さまざまな面で世界中の人々に影響を与えている新型コロナウイルス感染症。相続税の申告・納付についても、大きな影響があります。以前までと異なり、令和3年4月16日(金)以降に新型コロナウイルス感染症を理由に期限延長を行う場合、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の作成・提出が必要となりました。
本章では新型コロナによる相続税の延納について徹底解説します。
目次
相続に関して行なわなければならないこと
相続に関しては、主に以下のことなどを行なわなければなりません。
- 死亡届の提出
- 公共サービスへの連絡
- 健康保険証や運転免許証の返却
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の確定
- 遺産の捜索
- 遺産分割協議
- 不動産・預貯金口座の名義変更手続き
しかし新型コロナウイルス感染症の影響が小さくなく、緊急事態宣言が発令されている都道府県もある中、なかなかスムーズにこれらを行なえていないという方も少なくないでしょう。
相続税を期限までに納めないとどうなる?
相続税は、相続が発生した翌日から10ヵ月以内に申告・納税するのが原則です。仮に財産を持っていた方が1月1日に死亡した場合、申告・納付期限は11月1日となります。ここで改めて、税金に関する用語を説明しておきます。
- 納税義務者が申告をしないことによる税務署からの所得金額の決定のことを、「決定」と言います。
- 申告等をした税額等が実際より少なかったときに正しい額に訂正することを、「修正申告」と言います。
- 申告等をした税額等が実際より多かったときに正しい額に訂正することを、「更正」と言います。
仮に相続税を期限までに申告・納税しない場合は、下記の税金を課せられるケースが想定されます。
- 無申告加算税:申告期限後に申告・決定があった場合や申告期限後の申告・決定について、修正申告・更正があった場合に課される税金
- 過少申告加算税:期限内申告について、修正申告・更正があった場合に課される税金
- 重加算税:仮装隠蔽があった場合に課される税金
- 延滞税:税金が定められた期限までに納付されない場合に、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じた自動的に課される利息に相当する税金
新型コロナウイルスを理由とする相続税の申告・納付期限延長は可能
相続税の申告・納付が遅れてしまうと、上記のように、相続税にプラスして加算税や延滞税がかかる恐れがあるので、申告・納付期限を守ることは大変重要なことです。とは言っても、さまざま事情により、申告・納付期限に間に合わないケースも考えられます。
そのため法律により、新型コロナウイルス感染症の影響に限らず、「災害その他やむを得ない理由」がある場合には、申請することにより申告・納付期限の延長を認めてもらえることになっています。そしてもちろん、新型コロナウイルス感染症を原因とする様々な影響も「やむを得ない理由」に当たります。そのため、新型コロナウイルスを理由とする相続税の申告・納付期限の延長措置がとられています。
相続税の納付期限延長が認められる期間
国は、新型コロナウイルス感染症を理由として申告・納付期限延長が認められる期間として、
としています。
相続税の申告・納付期限延長の理由
相続税申告・納付期限に間に合わないやむを得ない理由があった場合、相続税申告・納付期限延長が申請できます。相続税申告・納付期限延長が認められる具体的な理由としては、以下のことなどが考えられます。
- 相続申告を頼んだ税理士や税理士事務所の職員が新型コロナウイルス感染症に感染したこと
- 納税者自身が、感染症に感染した、又は、感染症の患者に濃厚接触したこと
- 納税者が以下などの理由で保健所などから外出自粛の要請を受けたこと
- 感染症の患者に濃厚接触した疑いがあること
- 感染症に感染した疑いがあること
- 感染症に感染すると重症化するおそれがあること
- 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、みだりに自宅等から外出しないことが要請されていること
新型コロナウイルス感染の可能性がある事実や、外出自粛要請を受けているなど、外出自粛要因となる客観的事実があるものが、やむを得ない理由として認められる傾向にあります。
相続税の申告・納付延長の手続き
令和3年4月16日(金)以降に相続税申告・納付期限を延長する場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の提出が必要となります。
「災害による申告、納付等の期限延長申請書」は、国税庁のHPなどで取得することが可能です。
相続税の申告・納付延長の注意点
相続税の申告・納付延長をする場合は、以下の二点に注意が必要です。
- 期限延長を申請する相続人「全員」が災害による申告、納付等の期限延長申請書を作成する必要がある
- 相続税申告書の提出日が、相続税納付期限日となる
相続人1人が災害による申告・納付等の期限延長申請書を提出しても、その他の相続人には、期限延長が認められないことに、大きな注意が必要です。
相続税申告書の提出日が、相続税納付期限日となる
申告・納付期限という言葉が示すとおり、申告書の提出日は同時に相続税の納付期限となります。納税が申告書の提出日より遅れると、延滞税がかかるケースが想定されます。
そのため、申告書の提出日の数日前に、銀行などで振り込んでおくと安心と言えます。また、申告期限が要件となる税務上の特例を利用したい場合も注意が必要です。
小規模宅地等の特例は亡くなった方の自宅などの土地を相続する場合に評価額を最大80%も減額できる特例です。この特例を利用するための要件の一つに、亡くなった方の親族が土地などを取得すること、というのがあります。
そしてさらにこの親族は、相続開始前から相続税の申告期限まで亡くなった方の自宅などに住み、宅地などを相続税の申告期限まで保有していなければならないことも、原則として、必要です。通常の申告期限は相続開始から10カ月後ですが、今回の延長措置を利用すると、延長した期間中も被相続人の自宅などに住み続け、保有も続けなければならなくなると捉えるのが通常の解釈です。それを知らずに相続開始から10カ月たった時点で被相続人の自宅などを売却してしまうと、特例が受けられなくなるおそれがあります。
ただし、これについては明文化されていません。そのため、専門家や税務署にご相談することをお勧めします。
熟慮期間
相続税の災害による申告、納付等の期限延長申請のほかにも、相続関連で申告・納付を延長できる手続きがあります。その一つが「熟慮期間」の延長です。
そもそも相続の方法には「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3種類があります。
相続の方法 | |
---|---|
単純承認 | 故人の相続財産を無条件で全て相続する |
相続放棄 | 亡くなった方の財産に対する相続権の一切を放棄する |
限定承認 | 相続人が相続財産からマイナスの財産を清算して、財産が余ればそれを引き継ぐという方法 |
亡くなった方の債務が資産より多い場合には相続放棄、債務はあるがそれを上回る財産があれば限定承認を選ぶと相続人に有利に働きます。この相続放棄や限定承認は、相続開始があったことを知った日から、3カ月以内に行うことになっています。この3カ月間のことを、熟慮期間といいます。
3カ月という期間はそれほど長くありません。亡くなった方が新型コロナウイルス感染症により急死したのであれば、熟慮期間中に財産の全ての内容までは把握しきれないということも考えられます。また亡くなった方が新型コロナウイルス感染症以外の理由で死亡した場合でも、新型コロナウイルス感染症による影響により、熟慮期間中に亡くなった方の財産を調べきれないこともあるかもしれません。
こうしたときの選択肢になるのが、熟慮期間の延長です。延長するには相続開始後3カ月以内に、亡くなった方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをします。
一般的な相続税の延納
熟慮期間の延長の以外の手段もあります。災害による申告、納付等の期限延長申請ではなく、相続税の一般的な延納を申請する方法です。
国税庁のホームページには、
と記載されています。
ただし延納を申請するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭での納付が難しく、かつ、その納付が難しい金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
- 延納申請期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署に提出すること
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は、担保を提供する必要はありません。なお延納が認められた場合は、延納利子税の支払いが生じます。
相続税の物納
相続税は金銭で納めるのではなく、物納することも可能です。
国税庁ホームページによれば、
と記載されています。
要件としては、
- 延納によっても金銭で納付することが難しい理由あり、かつ、その納付が難しい金額を限度としていること
- 物納申請期限までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して、税務署長に提出すること
相続税申告にかかる日数はどれくらい?
相続税申告を仮に税理士に依頼するのであれば、相談から相続税申告書の提出までにかかる日数としては、半年以上を見積もっておいた方が良いです。
特に亡くなった方の転籍が多かった場合は、相続税申告時に提出する出生から死亡までの戸籍謄本などの取得に多くの時間が割かれることになります。通常より多くの時間が必要になることに注意が必要です。相続税専門の税理士事務所でも、相続税申告期限の3か月以内に迫ったご依頼には、加算報酬が発生するケースが少なくないようです。
まとめ
ここまで、新型コロナによる相続税の延納について説明してきました。改めて、ここまでの説明をまとめておきます。
相続税は、相続が発生した翌日から10ヵ月以内に申告・納税するのが原則で、もし相続税を期限までに申告・納税しない場合は、無申告加算税・過少申告加算税・重加算税・延滞税が課されるケースが想定されます。
新型コロナウイルスを理由とする相続税の申告・納付期限延長は可能で、新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することができないと認められるやむを得ない理由がある場合には、その理由がやんだ日から2か月以内の範囲での個別延長を申請できます。令和3年4月16日(金)以降に相続税申告・納付期限を延長する場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の提出が必要となります。
相続税申告・納付期限延長が認められる具体的な理由としては、相続申告を頼んだ税理士などが新型コロナウイルス感染症に感染したこと、納税者自身が新型コロナウイルス感染症に感染したこと、納税者が保健所などから外出自粛の要請を受けたこと、法律に基づきみだりに自宅等から外出しないことが要請されていることなどがあります。
相続税納付期限の延長をする場合は、期限延長を申請する相続人全員が「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を作成する必要があることと、相続税申告書の提出日が相続税納付期限日となることには大きな注意が必要です。
相続税申告・納付期限を延長する手続にあたり不明な点が出ましたら、是非、専門家にお問い合わせください。今回の記事が読者の皆様の相続に関する理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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