一般的に相続と言えば、亡くなった故人が残した遺産を相続人が引き継ぐということになります。ただ数は多くないものの、中には相続人が誰もいないため遺産が宙に浮いてしまうというケースもあります。
相続人が誰もいないことを「相続人不存在」と呼ぶのですが、この場合特別縁故者となる人物が遺産を承継できる可能性が出てきます。
本章では相続人不存在の場合の遺産の扱いや特別縁故者について、また遺産となる不動産の名義変更の方法などを見ていきます。
目次
相続人の不存在はどのような時に起こるのか
相続人不存在はまず、相続人に配偶者や子ども、直系尊属、兄弟姉妹などの法定相続人がおらず、相続人となれる人物が存在しない場合に起こります。
または相続人となれる人物がいる場合でも、それらの者が全員相続放棄をした場合にも起こり得ます。
このように被相続人を相続する者がいない、あるいはいなくなった場合、遺産の行く末はいくつかのパターンに分かれます。
相続人が不存在の時は特別縁故者が財産を取得できることがある
遺産を承継できる相続人がいない場合、故人にお金を貸していた債権者や遺贈を受けた受遺者がいれば、遺産の一部あるいは全部の権利を取得できることがあります。
そうした者がいないか、いた場合でもそれらの者に分配した後に残った遺産については、特別縁故者となる人物が遺産をもらえる可能性があります。
特別縁故者とは、被相続人と特別に密接な関係があった人物をいいます。
いわゆる内縁の妻が分かりやすい例ですが、これ以外にも故人と生計を同じくしていた人や長年故人の療養看護に努めた人などが特別縁故者になり得ます。
ただし、特別縁故者となるには家庭裁判所に認めてもらう必要があり、希望したからといって必ずなれるわけではありません。
債権者や受遺者、特別縁故者もいない場合には、最終的に遺産は国庫に入り国のものとなります。
相続人不存在の事案における手続きの流れ
ここでは相続人不存在となるケースの手続の流れを簡単に見ていきます。
①相続財産管理人選任の申し立てと公告
利害関係人または検察官が家庭裁判所に対し、相続財産を管理する任を負う相続財産管理人の選任を申し立てます。
裁判所は相続財産管理人の選任後、広く世の中に公告を行い、2カ月間の間に新たに相続人となり得る者が申し出てくるのを待ちます。
一見して相続人が不存在のように見えても、もしかしたら相続権を主張する者がいるかもしれないので家庭裁判所ではその可能性を無視せず、潜在的な相続人となり得る者に対して申し出るチャンスを与えます。
②債権者及び受遺者に対する申出の公告
上記①で相続人の申し出がない場合、今度は2か月間の猶予を定め、被相続人に対して債権を持つ債権者や受遺者となり得る者がいれば申し出るように公告を行います。
この公告は、なお存在するかもしれない相続人に対して申し出る二回目のチャンスを与える作用もあります。
③権利主張催告の公告
最終的な催告として、家庭裁判所は6か月の猶予を定め、相続人となる者がいれば申し出るようにと公告します。
この間に申し出がなければ相続人の不存在が確定します。
④特別縁故者への財産分与の申し立て
相続人の不存在が確定することで、やっと特別縁故者にチャンスが回ってきます。
特別縁故者となり得る者は、上記③の公告期間満了の翌日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して財産分与の申し立てをすることができます。
家庭裁判所がこれを認めれば特別縁故者が遺産の一部または全部の権利を取得することができます。
債権者や受遺者がいる場合は特別縁故者に優先して遺産が分配され、残った遺産が財産分与の対象になります。
⑤国庫帰属の手続
相続人や債権者、受遺者、特別縁故者もいない場合には、遺産を国庫に帰属させる手配が行われます。
相続財産管理人の選任は誰が申し立てるのか
前項で見た手続きの流れの中で、意識してもらいたいのが最初の相続財産管理人の選任の申し立てについてです。
この申し立てが行えるのは債権者や受遺者、特別縁故者などの関係者で、相続財産の権利を取得したいと願うのであれば、これらの者が自らが能動的に動いて相続財産管理人の選任申し立てを裁判所に対して行う必要があります。
つまり自分が特別縁故者になって遺産の取り分が欲しいと願うならば、自ら手続きをする必要があるということです。
相続財産管理人の選任申し立てには郵便代や官報掲載にかかる費用、収入印紙代などで数千円程度の費用がかかる他、予納金として数十万円の費用がかることがあるので、費用面で負担が発生します。
債権者等がいて先に申し立てをしてくれればその費用をもってくれるのでラッキーといったところですが、基本的には他者に期待せず自ら能動的に動かなければならないと思ってください。
上記関係者の他に検察官も同申し立てができますが、検察官は遺産を国庫に帰属させる必要があると思われる場合に手続きを考えるので、立場が異なるためあまり期待はできません。
共有不動産の場合
特別縁故者と認められた場合、受け取れる財産の種類や価額も裁判所が指定します。
遺産の全てを受け取れるわけではないことに留意してください。
ここで財産分与の対象が他の共有者がいる不動産の持ち分となるケースについて少しお話しておきます。
民法では不動産の共有持ち分について規定があり、一部の共有者が死亡しその者に相続人がいない時は、その共有持ち分は他の共有者に帰属するという規定があります。
この規定通りにいけば特別縁故者は持ち分の権利取得ができないように見えますが、過去における最高裁の判例により、特別縁故者がいる場合は上記民法の規定に優先されることになっています。
そのため家庭裁判所によって特別縁故者と認められれば、共有持ち分について財産分与を受けることが可能です。
特別縁故者への不動産名義変更登記の方法
特別縁故者に対する財産分与の対象が不動産である場合、法務局で登記名義人の変更手続きが必要です。
家庭裁判所で特別縁故者に対する財産分与が確定すると、その審判の正本が交付されます。
これと特別縁故者の住民票を付けて手続きを行えば、対象不動産の名義変更が可能です。
特別縁故者が行う名義変更の登記では、対象不動産の固定資産評価額の2%の登録免許税がかかります。
まとめ
本章では相続人が不存在のケースで遺産の行方がどうなるのかを解説し、特別縁故者が財産を取得できる可能性があることや、権利を取得するための手順、流れなどを見てきました。
相続人がいない場合最終的に遺産は国庫に入りますが、その前に債権者や受遺者がいればこれらの者に遺産を分配後、残った遺産に対し特別縁故者が権利を主張することができます。
手続き面では相続財産管理人の選任手続きが必要で、債権者等がいない場合は特別縁故者自らが申し立て手続きを行う必要があること、及び財産分与の申し立てに期限があることに留意しましょう。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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