亡くなった人に子供がいない場合や両親・祖父母が他界している場合、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が相続人になる場合は、相続税が2割加算されるため、税金の負担が大きくなることに注意が必要です。また、兄弟姉妹間での相続には特有のトラブルが生じる可能性もあるため、注意が必要です。
この記事では、兄弟姉妹が相続人になった場合の相続税の計算方法や注意点について詳しく説明していきます。
兄弟姉妹が法定相続人になる場合
民法では、被相続人が亡くなった時に誰が相続人になるかが定められています。この民法で定められた相続人を「法定相続人」と呼びます。
遺言書を作成していない場合は、法定相続人が遺産を相続することになります。兄弟姉妹がいるからといって、必ずしも兄弟姉妹が法定相続人になるわけではありません。故人に子供、孫、親・祖父母がいる場合、兄弟は法定相続人にはなりません。
では、法定相続人はどのように決まるのでしょうか。
順位 | 相続人 | 理由 |
---|---|---|
1 | 配偶者・子供 | - |
2 | 子供 | 配偶者が亡くなっている場合 |
3 | 孫 | 子供が亡くなっている場合 |
4 | ひ孫 | 孫が亡くなっている場合 |
5 | 親 | 直系卑属がいない場合 |
6 | 祖父母 | 親が亡くなっている場合 |
7 | 曾祖父母 | 祖父母が亡くなっている場合 |
8 | 兄弟姉妹 | 直系卑属も親や祖父母などの直系尊属もいない場合 |
まず、故人に配偶者がいる場合、配偶者は常に法定相続人となります。次に、故人に子供がいる場合、子供が法定相続人となります。配偶者と子供がいる場合は、配偶者と子供が法定相続人となります。配偶者が亡くなっており子供がいる場合は、子供のみが法定相続人になります。子供が亡くなっている場合は、孫が代わりに法定相続人となります。孫も亡くなっている場合は、ひ孫が代わりに法定相続人となります。
亡くなっている人の代わりに法定相続人になることを「代襲相続」と言います。子供や孫などの直系卑属がいない場合、親が法定相続人となります。親も亡くなっている場合は、祖父母が法定相続人となります。祖父母も亡くなっている場合は、曾祖父母が代わりに法定相続人となります。子供や孫などの直系卑属も親や祖父母などの直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となります。
兄弟姉妹が法定相続人になる2つのケース
①配偶者居ない | 子供→孫→親→祖父母→兄弟姉妹 |
②配偶者居る | 子供→孫→親→祖父母→兄弟姉妹 |
以上の場合に、兄弟姉妹が法定相続人になります。
兄弟姉妹が相続人の場合の法定相続分
法定相続分とは、民法で定められた遺産の取り分のことです。ただし、法定相続分はあくまで目安であり、必ずしもその割合で遺産を分けなければならないわけではありません。
兄弟姉妹が相続人の場合の法定相続分については以下のように定められています。
相続人が兄弟姉妹のみの場合の法定相続分
相続人が兄弟姉妹のみの場合の相続割合は、兄弟姉妹の数によって異なります。兄弟姉妹のみが相続人であり、複数人いる場合は、遺産を兄弟姉妹の数で均等に分けます。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合の法定相続分
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合の相続割合は、配偶者と兄弟姉妹の取り分が異なります。配偶者と兄弟姉妹が相続人であり、兄弟姉妹が複数人いる場合は、遺産の4分の1を兄弟姉妹の数で均等に分けます。配偶者の法定相続分は遺産の4分の3、兄弟姉妹の法定相続分は遺産の4分の1です。
配偶者の法定相続分は2億円の4分の3であり、計算すると1億5,000万円です。兄弟姉妹の場合は、2億円の4分の1を兄弟の数で割ります。この場合、兄弟姉妹が5人いるので2億円の4分の1を5人で割ると1,000万円となります。
兄弟姉妹の法定相続分は不利?
改めて説明すると
もし被相続人の遺産総額が2,000万円であれば、弟の甲は1,000万円、妹の乙も1,000万円を受け取ることになります。
この場合、特に不利な遺産分割とは言えず、問題が起こることもほとんどありません。しかし、被相続人に配偶者がいる場合は、次のような法定相続分になります。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者 | 3/4 |
兄弟 | 1/4 |
弟の甲 | 1/8 |
妹の乙 | 1/8 |
配偶者の存在により、兄弟全員の受け取る遺産が1,000万円から250万円に大幅に減少します。
こういった不利な条件が生じる理由としては、被相続人の配偶者や子供、親以外の人々が相続すること自体が、ある程度偶然によるものだからです。このような偶然性を考慮して、遺産分割の公平性を維持するために、このような割合が設定されていると考えられます。
兄弟姉妹が相続人の場合の遺留分
遺留分とは、相続人の中で一定の範囲内で認められている最低限の遺産取得分のことです。もし相続人が遺留分を超える遺産を受け取っていない場合、他の相続人は「私の遺産取得分が遺留分に満たないため、不足分を受け取りたい」と請求することができます。
しかし、故人が「遺産を全て愛人に渡す」という遺言書を作成していた場合、配偶者は遺留分の2分の1を受け取っていないので、配偶者は愛人に対して遺留分の2分の1を請求することができます。
このように、他の相続人に遺留分を請求することを「遺留分侵害額請求」と言います。兄弟姉妹が相続人の場合の遺留分については、以下のように定められています。
相続人が兄弟姉妹のみの場合の遺留分
兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合の遺留分
相続人が配偶者と兄弟の場合の遺留分については、配偶者の遺留分は遺産の2分の1ですが、兄弟には遺留分がありません。仮に故人が遺言書に「遺産を全て愛人に渡す」と書いていた場合、配偶者は愛人に対して遺留分侵害額請求をすることができますが、兄弟には遺留分がありませんので、愛人に対して遺産を渡すよう請求することができません。
兄弟姉妹が相続した場合の注意点
相続財産は家族の生活保障のため、配偶者や子供が相続人となる場合は税負担を軽減する控除や特例があります。しかし、兄弟姉妹には適用できる控除や特例が少なく、遺留分という最低限の相続財産もありません。そのため、状況によってはわずかな財産しか相続できない可能性もあります。
代襲相続は一代限り
代襲相続は、被相続人よりも先に子供が亡くなっている場合に、その子供の子(被相続人の孫)が代わりに相続人となる仕組みです。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りで、被相続人からみた甥や姪までしか代襲相続人になることできません。
条件を満たせば小規模宅地等の特例が利用できる
小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅を相続した場合に敷地評価額の一部を減額する制度です。兄弟姉妹は同居の要件を満たしていない場合が多いですが、一定の要件を満たせば同居していない兄弟姉妹でも特例を適用できます。
相続税は現金一括納付が基本となる
兄弟姉妹の相続税は2割加算されるため、配偶者や子供よりも税負担が重くなります。しかし、相続税は現金一括納付が原則なので、納税資金が不足する可能性も考えられます。
不動産を相続する場合は、売却して現金化する必要があるかもしれません。
相続税には連帯納付義務がある
兄弟姉妹の相続税は同じ割合ですが、資金力には個人差があります。しかし、相続税には連帯納付義務があるため、1人が滞納していると他の兄弟姉妹にも影響が及びます。また、滞納すると延滞税などのペナルティも発生します。
相続手続きが煩雑
相続手続きでは、被相続人の子供や代襲相続人、直系尊属がいない場合、相続人を特定するのに時間がかかる可能性があります。
兄弟を特定するためには、兄弟の戸籍謄本だけでなく、被相続人の親の戸籍謄本も調査する必要があるからです。また、遺産分割協議を行う場合には、疎遠になってしまった兄弟とも協議する必要があります。
兄弟と連絡が取れない場合や、行方が分からない場合もあります。そのような場合、遺産分割協議が進まず、家庭裁判所に「不在者の財産管理人」等を選任する申し立てが必要になるかもしれません。
兄弟が少ない場合や、兄弟との連絡が密な場合はまだしも、兄弟が多い場合は相続手続きの煩雑さが予想されます。
兄弟姉妹の相続トラブルを未然に防ぐには
兄弟姉妹が相続人になる場合、相続手続きは複雑になります。
そして、兄弟姉妹の数が多いほど、遺産分割には特別な配慮が必要になります。ここでは、遺言書の作成の重要性と不動産を分ける際のポイントについて説明します。
兄弟姉妹の遺産分割時には遺言書の作成が重要
配偶者や子供がいない場合、自分自身が被相続人になるときは、遺言書の作成は不要だと思う方もいるかもしれません。しかし、遺産分割協議が困難な場合もあるため、あらかじめ遺言書を作成し、自分の兄弟姉妹にどの遺産を分けるかを指定しておくことをおすすめします。
これにより、後で兄弟姉妹間で遺産の分配を巡る争いや、遺産分割が進まないリスクを軽減することができます。遺言書を作成する際には、兄弟姉妹間で不公平な分配にならないように、慎重に遺産を指定することが重要です。
もしも分割が困難な遺産がある場合
被相続人が遺言書を残さずに亡くなり、兄弟姉妹が相続人になる場合もあります。もし被相続人の遺産が現金や債券などの金融資産だけなら、なんとか公平に分けることができるでしょう。
しかし、問題は土地や家屋などの不動産資産です。分割できる不動産であればまだしも、唯一の遺産が土地や家屋だけだと、分けるのは難しいことは当然です。この場合、不動産を兄弟姉妹間で「共有」することも考えられます。
しかし、一緒に住む予定がない場合、兄弟姉妹の誰かが実質的に独占する結果になり、他の兄弟姉妹に不満が残る可能性があります。こうした場合には、「代償分割」という方法を検討してみましょう。代償分割とは、相続人の一人がその不動産資産を引き継ぎ、他の人々にそれに相当する金額を支払う方法です。
また、誰も被相続人の残した不動産資産を受け取りたくない場合もあります。そんなときは、その資産を売却し、得られたお金を分ける方法もあります。これを「換価分割」と呼びます。
どういった方法を選ぶかは、兄弟姉妹間でしっかり話し合って決めるべきです。
まとめ
子供がいない場合は第2順位の親が相続人となりますし、親もいない場合は第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。つまり、被相続人に子供・親などがいない場合は、兄弟姉妹が法定相続人として遺産を受け継ぐ可能性が生じます。ただし、遺言書が存在する場合は、その内容が優先されますので、法定相続人となっても遺言書の指示によっては財産を受け取れない場合もあります。
また、相続する場合でも、子供や親が相続する場合よりもやや不利な側面も存在します。特に複数の兄弟姉妹がいる場合は、過去の確執が原因でトラブルに発展する可能性もあります。兄弟姉妹が相続人となった場合は、まずは遺言書や他の相続人について確認し、自分が相続人になる可能性があるかどうかを確認しましょう。
兄弟姉妹間のコミュニケーションを取りながら進めることが非常に重要です。判断に迷った場合は、税理士などの専門家に相談することもおすすめです。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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