法律の世界には「時効」のルールがあり、相続税の分野でも時に話題になることがあります。一般の方がテレビ等で見聞きする「時効」は刑事事件の犯人が時効を迎えるなどの話題が多いと思いますが、税法の分野でいうところの時効は納税義務を扱うものになるので、ニュアンスはかなり変わってきます。
本章では相続税の時効について、特に「悪意」の相続人の時効がどうなるのかに焦点を当てて解説してみたいと思います。
目次
相続税の時効は5年もしくは7年
相続税に関する時効は5年もしくは7年とされ、この時効は正確には国税通則法の除籍期間による考え方から来ていますが、一般の方は分かりにくいと思いますので、本章では特に区別せず「時効」という表記で進めていきます。
相続税の時効は善意の納税義務者であれば5年、悪意の納税義務者であれば7年に延びるルールとなっており、善意か悪意かで有利・不利が生じることになります。善意・悪意は一般社会における考え方と法律上の考え方で全く異なるので、正しく理解しておく必要があります。
法律上の「善意」と「悪意」の考え方
一般社会でいうところの善意は好意や親切心を表し、悪意は人を傷つけようとする考えやズルい考えなどを表します。法律の世界における両者の概念は異なり、善意とはある事実を知らないこと、悪意とはある事実を知っていることを意味します。
特に悪意に関しては、積極的な加害意識などがなくても、その事実を知っているだけで悪意となります。これを相続税の分野に当てはめてみるとどうでしょうか。
逆に申告納税義務があることを知っていながらその義務を怠った場合は悪意となり、通常は何らかの伝手で相続の発生は知り得るはずですから、ほとんどの事案では悪意の納税義務者として扱われるでしょう。実際の納税は必要な額の相続税全額を納める必要があるので、相続財産の一部をカウントせず、不当に低い金額で納税をしたような場合も悪意となります。
次の項ではどのような場合に悪意となるか具体的なケースを見てみましょう。
具体的にどのような場合に「悪意」となるのか?
法律上の悪意は積極的な加害意識は不要とされ、うっかりミスの類も悪意となりますから「忙しくて申告をわすれちゃった」などの場合も悪意です。
相続税分野で問題になりそうな事例をいくつか挙げて見てみます。
①うっかりして申告期限を過ぎてしまった
相続税の申告手続きが必要だと認識していながら、仕事などが忙しく申告期限までに手続きをしなかったような場合です。申告が必要なことを「知っていた」のですから、悪意にあたります。
②遺産分割協議が終わらなかったので期限までに申告手続きを取らなかった
遺産分割協議はケースによっては相続人が多く一堂に集まる機会がなかなか無い、遺産の種類が多いなどの事情で話し合いに時間がかかるケースもあります。
遺産分割協議が相続税の申告期限までに整わない場合、一旦法定相続分で分けたと仮定して申告と納税の手続が必要です。これを怠った場合も悪意で申告納税を行わなかったと判断されます。
③申告後に新たな財産が見つかったが、なかったことにした
当初発見された相続財産にかかる申告納税はしっかり行ったものの、その後新たに相続財産が見つかった場合は、その新財産についても相続税の対象になるので修正申告が必要です。これを怠った場合も悪意となります。
④相続税が発生することを知りながら、バレないと思い申告自体をしなかった
相続税は申告納税方式であるため、自ら申し出なければ税務署は気づかないだろうと思い、確信的悪意を持って申告義務を怠ったような場合です。この場合は同じ悪意でも悪質性があるケースです。
以上いくつか見てきましたが、知っていてあえて隠したような責任の度合いが強いものだけでなく、うっかりミスのような部類でも悪意の範疇に入ります。
同じ悪意でも③や④のようなものは財産隠しとして扱われ、悪質性の高い事例として特別に重いペナルティを課せられる可能性があります。ペナルティについては下の項で説明しますが、このような悪意による相続税逃れがあった場合、時効は5年ではなく7年に延びるため、その間税務当局から追及を受け続けることになります。
悪意の納税義務者はペナルティが重くなる可能性がある
前項で少しお話ししましたが、悪意でなされた相続税逃れについて、特に悪質性の高いケースでは税務上のペナルティが特別重いものになる可能性があります。まず税務上のペナルティについて全体像を簡単に押さえますが、不当な相続税逃れには善意でも悪意でも以下のような種類のペナルティが課せられます。
①延滞税
民間の利息や遅延損害金に相当するもので、必要な納税が行われるまでは一定の利率で延滞税が課されます。
②過少申告加算税
本来必要な相続税額よりも少なく見積もって申告、納税した場合、追加で納めるべき金額に5%~15%の割合で加算されます。
③無申告加算税
本来必要な相続税の申告、納税をしなかったことに対する罰則として、本来納めるべき税額に5%~20%の割合で加算されます。
④重加算税
相続財産を隠したり、税務署を欺くような悪質性の高い事案で適用のある罰則です。重加算税は上の②と③に代えて、それぞれの加算割合をより重くして課されます。
過少申告加算税に代えて重加算税が課される場合は加算割合が35%、無申告加算税に代えて課される場合は40%の加算割合に増強されます。なお一定期間内に繰り返し税金に関する違反をした場合、さらに加算割合が増強されることもあります。
そして悪意で相続税逃れをした場合のうち、例えば前項の具体例でいう所の③や④など悪質性の高いケースでは、重加算税の適用を受けてしまう可能性があるので注意が必要です。
相続税を時効で乗り切るのはまず無理です
税務署は被相続人がどれくらいの財産を保有していたのか大体把握していますし、調査権限を有しているので必要に応じ関係先に照会をかけることもできます。
黙っていればバレないと考えて時効による相続税逃れを画策することは自分の首を絞めることになるので、絶対に考えないようにしてくださいね。
まとめ
本章では相続税の時効かどうなっているのか、特に納税義務者が悪意の場合に焦点を当てて見てきました。
悪意には積極的な税逃れだけでなくうっかりミスも含まれ、時効も5年から7年に延びるので税務署からの追及期間が延びることになります。地道な調査を進めたうえで対象者が安心した頃に相続税逃れを指摘することもあり、悪質性が高い場合はダメージの大きいペナルティの適用も考えられます。
時効で乗り切ることは困難ですので、相続税の申告は忘れずに、正確に行うようにしましょう。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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