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今後に期待!2019年から新設された個人版事業承継税制とは

 

税理士友野
税理士友野

2019年度税制改正で導入された個人版事業承継税制は、一定の要件を満たせば先代事業者から後継者へ贈与された特定事業用資産に係る贈与税、または後継者が相続により取得した特定事業用資産に係る相続税の納付が猶予される税制です。

この税制は、税制の対象となる資産が少ないことや事業用土地に対する小規模宅地等の特例と選択適用であることから、現状では使い勝手のよいものとは言えませんが、今後の税制改正でより使いやすい制度になることが期待されます。

個人版事業承継税制とは?

制度が導入された経緯

個人版事業承継税制は、地域経済と雇用を下支えする中小企業や小規模事業者の経営者の高齢化が急速に進展する中で、円滑な世代交代を通じた事業の持続的な発展を確保することが喫緊の課題となっていたことを受けて、2019年度税制改正で導入されました。

制度の概要

個人版事業承継税制は、一定の者が個人の事業用資産(特定事業用資産)を贈与または相続等により取得した場合、その事業用資産に係る贈与税・相続税について一定の要件のもとでその納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

「一定の者」は、次の要件をいずれも満たす者をいいます。

  • 青色申告に係る事業を行っていた事業者の後継者として、2019年(平成31年)4月1日から2024年(令和6年)3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し、その確認を受けた者
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法、以下「円滑化法」といいます)の認定を受けた者

特定事業用資産とは?

個人版事業承継税制によって、その取得にかかる贈与税または相続税が猶予または免除される資産は「特定事業用資産」に限定されます。特定事業用資産とは、先代の事業者(贈与者、被相続人)の事業に使われていた次の資産で、かつその贈与または相続の年の前年分における先代の事業者の貸借対照表に計上されていたものをいいます。

  • 建物などが建っている土地のうち400平米以下の部分(棚卸資産に該当する土地は除く)
  • 建物のうち800平米以下の部分(棚卸資産に該当する建物は除く)
  • 建物以外の減価償却資産のうち、構築物、機械装置、器具備品、自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用される自動車または軽自動車、乳牛・果樹などの生物、特許権などの無形固定資産

上記の要件を満たさない資産、たとえば棚卸資産や売掛金、事業用の預貯金などは、たとえそれが事業に直接関連したものであっても個人版事業承継税制の対象資産とはなりません。よって、先代事業者からこれらの資産の贈与を受けた場合、またはこれらの資産を相続により取得した場合は、通常どおり贈与税または相続税が課されます。特に棚卸資産(商品の在庫や製品の原材料など)がこの税制の対象外であることは注意が必要です。

個人版事業承継税制(贈与税)

適用を受けるためのステップ

贈与税において個人版事業承継税制の規定の適用を受けるためのステップは次のとおりです。

  1. 個人事業承継計画を策定する
    最初のステップは、「個人事業承継計画」の策定です。個人事業承継計画には、先代の事業者及び後継者の氏名の他、特定事業用資産を承継する時期及び当該時期までの経営上の課題や、後継者が事業を承継した後の経営計画などを記載します。個人事業承継計画の様式と製造業の場合の記載例は中小企業庁のホームページから入手することができます。
    出典:中小企業庁ホームページ
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_kojin_ninntei.htm
  2. 認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受ける
    次のステップは、策定した個人事業承継計画に対して、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けることです。認定経営革新等支援機関とは、中小企業が経営相談等をする相談先として、専門的知識や実務経験が一定レベル以上の者に対し国が認定した機関です。経営革新等支援機関に認定されているのは、税理士、公認会計士、中小企業診断士などの士業事務所や、商工会などの民間団体、あるいはコンサルティング会社や金融機関など多岐に渡ります。下記URLから、地域別の認定機関を検索することが可能です。
    出典:中小企業庁ホームページ
    https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/kikan.htm
  3. 都道府県へ確認申請する(5.のステップと同時でも可)
    次のステップは、認定経営革新等支援機関による所見等の記入を受けた個人事業承継計画について都道府県の確認を受けることです。ただ、個人事業承継計画の都道府県への提出は5.のステップの際に行っても問題ありませんので、このステップは省略可能です。
  4. 特定事業用資産の贈与を受ける
    贈与者から贈与を受けます。この際、贈与者から特定事業用資産の全ての贈与を受ける必要がある点には留意が必要です。なお、先代事業者以外の者からの贈与について個人版事業承継税制の適用を受けようとする場合は、先代事業者からの最初のその適用に係る贈与の日から1年を経過する日までの贈与であることが要件となるため、贈与の時期についても注意が必要となります。
  5. 都道府県へ認定申請する
    特定事業用資産の贈与を受けたあと、諸々の要件を満たすことについて都道府県知事による円滑化法の認定を受けます。この認定を受けるためには、贈与を受けた年の翌年1月15日までに申請が必要です。
  6. 税務署へ開業届出書及び青色申告承認申請書を提出する
    税務署へ開業届出書及び青色申告承認申請書を提出します。開業届出書は事業の開始の日から1か月以内、青色申告承認申請書は原則として事業を開始した日から2か月以内に提出する必要があります。
  7. 贈与税の申告を行う
    最後に、個人版事業承継税制の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書及び一定の書類を、贈与を受けた年の翌年3月15日までに税務署へ提出します。その際、担保の提供が必要です。

適用要件

適用要件は次のとおりです。

  1. 受贈者(贈与を受ける者)の要件
    • 贈与の日において20歳以上(2022年4月以降は18歳以上)であること
    • 円滑化法の認定を受けていること
    • 贈与の日まで引き続き3年以上に渡って特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
    • 開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
    • 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
  2. 贈与者(贈与をする者)の要件
    • 贈与者が先代事業者である場合は、廃業届出書を提出していることまたは贈与税の申告期限までに提出する見込みであり、かつ贈与の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を青色申告書により提出していること
    • 贈与者が先代事業者以外の場合は、先代事業者の贈与または相続開始の直前において、先代事業者と生計を一にする親族であり、かつ先代事業者からの贈与または相続後に特定事業用資産の贈与をしていること
  3. その他の要件
    • 納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供すること

効果

贈与税額の納税が猶予されます。

納税猶予期間中の注意点

納税猶予期間中は、次の点に注意が必要です。

  • この制度の適用に係る事業を廃止したり、青色申告が取り消されたりした場合は、猶予されていた贈与税の全部または一部を、利子税とともに納付する必要があります
  • 3年ごとに「継続届出書」を税務署へ提出する必要があります

贈与税の納税が免除される場合

贈与者または受贈者が死亡した場合や事業を継続できないことについてやむを得ない理由がある場合において、免除届出書または免除申請書を税務署へ提出したときは、猶予されていた贈与税の全部または一部についてその納付が免除されます。

なお、贈与者が死亡した場合、贈与税は免除されますが、特定事業用資産を相続等により取得したものとみなされて相続税額の計算上考慮されるため、相続税の納税の猶予を受けたい場合は一定の手続きが必要です。

個人版事業承継税制(相続税)

適用を受けるためのステップ

相続税の場合の適用を受けるためのステップの大部分は贈与税の場合と同じです。贈与税の場合と異なる点は次のとおりです。

  • 円滑化法の認定を受けるためには、相続開始後8か月以内にその申請を行う必要があります
  • 青色申告承認申請書の提出期限は、相続開始があったことを知った日によって異なります
  • 相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です

適用要件

適用要件は次のとおりです。

  1. 受贈者(贈与を受ける者)の要件
    • 円滑化法の認定を受けていること
    • 相続開始の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(先代事業者等が60歳未満で死亡した場合を除く)
    • 開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
    • 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
    • 先代事業者等から相続等により財産を取得した者が、<strong>特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと</strong>
  2. 贈与者(贈与をする者)の要件
    • 被相続人が先代事業者である場合は、相続開始の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を青色申告書により提出していること
    • 被相続人が先代事業者以外の場合は、先代事業者の相続開始の直前において、先代事業者と生計を一にする親族であり、かつ先代事業者からの贈与または相続後に開始した相続に係る被相続人であること
  3. その他の要件
    • 納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供すること

効果

相続税額の納税が猶予されます。

納税猶予期間中の注意点

納税猶予期間中の注意点は、贈与税の場合と同じです。

相続税の納税が免除される場合

相続によって財産を取得した者(後継者)が死亡した場合や事業を継続できないことについてやむを得ない理由がある場合において、免除届出書または免除申請書を税務署へ提出したときは、猶予されていた相続税の全部または一部についてその納付が免除されます。

小規模宅地等の特例の適用を受けた場合の適用制限

上述したとおり、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例を受ける場合は、この個人版事業承継税制の適用を受けることはできません。小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)と個人版事業承継税制の主な違いは次のとおりです。

小規模宅地等の特例 個人版事業承継税制
事前の準備 不要 要(個人事業承継計画の策定・提出など)
対象資産 宅地(400平米まで) 宅地(400平米まで)
建物(800平米まで)
減価償却資産
効果 課税価格の減額(80%) 納税猶予(100%)

小規模宅地等の特例は事前の準備が不要であるにもかかわらず効果が大きい(課税価格が80%減額される)のに比べて、個人版事業承継税制は事前の準備が必要であるにもかかわらず効果が限定的(事後的な納付免除はあるものの、相続時点ではあくまでも納税猶予に過ぎない)であることを考えると、被相続人の財産に事業用土地がある場合は、あえて個人版事業承継税制の適用を受けるメリットは薄いと思われます。

一方、被相続人の財産に事業用土地がなく、かつ建物や減価償却資産が大量にあるときは、個人版事業承継税制の適用を受けることで事業承継がよりスムーズに行く可能性もあるため、個人事業承継計画の策定などの手間はかかったとしても、個人版事業承継税制の適用を検討する価値はあると思われます。

まとめ

以上、個人版事業承継税制について、制度の概要や注意点を中心に紹介しました。

現行の個人版事業承継税制は、対象資産に限りがあることが原因で納税猶予の効果が少ない一方、事前手続きに手間がかかるため、決して使い勝手のよい制度とは言えません。また、他の使い勝手の良い節税方法(法人化による節税や特定事業用宅地に対する小規模宅地等の特例)との選択制であるため、現行法制の元においてはあえて個人版事業承継税制を活用するメリットが乏しいのが現状で、実際の適用事例も限りなく少なくなっています。

もっとも、後継者不在で廃業する個人事業主を減らしたいという国の方向性は今後も変わらないと思いますので、より使い勝手のよい制度にするための何らかの改正が今後行われることは十分想定されます。法人向け事業承継税制も時間をかけて改正されてきた経緯があるので、個人版事業承継税制も現実の状況に合わせて少しずつ改善されていくことを期待しています。

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ABOUT US
税理士 友野祐司
税理士法人レガシィ勤務を経て2011年に響き税理士法人に入社、相続税専門の税理士として、横浜を中心に相続税申告のサポートをを行っています。どこよりも、素早い対応を心がけておりますので、少しでも相続税に関して、不安や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。