不動産を相続した場合に、必ず確認するべきことのひとつとして、その不動産に係る未払の固定資産税が無いかということがあります。被相続人が固定資産税の支払いに一括納付を選択していない限り、多くの場合に承継する不動産の固定資産税に未払額があります。この未払の額は相続人が納めることとなりますが、この相続人が負担する未払の固定資産税は、遺産総額から差し引くことができます。
今回は、未払の固定資産税の取り扱いと、差し引くための債務控除の手続きについて紹介していきます。
目次
相続財産から控除できる債務
相続税を計算する際には、被相続人が残した借入金等の消極財産である債務を、積極財産である遺産総額から差し引くことができ、支払うべき相続税額を減額させることができます。
債務
遺産総額から差し引くことができる債務は、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務で確実と認められるものです。
債務控除できるもの
債務のうち債務控除することができるものには、借入金、賃貸住宅の預り敷金、未払医療費、被相続人に係る未払の所得税や住民税、固定資産税等を挙げることができます。
債務控除できないもの
債務のうち債務控除することができないものには、墓地買入未払金、保証債務、遺言執行費用、弁護士費用、土地の測量費、税理士費用等を挙げることができます。
葬式費用
葬式費用は債務ではありませんが、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます。
債務控除できるもの
葬式費用のうち債務控除することができるものには、通夜費用、本葬費用、密葬費用、死体の捜索運搬費用等を挙げることができます。
債務控除できないもの
葬式費用のうち債務控除することができないものには、香典返礼費用、初七日や四十九日等の法会費用、遺体解剖費用等を挙げることができます。
控除ができる人
債務控除を適用することができる人は、債務等を負担することになる相続人や包括受遺者のうち、下記①又は②のいずれかに該当する人です。
- 相続や遺贈で財産を取得した時点で日本国内に住所がある人
一時居住者で、かつ、被相続人が一時居住被相続人または非居住被相続人である場合は除かれます。
- 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がない人で、下記のいずれかに当てはまる人
・日本国籍を有しており、かつ、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある人
・被相続人が、一時居住被相続人または非居住被相続人である場合を除き、日本国籍を有しており、かつ、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない人
・被相続人が、一時居住被相続人、非居住被相続人または非居住外国人である場合を除き、日本国籍を有していない人
未払の固定資産税の取り扱い
未払の固定資産税は、上記のとおり、債務控除の対象となる債務です。未払の固定資産税の取り扱いについて詳しく紹介していきます。
固定資産税のしくみ
そもそも固定資産税とはどのような税金で、誰が支払うべきものなのでしょうか。固定資産税のしくみを知ることで、債務控除の対象となる理由が理解しやすくなります。
固定資産税の課税客体は土地、家屋及び償却資産であり、課税主体は全市区町村、納税義務者は土地、家屋又は償却資産の所有者です。つまり、土地や家屋及び償却資産等の不動産相続によって取得した場合には、それらに対する固定資産税を市区町村に納める義務を承継することになります。
課税標準は適正な時価に基づく価格であり、税率は標準税率が1.4%で、免税点は土地が30万円、家屋が20万円、償却資産が150万円です。つまり、取得した不動産が各区分における課税標準以上である場合には、その課税標準の1.4%を固定資産税として納めることとなります。
課税標準は地方税法で定められた適正な時価に基づく価格である固定資産評価基準から算出され、課税標準が大きい程、納めるべき固定資産税は多くなります。賦課期日は当該年度の初日の属する年の1月1日です。つまり、1月1日時点で不動産を保有している人が、納税義務者となります。
債務控除の対象となる固定資産税
債務控除の対象となる固定資産税は、未払のものです。上記のように、固定資産税の賦課期日は当該年度の初日の属する年の1月1日です。
1月1日時点で不動産を所有していた人がその年中に死亡し相続が発生した場合、納税義務者は1月1日時点で不動産を所有していた人である被相続人ですが、その固定資産税の支払いが未払となる場合があります。
納税義務は被相続人でありながらも、支払を行うのは相続人であるため、この相続人が支払う未払の固定資産税は、債務控除の対象となります。
被相続人が1月15日に死亡した場合
未払の固定資産税が債務控除の対象となりますが、固定資産税の納期は年に4回あるため、死亡日によって未払となる金額である債務控除の対象となる金額が異なります。納期は市区町村が定めることができますが、地方税法では4月、7月、12月、2月と定められています。1月1日時点の状況で決定された年税額を、一括納付しない場合には、4回の分割払いで納付を行います。
被相続人が2024年1月15日に死亡し、被相続人の居住地の市区町村の固定資産税の納期が地方税法通りの4月、7月、12月、2月であり、各納付期日にはそれぞれ納めている場合には、被相続人の未払の固定資産税は、2023年1月1日に決定された2024年2月納付分、2024年1月1日に決定された2024年4月納付分、2024年7月納付分、2024年12月納付分、2025年2月納付分の、計5期日分の固定資産税です。
被相続人が8月15日に死亡した場合
一方で、被相続人が2024年8月15日に死亡し、被相続人の居住地の市区町村の固定資産税の納期が地方税法通りの4月、7月、12月、2月であり、各納付期日にはそれぞれ納めている場合には、被相続人の未払の固定資産税は、2024年12月納付分、2025年12月納付分の、計2期日分の固定資産税です。
被相続人が1月15日に死亡した場合と比較をすると、未払となる金額である債務控除の対象となる金額が半分以下になります。債務控除の対象となる金額が大きく異なるため、被相続人の固定資産税の納付状況はしっかりと確認することが必要です。
共有不動産の場合
相続によって取得した不動産が共有であった場合には、債務控除の対象となる固定資産税の金額に注意が必要です。不動産が共有であるかは、登記事項証明書の権利部の所有権に関する事項に共有者や持分の記載があるかで確認をすることができます。
共有者の片方が死亡した場合、その不動産の共有持分は、自動的にほかの共有者に移転することは原則としてありません。被相続人の共有不動産の持分が相続財産となり、相続手続きの対象及びその持分に応じた未払の固定資産税が債務控除の対象になります。共有不動産の固定資産税は共有者全員で連帯して納めることになっていますが、納税通知書や納付書は代表者あてに送られます。
よって、被相続人が納税の代表者になっていた場合は共有者の負担分を差し引き、固定資産税の全額で債務控除しないようにすること、被相続人が納税の代表者になっていない場合には、共有者である納税の代表者に確認をし、固定資産税の債務控除を失念しないようにすることに、それぞれ注意をします。
債務控除の方法
債務控除の適用は、相続税の申告書内で行います。該当をする申告書内の帳票を、第13表 債務及び葬式費用の明細書といいます。
債務及び葬式費用の明細は、1債務の明細、2葬式費用の明細、3債務及び葬式費用の合計額と欄が分かれており、それぞれに該当する事項を記載します。
- 債務の明細には、債務控除に該当する各債務について、債務毎に下記を記載します。
- 種類…公租公課、未払金、借入金等の債務の種類を記載します。
- 細目…固定資産税、医療費、証書借入等の種類に対する詳細を記載します。
- 債権者の氏名、住所…○○市役所、○○病院、○○銀行等の債務を支払う相手の情報を記載します。
- 発生年月日、弁済期限…被相続人に債務が発生をした日、債務を承継した相続人が支払った日をそれぞれ記載します。
- 金額…債務の金額を記載します。
- 債務の合計額…上記で示した各金額の合計額を記載します。
- 葬式費用の明細には、債務控除に該当する各葬式費用について、葬式費用毎に下記を記載します。
- 支払先、氏名、住所…○○寺、○○葬儀社等の葬式費用を支払う相手の情報を記載します。
- 支払年月日…相続人が支払った日を記載します。
- 金額…葬式費用の金額を記載します。
- 金額合計…上記で示した各金額の合計額を記載します。
- 負担することが確定した葬式費用…相続人のうち誰が何円負担したのかという情報を記載します。
- 債務及び葬式費用の合計額には、1及び2のまとめとして、下記を記載します。
- 債務などを継承した人の氏名…債務や葬式費用を負担した相続人等の氏名を記載します。
- 負担することが確定した債務…記載した相続人等ごとの債務の合計額を記載します。
- 負担することが確定していない債務…遺産分割が申告書の提出時点で決定をしていない場合には、法定相続分の割合に応じて記載します。
- 合計額…債務と葬式費用の合計額を記載します。
まとめ
このように、不動産を相続した場合において、その不動産に係る未払の固定資産税は債務控除の対象となります。
固定資産税の納税義務は1月1日に決定がするため、多くの不動産相続の場合において未払の固定資産税が存在します。債務控除となる被相続人が未払である金額は、その相続が発生した時点や不動産の所有権によって異なります。
債務控除を適用することで、遺産総額及び納めるべき相続税が減額できるため、必ず未払金額を正しく把握し、誤りのない申告を行うようにしましょう。
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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