ご自身の財産を法定相続人以外の方へ渡したい場合、どのような手続きをすれば良いかご存じでしょうか。通常の相続手続きでは、あらかじめ民法で定められた法定相続人の順位に沿って相続人が決まります。
ただし、遺言書を作成して財産を渡したい方を特定しておくことで法定相続人以外の方へ「遺贈」することが可能です。そこで今回は、近年注目度が高まっている法定相続人の方以外への「遺贈」について注意点にも触れながらわかりやすく解説します。
遺言書で他人に財産を相続できる?
遺言書があれば、他人に財産を相続させることはできるでしょうか。結論から言うと、遺言書で「遺贈」として財産を譲ることを示しておくことで、相続人にはなれない血縁者へはもちろん、非営利団体や自治体、お世話になった介護施設などへ財産を残すことも可能です。
「遺贈」と「相続」との違いとは
遺贈とは、被相続人が定めた人が財産を受け取ることを意味し、相続とは以下に挙げるとおり、意味が異なります。
- 相続
相続人が財産を受け取ること。財産を残して亡くなった方を被相続人、財産を引き継ぐ方を相続人と呼ぶ。 - 遺贈
被相続人が定めた人が財産を受け取ること。相続人以外(団体含む)も受け取ることができる。遺贈する人を遺贈者、財産を受け取る人を受遺者と呼ぶ。詳しくはこちらの記事もご一読ください。
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遺贈には2つの種類がある
遺贈には2つの種類があります。
- 「包括遺贈」
「包括遺贈」とは財産の全部または一部を遺贈する方法を意味します。例として、遺言書には以下のように記載します。・「私は私の財産のすべてを 〇〇に遺贈します」
・「私は私の財産の2分の1を 〇〇に遺贈します」包括遺贈は相続人と同じ権利義務を有するため、遺贈された割合に応じた債務も引き継ぎます。
- 「特定遺贈」
「特定遺贈」とは、被相続人が特定の財産を遺贈する方法です。例として、遺言書には以下のように記載します。
・「神奈川県横浜市〇〇区××の土地を遺贈します」
特定の財産のみを受け取るため、包括遺贈のように債務を相続する必要はありません。ただし、生前にすでに遺贈したい財産がなくなっていた場合(例・不動産の売却済など)には遺贈が無効になります。
他人に遺贈すると相続税はどうなる?
遺言書で法定相続人以外の方へ遺贈する場合は、相続税は発生するのでしょうか。詳しくは以下です。
法定相続人以外でも相続税は発生する
法定相続人以外の方が遺贈で財産を取得する場合でも、相続税は発生します。申告期限も法定相続人と同じで「被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内」です。
遺贈時の相続税計算の流れ
遺贈時の相続税計算の流れは以下です。
ステップ1 課税価格の計算
ステップ2 課税遺産総額の算出
ステップ3 相続税総額の算出と各相続人・各受遺者の相続税の算出
ステップ4 申告・納付
ステップ1 課税価格の計算
相続税の対象となる遺産を特定し、課税価格を計算します。プラス、マイナスの財産をまとめて計算するため、高額の財産があっても債務がある場合は控除できます。また、以下3つの注意点に注意しましょう。
- 注意点:みなし相続財産
退職金や死亡保険金は相続財産ではありません。しかし、「みなし相続財産」として相続税の課税対象額には含みます。 - 注意点:死亡前3年以内(※法改正あり)に被相続人から贈与を受けた財産
原則と死亡前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、相続税の課税価格に加算します。2024年に法改正があり、加算期間は段階的に7年へ延長されていますので計算には注意が必要です。 - 注意点:相続時精算課税の対象財産
相続時精算課税の制度とは、原則60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫に財産を贈与する場合に選択できる贈与方法です。
相続時に相続税として精算するため、相続税の課税価格に加算する必要があります。
ステップ2 課税遺産総額の算出
課税価格から基礎控除額を差し引き「課税遺産総額」を算出します。
・基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
後述しますが、法定相続人以外の受遺者は基礎控除における「法定相続人の数」にカウントできません。課税遺産総額が0円以下の場合、相続税は課税されません。
ステップ3 相続税総額の算出と各相続人・各受遺者の相続税の算出
課税遺産総額を各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして仮定して分配し、法定相続分に応じた各法定相続人の取得金額を計算します。
次に法定相続分に応じた各法定相続人の取得金額に税率を乗じて、相続税の総額の基となる税額を算出します。さらに、相続税総額を財産を取得した人の課税価額に応じて配分し、財産を取得した人ごとに税額を計算します。
最後に計算した相続税等から各種税額控除を差し引いた残額が、個人の納税額となります。
ステップ4 申告・納付
遺言者の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納付します。申告・納税が遅れるとペナルティが発生するため注意が必要です。
退職金や死亡保険金は相続財産ではありませんが、相続財産とみなされ、相続税の課税対象額に含まれます。死亡保険金などの相続財産とみなされるものは、相続税上、相続財産と同じように税務処理されるべきであると考えられているからです。
他人に財産を遺贈するときの注意点
法定相続人以外の他人へ遺贈する場合には、押さえておきたい注意点があります。主な注意点は以下4つです。
1.相続人以外は基礎控除額と非課税枠の計算に含まれない
相続税には基礎控除や、死亡保険金・死亡退職金に対する非課税枠が用意されていますが、法定相続人の人数をカウントしています。受遺者が法定相続人ではない他人の場合は、計算に含みません。
- 基礎控除の計算方法「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」
- 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠の計算方法 「500万円×法定相続人数」
たとえば遺言書財産を受ける受遺者に法定相続人が存在せず、内縁の方が全財産を譲り受けた場合、基礎控除額は3,000万円となります。
■非課税枠の適用もできない!
法定相続人以外の方が死亡保険金を受け取る場合、非課税枠税枠の税枠の適用も受けられません。
2.特定遺贈については借金や葬儀費用の控除不可
受遺者として財産を取得すると、財産額から遺贈者の借金・未払費用・葬儀費用を差し引くことができます。ただし、遺贈時に控除が受けられるのは「包括遺贈」だけです。
特定遺贈の場合、借金や葬儀費用を控除することはできません。
3.未成年者控除・障害者控除・相次相続も適用不可
相続財産を取得した人が未成年者や障害者であったり、過去10年以内に発生した相続に関連して相続税を納めたりした場合、相続税から一定額が控除できます。しかし、法定相続人でない他人が財産を取得した場合には控除は適用できません
4.他人は相続税が2割増し
相続税が課税される場合、受遺者が「被相続人の配偶者及び近親者(子・父母)」でないと相続税が20%増税されるため、高い納税を負担する必要があります。
受遺者が他人以外の「孫・兄弟姉妹」でも2割加算となるため注意が必要です。(大衆相続の孫は除きます)
遺言書で遺贈する場合に知っておきたい3つのポイント
法定相続人以外の他人へ財産を残すために、これから遺言書を作りたいと考えている方もいるでしょう。では、実際に作るにあたって知っておきたい3つのポイントとはどのようなものでしょうか。
1.受取は放棄される可能性がある
遺言書で受遺者を決めても、受遺者によっては財産の受取を放棄する場合もあります。
- 特定遺贈は相続人もしくは遺言執行者へ、財産はいらないと伝えることで放棄できる
- 包括遺贈は家庭裁判所に対して自身に遺贈があったことを知った日から3か月以内に包括遺贈放棄を申述する
家族に混ざって財産を受け取ることに抵抗感がある、包括遺贈で債務の負担は拒否したい場合など、受遺者の都合で放棄された場合、浮いた財産は相続人が相続します。
2.遺留分をめぐってトラブルになるおそれがある
遺贈する財産によっては遺留分を侵害するおそれがあります。相続人から、財産をもらった受遺者が「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があるのです。遺留分に考慮のない遺言書を残してしまうと、相続人と受遺者の間でトラブルになる可能性があります。
3.相続税が払えない可能性がある
遺言書の存在を知らず、ある日突然高額の財産を遺贈される場合は相続税が発生しても払えない可能性があります。特に換価しにくい不動産などを受遺されると、相続税に必要な現金が用意できず融資を受けたり放棄を検討せざるを得ない場合があるのです。
また、不動産を特定遺贈で取得する場合は、通常の相続ではかからない不動産取得税もかかります。
遺贈する際には、受遺者の経済的な状況にも配慮が必要でしょう。
まとめ
本記事では他人に遺言書を使って財産を渡せる「遺贈」について、注意点にも触れながら詳しく解説しました。
相続人だけでなく誰にでも財産を残すことができる遺贈は、遺留分や遺贈先によって家族間でトラブルに発展するおそれもあります。
財産を他人に渡すために遺言書を作る場合には、法律の専門家のアドバイスを受けながら、税金にも考慮がなされた遺言書を作りましょう。特に不動産の相続や、高額の遺贈を検討する場合には、税理士へ相談することがおすすめです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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