土地の価格には、相続税の対象となる相続税路線価、固定資産税評価額を求めるための土地単価である固定資産税路線価があります。
これらは似ているようで違います。どちらの場合も「路線価」という言葉が使われますが、どのような違いがあり、どのような関係にあるのでしょうか。
目次
固定資産税や不動産取得税の算出に用いられる固定資産税評価額
家を建てたり、買ったりすると、「固定資産税」というものが発生するようになります。土地や家屋などの固定資産を所有している場合は、毎年支払うのが通常です。
支払わなくてはならない場合は、毎年1月1日時点で所有権が登記されている人に課税され、第1期の納付期間(自治体によって異なりますが、4月から6月頃)までに納付することになります。
納税通知書は、最初の納付時期(市町村によって異なりますが、およそ4月から6月)の前に送付されます。固定資産税の金額は、固定資産税評価額×1.4%で計算されます。
また、都市計画法に基づいて市街化区域内の土地や家屋を所有している人に課税される都市計画税、家屋や土地を購入する際に一度だけ課税される不動産取得税、登記に関わる登録免許税も固定資産税評価額をもとに計算されます。では、各種税金の計算のベースとなる固定資産税評価額とは何でしょうか。
固定資産税評価額は、固定資産税を決定する際に用いられる標準的な評価額です。固定資産税の評価額は、土地と家屋の評価方法をそれぞれ定めた「固定資産評価基準」に基づいて、各自治体(東京23区は各区)が個別に決定しています。
土地の場合、時価の70%程度が固定資産税評価額の基準と言われていますが、その他、土地の立地条件(都市部か地方か)・面積・形状・道路との接し方などで評価額が異なります。
建物の場合、新築の場合の標準的な評価額は、契約した工事費の50~60%程度と言われていますが、住宅の規模・構造・築年数などによって評価額は異なります。
相続税評価額とは
一方、相続税評価額とは、相続・遺贈・贈与によって受け取った財産の評価額です。土地の相続税評価額の計算方法は、一般的に①路線価方式と②倍率方式に分けられます。
路線価方式
路線価方式とは、道路ごとに付けられた価格である相続税の路線価に、土地の面積を乗じ、様々な調整要素を加えて土地を評価する方法です。相続税の課税対象となる路線価は、毎年7月に国税庁から当年度のものが発表されます。
土地の評価に用いる路線価は、相続が開始した年(遺言者が死亡した年)の相続税法上の路線価です。国税庁のホームページで、誰でも簡単に見ることができます。
また区画の面積は、相続税の納税通知書や登記簿謄本で確認することができます。調整率としては奥行価格補正率や不整形地補正率などがあります。前者は、通常、道路から離れるほど土地の価値が下がることを考慮し、後者は、土地が正方形や長方形のようなきれいな形をしていない場合の価値の減少を考慮したものです。
その他、容積率・都市計画道路の有無・接する道路の幅員など、土地の相続税評価額に影響を与える要素があります。
土地評価に関する特例
土地の相続税評価額は、原則として「路線価方式」または「倍率方式」によって算出されます。ただし、これはあくまで評価方法の大枠であり、減額特例が認められれば評価額を大幅に引き下げることも可能です。税制においては、本来、公平性が求められます。
そのため、相続した不動産の評価額が誰が評価しても同じになるように、しっかりとした基準を設ける必要があるのですが、土地については、包括的かつ抽象的なルールが多く存在します。一方で、土地は非常に個性的であるため、それぞれに特徴があり、まったく同じ土地はありません。
面積が同じでも、道路との接続や駅からの距離、近くにどんな物件があるかなど、状況によって形状が異なり、使い勝手がまったく異なります。すべての個別事情をカバーする評価基準を定めることは容易ではないので、ある程度包括的な評価基準が必要です。何らかの不利な条件がある土地の場合、相続税評価額が低くなる可能性が高くなります。
課税の公平性について
土地の「時価」には、実勢価格・公示地価・標準地価など多くの指標があり、それらは納税者が相続税や贈与税を計算する際に必ずしも容易に算出できるものではありません。しかし「時価」が納税者ごとに異なると、課税の公平性が尊重されなくなります。
したがって、相続税・贈与税における「時価」は、課税時(相続・遺贈・贈与により財産を取得した日、または取得したとみなされる日)における各財産の現状に応じて、不特定多数の当事者間の自由な取引において一般的に存在すると考えられる価額とするのが適当です。
時価は当該財産の現状(相続・遺贈・贈与により取得したとみなされる財産の取得日)に応じて、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に一般的に成立すると考えられる価額と定義されています。
財産評価基本通達では、評価の簡便性・安定性の観点から、相続税評価額を算出する際には相続税評価額を用いること、倍率方式で土地を評価する際や家屋を評価する際には固定資産税評価額を用いることとしています。
この点、相続税評価額と固定資産税評価額には密接な関係があります。
倍率方式
1.倍率方式とは?
先述した通り、土地の評価方法には、倍率方式と路線価方式とがありますが、どの方法を使うかは、評価する土地の場所によって異なります。
毎年(7月1日頃)、各税務署長が定めて公表する財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)により、評価する土地を路線価方式にするか倍率方式にするか確認します。財産評価基準書は国税庁のホームページで閲覧できます。
2.倍率地域の土地を評価する倍率法
倍率方式とは、固定資産税評価額に地区ごとに定められた倍率を乗じて土地を評価する方法です。倍率は国税庁が設定し、評価倍率表に表示されます。
3.倍率の高い地域の土地を算出するために必要な要素
倍率地域の土地の評価額を算出するためには、①固定資産税評価額と②評価倍数を知る必要があります。固定資産税評価額は、毎年4月・5月に1月1日時点の土地所有者(納税者)に送付される「固定資産税計算書」で確認します。
手元にない場合は、市町村や各税務署で「固定資産税評価証明書」を入手することができます。②評価倍数については、前述の国税庁のホームページでご確認ください。
4.倍率地域の土地の評価計算の流れ
- 固定資産税評価額(土地)の確認
固定資産税評価額は、「課税明細書(土地・家屋)」を使って確認することができます。
固定資産税評価額とは、土地の時価を基準に決定された価格のことで、同申告書の「課税標準額」とは、税額計算の基礎となる金額のことです。農地や山林は固定資産評価額と課税標準額が同じですが、都市部の宅地は特例や負担調整が設けられているため、課税標準額は固定資産評価額より低くなるのが普通です。
なお、倍率地域の評価額を計算する際に考慮されるのは、「固定資産評価額」です。手元に「課税明細書」がない場合は、「評価証明書」または「課税証明書」を市役所の税務課で請求します(有料)。ただし、本人か同居親族か委任状を備えた代理人である必要があります。
「評価証明書」と「課税証明書」ともに、固定資産税評価額は「評価額(円)」として記載されています。「評価証明書」には、固定資産税評価額と土地面積しか記載されていませんが、「課税証明書」には、「課税明細書」と同様に固定資産税評価額額と課税標準が記載されており、倍率地域の土地価格の計算に使用するのは「評価額」ですので、両書面を混同しないように注意する必要があります。
自治体によって指定方法が異なる場合がありますので、税務署に「固定資産税評価額」の証明書を希望する旨をお伝えください。
- 自分の区画が倍率地域内かどうか確認する。
路線価は都市部で設定されるため、郊外などの地方では路線価が設定されません。路線価のない地域は、倍数法で評価されるため「倍数地域」と呼ばれます。一般に、都市部は路線価方式、郊外は倍数方式で評価されます。国税庁が採用した「財産評価基準」をよく理解しておく必要があります。
調べたいエリアがやや郊外にある場合(例えば郊外の市町村や、合併した旧市町村の一部など)、国税庁のホームページにおいて、都道府県をクリックした後に目次の評価倍率表→一般の土地等用をクリックすると、探しているエリアの評価倍率表を取得することができます。
また、微妙な地域であれば、目次から路線価図→市町村を選択し、地名がわかっていれば、地名一覧(あいうえお)で対応する路線価図にアクセスするか、市町村の牽引図ページから「路線価」「倍率」エリアにいるかどうかを視覚的に判断することができます。
- 自分の土地の倍率を調べる
探したい土地を含む都道府県の評価倍率表→一般の土地等用→ 評価倍率表の市町村別の目次で、管轄の市区町村を選択します(ある程度大きな都市であれば、税務署の管轄によって倍率表が分けられる)。評価倍率表は、あいうえお順に記載されていますので、検査したい土地の評価倍率を確認してください。
- 固定資産評価額×乗算係数で計算する。
上記の流れで、調査したい土地の「固定資産評価額」と「評価額倍率」を調べ、掛け合わせることで相続税法上の評価額を割り出します。
相続税の路線価と固定資産税の路線価の違いについて
「路線価」とは、道路に割り当てられた土地単価のことです。通常、「路線価」というと「相続税の路線価」を指すことが多いですが、路線価には「固定資産税の路線価」も含まれます。
相続税路線価は相続税の評価額を決めるために、固定資産税路線価は固定資産税評価額を決めるために使用されます。それぞれ異なる税金を計算するための評価額です。相続税路線価によって決定された評価額は、相続税や贈与税の計算の基礎となるものです。
固定資産税路線価で決定された固定資産評価額は、固定資産税・都市計画税・登録免許税・不動産取得税の計算の基礎となります。また、相続税の課税対象となる路線価は毎年評価されるため、価格は毎年更新されます。
固定資産税路線価は3年に1度しか評価替えが行われないため、価格は3年ごとに更新されます。また、価格水準は、相続税路線価が公表値の約80%であるのに対し、固定資産税路線価は約70%です。
公示価格とは、全国約26,000地点の土地の単価で、政府が毎年査定しているものです。政府が行う地価の調査は「地価公示」と呼ばれます。
実勢価格・公示価格との違い
「実勢価格」・「公定価格」の違いについて説明します。実勢価格とは市場価格のことで、公示価格とは地価公示価格のことです。
公示地価は、公有地の収用や相続税の路線価、固定資産税の路線価の算出のために、国が毎年評価するものです。公表価格は、相続税路線価や固定資産税路線価の算出根拠となるものです。公示価格は一応、実勢価格(市場価格)を表しているものとなっています。
ただし、実際の公示価格は実勢価格と異なります。都市周辺部や農村部の土地については、公示価格が実勢価格に比較的近いです。都市周辺部や農村部での実際の価格は、公示価格の90%〜110%程度です。
一方、都市部では短期間に実勢価格が変動することがあり、公示価格と実勢価格が大きく乖離する傾向があります。都市部での実勢価格は、公示価格の150%以上であることが多いです。実際の価格が掲示価格の2〜3倍になっているケースもあります。
相続税路線価と固定資産税路線価の関係とその計算方法について
相続税の課税対象となる路線価と固定資産税路線価は、それぞれ公示価格の約80%、70%であり、両者は相互に計算することができます。相続税の課税対象となる路線価は公示価格の80%であるため、相続税の課税対象となる相続税路線価を0.8で割ると公示価格となります。
また、固定資産税路線価の値は公表値の70%なので、相続税ルートの値を0.8で割り戻し、0.7を掛けた値が固定資産税路線価の値となります。
しかし、相続税路線価は3年ごと、相続税路線価は1年ごとに評価されるため、単に「その年の相続税路線価」を使っても、「その年の固定資産税路線価」と一致しないことがよくあるので注意が必要です。あくまで価格の「基準」であり、「参考程度」とお考えください。
まとめ
ここまで相続税評価額と固定資産税評価額について説明しました。相続税路線価は公表値の約80%、固定資産税路線価は公表値の約70%で決定されます。
両者の違いにご注意いただき、算出したい数値に対して適切な路線価をご利用ください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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