相続税対策は、被相続人の生前に準備するのが一般的です。ただ、元気だった親御さんが突然亡くなった場合など、予期せず相続が発生する可能性も決してゼロではありません。
では、突然相続が発生した場合は、何の対策もできずに相続税を支払うしかないのでしょうか?実は、死後からでもできる相続税の節税対策の方法がいくつかあります。
今記事は発生してしまった相続において、節税するためのテクニックや考え方を詳しくお伝えするので、ぜひしっかり読み込んでくださいね。この記事を読むことで突然の相続発生後も、焦らずに適切な相続税を節税することができます。
亡くなった後からでも相続税は節税できる?
結論からお伝えすると、亡くなった後からでも、相続税の節税対策はできます。被相続人の死後にできる相続税対策の方法は、大きく分けて次の3つがあります。
- 各種控除を利用する
- 財産の評価額を下げる
- 負の財産を活かす
死後に行う節税対策の考え方として、念頭に置いていただきたいのは、「財産を減らす」のではなく、「評価を下げる」ことです。
控除や財産評価の方法を多面的にとらえ、相続財産の「価値」をできるだけ抑えましょう。その上で、負債や葬式費用などをきっちりと洗い出し、相続財産から差引くことで、相続税の支払いを必要最低限に抑えることができます。
各種控除を利用する
相続税には、基礎控除や配偶者税額控除などいくつかの控除が認められています。控除は基本的に、対象となる相続人にのみ適用されます。
誰から誰に送られた財産なのかをしっかり特定することで、受けられる控除が変わります。
財産の評価額を下げる
財産の評価額を下げることは、節税に大きく繋がります。
評価額を下げられるのは、土地・建物などの「不動産」や自分の会社の株式など「自社株」です。特に、不動産は金額が大きいため、賢く評価すると大きな節税効果があります。
もちろん、行き過ぎた過小評価はできませんが、認められた範囲で土地の評価額を抑えると、効果的に節税ができます。
負の財産を活かす
負の財産には被相続人が生前にした借金や葬式費用などが認められ、相続財産の中から差し引くことができます。借入金のほかに、医療費や税金の未払い金なども認められます。
葬儀の前後は慣れないことが続き慌ただしくなりますが、領収書やレシートは捨てずに、きちんと残しておきましょう。
死後からできる相続税の節税対策12選
死後からできる相続税の節税対策として、今回は12の方法をご紹介します。
どれが使えるかは相続人・被相続人により異なります。しっかりと読み、あなたが利用できる対策があるかどうか検討してください。
1.生命保険金・死亡退職金の非課税枠を利用
被相続人が亡くなったことにより相続人が受け取った保険金・退職金は「みなし財産」として、相続財産に含まれます。生命保険金・死亡退職金の非課税枠は、「法定相続人一人につき500万円」が認められています。
非課税枠を利用する際に、特に注意するべき点は以下の3つです。
- 非課税枠が認められるのは「法定相続人だけ」
- 養子縁組には人数制限がある
- すべての保険金や退職金が対象になるとは限らない
法定相続人は被相続人の配偶者や子ども、親や祖父母などの血族を示します。
また、養子縁組をすれば法定相続人が増えますが、人数に制限があるので注意が必要です。養子の人数は、被相続人の子がいる場合は一人だけ、子がいない場合は2人だけが認められます。
さらに、保険金はいくつかの種類があり、すべての保険金や退職金が非課税枠の対象になるとは限りません。契約者や受取人の形態によっては、相続税ではなく贈与税となる場合もあるので注意が必要です。
2.配偶者の税額軽減を利用
相続が発生した時、配偶者には非常に効果が大きい税額軽減が認められています。認められる税額軽減は以下の通りです。
実際に引き継いだ正味の遺産額-1億6000万円もしくは法定相続分のどちらか大きい方になり、つまり、簡単に言えば配偶者は1億6000万円以下の遺産であれば、相続税は課税されないということです。
配偶者の税額軽減を利用するには以下の要件をクリアする必要があります。
- 死亡時点で、法律上婚姻関係があること
- 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
- 相続税を申告期限内に納める
3.未成年者控除を利用
相続人に未成年者(18歳未満)がいる場合、未成年者控除を受けることができます。未成年者控除は、相続財産からではなく相続税額から控除します。令和4年に法律が変わり、未成年者は20歳未満から18歳未満に引き下げられました。
控除額の計算式は以下の通りです。
相続人Aは相続税額から80万円を差し引いた部分を納税することになります。また、Aの相続税額が80万円未満の場合、残った金額は他の相続人の相続税から差し引くことが可能です。
4.障害者控除を利用
相続人に障害者がいる場合、85歳に達するまでの年数に応じて控除ができます。未成年者控除同様、相続税額から差し引きます。
控除額は一般障害者と特別障害者で異なり、具体的には以下の通りです。
一般障害者と特別障害者は、障害者手帳に記載されている等級などにより分けられます。障害者の相続税額よりも控除額が大きくなる場合は、扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。
5.相次相続控除を利用
相次相続控除とは、10年以内に立て続けの相続が起こった場合に適用できる控除です。控除額の算出はかなり複雑であるため、今回は、控除を受けられる要件を説明します。
相次相続控除が受けられるのは、以下の3つの要件を満たす場合です。
- 今回の相続の相続人である(相続放棄した場合は認められない)
- 今回の相続の10年以内に、被相続人が相続で財産を取得した
- 今回の相続の10年以内に、被相続人が相続税が課税された
つまり、一度目の相続で相続税を納めた方が、10年以内に亡くなった場合に控除できるということになります。10年以内に続けて相続が起こったときには、利用できる可能性があるので覚えておきましょう。
6.外国税額控除を利用
相続税法第20条の2には「在外財産に対する相続税額の控除」があり、一般的に外国税額控除と呼ばれています。外国にある財産を取得し、その財産がある国から相続税が課せられた場合、日本での相続税額から控除できるというものです。
外国税額控除を利用できる人の要件は、以下の通りとなっています。
- 相続により財産を取得している
- 取得した財産が法施行地外(外国)にあること
- 取得した財産のある国から相続税に相当する税が課されていること
外国に資産を持っていて、その資産について現地の相続税が課される場合に利用することができます。外国税額控除の計算式は、財産価額の算出が必要になり複雑になるため、利用する場合には、税理士などのサポートをうけることをおすすめします。
7.3年以内に収めた贈与税額の控除
相続税では相続開始前3年以内の贈与がある場合は、その贈与財産は相続財産に加算されます。
しかし、贈与時に贈与税を支払っていた場合は、相続税が課税されることで二重課税になってしまいます。そこで、相続税額から贈与税額を控除することで、すでに支払った分の贈与税を差し引くのです。
一方で、3年以内に贈与があっても贈与税が課税されていなければ、控除の利用はできません。
8.土地の評価を慎重に
不動産、特に土地の評価額は相続財産の価額を大きく左右するため、相続税の節税には土地の評価額を下げることが非常に有効です。土地の評価は形状や立地、使用状況など、その土地の実際の「価値」を見出して算出する必要があります。
しかし、大きな道路への間口が狭く、他の道路に面していなければ、実際の使い勝手はかなり悪いでしょう。上記のように実際の使い勝手を考慮し、評価することで土地の評価額を下げられます。
減額の対象になるのは、以下のような土地です。
- 不整形地(形が整っていない土地)
- 間口が狭い宅地
- 奥行きが長い宅地
土地の評価は非常に複雑で、どの程度減額できるかは土地評価に詳しいプロの判断が必要になるため、評価の際には税理士などのプロへの相談がおすすめです。
9.小規模宅地等の特例を利用
続いて、小規模宅地等の特例の利用です。小規模宅地の特例は宅地の評価を最大80%減額することができるため、非常に大きな節税効果が得られます。
小規模宅地の特例が適用できる土地及び限度面積と減額割合を以下の表にまとめました。
宅地区分 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|
特定居住用宅地 (被相続人の自宅の宅地等) | 330㎡ | 80%減額 |
特定事業用宅地 (法人等の事業用の宅地) | 400㎡ | 80%減額 |
特定同族会社事業用宅地 (同族会社の事業用の宅地) | 400㎡ | 80%減額 |
貸付事業用宅地 (アパート・駐車場などの貸付事業用の宅地) | 200㎡ | 50%減額 |
最大80%減額できるため、非常に大きく評価額が変わります。利用の状況などを確認し、使用できる宅地にはしっかりアプローチできるようにしましょう。
10.土地の分筆を検討
分筆とは、一つ(一筆)として登記されている土地を二つ以上に分けて登記することを言います。土地を分筆して相続税の評価を減額させた場合は、それぞれの土地は別々に利用しなければなりません。
しかし、分筆の方法によって土地の評価を大きく変えることができます。角地や間口の広い宅地は、利便性が高いため評価額が高くなりやすくなります。そこで、角に隣接する土地と隣接しない土地に分けたとしましょう。すると、角に隣接しない土地は利便性に劣るため評価が下がり、結果として分筆前より全体の評価額を下げることができます。
ただし、分筆は認められない場合があるため、分筆を検討する場合には、土地に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。
11.配偶者居住権を利用
配偶者居住権とは残された配偶者が被相続人が所有していた建物に一定期間、無償で居住できる権利で、令和2年に新しく施行されました。建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて、それぞれを異なる相続人が相続することで、配偶者の税負担を軽減できます。
配偶者居住権が成立するのは、以下の要件を満たした人です。
- 被相続人の法律上の配偶者であること
- 相続が発生した時、配偶者が被相続人の所有する建物に居住していたこと
- 遺産分割協議、遺贈などで配偶者居住権を取得したこと
居住権を配偶者が相続し、その配偶者が亡くなったときは、居住権は消滅します。一度目の相続で所有権を子が相続すると、二度目の相続では子が相続するものがなく、効率的に建物を引き継ぐことができます。
ただ、配偶者には配偶者税額軽減の特例により1億6000万円まで相続税はかかりません。二度目の相続まで見据えたうえで活用すると、得られるメリットが大きいです。
配偶者居住権:https://houmukyoku.moj.go.jp/maebashi/page000001_00235.pdf
12.債務や葬儀費用をしっかり計上
相続財産には債務などの負の財産がある場合は、その金額を相続財産から控除できます。葬儀費用も控除できるため、正確な金額がわかるように領収書などはしっかりと管理しておきましょう。
負の遺産・葬儀費用には、それぞれ以下のものが認められます。
負の遺産 |
---|
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葬儀費用 |
|
制度を賢く利用すれば相続発生後でも、節税できる!
控除や財産評価など制度を賢く利用することで、相続が発生した後でも節税することができます。
今回紹介した死後でもできる相続税の節税対策の方法は以下通りです。
- 生命保険金・死亡退職金の非課税枠を利用
- 配偶者の税額軽減を利用
- 未成年者控除を利用
- 障害者控除を利用
- 相次相続控除を利用
- 外国税額控除を利用
- 3年以内に収めた贈与税額の控除
- 土地の評価を慎重に
- 小規模宅地等の特例を利用
- 土地の分筆を検討
- 配偶者居住権を利用
- 債務や葬式費用をしっかり計上
土地の評価額の算出やどの制度が利用できるか判断に悩むときには、ぜひ、税の専門家である税理士にご相談ください。
相続税を節税することは、親や先祖が残してくれた大切な財産を保護する役目もあります。お伝えした方法を参考に、あなたのケースに合わせて賢く節税してください。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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