遺産を分けること行為を遺産分割といいます。遺産のうち誰がどの資産を取得するか、ということは相続人が複数いる場合においては往々にして、と決まらないものです。
このように相続人間で誰がどの資産を取得するかが決まりにくい場合は、相続が争いごとのような争続になる前に、代償分割という方法で遺産を分ける方法が簡単で効果的です。
今回は代償分割について解説していきます。
遺産分割とは
遺産分割とは
相続が開始をされると、被相続人の財産は、ひとまず相続人全員の共有財産となり、その後、相続人全員が具体的にその財産を各人ごとに分けることになります。この分ける行為を遺産分割といいます。
相続税の申告及び納税期限は、その相続があったことを知った日から10ヶ月以内です。その申告及び相続税の算定のためには遺産分割が済んでいることが必要です。遺産分割の協議の相続人間の合意が得られずに申告や納税を行うことも可能ですが、出来る限り早期に遺産分割協議を相続人間で済ますことが望ましいです。遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行われます。
この遺産分割は、相続人間の合意があれば、民法で定められている遺産分割の割合である法定相続分や遺言書によって被相続人が相続人の相続分を指定した指定相続分と異なった分割を行うことが出来ます。
遺産分割の種類
被相続人が遺言で遺産の分割を禁じた場合を除いて、共同相続人はいつでも遺産の分割をすることが出来ます。遺産分割の種類には、現物分割、代償分割、換価分割があります。
① 現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま分割する方法で、分割の原則的な方法であり、多くの相続がこの現物分割によって行われます。
② 代償分割
代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの一人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した人が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法です。
③ 換価分割
換価分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの一人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法です。
詳しくは下記コラムをご参照ください。
代償分割のメリット、デメリット
メリット
代償分割は、現物を相続人全員が合意をする方法で分けることが難しい場合に行われます。建物や土地等、評価額が高額でありかつ実物を細かく分けることが困難である資産が相続財産に含まれる場合に、代償分割が選択されます。代償分割を行うメリットをご紹介いたします。
① 現金以外の財産を残しやすい
建物や土地等の評価額が高額な相続財産に含まれる場合、建物を取得する相続人、土地を取得する相続人、と1人が1つの現物資産を受け取るには、法定相続分と比較をすると取得する財産が高額となる人、少額となる人が発生してしまい、問題が生じることが往々にしてあります。そのため建物や土地等の現物分割を行うためには、その名義を共有名義にし、法定相続分に近い分割をする方法がとられます。
しかし、共有名義の建物や土地は、その後の資産管理において相続人間で意見が分かれた場合、例えばある相続人は被相続人の家を残したいと考えるが、ある相続人は家を残す必要は無いため処分をしたい等の場合において、名義を持つ相続人間での協議が必要となります。ところが代償分割により被相続人の家を残したいと考える人が建物を取得した場合には、その名義が1人のものとなるため、その処分の要求を受ける必要はありません。
このように、財産を残したいと考える際には、代償分割を選択することがメリットとなります。
② 相続人間の取得財産の公平性が保ちやすい
上記①でご紹介しましたように、現物資産を受け取るには、法定相続分と法定相続分と比較をすると取得する財産が高額となる人、少額となる人が発生する場合があります。
これに対して現物分割を行い共有名義にすることも公平さを保つひとつの方法ですが、建物や土地の保有を望まない相続人がいる場合もあります。そのような場合には、現物を取得する相続人代表者以外が他の相続人に対して現金を配分する代償分割が、誰の目から見ても公平な配分であり効果的であるといえます。
このように、公平性を保ちたいと考える際には、代償分割を選択することがメリットとなります。
③建物や土地の有効活用がしやすい
上記①では建物や土地等の財産を残したい相続人に対するメリットでしたが、一方で建物や土地等を賃貸物件に転用したい場合、処分をしたい場合にも代償分割は有効です。
上記①でご紹介しましたように、共有名義の建物や土地は、その後の資産管理において相続人間で意見が分かれた場合、例えばある相続人は被相続人の家を残したいと考えるが、ある相続人は家を残す必要は無いため処分をしたい等の場合において、名義を持つ相続人間での協議が必要となります。ところが代償分割により被相続人の家を賃貸物件に転用したい、処分をしたいと考える人が建物を取得した場合には、その名義が1人のものとなるため、その処分の要求を受ける必要はありません。
このように、財産を有効活用したいと考える際には、代償分割を選択することがメリットとなります。
デメリット
上記のようなメリットがある一方で、代償分割にはデメリットもあります。代償分割を行うデメリットをご紹介いたします。
①代償金を支払うための資金が必要
- 代償分割を行うためには、遺産を取得する相続人代表者が、他の相続人に対して現金を配分する必要があります。
- 建物や土地等の評価額が高額な相続財産に含まれる場合、相応の資金が必要となります。
- 手元の資金や相続財産の現金預金では代償金の支払いが行えない場合には、別途借入を行う必要もあります。
- 借入を行えば支払利息等の負担が生じます。
このように、多額の資金が必要となることが、代償分割を選択するデメリットとなります。
②代償金の算定が難しい
代償分割を選択する多くの場合には、相続財産に不動産が含まれます。
不動産の評価額の算定方法には相続税評価額や時価、家賃収入等の期待収益を考慮に入れて評価する方法など、様々なものがあります。相続税の算定上は、支払うべき相続税を低くすべく不動産の評価額は低い方が望ましいと相続人全員が考えますが、代償金の算定上は、不動産の評価額が高い程、不動産を取得しない相続人に配分される代償金額が高くなるため、不動産の評価額は高い方が望ましいと考える相続人もいます。
よって不動産の評価額については、低く算定したい資産を取得した相続人代表者と、高く算定したい他の相続人間で意見が一致しない場合があります。
このように、代償金の算定が難しいことが、代償分割を選択するデメリットとなります。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人間で遺産分割が成立した場合、それらの意思を確認するために作成される書類です。
相続人全員の合意に基づいて作成し、署名かつ実印で押印した遺産分割協議書は、遺産分割に関するトラブルを未然に防ぐ役割のある書類として、取得した財産の名義を被相続人から相続人に変更をするための書類として、また相続税の申告書に添付をする書類として必要です。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書は、相続税の申告書のように定められた書式に必要事項を記載するものではなく、遺産分割協議書に記載すべき内容が網羅されていれば良いものであり、書式は定められていません。書式は定められてはいませんが、国税庁によって公表をされている記載例等を参考にすることが出来ます。
遺産分割協議書の記載必須項目
どのような遺産の種類、分割の方法であっても、必ず記載が必要となるものは、下記のものになります。
- 被相続人情報…名前、住所、本籍地、生年月日、死亡日
- 財産情報…被相続人が保有をしていた預金や不動産等の全ての財産
- 相続人情報…相続人の名前、被相続人との続柄、住所、本籍地、生年月日、各相続人が取得した財産の内容
- 日付…遺産分割協議書を作成した日付
- 署名押印…相続人全員の自著による署名、実印による押印
財産情報の記載方法
財産毎に記載が必要です、具体的な記載内容をいくつかご紹介いたします。
- 預貯金…金融機関名と預金口座番号、残高を記載します。
残高の記載には被相続人の預金の残高証明書が必要です。
- 株式…有価証券の名称と口数を記載します。
名称や口数の記載には証券会社が発行する残高証明書が必要です。
- 不動産…土地や建物等の不動産は、登記簿謄本の内容を記載します。
そのため記載には法務局が発行をする登記簿謄本が必要です。
代償分割における遺産分割協議書の注意点
代償分割における遺産分割協議書では、代償金の支払いについて記載をする必要があります。具体的には、代償金を支払う相続人代表者が相続人の誰に対して何円を支払うのか、また支払期限、支払方法を明記します。
この記載が遺産分割協議書に無い場合は、相続人代表者が代償金を支払う際に、相続を起因したものでは無く、別途の贈与があったものとみなされてしまい、贈与税の課税対象となる場合がありますので、必ず記載をします。
代償金の支払い方
支払日の設定
代償金の支払は一括払い、分割払いの両方が認められています。よって相続開始後何日以内に代償金の支払いを終える必要がある等の支払日に制約はありません。
しかし分割払いや、支払期限を長く設定している場合には、将来的に代償金が支払われないリスクが、代償金を受け取る相続人に発生します。
現金以外の代償金
代償金は原則現金ですが、他の譲渡が可能な財産である代償財産でも認められています。
しかし代償財産として、相続人に不動産や株式を譲渡した場合には、その譲渡は代償財産を渡した日の時価による収入があったとして、譲渡所得税の課税対象となるため注意が必要です。
代償分割の事例
事例の前提
相続が発生し、遺産の分割方法において代償分割が選択される際の、遺産分割から相続税の算出、代償金支払いまでの過程を事例でご紹介いたします。
今回の事例の前提は、被相続人である夫の遺産は預金1,000万円と、投資用建物5,000万円の遺産総額6,000万円であり、相続人は婚姻関係のある妻と実子の20歳未満の子供2人とし、遺産の分割は法定相続分で分けることとします。
代償分割による遺産の分割
遺産の分割を法定相続分で分割するにあたり、この事例での各人の法定相続分は妻が遺産の1/2、子供がそれぞれ1/4ずつとなります。
この遺産の分割に妻と子供2人の全員の合意が得ることが出来れば、この現物分割を行うことに差支えは無いですが、妻は夫の遺産である投資用建物は処分せず残しておきたいと思う一方で、子供2人は将来的に処分したいと考えている場合には、後々共有名義であることが問題となってしまいます。
このような問題を防ぐために代償分割を選択することが出来ます。
妻が投資用建物を処分せず残しておきたいと考えているため、相続人の代表者として妻が預金1,000万円と投資用建物5,000万円の全ての遺産を取得し、代償金を子供2人に支払うとすることが有効です。
相続税の申告、納税の必要性の判定
遺産の分割方法が上記のように決定し、遺産分割協議書が作成することが出来た後、相続税の申告、納税を行います。相続税の申告、納税が必要となるのは、相続税の算定における各種特例を利用したい場合及び相続税が課税される場合です。
今回の事例では遺産総額6,000万円に対して基礎控除額が4,800万円であるため、相続税の課税対象となり、申告及び納税が必要となります。申告及び納税は、夫が死亡をしたことを知った翌日より10ヶ月以内に行う必要があります。
各人の相続税額
妻の場合
まず妻は遺産総額6,000万円を取得し、子供2人に1,500万円ずつ計3,000万円の代償金を支払う必要があることから、これらを差し引いた3,000万円が妻の課税価格となります。この3,000万円が相続税の課税対象となりますが、妻が取得する遺産には配偶者の税額の軽減が適用することが出来ます。
配偶者の税額の軽減とは1億6,000万円又は配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までについては、配偶者に相続税が課税されないというものです。よって妻が取得する財産に対する相続税額は0円となります。
子供の場合
子供は遺産を相続せずに、妻から1,500万円の代償金を受け取ることから、この1,500万円が子供の課税価格となります。1,500万円に対する相続税額は、税率15%を乗じて控除額50万円を差し引いた金額であり、子供1人当たりの相続税額は175万円、よって2人合計で350万円となります。
代償金の支払いを遺産分割協議書に明記をしなかった場合
代償金の支払いについて遺産分割協議書に記載が無い場合は、相続人代表者である妻が代償金を支払う際に、相続を起因したものでは無く、別途の贈与が子供2人にあったものとみなされてしまい、贈与税の課税対象となる場合があります。
子供1人につき1,500万円の現金の贈与を一括で行った場合には、1,500万円から110万円を差し引いた1,390万円が課税対象となります。1,390万円に対して贈与税率45%から控除額175万円を差し引いた450.5万円が贈与税となり、よって2人合計で贈与税額は901万円となります。
贈与税の申告及び納税は贈与があった年の翌年3月15日までに行う必要があります。
代償金の支払いのために保有資産を売却した場合
代償金の支払いを妻が手元現金や借入を行った現金で支払う場合には、特段の問題は生じませんが、この支払の資金を捻出するために相続開始以前から保有していた妻名義の投資用不動産を売却した場合には、投資用不動産の譲渡に対する所得税が課税されます。
子供2人に1,500万円ずつの現金を支払うために、取得費が2,000万円の投資用不動産を、3,000万円で売却をしたと仮定します。譲渡所得税の課税対象となる譲渡所得は、売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算を行います。
取得費とは
取得費とは、売った建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費等も含まれるものです。購入代金が記載された契約書を紛失している、先祖伝来のものである等により取得費が不明の場合には、これに代えて売却価額の5%を取得費とすることが出来ます。
また建物の場合には取得費の算定にあたり、購入代金等の合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります。今回の事例では減価償却費相当額を差し引いた後の投資用不動産の価額が2,000万円とします。
譲渡費用
譲渡費用とは、建物を売るために直接かかった費用のことです。今回の事例は計算の都合上譲渡費用は無かったものとしますが、下記のものが譲渡費用に該当をします。
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
- 土地等を売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
- 既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料等
支払うべき譲渡所得税
譲渡所得税の課税対象となる譲渡所得は、売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算を行うことから、今回の事例では取得費が2,000万円の投資用不動産を、3,000万円で売却をした差額の1,000万円が譲渡所得の課税対象です。
今回の事例の投資用不動産は所有期間5年を超えて売却をしたと仮定をすると、1,000万円に15%を乗じた150万円が、妻が納付すべき譲渡所得税額となります。所得税の申告及び納税は、投資用不動産を売却した年の翌年3月15日までに行う必要があります。
代償金の支払いを代償財産で行った場合
代償金の支払いに現預金を充てることが出来ず、代償財産を代償金に用いる場合にも、その代償財産の受け渡しは譲渡とみなされ、譲渡に対する所得税が課税されます。
今回の事例で相続開始以前から保有していた妻名義である取得費が1,000万円の投資用不動産を、時価1,500万円であると判断することが出来たため、子供1人の代償金に充てることとします。上記の譲渡と同様に取得費は減価償却費相当額を差し引いた後の金額とし、譲渡費用は無いものとすると、譲渡所得は1,500万円と1,000万円の差額である500万円です。
今回の事例の投資用不動産は所有期間5年を超えて売却をしたと仮定をすると、500万円に15%を乗じた75万円が、妻が納付すべき譲渡所得税額となります。
まとめ
上記のように、代償分割は、遺産の分け方がなかなか決まらない場合や、現物を残したい場合等において、遺産を一時的に全部取得する相続人代表者に代償金を支払う資金力がある際には、とても有効な遺産分割方法です。また、事業承継が行われる相続においても、先代の遺産を分散させずに次期の事業主に遺産を集中させて保有させたい場合にも有効です。
このようにメリットが沢山ある代償分割ですが、遺産分割協議書の書き方や代償金の支払いには注意が必要であり、場合によっては相続税以外の贈与税や譲渡所得税の支払いが求められる場合もあります。必ずしもメリットだけではないため、デメリットにもよく留意をする必要があります。
このことから、遺産の分割の方法は、遺産を取得した後の活用方法や、相続税の負担、贈与税や譲渡所得税の負担等、総合的な観点から検討を行い選択する必要があります。これらの検討を含め、相続税の申告や納税を、相続人の死亡を知った日から10ヶ月以内に行わなくてはならないところが、相続税の難しいところでもあります。
ご不明な点がございましたら、弊社までお気軽にお問合せ下さい。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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