相続税は亡くなった方が努力して残してくれた財産に課税されるものですから、正直嫌だと感じる人もいらっしゃることでしょう。そこでできるだけ課税される財産を減らすために、不動産を利用した相続税対策をしたいという人も少なくありません。
相続税は節税を正しく行なえば効果が出やすい税金ですので、不動産を利用した対策を知っておきたいところですよね。本章では不動産を利用した相続税対策について、詳しく解説していきます。
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
そもそも不動産が相続税対策になる理由とは?
まずは、不動産の購入や賃貸が相続税対策になる理由から説明します。
土地は現金よりも相続税計算上の評価が下がる
相続税計算における土地の評価は、路線価方式でなされるのが通常です。路線価とは、路線に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことです。この路線価は土地の市場価格より、20パーセント程度安いことが多いです。そのため現金で相続するより、同じ市場価格の土地を買った方が、相続税の評価上有利になります。
また土地の所有者が、その土地上の建物を所有しており、かつ、建物が賃貸されている場合には、通達の適用により、相続税の評価上、さらに有利な取り扱いとなります。
建物は現金よりも相続税計算上の評価が下がる
相続税計算における建物の評価は、基準年度における固定資産税評価額となります。一般に、新築時の固定資産税評価額は、実際の建築費の約60パーセント程度の場合が多いといわれています。そのため現金で相続するより、同じ建築費の建物を買った方が、相続税の評価上有利です。
そして、建物が賃貸されている場合には、通達の適用により、相続税の評価上、さらに有利な取り扱いとなります。
地積規模の大きな宅地の評価
地積規模の大きな宅地とは、三大都市圏においては500平方メートル以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000平方メートル以上の地積の宅地のことです。このような宅地については、条件を満たせば、相続税の評価上、路線価よりさらに低い価格で土地が評価されます。
そのため現金で相続するより、同じ市場価格の地積規模の大きな宅地を買った方が、相続税の評価上、有利です。
不動産は現金よりも適用できる特例や控除が多い
相続税の計算上、不動産の評価に適用できる特例や控除は数多くあります。そのため現金で相続するより、同じ市場価格の不動産を購入した方が、相続税の評価上、有利であると言えます。
相次相続控除
今回の相続開始前10年以内に、今回亡くなった方が相続等、もしくは、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し相続税が課されていた場合を考えます。この場合、今回亡くなった方から相続等、もしくは、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除することになります。この控除を、相次相続控除と言います。
相次相続控除を利用できれば、相続税の評価上、有利です。相続時精算課税については、後ほど詳細を説明します。ここからは、不動産を利用した相続税対策について解説していきます。
不動産を利用した相続税対策方法
対策方法1. マンションを購入する
土地と建物は、保有する現金と同じ市場価格のものを購入すると、相続税の評価上、有利になることが通常です。そのためマンションを購入することは、不動産を利用した相続税対策になります。
対策方法2. 購入した不動産を賃貸にする
不動産を賃貸すると、財産評価基本通達26の適用により土地について、財産評価基本通達93により建物について、それぞれ賃貸していない状態より、相続税計算上の評価が下がります。そのため購入した不動産を賃貸にすることは、不動産を利用した相続税対策になります。
対策方法3. 土地の減価要因を漏らさず把握する
土地は、間口が狭い・奥行が長い・形が悪いなどの性質をもつものだと、そうでない土地より、相続税上の評価が下がります。実地調査によって、土地の減価要因をしっかりと調べることが非常に重要です。土地の減価要因を漏らさず把握することは、不動産を利用した相続税対策になります。
対策方法4. 生前に住宅取得等資金を贈与し、相続する額を減らす
平成27年1月1日から令和3年12月31日までに、父母や祖父母などの直系尊属から、自分が住む住宅用の家屋の新築・取得・増改築等の費用にするためのお金を贈与してもらった場合で、一定の要件を満たすときは、最大3,000万円の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。
この制度を利用し、相続開始前に住宅取得等資金を贈与することで、相続税対策になります。
対策方法5. 夫婦の間で居住用不動産、又は、居住用不動産を買うためのお金を贈与した場合の配偶者控除を利用する
結婚してから20年以上の夫婦の間で、居住用不動産、又は、居住用不動産を買うためのお金を贈与した場合、贈与税の基礎控除110万円のほかに、最高2,000万円まで控除(配偶者控除)を受けられます。
この制度を利用し、相続開始前に夫婦の間で居住用不動産、又は、居住用不動産を買うためのお金の贈与を行なうと、相続税対策になります。
対策方法6. 小規模宅地等の特例の適用を受ける
相続により取得した宅地等の中で、その相続開始の直前において、亡くなった方、又は、亡くなった方と同じ生計で暮らしていた亡くなった方の親族が、行なっている事業、又は、居住用にしていた宅地等について考えます。こういった宅地等で特定の条件を満たすものは、その宅地等のうち一定の面積までの部分(これを「小規模宅地等」といいます。)について、相続税計算上の評価が下がります。この特例は、小規模宅地等の特例と呼ばれています。
一定の要件を満たしたときには、その宅地の評価額を最大で80%も減額できます。減額幅が非常に大きいのが、この小規模宅地等の特例の大きな特徴です。非常にややこしいので、詳しく説明します。
小規模宅地等の特例の対象となる宅地の種類
小規模宅地等の特例の対象となる宅地の種類としては、
- 特定居住用宅地等
- 特定事業用宅地等(貸付事業以外)・特定同族会社事業用宅地等
- 貸付事業用宅地等
に分かれます。
特定居住用宅地等
特定居住用宅地等とは、その相続開始の直前において、亡くなった方、又は、亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が住んでいた宅地で、今回の相続によって取得した部分のことです。
亡くなった方が住んでいた宅地
亡くなった方が住んでいた宅地について小規模宅地等の特例を受けるためには、今回の相続によって、配偶者・同居親族・特定の条件を満たした左記以外の親族の内のどなたかがその宅地を取得する必要があります。
この特定の条件とは以下のものであり、これらを全て満たす必要があります。
- 亡くなった方に配偶者がいない
- 亡くなった方と同居している法定相続人がいない
- 今回宅地を取得する人自身が、相続開始前の3年の間に、自分・自分の配偶者・自分の3親等内の親族・自分と特別の関係にある法人の所有家屋には住んでいない
- 相続が開始した時に今回宅地を取得する人が住んでいる家屋を、相続の開始前には所有していたことがない
亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が住んでいた宅地
亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が住んでいた宅地について小規模宅地等の特例を受けるためには、今回の相続によって、その親族自身、又は、亡くなった方の配偶者がその宅地を取得する必要があります。
申告期限までの条件
上記の場合どちらも亡くなった方の配偶者以外が、小規模宅地等の特例を受けるためには、申告期限まで継続して所有し、住み続ける必要があります。亡くなった方の配偶者については、必ずしも、申告期限まで継続して所有し、住み続ける必要はありません。
特定居住用宅地等の特例の限度面積と減額割合
特定居住用宅地等の特例 | |
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限定面積 | 330平方メートル |
減額割合 | 80%ここにコンテンツを記載 |
特定事業用宅地等(貸付事業以外)・特定同族会社事業用宅地等
特定事業用宅地等は、亡くなった方、又は、亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が事業をしていた宅地で、今回の相続によって取得した部分のことです。小規模宅地等の特例を受けるためには、その相続開始の直前において行なわれていたのと同じ事業を申告期限まで継続することやその宅地等を申告期限まで保有していることが必要です。すぐに廃業したり、相続した宅地等を売却したりすると、一部例外を除き、小規模宅地等の特例の対象から外れます。
特定同族会社事業用宅地等は、亡くなった方と亡くなった方の親族と特殊関係人とで、株式等の50%超を所有している会社が事業をしていた宅地で、今回の相続によって取得された部分のことです。
小規模宅地等の特例を受けるためには、その相続開始の直前において行なわれていたのと同じ事業を申告期限まで継続することや宅地等を取得した親族が相続税の申告期限までその会社の役員であり、その宅地等を申告期限まで保有していることなどを満たす必要があります。
特定事業用宅地等(貸付事業以外)・特定同族会社事業用宅地等の限度面積と減額割合
特定事業用宅地等(貸付事業以外)・特定同族会社事業用宅地等の特例 | |
---|---|
限度面積 | 400平方メートル |
減額割合 | 80% |
貸付事業用宅地等
貸付事業用宅地等は、亡くなった方、又は、亡くなった方と同じ生計で暮らしていた親族が貸付事業に利用していた宅地で、今回の相続によって取得した部分のことです。具体的なイメージとしては、賃貸アパートの敷地や貸駐車場・貸駐輪場の土地などです。
ただし、この貸付事業用宅地等の特例を受けるため、生前に駆け込みで賃貸アパートを建てるケースなどが問題視され、平成30年度税制改正で、相続税開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された敷地は、原則として、小規模宅地等の特例の適用を受けられないこととなりました。
小規模宅地等の特例を受けるためには、その宅地等を相続税の申告期限まで有していること等の条件を満たす必要があります。
貸付事業用宅地等の特例の限度面積と減額割合
貸付事業用宅地等の特例 | |
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限度面積 | 200平方メートル |
減額割合 | 50% |
ここまで説明してきた小規模宅地等の特例については、今回記載した事柄以外にも専門知識が必要になりますので、是非、専門家にご相談ください。
不動産を用いた相続税対策の注意点やリスクは?
ここまで不動産を利用した相続税対策について説明してきました。ここからは、不動産を用いた相続税対策の注意点やリスクについて説明します。
そもそもある程度の資金がないと対策できない
不動産を利用した相続税対策は、行なうために高額な不動産を購入することになるケースが多いです。そのため、そもそもある程度の資金がないと、不動産を利用した相続税対策はできないです。
不動産の時価が変動するリスクなどもあるので、不動産を利用した相続税対策はお金に余裕がある人向けの方法であると言えます。
過度な相続税対策は認められない
過度な相続税対策は認められないリスクがあります。相続税には、財産評価を通達通りの基本的な方法で行った時に、評価額が著しく不適当な場合は、国税庁長官の指示を受けて評価する。という財産評価基本通達総則があるからです。
- 通達の評価方法を形式的に適用すると不適当な価格になる場合
- 通達に定められた評価方法のほかに、もっと良い評価方法がある場合
- 通達の評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額の差額が大きすぎる上に、この差額が納税者側の行為によって生まれている場合
このような場合は、国税庁長官の指示を受けて評価されなおすことを、想定しなければいけません。こういったリスクもありますので不動産を用いた相続税対策については、是非、専門家にご相談ください。
不動産賃貸経営に関するリスク
不動産賃貸経営に関しては、以下のようなリスクがあるので注意が必要です。
立地による空室リスク
駅から遠すぎるなど、不動産の立地によって、空室が発生してしまうリスクがあります。
賃料が下落するリスク
空室が続けば賃料を下げて募集せざるを得ないため、空室が賃料の下落を招くリスクがあります。また現在入居中の部屋も賃料が下がる可能性があります。その部屋以外に空室があり、その入居者が払っている家賃よりも低い家賃で募集していると、入居者から値下げの要求がくることも少なくないからです。
修繕リスク
不動産の賃貸人には、修繕義務があります。不動産賃貸経営では、計画的な修繕以外にも、偶発的に壊れたものなどを賃貸人が修繕する必要が出てくるのが通常です。偶発的な損傷は、築年数が経過するほど増えていきます。その分、多額の修繕費がかかってしまいます。
家賃滞納リスク
不動産賃貸経営には、家賃滞納リスクもあります。借主の家賃滞納は、3ヶ月以上続かないと賃貸借契約の解除事由に該当しません。そのため1~2ヶ月程度の滞納では、借主を退去させることができないので注意が必要です。
入居者トラブルリスク
不動産賃貸経営では、入居者トラブルリスクがあります。入居者トラブルは、他の部屋の入居者にも影響を及ぼすため、トラブルメイカーの入居者ではなく理想的な入居者の方が出ていってしまうというケースもあります。入居者トラブルリスクを防ぐには、管理会社にしっかりと入居審査をしてもらう必要があります。
相続時精算課税の概要と注意点
相続時精算課税制度は、原則として、60歳以上の父・母、又は、祖父・祖母から、20歳以上の子、又は、孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
相続時精算課税制度を利用した場合、贈与を受けた人は、2,500万円までの贈与について、贈与税を納めなくてよいことになります。ただし、この制度の贈与者である父・母、又は、祖父・祖母が亡くなった時の相続税の計算には、その贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額を算出しますので、その点には注意が必要です。
また、同制度を選択することで、先述した「小規模宅地等の特例」が利用できないことにも大きな注意が必要です。なお、2,500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税がかかります。この金額は相続税を計算する際に控除されます。
また相続税の計算の結果、相続税の納税を要しない場合でも、遡って贈与税がかかるということはありません。この制度を利用すると、1人の贈与者からの贈与額の合計が2,500万円になるまでは、何回贈与を受けても贈与税はかかりません。
贈与者ごとに別々に利用できるため、2人からそれぞれ贈与を受ければ、最大5,000万円までの贈与について贈与税が発生しないことになります。
相続時精算課税制度は、同じ贈与者からの贈与について、年間110万円迄は贈与税がかからない「暦年贈与」との併用が不可である点にも注意が必要です。ただし選択制なので、例えば祖父からの贈与については相続時精算課税を選択するが、母からの贈与には選択しないということができます。さらなる注意点として、相続時精算課税選択届出書を提出し、一度相続時精算課税の制度の適用を受けると、撤回できないことにもご留意ください。
まとめ
ここまで不動産を利用した相続税対策の理由・計算方法・注意点などについて説明してきました。不動産を利用した相続税対策について、しっかりとイメージできたという人もいらっしゃることでしょう。
不動産を利用した相続税対策には様々な専門的知識が必要になります。そして、相続税は節税を行なえばしっかりと効果が出る税金です。是非、我々専門家にご相談ください。
今回の記事を通じて不動産を利用した相続税対策に関する理解を深めていただければ幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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