相続税は亡くなった方が汗水をたらして働いて稼いだ財産に課税されるものですから、正直疎ましく思うという人もいらっしゃることでしょう。できるだけ支払わなければならない相続税を減らすために、生命保険を利用した相続税対策をしたいと考える人も少なくありません。
生命保険を利用した相続税対策は有効なのでしょうか?有効だとすると、どの程度の有効性があるのでしょうか?本章では不動産を利用した相続税対策について、相続税に関する経験と知識が豊富な税理士が詳しく解説していきます。
目次
そもそも生命保険がなぜ相続税対策になるの?
生命保険とは、死亡または高度障害状態になった場合に、契約者が指定した受取人に対して保険金が支払われる保険のことです。主に残された家族の生活の保障を目的として加入します。生命保険の代表的な種類としては、定期保険・終身保険・収入保障保険があります。生命保険金は相続税の課税対象となります。
しかし、生命保険金の受取人が法定相続人の場合、保険金のうち、500万円×法定相続人の数までは非課税となります。
そのためもしも、非課税になった生命保険金の金額を生命保険金ではなく現金で相続した場合には、より多くの相続税がかかってしまいます。これが生命保険が相続税対策になる最も大きい理由の一つです。ちなみに、この非課税枠を利用するために生命保険に加入する場合、毎月保険料を支払う生命保険商品以外に、まとまった資金があれば一括払いを利用できるタイプの保険商品などもあります。
生命保険を相続対策にするメリット!
いわゆる「争族」を防止できる
遺産が現預金の場合には、相続人全員で遺産分割協議を行ない話をまとめる必要があります。遺産分割協議が終わる迄、亡くなった方名義の口座からは、1円も預金の引き出しをすることができません。
一方、受取人が指定されている生命保険金は、遺産分割の対象ではありませんので、遺産分割協議も必要ありません。受取人が手続きすれば、生命保険金を受け取ることができます。そのため、相続に関するトラブルである「争族」を防止できます。主な相続財産が自宅だけで現預金はほとんどないケースで、長男に自宅を引き継ぎたいという場合にも、生命保険は有効です。
こういった方法を代償分割と言います。長男は自宅を引き継ぐ代わりに、他の兄弟・姉妹は現金を手にすることができるので、やはり「争族」を防止できます。
生命保険の受取人を指定する上で知っておきたいこととしては以下のようなものがあります。
生命保険の受取人は、基本的には、二親等以内まで
生命保険を契約する人は、財産を一番多く残したい人を受取人に設定したいと考えるケースが多いです。しかし、生命保険の受取人は誰でもなれるというわけではありません。生命保険の受取人は、配偶者または二親等以内までの親族とするのが基本的なルールです。
これら以外の人を生命保険の受取人に指定する場合は、特別な事由が必要になります。
受取人は複数でもよい
生命保険では受取人を複数に指定することも可能です。受取人が複数の場合、各受取人の保険金の割合を、それぞれ~%と指定することができます。
受取人の変更方法
一度指定した保険金の受取人を変更したい、と考えるケースもあるでしょう。受取人の変更には、被保険者の許諾が必要になりますが、受取人の許諾は必要ありません。そのため仮に、契約者と被保険者が同一である場合には、受取人を変える上で誰かの許諾を得るという必要はありません。
また、遺言書を用いて受取人の変更を指定することもできます。ただしその遺言書は、法的に正当な形式で作成しなければなりません。是非、専門家にご相談ください。
葬式費用にあてることができる
墓石には相続税が非課税であるため、亡くなる前に用意しておきたいところです。しかし墓石を準備をする前に、突然亡くなってしまうという場合もあるでしょう。そうなると、葬儀費用から墓石代までが一度に必要になります。これらの費用について、亡くなった方の預金を引き出してあてようと考えている人は注意が必要です。
先述したように、亡くなった方の預金口座は遺産分割協議が終わるまで凍結されて、一円も引き出せないのが通常です。そのため、必要な時にお金がないという事態に陥ってしまう場合があります。このようなケースでも、手続きすれば比較的すぐに受け取ることができる生命保険金は、相続対策として有効です。
納税資金を確保できる
仮に相続した財産が不動産ばかりだと、納税資金が不足して、相続した不動産を売却せざるをえないというケースもあります。もしその不動産をすぐに売却できないという場合には、延納になり、延滞税を支払わなければならなくなる可能性もあります。
一方生命保険であれば、手続き後比較的すぐに生命保険金がもらえるため、納税資金を確保できます。
生前贈与にも活用できる
生前贈与は相続人ひとりにつき、毎年110万円までが非課税です。ただし、現金を子や孫に渡すと、無駄遣いをしてしまうことも考えられます。それを防ぐため、子や孫を契約者として貯蓄性のある保険に加入し、毎年の保険料分を贈与税が非課税の範囲で子に贈与し、そのお金で保険料を支払うという方法が考えられます。
この場合、将来子や孫が受け取る生命保険金は、相続税ではなく、子や孫の所得税の課税対象となります。この際の所得の種類は、一時所得です。一時所得に関する所得税の金額は(受け取った死亡保険金-支払った保険料の総額-50万円)×1/2で、多額にはならないのが通常です。
相続税の申告を行なうべき人は2015年の相続税法の改正により増えた
2014年に亡くなった方は127万3004人でした。また相続税の申告数は56,239となり、割合としては亡くなった方の数の約4.4%でした。一方、2017年には亡くなった方が134万0397人に対して、相続税の申告数は111,728となり、割合としては亡くなった方の数の約8.3%でした。
2015年の相続税法の改正の影響により、相続税の申告を行なわなければならない人の割合は増えています。
みなし相続財産
みなし相続財産とは、被相続人が亡くなったことがきっかけで受け取る財産のことです。亡くなった方が持っていた財産ではなく、亡くなるタイミングで保険会社や勤務先から受け取るものをみなし相続財産として捉えてください。みなし相続財産は、民法上、相続で取得したものではありませんが、相続税法上、相続財産とみなされます。
保険金に関するものでみなし相続財産となるもの
生命保険金
相続人その他の人が取得した、生命保険金で、亡くなった方が負担した保険料に対応する部分の保険金は、相続財産とみなされます。生命保険契約等で、保険料を実質的に被相続人が負担しているものについては、みなし相続財産となります。
保険金などを受け取る「定期金の権利」
「定期金の権利」とは、定期金給付契約により、ある期間にわたって、金銭等の給付を受ける権利のことです。現役時代に保険料を支払い、リタイア後に一定期間にわたり年金を受け取る個人年金保険などが該当します。これは本来であれば、相続財産ではありません。しかし、相続財産とみなされます。
解約返戻金や満期保険金などを受け取る「生命保険契約に関する権利」
生命保険に加入している場合には、保険契約者・被保険者・保険料負担者が亡くなった方で、受取人が配偶者・子・孫などになっているケースが多いです。この場合、被保険者が亡くなると、受取人にお金が入ります。受け取った保険金は、受取人の財産になります。
一方、自分以外の人を被保険者にして被相続人が保険料の負担をしていた場合、被相続人が亡くなったとしても被保険者が亡くなったわけではないため、保険金は発生しません。こういったケースでは解約返戻金などを受け取ることになります。
解約返戻金や満期保険料などを受け取る権利を「生命保険契約に関する権利」と言います。なお、解約返戻金以外に支払われる前納保険料や配当金等がある場合には、これらの金額もみなし相続財産となります。
保険金に関するものでみなし相続財産とはならないもの
生存保険金
生存保険金は、年金型の保険など、契約者が生きているうちに支払われる保険金のことです。死亡後に生存保険金が支払われるケースとしては、支払いが死亡後になった場合です。
このようなケースでは、保険金は相続財産となり、みなし相続財産とはなりません。
特約還付金
積立型の保険の場合、被保険者の死亡時に死亡保険金と一緒に還付金が支払われます。この還付金も、みなし相続財産ではなく、相続財産となります。
入院給付金
入院給付金や通院・診断給付金は、被相続人が受取人となっている場合には、相続財産となるため、みなし相続財産とはなりません。
遅延利息
保険金の支払いが遅れた場合に、遅延利息が支払われることがあります。これは受取人の所得であり相続税の対象ではないため、相続財産にもみなし相続財産にもなりません。
相続を放棄しても死亡保険金は受け取れる
亡くなった方が債務超過であったため、相続人が相続を放棄したとしても、死亡保険金は受け取ることができます。
亡くなった方が借金などをしており、相続財産がマイナスとなる債務超過の場合でも相続をすると、相続人が借金を引き継ぐことになります。このようなときは、相続を放棄すれば、借金を引き継がなくてすみますが、代わりに相続財産を受け取れなくなります。しかし、相続人を受取人にした生命保険に加入していた場合には、この保険金は相続を放棄しても受け取ることができます。
自分に相続税がかかるかどうかはどうすれば分かる?
自分に相続税がかかるかどうかは、大きくは、正味の相続財産が相続税の基礎控除額以下かどうかで判断します。
正味の相続財産=プラスの財産-マイナス財産
相続税の計算上、プラスの財産となるものとしては、以下のようなものが含まれます。
プラスの財産
プラスの財産 | |
---|---|
財産種類 | 詳細 |
土地・土地の上に存在する権利 | 土地としては、宅地、農地、山林、牧場などが挙げられます。土地の上に存在する権利としては、借地権、借家権などが挙げられます。 |
家屋・設備・構築物 | たとえば、戸建住宅、共同住宅、マンション、店舗、工場などが挙げられます。 |
預貯金・現金・貸金庫の中にある財産 | 現金、預貯金、証券など |
有価証券 | 有価証券は、例えば、国債地方債、社債、上場株式、非上場株式、受益証券などです。 |
貸付金などの債権 | 第三者への貸付金などがあげられます。 |
知的財産権 | たとえば、著作権、工業所有権などがあげられます。 |
事業用財産 | たとえば、機械器具、農耕具、棚卸資産(商品、製品、原材料)などです。 |
家庭用財産 | たとえば、自動車や貴金属、絵画骨董品などです。 |
※ これらの他に、立竹木、ゴルフ会員権、占有権など |
マイナスの財産
相続税の計算上、マイナスの財産となるものとしては、以下のようなものが含まれます。
マイナスの財産 |
---|
銀行や個人からの借入金 |
相続発生後に支払う準確定申告の所得税・消費税・住民税・固定資産税などの税金や社会保険料など |
相続発生後に支払う未払の医療費 |
賃貸不動産などの預かり敷金 |
被相続人が使用していた水道・光熱費や電話代などの未払金 |
正味の相続財産の額は、プラスの財産からマイナス財産を引くことで求められます。
基礎控除額
基礎控除は、以下の計算式で算出します。
正味の相続財産が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。相続税の申告自体が不要です。
生命保険金に相続税がかかるケースとかからないケースがある!
生命保険金に相続税がかかるケースとかからないケースがありますが、大きく分けると、次の通りです。
保険金の額が非課税枠以上:相続税がかかる
生命保険金の非課税枠は500万円×法定相続人の数で算出できます。生命保険金でその非課税枠を超えた部分には相続税がかかります。
なお、法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人としてカウントできる養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までです。
保険金の額が非課税枠以内:相続税がかからない
生命保険金の額が非課税枠より小さければ、生命保険金に相続税はかかりません。
受取人は配偶者が基本
子供により多くの財産を残してあげたいと考えて、多額に生命保険をかけ、その受取人を子供にするという人がいらっしゃいます。しかし相続税対策という観点から考えると、受取人は子供ではなく、配偶者にしておいた方が良いです。これは相続税負担が軽くなる可能性が高いからです。
配偶者と長男・長女の計3人が法定相続人だと、保険金の非課税枠は1,500万円です。
亡くなった方がそれぞれの子どもを受取人にして、各7千万円の生命保険に加入していた場合、保険金1.4億円のうち、非課税枠1,500万円を超えた1億2千500万円が相続税計算上のプラスの財産になります。
子供に対する相続では、相続税の基礎控除などは適用されますが、配偶者への相続とは異なり、適用できる特例が少ないです。
一方、受取人が配偶者なら、仮に1.4億円の保険金のうち、1億2千500万円が相続税計算上のプラスの財産になっても、配偶者控除があるので、相続税対策上、非常に有利になります。配偶者控除とは、法定相続分相当額か1億6,000万円のどちらか多い方の金額まで、配偶者が相続税の計算上受けられる控除のことです。
つまり、配偶者が1億2千500万円の保険金を受け取ったとしても、そのほかに夫の財産を3,500万円超相続していなければ、相続税はかからないのです。そういった観点で考えると受取人は、基本的には、配偶者にしておくのが無難でしょう。
遺産分割をスムーズに行なうために、受取人を分けるのも一つの手
相続税対策としては、受取人を妻にするのが基本ですが、遺産分割をスムーズに行うには、受取人を複数に分けておくのもひとつの方法ではあります。
生命保険を使えば、遺言書が無くても、保険金は指定した受取人に支払われるからです。結果として、遺産分割協議で揉めてしまう可能性を低くできます。
相続税対策としては終身保険を選択するのが基本
被相続人が事前に死亡後にかかる葬式費用などを予測できているのならば、終身保険で賄える様に保険をかけておくことで、遺族がその費用の捻出のために揉めてしまうというトラブルを防ぎ、スムーズに事を運ぶことが出来るでしょう。
まとめ
ここまで生命保険を利用した相続税対策の理由・メリット・計算方法・注意点などについて説明してきました。生命保険を利用した相続税対策について、しっかりとイメージできたという人もいらっしゃることでしょう。相続税対策には様々な専門的知識が必要になります。そして、相続税は節税を行なえばしっかりと効果が出る税金です。
是非、我々専門家にご相談ください。今回の記事を通じて、相続税対策に関する理解を深めていただければ幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
長男を生命保険金の受取人にして、その生命保険金から長男の手で他の兄弟・姉妹の取り分をそれぞれ渡す形にします。