相続税の申告は、多くの相続人がはじめて経験することであり税額が多額になることへの不安から、約9割の人が税理士に依頼をして行っています。
今回は、税理士へ相続税の申告を依頼するメリットやデメリット、税理士報酬の相場や税理士の選び方等を詳しく紹介します。
目次
相続税申告は税理士に依頼すべき?
相続税の申告は、税理士に依頼すべきなのでしょうか?まずは相続税に関する実態を確認していきましょう。令和5年12月に国税庁により発表された、令和4年分相続税の申告実績の概要によると、下記のように相続税の申告実績が公表されています。
令和3年分 | 令和4年分 | 対前年比 | |
---|---|---|---|
被相続人数(死亡者数) | 1,439,856人 | 1,569,050人 | 0% |
相続税の申告書の提出に係る被相続人数 | 134,275人 | 150,858人 | 4% |
課税割合 | 9.3% | 9.6% | 0.3ポイント |
相続税の納税者である相続人数 | 294,058人 | 329,444人 | 0% |
課税価格 | 185,774億円 | 206,840億円 | 3% |
税額 | 24,421億円 | 27,989億円 | 6% |
被相続人1人当たりの課税価格 | 13,835万円 | 13,711万円 | 1% |
被相続人1人当たりの税額 | 1,819万円 | 1,855万円 | 0% |
※国税庁ホームページより引用
上記のように、被相続人数及び相続人数は増加、かつ相続税額も増加の傾向にある状況です。被相続人1人当たりの税額は、令和4年では1,855万円と、実に大きな負担が相続人には課せられていることがわかります。また、令和5年10月に財務省により発表された、令和4事務年度国税庁実績評価書によると、相続税の税理士の関与割合は、令和4事務年度では85.9%と、約9割の相続税の申告において、税理士の関与があることがわかります。
このように、相続税の申告及び相続税を納めることは、他人事では無く、誰しもが経験する可能性があります。そして相続人になり申告の必要が生じた人のほとんどが、税理士へ関与を依頼し、申告や納税手続きを行っています。
税理士へ関与を依頼することと、自身で申告手続きを行うこととでは、何が違うのでしょうか。詳しくみていきましょう。
税理士に依頼するメリット
税理士に依頼をするメリットとして、下記のものを挙げることができます。
適切な財産評価
各相続人が納めるべき相続税は、各相続人の課税相続財産に対して相続税率を乗じて計算が行われます。つまり、相続税の計算において、課税相続財産の価額の決定は、非常に重要なものです。課税相続財産の価額の決定は、相続財産の種類や額が大きい程、手間がかかるものです。
しかし、一般的に相続財産が普通預金のみである、ということはありません。相続財産には、土地や建物等の不動産、地上権や抵当権等の物権、株式や社債等の有価証券、宝石や書画骨董の動産等、様々なものが含まれます。これらの相続財産の決定は、その財産毎に行います。
特に、土地や建物等の不動産の課税相続財産の価額の決定は、非常に手間のかかるものです。価額の決定に必要な資料として、固定資産税評価証明書、登記事項証明書、実測図等が必要であり、それらを収集することだけでも、各公的機関への問い合わせが必要であり、更にそれらの資料を基に価額を決定する際にも土地の地目や形状、建物の居住状況や用途等によって計算方法が異なります。
これらの課税相続財産の価額の決定のための過程を、専門家である税理士に一任することで、資料の収集や、計算方法を調べること等の手間を、相続人は省略することができます。
無駄のない税額計算
各相続人が納めるべき相続税は、各相続人の課税相続財産に対して相続税率を乗じて計算が行われますが、この課税相続財産の計算過程において、課税価額を減額させることができる控除や特例を適用できる場合があります。更に相続人によっては各種の控除を適用することができ、相続税額を減額させることができます。課税価額を減額することができる控除や特例には、基礎控除、小規模宅地等の特例等があります。
具体的には、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等を相続した場合は、330㎡までの面積については、80%減額されて課税相続財産に算入されます。相続税額を減額させることのできる控除には、未成年者控除、障害者控除、暦年課税に係る贈与税額控除等があります。
これらの控除や特例について、適用できるものを適用せずに相続税の申告をしてしまった場合には、相続税を多く納めることとなってしまいます。また、それぞれの控除や特例には、適用要件が設けられており、要件を満たすことの確認が逐一必要です。
控除や特例の適用の可否の判断を、専門家である税理士に一任することで、無駄のない相続税の計算を行うことができます。
申告書作成代行
相続税の申告と納付は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。申告をしなくて良い場合とは、みなし相続財産の非課税規定を適用した結果、基礎控除額以下の場合や納付税額が発生しないとき、配偶者の税額軽減以外の税額控除を適用した結果、税額が発生しない場合とき、のみであり、相続対策を思案する多くの人は申告が必要と考えて良いでしょう。
相続税の申告書の作成は、国税庁のホームページ等を参照することで相続人が自ら作成することが可能ですが、所得税の申告書の作成よりも難解であり、手間のかかるものです。また、記載を間違えることで、控除や特例を適用することができなくなり、相続税額を多く支払うことになってしまう可能性もあります。
申告書の作成を、専門家である税理士に一任することで、申告期限内に作成をするためのスケジュール管理や、作成方法を調べ漏れなく記載することの手間を、相続人は省略することができます。また、相続税の申告書を提出する際に、遺産分割協議書の添付が必要となる場合があります。
遺産分割協議書とは、被相続人の財産を相続人各個人に分割するための手続きとしての遺産分割協議を書面化したものです。遺産分割協議書は国税庁によって定められた書式があるものではありませんが、相続人が何の知識も無く作成することは、骨の折れる作業です。遺産分割協議書の作成には、遺産分割協議が滞りなく終了している必要がありますが、最も相続人間で揉めるといわれているものが、この遺産分割協議です。
遺産の分割は、遺言書がある場合は、法定相続分にかかわりなくその遺言書の内容通りに財産が分割され、遺言書がない場合は、法定相続分を参考にしながら相続人間で協議し財産が分割されます。相続人間の協議が調わない場合は、家庭裁判所への遺産分割の調停の申立て、さらに調停が成立しない場合は、家庭裁判所への審判の申立てによって、各相続人の取得財産を決定することとなります。
遺産分割協議書の作成のみならず、遺産分割協議書の作成に至るまでの過程に、専門家かつ第三者である税理士が介入することで、相続人間の争いや、遺産分割協議の長期化を緩和することを期待することができます。
税務調査対応
相続税の申告や納税が無事に申告期限内に完了した後も、申告後から約1~2年は税務調査を受ける可能性があります。悪質な申告内容であった場合は、7年も遡求されます。
税務調査とは、納税者の申告が妥当であるかどうかを確認するため,税務調査官が帳簿書類などを検査することです。この調査を受けて、例えば課税相続財産の価額の決定を、間違えて少なく行い、相続税を少なく納付していた場合には、相応する相続税の納付と、延滞税等のペナルティとしての税金を課されることとなります。
税務調査を受ける際には、専門家である税理士を窓口とすることで、調査官の指摘に対して専門知識を用いた理路整然とした対応を行うことができ、はじめて調査に対応をする相続人個人が窓口となることよりも、納得のいく調査内容になることを期待することができます。
税理士に依頼するデメリット
一方で、税理士に依頼をするデメリットとして、下記のものを挙げることができます。
税理士報酬の発生
税理士に相続税の申告に係る一連の手続きを依頼するには、税理士に報酬を支払う必要があります。一般的な相続税の申告内容であれば、おおむね遺産総額の0.5~1.5%が相続税の申告に係る税理士報酬の相場といわれています。
当然ながら、税理士に依頼を行わず、相続人が自身で相続税の申告書を作成すれば、報酬の発生はありません。相続税の負担に加えて、金銭的な負担が生じることが、デメリットのひとつであるといえます。
相性の不一致
税理士に限らず、専門家を利用する際には、その専門家のもつ専門知識が、求める人にとって充分であるか、という点は非常に大切なことです。また、専門知識が充分であっても、対応の態度や連絡の頻度等、負担のないやりとりができるかという点で、相性が合うかということも重要です。
相続人が期待する知識や対応を得られない場合には、税理士に依頼を行っても納得のいく相続にならない可能性があります。相性の合わない税理士に依頼してしまった場合には、対応の過程で、相続に関する精神的負担が生じることも、デメリットのひとつであるといえます。
税理士に依頼すると良い人とは
令和4事務年度では、約9割の相続税の申告において税理士の関与があるという実績のとおり、多くの相続人がメリットとデメリットを比較検討したうえで、相続税の申告を税理士に依頼することを選択しています。つまり、税理士に依頼すると良い人とは、ほとんどの相続人であるといえます。
しかしながら、税理士に依頼することで得られるメリットが少ない相続人もいます。それは、不動産が遺産にない場合や、遺産が少ない場合です。不動産が遺産にない場合は、手間のかかる、課税相続財産の価額の決定をする必要がないため、税理士に依頼することで得られるメリットが少なくなります。
専門家の知識を用いずに相続人が自身で課税相続財産の計算をすることの難易度が、不動産が遺産にある場合よりも、大幅に低くなります。遺産が少ない場合は、遺産分割協議が滞りなく終了しやすく、第三者の介入を要さないため、税理士に依頼することで得られるメリットが少なくなります。
更には、遺産が少ない場合にはそこから算出される相続税額も少なくなるため、控除や特例の適用を適用の可否の判断を誤ったことによる税額への影響や、税務調査を受けて支払うこととなった延滞税等が、遺産が多い場合よりも低くなるため、税理士に依頼することで得られるメリットが少なくなります。
このように、税理士に依頼することで得られるメリットが少ないと考えられる場合には、国税庁のホームページを参照する、税務署に問い合わせを行う等をしながら、相続人自身が申告書を作成することが、最も負担のない手続き方法になることもあります。
相続税申告における一般的な料金体系
おおむね遺産総額の0.5~1.5%が相続税の申告に係る税理士報酬の相場といわれていますが、一般的な料金体系は、基本報酬に個別的な事情を加味した加算報酬を上乗せしたもの下記になっています。
基本報酬
基本報酬とは、加算報酬に該当をするような事例を加味せずに、一律に発生する税理士報酬のことをさします。この基本報酬は、遺産総額に対しての割合や定額で示している税理士事務所が多いです。
現在は税理士毎に報酬を定めることができましたが、過去には税理士報酬は税理士法に定められていました。平成14年3月税理士報酬規定では、相続税の税理士報酬は基本報酬額に10万円に遺産の総額により定められた税務代理報酬を加えたものであり、遺産総額が5,000万円であった場合には、10万円に20万円を加算した30万円でした。
20年以上前に定められた税理士報酬規程であること、消費税率や物価の上昇等を加味すると、基本報酬は遺産総額が5,000万円であった場合には、税理士報酬が25万円~75万円が相場であることは妥当であるといえるでしょう。
加算報酬
加算報酬とは、基本報酬に加えて発生する税理士報酬のことであり、一般的な相続税申告よりも手間がかかることに対する人件費等のことをさします。基本報酬に含まずに加算報酬とする、という判断基準は税理士事務所によって異なりますが、加算報酬として基本報酬に含まずに個別的な事情として取り扱いの多い項目は、下記のもの等があります。
- 相続財産に土地が含まれる場合
- 相続財産に非上場株式が含まれる場合
- 相続人の人数が複数の場合
- 申告期限が迫ってからの依頼の場合
- 現地調査や訪問時の旅費や交通費の実費
- 戸籍謄本取得や残高証明書の取得のための郵送料の実
相続税申告で税理士を選ぶポイント
相続税の申告を依頼するにあたり、どのような税理士を選択すると良いのでしょうか。検討するためのポイントを紹介します。
サービスと税理士報酬
税理士に申告を依頼することで、相続人の手間が削減されることや、税額計算に対する不安が解消されることに対するメリットがある一方で、税理士報酬が発生するというメリットがあります。
メリットである士業サービスを受けるにあたり、その受けるサービスの質が良く、量が多い程、税理士報酬が高くなることが一般的です。質の良い、かつ量の多いサービスをなるべく安価で受けたいというのは誰しもが考えることですが、安価であることばかりを重視すると、受けるサービス及び税理士の選択を誤ってしまうことが多いです。
まずは、相続人が受けたいサービスの内容をしっかりと確認をすることが必要です。遺産の内容を確認し、相続税申告及び納税までにどのような作業が必要なのか把握をします。
遺産の内容の確認の仕方や作業内容の確認の仕方等、相続税申告に関しての知識の習得から税理士に依頼をし、サービスを受けることが最も安心ですが、税理士報酬を節約したいと考えるのであれば、受けるサービスを減らして、相続税申告に関する手続きをできるだけ相続人自身が行うことが必要です。
しかしながら、相続人自身が行う予定で作業を進めたものの、思うように進まずに申告期限が迫ってから税理士に依頼を行う場合には、加算報酬として通常よりも多くの税理士報酬の請求を受け、結果として多額の税理士報酬が発生する場合もあります。
次に、税理士事務所が掲げるサービスごとの税理士報酬の確認をすることが必要です。料金体系のうち、基本報酬は遺産のどのくらいの割合なのか、基本報酬に含まれるサービスはどの範囲なのか、加算報酬に該当する事項は何があるのか、等を調べます。
安価であることだけで税理士を選択すると、期待するサービスを受けられないことや、申告内容の質が悪いこと等、いわゆる安物買いの銭失い、になりかねないので、注意が必要です。また、サービスごとの料金体系を確認しないと、税理士事務所のホームページに相場と離れた安価な相続税申告書作成報酬を掲げていても、その作成報酬以外の相談料や遺産分割協議書は別途請求となり、総額では相場より多額の税理士報酬を支払うこととなってしまう場合もあります。
相続に強い税理士
質の高いサービスを受けたいと考える場合には、相続に強い税理士を選択すると安心です。相続に強い税理士とは、税理士試験の合格科目は、相続税法である人や相続税の申告実績が豊富な人等が該当します。税理士にはそれぞれ得意分野がありますし、全ての税理士が申告業務に携わっているとは限りません。
税理士事務所をもち相続人等の一般の人の申告業務を行っている人もいれば、コンサル会社をもちコンサルティング業務を行っている人、企業に所属し財務部に所属している人等、税理士の働き方は様々です。同様に、税理士の資格取得をしている人も、税理士試験の合格者、税理士試験の試験科目のすべてを免除された人、弁護士等、その資格取得に至る過程は様々です。
このような多岐に渡る税理士から相続に強い人を選択するには、税理士の資格取得を試験合格によって行い、その合格科目に相続税法が含まれている人を選択することが方法として挙げることができます。税理士試験に合格するにあたり、相続税法を受験科目として選択することは必須ではありません。税理士試験は合格必須科目と、選択科目があり、相続税法はその選択科目の中のひとつの科目であるためです。
相続税法を受験し合格せずとも、税理士であれば相続税の申告書を作成することができますが、相続税法の合格は相続税の申告書の作成について、学習し知識があることの証であるともいえます。税理士の経歴や合格科目は、税理士によってはホームページ等で行っているので、確認をすることができます。しかし、相続税法の合格だけが、相続税に強い税理士ではありません。
相続税法に数十年前に合格し、以来相続税の申告は業務として行っていない税理士、コンサル業務等に従事し申告作業の経験が浅い税理士等は、相続税に強い税理士とはいえません。相続税法に合格をしていない場合であっても、直近の相続税の申告実績がある税理士の方が、近年の法律に詳しく相続税に強い場合があります。
相続税の申告実績は、相続に強い税理士として営業を行っている税理士事務所では、ホームページ上で件数やお客様の声等で確認をすることができます。
相性の一致
相続税を依頼する場合、申告期限である被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月のみならず、税務調査対応まで含めると、数年に渡る付き合いとなります。数年に渡る気持ちの良い付き合いを行うには、相続人と相性の一致をする税理士を選択する必要があります。
相性は様々な面からはかることができます。年齢や性別、話やすさ等の個人的な相性のみならず、相続人の居住地域から税理士事務所が近い必要があるか、連絡方法は電話なのかメールなのか、連絡頻度はどのようなものなのか等の申告業務に附帯する相性もあります。
これらをホームページ等で確認することは、職員紹介やブログ等のページで察することはできますが、実際に会って話をすることが確実です。電話での問い合わせを行う、無料の初回相談を利用してみる等、直接繋がりを持つことが安心した税理士選びに繋がります。
無料の初回相談を設けている税理士事務所であれば、その相談時に手続きや税理士報酬の確認をすることができるので、初回相談の予約を行い利用することをおすすめします。
まとめ
相続税の申告は、多くの相続人が税理士に依頼をしたうえで行っています。他の税金よりも多額になりやすいことから、慎重に確実な申告を行いたいと考える人が多いのでしょう。確実な安心した納税を行うことができることが、税理士に依頼を行うメリットですが、それには税理士報酬の発生というデメリットが伴います。
いかにそのデメリットを緩和するかが、申告を行う相続人の負担を少なくするポイントになります。税理士報酬の支払いにあたり、適切な申告内容で十分なサービスを受けられたうえで、納得のいく報酬額を支払うことが大切です。
弊社では、ライトプラン、ベーシックプラン、プレミアムプランと、料金体系をサービス内容別に設けています。遺産総額が5,000万円であった場合の税理士報酬は、20万円~60万円です。どのプランが最適であるか等のご相談は、1時間まで初回相談を無料で行っております。
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戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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