相続が発生した時、今までかかっていた医療費は相続税から差し引くことはできるのでしょうか?相続発生以前に支払った医療費や相続発生後に病院に支払った入院費はどうするべきなのか、悩む人も多いでしょう。実は、相続税では債務として控除できる医療費があります。
この記事では、債務として控除できる医療費とできない医療費についてまとめました。相続税の債務控除、特に医療費の取り扱いについて知りたい人は、ぜひ参考にしてくださいね。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続財産から控除できる債務
相続税には、亡くなった人が生前に支払うべきだった費用を相続財産から控除できる債務控除というものがあります。相続財産から控除できる債務は、次の二種類です。
- 債務
- 葬式費用
債務にはさまざまな種類があり、亡くなった人が支払うべきだったものの多くが当てはまります。一方で、葬式費用は債務ではありませんが、相続財産から差し引くことが可能です。
それぞれ、さらに詳しく見ていきましょう。
債務
相続税で控除できる債務は被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるものという定めがあります。具体的な債務は、以下の通りです。
相続税で控除できる債務 | |
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債務控除の対象となる債務 | 具体例 |
借入金 |
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未払費用 |
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ただし、以下は控除の対象とならないので注意しましょう。
相続税で控除対象とならない債務 | |
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債務控除の対象とならない債務 | 具体例 |
借入金 |
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未払費用 |
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債務控除の対象となるものは、あくまでも被相続人が亡くなったときに確実に存在するものでなければなりません。相続財産の対象にならない祭祀財産の未払金や将来債務となる可能性があるだけでは控除できないため、注意が必要です。
葬式費用
葬式費用には、具体的に以下のものが含まれます。
- お通夜、告別式にかかった費用
- お通夜や告別式当日に参列者に渡す会葬御礼費用
- 葬儀に関連する飲食費用
- 火葬料、埋葬料、納骨料
- 遺体の搬送費用
- 葬儀場までの交通費
- 寺、神社、教会などへのお布施、読経料、戒名料
- 葬儀を手伝ってくれた方へのお礼
- 運転手さん等への心付け
- 死亡診断書の発行費用
- その他通常葬儀に伴う費用
お葬式にまつわる多くの費用が控除できますが、一部の費用は控除の対象にならないので注意が必要です。
債務控除の対象とならない葬式費用には、以下が挙げられます。
- 香典返しの準備費用
- 生花、盛籠等(喪主・施主負担分は葬式費用に含まれる)
- 位牌、仏壇、墓石の購入費用
- 法事(初七日、四十九日)に関する費用
- その他通常葬儀に伴わない費用
香典返しにかかる費用は参列者から香典をいただいたことに対するお返しとされるため、債務控除の費用には含みません。
相続が発生すると慌ただしくなり、相続税申告での葬式費用のことまで気が回らないことが多いです。相続税申告の時に必要になる領収書がない!ということにならないよう、きちんと管理しておきましょう。
相続税から債務控除できるのは「未払い医療費」
医療費の中では、被相続人が生前支払いが完了していなかった「未払い医療費」が相続税の債務控除に該当します。逆の言い方をすると、未払い医療費だけが相続税から債務控除できる医療費ということです。
したがって、被相続人が亡くなる前に支払っていた医療費については、相続税では控除することができません。相続が発生した時点で、未払いかどうかというのがひとつのポイントです。
相続開始前に相続人が立替払いした分の医療費は?
結論からお伝えすると、相続が発生する前に相続人が立替払いしていた分の医療費は、相続税で債務控除できます。
相続人が立替払いした医療費は貸主が誰かに関係なく、被相続人における「未払金」です。相続人に返済する義務のある負債であるため、相続税で控除できる債務となります。
ただし、領収書や支払いの事実がわかるメモなどがあることが前提となるため、きちんと保管しておいてください。
相続税の債務控除を利用できない人は?
つづいて、相続税の債務控除を利用できない人についてお伝えします。以下に当てはまる人は、相続税の債務控除を利用できないため注意が必要です。
- 相続放棄した人
- 制限納税義務者
- 特定受遺者
相続を放棄した人や「制限納税義務者」「特定受遺者」は相続税の債務控除を利用できません。それぞれどのような人なのか、見ていきましょう。
相続放棄した人
まず、相続を放棄した人は、債務控除を受けることができません。相続を放棄するということは、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継がなくなるということです。
したがって、相続税において債務控除の対象になりません。ただし、遺贈によって財産を取得し、かつ葬式費用を負担した場合、相続放棄をした相続人も債務控除の対象となります。
制限納税義務者
制限納税義務者とは、相続や遺贈が発生した時点と相続・遺贈が発生した時点からさかのぼって10年以内に、日本国内に住所がない人を指します。具体的に言えば、相続人・被相続人共に10年以上前から海外に住んでいる場合などで、国内財産にのみ相続税が課税される人のことです。
制限納税義務者は基本的に債務控除が認められませんが、一定の場合では使用が認められています。控除の対象となる債務は、「遺贈または相続によって受け取った国内財産にかかる債務のみ」です。
具体的には、以下のものが挙げられます。
- 受け取った日本国内の不動産を相続し、相続後に支払った死亡年の固定資産税
- 受け取った日本国内の不動産の維持費の未払い代金
- 受け取った日本国内の不動産のためのローンなど
制限納税義務者は、相続・遺贈された財産にかかる債務にのみ、控除できるということを覚えておきましょう。仮に制限納税義務者が葬式費用を負担しても、その支払い部分は控除の対象外となります。
特定受遺者
特定受遺者とは、遺言により特定の財産を引き継いだ人のことを言います。
特定遺贈者は特定の財産だけを取得し、被相続人の債務(借金など)は負担しないため、債務控除の対象ではなくなります。特定遺贈者も制限能力者同様、葬式費用を負担しても債務控除できないため注意が必要です。
亡くなる前に支払った医療費は準確定申告で控除
相続税の債務控除ができる医療費は、未払い医療費だけであることは先にお伝えした通りです。では、亡くなる前にすでに支払った医療費はどうなるのでしょうか?
結論からお伝えすると、被相続人の「準確定申告」で控除することになります。相続発生前に支払った医療費は準確定申告で控除する、と覚えておきましょう。
所得税の準確定申告とは?
所得税の準確定申告とは、亡くなった被相続人の所得に対して行われる確定申告です。
申告を行う義務は相続人全員にあり、申告期限は相続開始を知った翌日から4ヶ月以内とスケジュールはタイトになります。不動産等の収入がある場合など、生前被相続人が確定申告をしていた場合には申告が必要です。申告期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税などの追徴課税が課されるので注意しましょう。
準確定申告で控除できる医療費
準確定申告では、被相続人が生前に支払った医療費を控除できます。あくまでも、被相続人が実際に支払ったものだけが準確定申告の医療費控除の対象となるため、注意してください。
準確定申告で控除できる医療費には、以下が挙げられます。
- 医師や歯科医師の診療・治療の対価
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費用
- 病院の入院費用
- 介護老人保健施設や介護療養院に支払う介護費、食費、居住費などのサービスの対価
- 診療等を受けるために必要な交通費
- 医師の診療・治療を受けるために直接必要な義手、義足、松葉づえ、補聴器、義肢などの購入費用
- おむつ使用証明書の発行を受けて使うおむつ代
一方で、以下のものは医療費控除として認められないため、注意が必要です。
- 本人や家族の都合で個室にした場合などの差額ベッド代
- 医師や看護師に対する謝礼
- 死亡診断書の発行費用
- おむつ証明書の発行がないおむつ代
相続税と確定申告、ダブルで引けることも
相続税と被相続人の準確定申告では、医療費控除が認められる時期が異なるため同時に控除は使えません。しかし、相続人が被相続人の医療費を負担した場合、相続税の債務控除と確定申告での医療費控除が両方使える場合があります。
相続税と確定申告のダブルで医療費が控除できるのは、以下の三点をすべて満たす場合です。
- 被相続人の医療費を相続人が立替払いしている
- 支払ったのが相続人であること
- 被相続人と相続人の生計が一緒
重複して適用できるポイントになるのは、いつ、誰が支払ったものかということです。条件を満たせば、「相続税の債務控除」と「相続人の確定申告」で医療費が控除できます。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
被相続人の医療費を相続人が立替払いしている
まず、被相続人の医療費を相続人が立替払いしているかどうかということです。実際に支払う時期は相続開始の前後どちらでも問題ありません。なぜなら、相続の前後にかかわらず「被相続人の負債」であるからです。
相続発生前に相続人が立て替えた医療費…「相続人に支払うべき未払金」 |
相続発生後に相続人が支払った医療費…「病院・医療機関に支払うべき債務」 |
相続人が立て替えて支払うことで被相続人の準確定申告ではなく、相続税で債務控除することになります。
支払ったのが相続人であること
次に、被相続人の医療費を支払った人が、相続人であるかどうかも重要です。
債務控除は、相続人が支払った場合に限られます。相続人ではない人が被相続人の医療費を支払っても、債務控除できないため注意しましょう。
被相続人と相続人の生計が一緒
最後に、医療費を支払った相続人と被相続人の生計が一緒かどうかです。被相続人と生計が一緒の相続人が被相続人の医療費を支払った場合、相続人の確定申告で医療費控除を行います。
ポイントは「被相続人の準確定申告」ではなく、「相続人の確定申告」で医療費控除を行うことです。被相続人本人が生前負担した医療費は、被相続人の準確定申告で申告することになり、相続税では控除できません。
まとめ
今回は、相続税から債務控除できる医療費についてお伝えしました。相続税から債務控除できる医療費は相続発生時の「未払い医療費」に限られます。
一方で、被相続人が生前支払った医療費を控除できるのは、所得税の準確定申告です。また被相続人と生計を一にする相続人が医療費を立替払いした場合、「相続税の債務控除」と「相続人の確定申告での医療費控除」どちらも使うことができます。相続税の債務控除は相続財産から差し引けるので効果的に相続税を抑えられますが、判断に悩む場合も多いです。
相続税の債務控除を利用して相続税申告をする際には、税理士への相談がおすすめです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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