ある程度まとまった資産をお持ちの方の中には、子供や孫に生前贈与をしたいとお考えの方がいらっしゃるかと思います。
そういった方に知っておいていただきたいのが、相続時精算課税制度です。相続時精算課税制度は、原則として、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において、選択できる贈与税の制度です。
今回はこの相続時精算課税制度を利用したい方向けに解説していきます。また本章では相続時精算課税制度以外に、相続時精算課税選択の特例、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税についても詳しく説明していきますので、是非参考にして下さい。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続時精算課税とは?
贈与税は、基本的に、基礎控除の枠が110万円あります。しかし相続時精算課税を選択した、20歳以上の子又は孫(受贈者と言います)は、2,500万円までの贈与まで、贈与税を納めずに、贈与を受けることができます。
そして贈与者が亡くなった時に、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に相続税額を計算し、相続税として納付します。この制度に関する贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年以降は、全てこの制度が適用されます。1度この制度を選択すると、暦年課税(贈与税の課税方式の1つ。1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に応じて課税される方式。)に戻ることはできません。とは言え、別の贈与者からの贈与については、暦年課税のままにしておくことが可能です。
相続時精算課税制度は、1人の贈与者からの贈与額の合計額が2,500万円になるまでは、その贈与者が生きていれば、何回贈与を受けても、課税を繰り延べられる制度です。
適用条件
相続時精算課税制度の贈与者となれるのは、贈与をした年の1月1日において、60歳以上の父母又は祖父母です。相続時精算課税制度の受贈者となれるのは、贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上の方のうち、贈与者の子や孫などです。
相続時精算課税制度には、年齢と間柄の制限があるのを覚えておいてください。
税額の計算
(1) 贈与税額の計算
相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、相続時精算課税に関する贈与者以外の方からの贈与財産と区分します。そして1年間に贈与を受け区分した財産の価額の合計額を基に、贈与税額を計算します。その贈与税の額は、区分した贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額を控除した後の金額に、20%の税率を乗じて算出します。特別控除の限度額は2,500万円です。
ただし前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。なお、相続時精算課税に関する贈与者以外の方から贈与を受けた財産については、その贈与財産の価額の合計額から、暦年課税の基礎控除額である110万円を控除し、贈与税の税率を適用して贈与税額を計算します。
(2) 相続税額の計算
相続時精算課税を選択した方の相続税額は、相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなった時に計算されます。具体的には、まずそれまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続・遺贈により取得した財産の価額とを合計します。
そしてその金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除した金額を、相続税として納めることになります。受贈を受けた次の年ではなく、贈与者が亡くなった年(もしくは次の年)の税金となることが大きなポイントです。その際仮に、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額がありましたら、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、相続税計算時ではなく贈与時の価額とされています。
適用手続き
相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、相続時精算課税を適用したい最初の贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、納税地の所轄税務署長に対して、「相続時精算課税選択届出書」を、贈与税の申告書に添付して、提出する必要があります。
その際、受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類の提出も合わせて必要です。
相続時精算課税選択の特例とは?
ここまで相続時精算課税制度について説明してきました。相続時精算課税制度には特例があります。特例も知っておいてください。
令和3年12月31日までに、父母又は祖父母からの贈与により、自分が住むための住宅用の家屋の新築、取得又は増改築などの対価に充てるための金銭を取得した場合で、一定の要件を満たすときには、贈与者がその贈与の年の1月1日において60歳未満であっても、相続時精算課税を選択することができます。通常であれば贈与者は、贈与をした年の1月1日において、贈与者が60歳以上である必要がありますが、この特例では、贈与者がその贈与の年の1月1日において、60歳未満であっても大丈夫です。
この特例は、住宅取得時には知っておくべきであると言えるでしょう。
受贈者の要件
受贈者は、次の全ての要件に当てはまる必要があります。
- 贈与を受けた時に、贈与者の子や孫などであること。
- 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
- 配偶者・親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたわけではないこと、又は、これらの方との請負契約などにより新築、取得又は増改築などをしたわけではないこと。特別な関係のある人との取引でないことがポイントです。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅用の家屋の新築、取得又は増改築などの対価に充てるための金銭を、全て、住宅用の家屋の新築、取得又は増改築に使うこと。貰ったお金を、一部だけでなく全額、家屋の新築、取得又は増改築に使うことがポイントです。注意点として、受贈者が住宅用の家屋を所有することにならない場合は、この特例の適用を受けることはできません。「住宅用の家屋を所有すること」には、共有持分を有する場合も含まれます。
- 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること、又は、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しないが、他の一定の要件をみたしていること。この特例は、基本的には、日本国内に住所を有している人のためのものです。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、又は、同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
注意点として、贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住していないときは、この特例の適用を受けることはできません。またあくまで住むための家屋のための特例なので、会社の工場などにはこの特例は利用できません。
住宅用の家屋の新築、取得又は増改築などの要件
この特例における「住宅用の家屋の新築」という言葉には、その新築と一緒に行う敷地用の土地など又は住宅の新築に先行してするその敷地用の土地などの取得を含みます。また、この特例における「住宅用の家屋の取得又は増改築など」という言葉には、その住宅の取得又は増改築などと一緒に行う敷地用の土地などの取得を含みます。言い換えると、土地の取得も家屋の新築、取得又は増改築などに含むとされています。またこの特例の対象となる住宅用の家屋は、日本国内にあるものに限られます。
(1) 新築又は取得の場合の要件
新築又は取得について、この特例を適用するためには、以下のイとロを共に満たす必要があります。
イ:新築又は取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40平方メートル以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分に受贈者が住むこと。家屋がマンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積について、上記の条件を満たすこと。
ロ:取得した住宅が、次のいずれかに該当すること。
- 建築後使用されたことのない住宅用の家屋
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その取得の日以前20年以内に建築されたもの。耐火建築物の場合は25年以内。耐火建築物とは、登記簿に記録された家屋の構造が鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造などのもののことです。
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
- その他一定の要件を満たしたもの
この特例は、新しい住宅、または、耐震性のある比較的新しい住宅が対象です。
(2) 増改築等の場合の要件
増改築等について、この特例を適用するためには、以下のイとロとハを、共に満たす必要があります。
イ:増改築等後の住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40平方メートル以上で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分に受贈者が住むこと。家屋がマンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積について、上記の条件を満たすこと。
ロ:増改築等に係る工事が、自分が所有して居住している家屋に対して行われたものであり、かつ、特定の工事に該当することについて、一定の書類により証明されたものであること。
ハ:増改築等に係る工事に要した費用の額が100万円以上であること。
適用手続き
相続時精算課税選択の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書を提出する必要があります。
その際、相続時精算課税選択届出書、受贈者の戸籍の謄本など一定の書類を添付する必要があります。
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税とは?
ここまでは相続時精算課税制度と相続時精算課税選択の特例について説明してきました。ややこしいところもありますが、課税の繰り延べが受けられることはメリットとなりますので、是非ご理解しておいて頂ければと思います。これらの他に住宅取得時に関連するものとして、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例があります。これは上記とは異なり課税の繰り延べではなく、非課税の特例です。
平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母などからの贈与により、自分が住む住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となるという特例です。
非課税限度額
非課税限度額は、次のイ又はロの表のとおりです。
イ:対価などに含まれる消費税等の税率が10%ではない場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅 | |
---|---|
~平成27年12月31日 | 1,500万円 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年12月31日 | 1,000万円 500万円 |
ロ:対価などに含まれる消費税等の税率が10%である場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 省エネ等住宅 左記以外の住宅 | |
---|---|
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年12月31日 | 1,500万円 1,000万円 |
この特例の非課税限度額は、基本的に、既に非課税の特例の適用を受けて贈与税が非課税となった金額がある場合には、その金額を控除した残額となります。ただし、上記ロにおける非課税限度額は、平成31年3月31日までに契約を締結し、既に贈与税が非課税となった金額がある場合でも、その金額を控除する必要はありません。
上記の「省エネ等住宅」に該当するには、証明書などを贈与税の申告書に添付する必要があります。
受贈者の要件
次の要件の全てを満たす受贈者が、非課税の対象となります。
- 贈与を受けた時に贈与者の子どもや孫などであること。
- 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。受贈者は成人している必要があります。
- 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が、基本的には、2,000万円以下であること。ただし、新築等をする住宅用の家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であること。つまり他のことで十分な所得を得ている場合は、この非課税の対象とはなりません。
- 平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことが、基本的に、ないこと。一部例外があります。
- 配偶者・親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたわけではないこと、又は、これらの方との請負契約などにより新築、取得又は増改築などをしたわけではないこと。特別な関係がある人との取引ではないことがポイントです。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅用の家屋の新築、取得又は増改築などの対価に充てるための金銭を、全て、住宅用の家屋の新築、取得又は増改築に使うこと。一部ではなく全てを住宅用の家屋の新築、取得又は増改築に充てることがポイントです。注意点として、受贈者が住宅用の家屋を所有することにならない場合は、この特例の適用を受けることはできません。「住宅用の家屋を所有すること」には、共有持分を有する場合も含まれます。
- 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること、又は、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しないが、他の一定の要件をみたしていること。この特例は、基本的に、日本国内に住所を有している人のためのものです。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、又は、同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実である、と見込まれること。
注意点として、贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住していないときは、この特例の適用を受けることはできません。あくまで自分が住むための家屋のための特例なので、住まない場合などには適用できません。
住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の要件
この制度における「住宅用の家屋の新築」という言葉には、その新築と一緒に行う敷地用の土地など又は住宅の新築に先行してするその敷地用の土地などの取得を含みます。また、この制度における「住宅用の家屋の取得又は増改築など」という言葉には、その住宅の取得又は増改築などと一緒に行う敷地用の土地などの取得を含みます。言いかえると、「家屋の新築、取得又は増改築等」には土地などの取得を含みます。
この特例の対象となる住宅用の家屋は、日本国内にあるものに限られます。
(1) 新築又は取得の場合の要件
新築又は取得について、この特例を適用するためには、以下の①と②を共に満たす必要があります。
- 新築又は取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分に受贈者が住むこと。家屋がマンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積について、上記の条件を満たすこと。
- 取得した住宅が次のいずれかに該当すること。
- 建築後使用されたことのない住宅用の家屋
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その取得の日以前20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)に建築されたもの
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
- その他一定の場合
この特例は、新しい住宅、または、耐震性のある比較的新しい住宅が対象です。
(2) 増改築等の場合の要件
イ:増改築等後の住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分に受贈者が住むこと。家屋がマンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積について、上記の条件を満たすこと。
ロ:増改築等に係る工事が、自分が所有して居住している家屋に対して行われたものであり、かつ、特定の工事に該当することについて、一定の書類により証明されたものであること。
ハ:増改築等の費用が100万円以上であること、かつ、増改築等の工事に要した費用の額の2分の1以上が、自己が住む部分の工事に要したものであること。
適用手続き
この非課税の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書を提出する必要があります。その際、戸籍の謄本、契約書の写しなど一定の書類を添付することになります。
まとめ
ここまで、住宅取得に関係する相続時精算課税制度、相続時精算課税選択の特例、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税について説明して来ました。それぞれにややこしいところもありますが、メリットもありますので、理解しておいていただけると幸いです。
今回の記事が読者の皆様が相続に関する理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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