
成年後見制度は、身近に認知症、知的障害、精神障害等によって判断能力が十分ではない人がいることで、財産を失うことを防ぐ制度です。この前身として禁治産者制度があります。
今回はこの禁治産者制度についてご紹介致します。
目次
禁治産者制度とは

禁治産者制度とは、一定の人についてその人の行為能力を制限する制度です。1896年(明治29年)に交付され、2000年(平成12年)に成年後見制度に置き換わることで廃止されました。
この一定の人に該当するのが、禁治産者及び準禁治産者です。
禁治産者とは
禁治産者とは、心神喪失の常況にある人について、その本人、配偶者、4親等内の親族、戸主、後見人、保佐人又は検事の請求により、裁判所が禁治産の宣告をした人をいいます。請求の出来る人のうち、1947年(昭和22年)に戸主が削除、検事は検察官に改正されました。
この場合の心神喪失の状況にある人とは、自分の行為の結果について合理的な判断をする能力のない人をいいます。
禁治産者の法律行為の取り消し
禁治産者としての宣告を受けた人には後見人が付けられ、後見人により禁治産者の法律行為は常に取り消すことが出来ます。後見人になることが出来る人は、禁治産者の親権を持つ父又は母、配偶者等です。禁治産者の後見人が取り消すことの出来る法律行為とは、財産法の分野に関する行為についてであり、制限はありません。
また法律行為の取り消しのみならず、禁治産者は1900年(明治33年)以降において選挙権及び被選挙権を有しないこととされ、更には医師や弁護士等の国家資格を有することも認めていません。
準禁治産者とは
準禁治産者とは、心神耗弱者、聾者、唖者、盲者及び浪費者である人について、その本人、配偶者、4親等内の親族、戸主、後見人、保佐人又は検事の請求により、裁判所が準禁治産の宣告をした人をいいます。準禁治産者に該当する要件のうち、1979年(昭和54年)に聾者、唖者、盲者が削除されました。また、請求の出来る人のうち、1947年(昭和22年)に戸主が削除、検事は検察官に改正されました。
この場合の心神衰弱者とは、精神障害の程度が、心神喪失のように全然意思能力を失うまでに至らず、不完全ながら判断能力を有する人をいいます。また、この場合の浪費者とは、本人の地位や境遇、財産等諸般の事情を考慮してもなお前後の思慮なく財産を処分する性質を持つ人をいいます。
準禁治産者の法律行為の取り消し
準禁治産者としての宣告を受けた人には保佐人が付けられ、保佐人により準禁治産者が保佐人の了承を得ずに行った法律行為は常に取り消すことが出来ます。保佐人になることが出来る人は、禁治産者の親権を持つ父又は母、配偶者等です。
準禁治産者の保佐人が取り消すことの出来る法律行為とは、下記に該当をするものです。
- 元本を領収し、又は利用すること
- 借財又は保証をすること
- 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
- 訴訟行為をすること
- 贈与、和解又は仲裁合意をすること
- 相続の承認、放棄をすること
- 贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承諾、又は遺贈を承認すること
- 新築、改築、増築又は大修繕をすること
- 短期賃貸借に定める期間を超える賃貸借をすること
禁治産者制度の発足と廃止
禁治産者制度は、明治時代に発足をし、この時代では本人の保護や家財産の保護は強調されても本人の自己決定権の尊重や身上配慮等、本人の基本的人権は、必ずしも重視されないものでした。よって禁治産者及び準禁治産者の本人の基本的人権よりも、禁治産者や準禁治産者の法律行為によって脅かされる家族等の財産の保護が優先され、上記のような内容の制度となっていました。
しかし禁治産者の言葉の意味は財産を治めることを禁ずるということであり、家制度の廃止された日本国憲法下での民法では合致をしないこと、国家権力により私有財産の処分を禁ぜられ無能力者とされること、禁治産者又は準禁治産者に該当をすると戸籍に記載されること等が差別的であるという批判を受けている制度でした。
また差別的な視点のみならず実用性としても、心神喪失や衰弱等には程度があり意思決定や行動において一般的な水準同様に出来ることは個人によって差があるにも関わらず、法律行為を制限するためには禁治産者、準禁治産者の2つの区分での大別しかすることが出来ないこと、心神喪失や衰弱等の鑑定を引き受ける医師が少ない等、適用がしにくい制度でもありました。
このようなことから、100年以上続いた禁治産者制度は廃止がされ、2000年(平成12年)に成年後見制度に置き換わりました。
成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等によって判断能力が十分ではない人を保護するための制度です。成年後見制度は、補助、保佐、後見、任意後見の4つの区分に分かれています。
- 補助とは、対象者は判断能力が不十分な人であり、援助者は補助人といいます。補助人は、補助開始の審判を受けた本人が望む一定の事柄について、同意したり、取り消したり、代理することを通じて、本人が日常生活に困らないように配慮します。そのため、補助の制度を利用する場合、その申立てと一緒に、予め同意したり代理したり出来る事柄の範囲を定めるための申立てをする必要があります。
- 保佐とは、対象者は判断能力が著しく不十分な人であり、援助者は保佐人といいます。保佐人は、保佐開始の審判を受けた本人が一定の重要な行為をしようとすることに同意したり、本人が保佐人の同意を得ないで既にしてしまった行為を取り消したりすることを通じて、本人が日常生活に困らないよう配慮します。保佐人は、予め本人が望んだ一定の事柄について、代理権を与えるとの家庭裁判所の審判によって、本人に代わって契約を結んだりする権限を持つことも出来ます。
- 後見とは、対象者は判断能力が欠けていることが常況である人であり、援助者は成年後見人といいます。成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることが出来ます。このように幅広い権限を持つため、後見人は、本人の財産全体をきちんと管理して,本人が日常生活に困らないように十分に配慮する必要があります。
- 任意後見とは、本人の判断能力が不十分になったときに、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約に従って任意後見人が本人を援助する制度です。
禁治産者制度と成年後見制度との違い
禁治産者制度に置き換わった成年後見制度は、能力が欠けている人に対して定められた人が援助するという点では同じ制度ですが、下記の点が大きく異なります。
- 補助人制度の創設
禁治産者制度では補助人制度の対象となる軽度の認知症、知的障害、精神障害等を補助する制度はなく、軽度の判断能力に欠ける人には禁治産者制度の適用は認められませんでした。
しかし補助人制度が成年後見制度に含まれることで、軽度の判断能力に欠ける人も補助を受けることが出来るようになりました。
- 補助対象者の要件から浪費者が削除された
禁治産者制度では浪費者が準禁治産者に該当をしました。
しかし成年後見制度では浪費者は補助対象者として認められなくなりました。
認知症等により結果的に浪費となっている場合には対象となりますが、認知症等が認められず思慮なく財産を処分する性質を持つ人は対象外となります。
- 戸籍への記載が削除された
戸籍の提出を求められた際に、本人が成年後見制度を利用している人又は家族に成年後見人制度を利用している人がいることでの偏見や差別による不当な扱いを受けないような配慮がされています。
まとめ
上記のように禁治産者制度は成年後見制度に置き換わり、適用のしやすい制度になりました。身近に認知症、知的障害、精神障害等によって判断能力が十分ではない人がいることで、財産を失うことを防ぐ制度です。
成年後見制度の適用についてご不明な点がございましたら、弊社までお気軽にご相談ください。

税理士法人レガシィ勤務を経て2011年に響き税理士法人に入社、相続税専門の税理士として、横浜を中心に相続税申告のサポートをを行っています。どこよりも、素早い対応を心がけておりますので、少しでも相続税に関して、不安や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。