相続税の納税義務が生じるかどうかを知るためには、亡くなった人がどれだけの財産を残したかを知る必要があります。残された資産について、現金だけでなく、預貯金・有価証券・土地・建物など、それぞれの価値を評価する必要があります。
資産ごとに評価方法が異なりますが、それぞれの方法で算出された値が相続税評価額となります。
この記事では相続した資産の評価額の調べ方・計算方法をわかりやすく解説します。
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続税評価額の調べ方
相続税における土地の2つの評価方法
相続税を計算するためには、財産の評価額を調べる必要があります。相続税を計算する際の財産の価格を「相続税評価額」といいます。
評価額を調べようとするとき、特に土地の評価額は難しいとされています。その正確な値を探るには、多くの専門知識が必要です。土地の評価額は「路線価方式」と「倍率方式」のどちらかで算出されます。どちらの方法を選ぶべきかは、土地が所在する地域によって異なります。
以下、それぞれの計算方法について見ていきましょう。
1.路線価方式
路線価方式とは、国税庁が毎年定める「路線価」(相続税の路線価)と呼ばれる指標をもとに、土地の評価額を決める方法です。
しかし、すべての土地に一定の路線価があるわけではありません。路線価を示す路線価図は、国税庁のホームページで見ることができます。
ここで見つけた路線価を次の式に当てはめます。
※ 地積とは土地の面積です。
土地の相続税評価額の算出を難しくしている主な原因は、最後に適用される補正率にあります。同じ路線価であっても、区画の形状などによってアクセスしやすさに差が出ます。全部を同じ値段にするのは不公平な気がします。
そこで補正率は、このような土地ごとの評価額の差を反映しています。補正率については、後ほど説明します。
参考 : 国税庁ホームページ 路線価
2.倍数法
倍数法とは、地域ごとに定められた倍数を用いて計算する方法です。主に沿道地価が不透明な地域で使用されます。
評価倍率は路線価同様、国税庁のホームページにある評価倍率表で確認することができます。ここで見つけた倍数を次の式に当てはめます。
固定資産税評価額とは、固定資産税の評価対象となる不動産の価格のことです。固定資産税評価額は、固定資産税を決定するために使用される標準的な評価額です。財産評価基準に基づいて、市町村が個別に決定します。土地の相続税評価額は、相続した土地の状態によって異なります。
参考 : 国税庁ホームページ 評価倍率表
調整率
先に説明したように、路線価方式で計算する場合、土地の利用適性によって調整が必要です。これが土地の計算を複雑にする大きな原因となっています。
修正が必要な代表的なケースは以下の通りです。
- 土地の形が歪んでいる
- 間口(道路との接触部分)が狭い
- 極めて深い
- 国土面積が非常に広い
これらに基づいて、適切な補正率を適用することができます。確実に知りたいなら、税理士など専門家に任せたほうがよいでしょう。自分で行うことが必要であれば、国税庁のホームページで補正率を調べることができます。
では、どのような補正が適用されるのか、具体的に見ていきましょう。
参考 : 国税庁ホームページ 補正表
1.不整形地補正
不整形地補正は、土地の形状が不整形である場合に適用されます。いびつな部分の割合に応じて評価額が減額されます。
補正率を算出するためには、かげ地割合と呼ばれる係数が必要です。この割合は、以下の式で算出することができます。
想定整形地とは不整形の土地を取り囲むように想定された長方形の土地のことです。ちなみに、かげ地割合のかげ地とは、不整形でない部分のことです。このようにして算出したかげ地割合を、国税庁のホームページにある不整形地補正率表に当てはめることで、調整率を決定することができます。
参考 : 国税庁ホームページ 不整形地補正率表
2.間口狭小補正
間口狭小補正は、間口(道路に接する部分)が狭い場合に適用されます。補正率は、間口の広さを調べ、国税庁のホームページで公開されている「間口狭小補正率表」に当てはめることで求めることができます。
参考 : 国税庁ホームページ 間口狭小補正率表
3.奥行長大補正
奥行長大補正は、間口の幅に対して奥行きが極端に大きい場合に適用されます。奥行きが間口の2倍以上の場合は、減額補正が適用されます。
「奥行き÷面積間口」を計算し、国税庁のホームページで公開されている「奥行長大補正率表」に当てはめます。
4.500平方メートル以上の土地の評価額を大幅減額 また、土地のサイズが極端に大きい場合にも、補正がかかります。三大都市圏では500平方メートル以上、三大都市圏以外では1,000平方メートル以上の土地に適用される特例です。三大都市圏とは、首都圏・近畿圏・中部圏のことです。
詳しくは、国土交通省のホームページをご覧ください。広大な土地に対しては「規模格差補正率」が適用されます。
参考 : 国税庁ホームページ 奥行長大補正率表
土地の使用状況
ここまで、相続税評価額に影響する土地の広さ・形状・立地について考えてきました。その他、評価額に影響を与える要因として、土地の使用状況があります。評価額に影響を与える主な用途は以下の通りです。
- 賃宅地(他人に貸しているもの)
- 貸家建付地(例:貸アパートなど)
- 駐車場
- 私道
- 小規模宅地等
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1.賃宅地の評価
他人に貸している土地(賃宅地)は評価額が低くなります。これは、土地を所有していても、借地権によって自由に処分できない不自由さが原因です。賃宅地の評価額は、以下の式で算出することができます。
借地権割合は、路線価の右側にA~Gで表示されており、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%となっています。逆に、賃宅地を借りている人がその土地を相続した場合、借地権には評価額が付されることになります。その場合、相続税評価額は「自用地としての評価額×借地権割合」で求めることができます。
2.貸家建付地の評価
土地そのものを貸すのではなく、アパートやマンションを建てて部屋を貸す場合も評価額が下がります。賃貸アパートやマンションが建っている土地を「貸家建付地」といいます。
このため、相続税対策として賃貸アパートを建てることがあります。貸家建付地の評価額は以下のように計算されます。
借地権割合は前項で示したとおりです。借家権割合は、国の基準で30%です。賃貸割合は、実際に借りている建物の部分であり、賃貸割合は賃貸されている部屋の床面積合計割る、その建物内の全敷地面積で算出することができます。
3.駐車場として使用されている土地の価値の見積もり
駐車場として土地を借りている場合、評価が下がる場合と下がらない場合があります。駐車場を自分で使ったり、貸したりしている場合は、更地と同じ扱いになります。
しかし、第三者に貸して、借主が車庫などを建てたり、コインパーキングとして使う場合は、評価額が下がる可能性があります。
4.私道の評価
私道がある場合は、通り抜けできるかどうかが重要なポイントになります。通り抜け可能な私道は公共性が高いと判断されるため、評価額はゼロとなります。
通り抜けできない私道は、特定の人しか利用しないと考えられるため、通り抜けできる場合と比較して公共性が低いと考えられます。これらは、通常の評価額の30%で評価されます。
5.小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たした宅地に適用することができます。この特例は、評価額を最大80%削減できる非常に節税効果の高い特例です。基本的には、亡くなった方やその親族が宅地や商業地を相続した場合に、この特例を利用することができます。
減額される金額と減額される面積の点で4つのパターンがあります。
特定居住用宅地 | 住宅用地として使用されていた場合、330平方メートルまでの面積で80%の減額 |
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特定事業用宅地 | 個人経営の店舗など事業用の土地の場合、400平方メートルまで80%の減額 |
特定同族会社事業用宅地 | 400平方メートルまでの部分に対して80%の減額(被相続人及び同居の親族が株式を50%超を所有している同族会社の事業の用に供する場合) |
貸付事業用宅地 | 賃宅地、貸家建付地、構造物のある駐車場などの場合、200平方メートルまでの部分について50%の減額 |
これらを適用するにはより細かい条件があります。
上場有価証券
「上場株式」とは、金融商品取引所に上場している株式のことです。以下の4つの方法のうち、最も低い値で評価します。
- 相続開始日(被相続人の死亡日)の最終価格(終値)
- 相続開始日の属する月の最終価格の月間平均値
- 相続開始日の属する月の前月の終値の月平均値
- 承継開始日の属する月の前月の終値の月平均値
この場合、最安値は2月の終値平均1,100円なので、その金額を使用します。上場株式が1万株あった場合、相続税評価額は【1,100円×1万株】で1,100万円となります。
- 課税時期に最終価格がない場合は、原則として課税時期の前後で最も近い日の最終価格とします。
- 国内の複数の証券取引所に上場している株式については、納税者が選択した証券取引所。
- 新株権利落ちがある場合等は、調整計算が必要です。
- 負担付贈与や個人間の対価を伴う取引により取得した株式については、課税時点の最終価格により評価します
預貯金
貯蓄は一般的に「普通預金」と「定期預金」に分けられます。このうち、利息がほとんどつかない普通預金の価値は、相続開始日の残高として相続税が評価されます。
一方、定期預金は相続開始時に解約されたものとみなされ、相続税評価額は元本+利息(源泉徴収税控除後)となります。
生命保険金の評価
遺言者の死亡後に受け取る生命保険金(死亡保険金)は、受取額が相続税評価額に相当します。ただし、この場合は「死亡保険金の非課税枠」という非課税制度があります。つまり、法定相続人1人あたり500万円は非課税となります。
4,000万円-500万円×3人=2,500万円 相続税評価額は2,500万円となります。
非課税の理由は、死亡保険金が遺族の生活を守る役割を担っているからです。相続を放棄した法定相続人がいる場合でも、非課税限度額の計算上、法定相続人の数に含まれます。生命保険関連で注意が必要なのは、被保険者が被相続人以外の保険です。
この場合、被相続人が死亡すると、相続人の一人が保険契約を継承して継続するか、解約するかのどちらかになります。
解約した場合、被保険者は「解約返戻金」を受け取りますが、解約返戻金相当額には相続税が課税され、上記の被保険者の生命保険金とは異なり、非課税のメリットは適用されません。さらに、前払保険料および剰余金の分配がある場合には、それらが加算されます。
退職手当金の評価
退職手当金は、本来故人が受け取るはずだったお金です。したがって、遺言者の死亡後に退職手当金が行われた場合、遺言者の財産とみなされ、相続税の課税対象となります(ただし、死亡後3年以内に支給が確認された場合に限る)。
ただし、生命保険金の場合と同様に、このような退職手当金も全額が課税対象となるわけではありません。計算方法は同じです。
4,000万円-500万円×3人=2,500万円 相続税評価額は2,500万円となります。
まとめ
相続税評価額は相続税の計算の基礎となるものです。評価方法は財産の種類によって異なります。被相続人の死亡後、すべての財産を調査し、適切な評価方法によって相続税評価額を算出する必要があります。
これにはかなりの労力と時間がかかりますが、相続税の申告期限(遺言者の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)に間に合うように行うことが大切です(期限を過ぎると罰金が課されます)。
相続税評価額について、ご不安やご不明な点、ご質問がある場合は、専門知識が豊富な税理士にご相談されることをお勧めします。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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