平成12年(2000年)からスタートし、広く活用されている「成年後見制度」には、前身となる制度があったことをご存じでしょうか。成年後見制度の開始とともに廃止された「禁治産者制度」は、明治時代から始まった制度として長く運用されていまし本記事では成年後見制度へとつながる禁治産社制度について、廃止された理由を中心に詳しく解説します。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
禁治産者制度とは
禁治産者制度とは、心身喪失のご状態にある方の行為能力を制限する制度として、明治29年(1896年)に交付され、長く運用されていた制度です。(旧民法第7条)
平成12年(2000年)に民法が改正・施工されたことで禁治産者制度はなくなり、置き換わる形で現在も運用されている「成年後見制度」がスタートしました。
禁治産者とは
禁治産者とは、家庭裁判所から禁治産の宣告を受けた方を意味します。心神喪失の常況にある人について、その本人、配偶者、4親等内の親族、戸主、後見人、保佐人又は検事の請求により、裁判所が禁治産の宣告することで財産を治めることを禁じられました。
禁治産者とは財産を納めることを禁じられた者という意味があり、現在の被後見人に該当します。
禁治産者の法律行為の取り消しとは
禁治産者としての宣告を受けた方は、後見人が付けられました。
後見人により禁治産者の法律行為は常に取り消すことができ、みずから法律行為をすることも禁じられていました。
後見人になれる人は、禁治産者の親権を持つ父又は母、配偶者等です。禁治産者の後見人が取り消せた法律行為とは「財産法の分野に関する行為」全般であり、制限はありませんでした。
禁治産者は明治33年(1900年)以降において選挙権及び被選挙権を有しないこととされ、さらに医師や弁護士等の国家資格を有することも認めていませんでした。現在の成年後見制度では裁判所の判断により選挙権が持てるようになりました。(東京地方裁判所 平成23(行ウ)63 選挙権確認請求事件)
準禁治産者とは
準禁治産者とは、心神耗弱者、聾者、唖者、盲者及び浪費者(※)である人について、その本人、配偶者、4親等内の親族、戸主、後見人、保佐人又は検事の請求により、裁判所が準禁治産の宣告をした人を指します。
準禁治産者については昭和54年(1979年)に要件の変更が行われ、聾者、唖者、盲者が削除されました。
準禁治産者における心神衰弱者とは、精神障害の程度が、心神喪失のように全然意思能力を失うまでに至らず、不完全ながら判断能力を有する人をいいます。現在の成年保佐人に近い方です。
(※)浪費者とは
本人の地位や境遇、財産等諸般の事情を考慮してもなお前後の思慮なく財産を処分する性質を持つ人のこと。
準禁治産者における法律行為の取り消しとは
準禁治産者についても法律行為の取り消しについて定めがありました。
準禁治産者には保佐人が付けられ、保佐人により準禁治産者が保佐人の了承を得ずに行った法律行為は常に取り消すことができたのです。禁治産者の親権を持つ父又は母、配偶者等が補佐人になることが可能でした。
準禁治産者の保佐人が取り消せた法律行為とは以下です。
- 元本を領収し、又は利用すること
- 借財又は保証をすること
- 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
- 訴訟行為をすること
- 贈与、和解又は仲裁合意をすること
- 相続の承認、放棄をすること
- 贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承諾、又は遺贈を承認すること
- 新築、改築、増築又は大修繕をすること
- 短期賃貸借に定める期間を超える賃貸借をすること
禁治産者制度の問題点とは
禁治産者制度は古い制度であり、明治時代から始まりました。2000年(平成12年)の成年後見制度開始まで長きにわたって運用されてきましたが、新制度へ移行した背景には問題点が多かったことが挙げられます。では、禁治産者制度の問題点とは具体的にどのようなものだったのでしょうか。この章で解説します。
個人への配慮に欠けた制度であったこと
禁治産者とされると本人や本人が所有する財産が保護されていましたが、個人の尊重に欠けている側面がありました。
禁治産者の自己決定権の尊重や身上配慮への配慮は足りておらず、家制度の廃止や人権意識が整備されたこともあり時代とともに望まれない制度に変化していったのです。
強いニュアンスの言葉が使われていること
禁治産者は「財産を治めることを禁ずる」ことと定められており、禁ずるという強いニュアンスの言葉が使われていました。この他にも、無能力者や制限能力者といった言葉も目立ち、禁治産者や準禁治産者に劣等感を覚えさせる言葉が多かったのです。
また、禁治産者等は戸籍に記載されたり官報による公示も行われたため、差別的であるという批判もありました。
実用性に欠けていること
禁治産者と判断するためには、本人の心神喪失や衰弱等を専門医師が判定する必要がありました。しかし、実際には鑑定を引き受ける医師がは少なく、制度の実用性には問題点がありました。
実際に大正2年(1913年)の禁治産宣告は約100件に留まり、準禁治産宣告であっても約800件に過ぎませんでした。高齢化社会が進んだ85年後の平成10年(1998年)に至っても禁治産宣告は約150件、準禁治産者は約1,600件と伸び悩んでおり、制度の見直しの必要性に迫られていたのです。
また、禁治産者と準禁治産者の2区分しかなかったため、より柔軟な区分の必要性についても検討された結果、成年後見制度では後見・保佐・補助の3区分が設けられました。
参考文献 岡本あゆみ. 成年被後見人に対する後見人等の 支援に関する文献研究 ─本人意思を尊重するための支援のあり方の構築のために─. 淑徳大学社会福祉研究所総合福祉研究 № 21.p.44
成年後見制度とは|禁治産者制度とのつながりや違い
成年後見制度は禁治産者制度と置き換わる形で2000年(平成17年)にスタートしました。
成年後見制度は大きく2つに分けられます。この章では成年後見制度のしくみや、禁治産者制度とのつながり、違いを分かりやすく紹介します。
成年後見制度の概要
禁治産者制度に置き換わった成年後見制度は、能力が欠けている人に対して定められた人が援助するという点では同じ制度であり現制度においてもつながりがあります。しかし、より柔軟に制度を運用するために成年後見制度は以下2つに分類されました。
- 法定後見制度
法定後見制度は認知症などの症状の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの種類(類型)が用意されています。
社会全体に根強い負のイメージが形成されている「禁治産・準禁治産」を廃止し、制度上のつながりはあるものの、成年後見制度では後見・保佐・補助の3類型による制度としてイメージを刷新しました。
法定後見制度は類型によって後見人等に与えられている権利は異なりますが、例として家庭裁判所に申立てを行い、選任された成年後見人等がご本人の利益を考えながら、ご本人に代わって法律行為をすることが可能です。また、判断能力が落ちているご本人が不利益な契約などを交わしてしまった場合に、後から取り消すこともできます。
- 任意後見制度
任意後見とは、ご自身の判断能力が不十分になったときに備えて、ご自身であらかじめ結んでおいた任意後見人に財産管理や法律行為の代行を依頼するしくみです。
任意後見の契約時には家庭裁判所へ申立てをする必要はありませんが、必要な段階となったら家庭裁判所へ任意後見監督人の選任の申立てを行い、選任後に任意後見制度の効力が発生します
参考文献 岡村美保子「成年後見制度」『少子化・高齢化とその対策 : 総合調査報告書 (調査資料 ; 2004-2)』国立国会図書館調査及び立法考査局, 2005, p.198-209.【DC721-H4】
禁治産者制度と成年後見制度との違い
成年後見制度は、利用者が少なかった禁治産者制度を大幅に見直す形で制度がつくられています。主な違いは以下です。
・補助人制度の開始 | 禁治産者制度では軽度の判断能力に欠ける人には禁治産者制度の適用ができなかった。成年後見制度では軽度の方向けに補助人制度が設置され、制度がより柔軟になった。 |
・浪費者の削除 | 禁治産者制度では浪費者が準禁治産者に該当。成年後見制度では浪費者は補助対象者にはならない。ただし、認知症などの症状として見られる場合は医師の判断による。 |
・戸籍記載の削除 | 禁治産者制度では禁治産者及び準禁治産者は戸籍に記載された。成年後見制度では戸籍記載はない。 |
まとめ
禁治産者制度は現在の成年後見制度の前身ですが、問題点も多かったことから現在は廃止されています。一方の成年後見制度は高齢化社会の日本において大きな役割を果たしており、ご本人の保護や財産を守るだけではなく、相続などの場面においても欠かせない存在となっています。
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戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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