父の財産を全て母に相続させたい!遺産分割協議書にどう記載する?
遺産分割協議書には、何の財産を相続するのか記載しますが、記載方法には以下の2つが考えられます。
①相続する財産の内容について「一切の財産」と記載するケース
②財産を個別に記載するケース
この章では上記2つのケースの記載について、わかりやすく解説します。
「一切の財産」と記載するケース
遺産分割協議書では、被相続人が遺した財産1つひとつを特定して記載する必要はありません。たとえば、父の財産を全て母が相続すると決めたら、遺産分割協議書に次の文言を記載すればOKです。
例・相続人 響木 花子は、被相続人が有する一切の財産を相続する
この文言があれば、遺産分割協議後に見つかった父の財産も、母が相続できます。
ただし「一切の財産」と記載する場合は、「債務が財産に含まれること」に注意する必要があります。債務もすべて母が相続するため、もしも父が生前に借金をしていたら母が返済義務を負うことになります。
債務の発覚に備える場合
母1人が父の債務を背負う事態を避けるためには、あらかじめ債務の発覚に備えて「後日判明した財産」という項目を作成します。
もしも遺産分割協議後に新たな財産が見つかったら、「相続人全員が再度協議を行うこととする」と記載しておくことで、債務が見つかった際に母以外の相続人にも相談できるようになります。
財産を個別に記載するケース
遺産分割協議の段階で父の財産の内訳がわかっている場合、財産を個別に記載し、それぞれを母が相続すると記載する方法も考えられます。現金、預貯金など項目を作り、それぞれに母が相続する旨を記載しましょう。
債務の発覚に備えたい場合は、このケースでも「後日判明した財産」という項目を作り、「相続人全員が再度協議を行うこととする」と記載しておきましょう。
遺産分割協議書は必ず作成が必要?
父が亡くなり、母が全ての財産を相続する場合は必ず遺産分割協議書の作成が必要でしょうか。
この章では必要なケース・不要なケースについてわかりやすく解説します。
遺産分割協議書が必要なケース
複数の相続人がおり、遺産分割協議を行った結果、母が全ての財産を相続する場合は遺産分割協議書の作成が必要です。
たとえば、被相続人である父の相続人に、母・子2名がいる場合は3人で遺産分割協議を行うため、遺産分割協議書の作成が必要です。
遺産分割協議書の作成が不要なケース
遺産分割協議書の作成が不要なケースは以下です。
- 相続人が母(配偶者)1名しかいない
- 母以外の全ての相続人が相続権を失っている
- 遺言書があった
すでに相続人の死亡によって、母1名しか相続人がいない場合は遺産分割協議書を作る必要はありません。また、相続放棄・廃除・欠格で母以外の相続人が相続権を失っている場合も不要です。
すでに父が生前に遺した遺言書が見つかっている場合も、遺産分割協議書は作らなくてOKです。
遺産分割協議作成時の2つの注意点
遺産分割協議書をこれから作る場合には、以下2つの注意点を押さえた上で作成に臨みましょう。
1.相続人全員の合意が必要
遺産分割協議書は、全ての相続人が合意した上で作成する必要があります。母が全て相続することに子が同意していても、母だけの押印・署名では遺産分割協議書は無効です。
たとえば、父に離婚歴があり前妻との間に子がいる場合は相続人となるため、遺産分割協議に参加してもらう必要があります。相続人調査に漏れがあると、本当は参加が必要な相続人を見落とす可能性があるためご注意ください。
2.遺産分割協議書は早めに作成する
遺産分割協議や、遺産分割協議書の作成には、法律上の期限がありません。
しかし、相続手続きには法律上の期限が設けられています。この期限に間に合わせようとすると、遺産分割協議は早めに合意し、協議書も仕上げておくことがおすすめです。
■期限がある相続手続きの一例
相続放棄、限定承認の期限 | 自己のために相続の開始ああったことを知った日から3か月以内
※多くのケースでは亡くなった日から3か月以内 |
相続税申告・納付 | 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内 |
相続登記 | 相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内 |
母が全ての財産を相続する場合の注意点
遺産分割協議の結果、母1人が父の財産の全てを相続することになった場合、知っておきたい注意点もあります。詳しくは以下2つをご確認ください。
二次相続に注意が必要
たとえば、父の財産を母・子2名で相続する際に、父の財産を母だけに相続させることで解決したと仮定します。この時の相続を「一次相続」と言います。
母は「相続税の配偶者控除」(配偶者の税額の軽減)が使えるため、相続税が発生しても、控除が受けられます。
■相続税の配偶者控除の控除
・1億6000万円まで もしくは 法定相続分まで控除できる
しかし、母が亡くなった時、子2名は「二次相続」を迎えます。この時は相続税の配偶者控除は使えません。そのため、重い相続税を子2名が背負うリスクがあります。
誰が相続するのか一時相続の段階で、慎重に検討しておかないと子が納税に悩まされる可能性があるのです。詳しくは以下記事もご一読ください。
参考URL 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
相続人が同意しないケースもある
生前に家族全員で、父が亡くなったら母に全ての財産を遺すことで合意していても、実際に相続の段階になると、遺産分割協議が難航するケースもあります。
たとえば、住まいは母が相続すればよいが、子が現金や預貯金は相続したいと求めるケースも少なくありません。このようなケースでは遺産分割協議が長期間するおそれがあり、調停に発展する可能性もあります。
確実に母に相続させたい場合は、生前に「遺言書」を残しておくなど、対策を検討することがおすすめです。
まとめ
本記事では父の財産を全て母に相続させるための遺産分割協議書について、書き方を中心に詳しく解説しました。
遺産分割協議書は法的な書式がありませんが、ネット上にひな形も多く公開されており、参考にしながら作成してみることもおすすめです。
ただし、母が全ての財産を相続する際には、二次相続対策も念頭に置いたうえで遺産分割協議を行うようにしましょう。
横浜市の響き税理士法人では、遺産分割や相続税に関するご相談に対応しています。ご不明な点がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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