相続や贈与が発生した際に算出し申告を行うことはもちろんのこと、将来相続税や贈与税がどの程度発生するのかを予測することは、農地の2020年問題や後継者問題を考えるうえで非常に大切なことです。
相続税や贈与税の計算対象となる農地の評価額は、明確な数字が外部から与えられるものでは無く、自身で算出を行わなければならず、様々な項目に留意をして行う必要があります。
今回は農地、生産緑地の評価方法をご紹介致します。
目次
土地の評価方法は2種類
相続税や贈与税の計算を行うためには、その計算対象となる財産の評価をする必要があります。
土地を評価する場合には、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価を行います。
その評価方法には路線価方式と倍率方式があり、今回の記事では路線価方式による農地、生産緑地の評価方法をご紹介していきます。
路線価方式
路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。
路線価方式による土地の評価は、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率等の各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて評価額を計算します。
路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことであり、例年7月に国税庁により発表がされています。
倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。
倍率方式による土地の評価は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を計算します。
一定の倍率とは、その土地ごとに定められた率のことであり、路線価と同様に国税庁により発表がされています。
農地の区分
土地を評価する場合には、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価を行い、更に田や畑等の農地の評価は、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地に細分をして評価を行います。
純農地とは
純農地とは、一般に宅地の影響を受けない農地のことです。
下記の農地が該当をします。
- 農用地区域内にある農地
- 市街化調整区域内にある農地のうち、第1種農地又は甲種農地に該当するもの
- 上記に該当する農地以外の農地のうち、第1種農地に当てはまるもの
中間農地とは
中間農地とは、都市近郊にある農地であり、純農地よりも農業政策上の規制が緩く、売買が純農地よりも多く行われる可能性が高い農地のことです。
下記の農地が該当をします。
- 第2種農地
- 上記に該当する農地以外の農地のうち、近傍農地の売買実例価額、精通者意見価格等に照らし、第2種農地に準ずる農地と認められるもの
市街地周辺農地とは
市街地周辺農地とは、市街地に近接する宅地化傾向の強い農地であり、付近の宅地価格の影響により、宅地の価額に類似する価額で取引される農地のことです。
下記の農地が該当をします。
- 第3種農地
- 上記に該当する農地以外の農地のうち、近傍農地の売買実例価額、精通者意見価格等に照らし、第3種農地に準ずる農地と認められるもの
市街地農地とは
市街地農地とは、市街化区域の農地であり既に宅地転用許可を受けた農地のことです。
下記の農地が該当をします。
- 農地の転用の制限、又は、農地又は彩草放牧地の転用のための権利移動の制限に規定する転用許可を受けた農地
- 市街化区域内にある農地
- 農地法等の規定により、転用許可を要しない農地として都道府県知事の指定を受けたもの
区分ごとの評価方法
純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の評価方法は、その区分ごとに下記のように評価を行います。
純農地、中間農地
純農地、中間農地の土地の価額は、倍率方式によって評価をします。
市街地周辺農地
市街地周辺農地の土地の価額は、その農地が市街地農地であるとした場合の価額の80%に相当する金額によって評価をします。
市街地農地
市街地農地の土地の価額は、宅地比準方式又は倍率方式により評価をします。
宅地比準方式と倍率方式のどちらを採用すべきかについては、国税庁が公表している評価倍率表を参照することで判断をすることが出来ます。
土地の所在地の固定資産税評価額に乗ずる倍率等の欄に比準、市比準、周比準、と記載がある場合には宅地比準方式、中、純と数字が並んで記載がある場合には倍率方式を用います。
宅地比準方式は、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1㎡当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて評価額を計算します。
造成費とは
造成費とは、宅地転用許可を受けた農地である市街地農地を宅地に転用する場合に必要となる整地、土盛り等の費用のことです。
この造成費の金額は、その費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに、路線価と同様に国税庁により発表がされています。
この金額は平坦地と傾斜地の区分により細かく定められています。
例えば神奈川県では、令和2年分の造成費については下記のように定められています。
①平坦地の整地費…整地を必要とする面積1㎡当たり700円
平坦地とは、傾斜度が3度以下の土地です。
傾斜度は原則として、測定する起点は評価する土地に最も近い道路面の高さとし、傾斜の頂点は、評価する土地の頂点が奥行距離の最も長い地点にあるものとして判定します。
整地費とは、凹凸がある土地の地面を地ならしするための工事費又は土盛工事を要する土地について、土盛工事をした後の地面を地ならしするための工事費をいいます。
ます。
②平坦地の伐採、伐根費…伐採、抜根を必要とする面積1㎡当たり1,000円
伐採、抜根費とは、樹木が生育している土地について、樹木を伐採し、根等を除去するための工事費をいいます。
③平坦地の地盤改良費…地盤改良を必要とする面積1㎡当たり1,800円
地盤改良費とは、湿田など軟弱な表土で覆われた土地の宅地造成にあたり、地盤を安定させるための工事費をいいます。
④平坦地の土盛費…他から土砂を搬入して土盛りを必要とする場合の土盛り体積1㎥当たり6,900円
土盛費とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さまで搬入した土砂で埋め立て、地上げする場合の工事費をいいます。
⑤平坦地の土止費…土止めを必要とする場合の擁壁の面積1㎡当たり70,300円
土止費とは、道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高さまで地上げする場合に、土盛りした土砂の流出や崩壊を防止するために構築する擁壁工事費をいいます。
⑥3度超5度以下の傾斜地…面積1㎡当たり18,600円
⑦5度超10度以下の傾斜地…面積1㎡当たり22,800円
⑧10度超15度以下の傾斜地…面積1㎡当たり34,900円
⑨15度超20度以下の傾斜地…面積1㎡当たり49,500円
⑩20度超25度以下の傾斜地…面積1㎡当たり54,700円
⑪25度超30度以下の傾斜地…面積1㎡当たり57,900円
生産緑地の評価
生産緑地の価額は、その土地が生産緑地でないものとして評価した価額から、課税時期から買取りの申出をすることが出来ることとなる日までの期間別に、それぞれの割合を乗じて計算した金額を控除した金額により評価します。
生産緑地とは市街化区域内の農地のうち生産緑地地区に指定をされたものであり、指定を受けるとその生産緑地について建築物の新築、宅地造成等を行う場合には、市町村長の許可を受けなければならないこととされています。
更にこの許可は、農産物などの生産集荷施設や市民農園の施設などを設置する場合以外は、原則として許可されないことになっています。
このような制限がある一方で、生産緑地には買取りの申出の制度が設けられています。
その生産緑地の指定の告示の日から起算して30年を経過したとき又はその告示後に農林漁業の主たる従事者が死亡した場合等には、生産緑地の所有者は、市町村長に対してその生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることが出来ることになっています。
生産緑地の詳細については下記コラムをご参照ください。
課税時期において買取りの申出をすることが出来ない生産緑地の場合の割合
課税時期から買取りの申出をすることが出来ることとなる日まで、申出が出来ないことでの土地の利用方法に制限がある等に対しての考慮として、その期間によって下記のように減額の割合が定められています。
①5年以下…10%
②5年超10年以下…15%
③10年超15年以下…20%
④15年超20年以下…25%
⑤20年超25年以下…30%
⑥25年超30年以下…35%
課税時期において市町村長に対し買取りの申出が行われていた生産緑地又は買取りの申出をすることが出来る生産緑地の場合の割合
課税時期において買取りの申出が行われていた生産緑地、買取りの申出をすることが出来る生産緑地についても減額の割合が定められています。
その割合は5%です。
買取りの申出に対して制限は無いものの、生産緑地を買い取ってもらう場合には一定の手続を行う必要があり、さらにある程度の期間を要する等により、一定の考慮がされているといえます。
まとめ
上記のように、農地はその農地の区分により評価方法が異なるため、まずは農地の評価を行うためにはその農地の区分を判定することが必要です。
生産緑地は市街化区域内の農地のうち生産緑地地区に指定をされたものであることから、市街化農地に該当をします。
まず市街化農地として評価を行い、これに買取りの申出が出来るまでの期間に応じた割合を差し引いたものが生産緑地の評価額です。
つまり生産緑地の評価には、その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額、その農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1㎡当たりの造成費に相当する金額、地積、課税時期から買取りの申出をすることが出来ることとなる日までの期間、のそれぞれの正しい算出が必要です。
この複数の項目の正しい算出が必要であることが農地の評価を複雑にしているともいえます。
農地の評価についてお困りのことがございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。