税務調査は誰しもができる限り受けたくないと思うものでしょう。正しく申告、納税を行ったという自負がある場合でも、税務調査が行われるという通達を受ければ不安になりますし、調査の結果で申告内容に不備が見つかれば、追加で税金を支払う義務が生じます。
税務調査は誰しもができる限り受けたくないと思うものでしょう。
正しく申告、納税を行ったという自負がある場合でも、税務調査が行われるという通達を受ければ不安になりますし、調査の結果で申告内容に不備が見つかれば、追加で税金を支払う義務が生じます。
相続税の税務調査は、相続財産の多い人だけが対象とは限りません。
一般家庭でも、行われる可能性は大いにあります。
それでは、一般家庭で調査されやすい場合の特徴について、紹介していきます。
目次
この記事の監修者
税理士 桐澤寛興
戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
相続税の調査が行われる確率
相続税の調査が行われる確率は、10%程度です。
これは、令和5年12月に国税庁から発表された情報により、確認をすることができます。
「令和4事務年度における相続税の調査等の状況」[1]によると、令和4事務年度内の実地調査は8,196件、簡易な接触は5,004件、計13,200件が税務署からの問い合わせを受けている状況です。
また、「令和4年分相続税の申告事績の概要」[2]によると、相続税の申告書の提出に係る被相続⼈数は150,858人です。
150,858人のうち13,200件が税務署からの問い合わせを受けている状況を鑑みると、10%近くの人に対して、税務署からの簡易的な問い合わせを含む、税務調査の対象となっています。
調査されやすい場合とは?
相続税は遺産の総額が大きいほど高額になるため、相続財産を多く保有していたと考えられる資産家や社会的地位の高い人の相続人の方が、一般家庭の相続人よりも税務調査を受けやすいです。
遺産の価額が大きいほど、その価額の評価額の算定間違いや、申告漏れとなっている隠し財産の存在や脱税の可能性を疑われやすいことは、当然の傾向であるといえるでしょう。
しかし、遺産の価額が大きいとは言い難い一般家庭であっても、税務調査の対象から外れるという措置はありません。
それでは、一般家庭が相続税の税務調査を受けやすい場合についての事例を紹介します。
申告書に不備がある場合
提出した公的書類に不備がある場合に行政機関からの問い合わせを受けることが往々にして起こり得ることと同じように、提出をした相続税の申告書に不備がある場合には、税務署から問い合わせを受けます。
軽微な計算間違いや記入箇所の相違等の不備であれば、電話確認や再提出の求めに応じることで申告は完了します。
しかし、間違えている項目が多い、記入漏れが多数生じている等の不備が重大なものについては、相続税の計算基礎となる相続財産を漏れなく把握できているのか、悪意をもって相続財産を少なく申告しているのではないか等と税務署からの疑念が強まり、税務調査の対象となりやすくなります。
無申告の場合
相続税の申告義務があるにも関わらず、申告をしていない場合には、相続税の未納が生じているため、税務調査の対象となりやすくなります。
相続人に相続税の申告義務があるかの情報は、死亡届や金融機関の預金残高等の情報から、把握することができます。
申告をしなければ相続財産が税務署に把握されることもなく、相続税を納める必要もない、という税金逃れのための抜け道は無い、といえるでしょう。
暦年贈与が多い場合
相続人が生前に被相続人から財産を受け取り、暦年贈与を多く行っていた場合には、税務調査の対象となりやすくなります。
贈与税の課税方法は、暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。
このうち暦年課税を選択した場合、110万円までの財産の受取であれば、受贈者は贈与税を納める必要がありません。
この仕組みを利用した相続対策を一般的に暦年贈与といいます。
暦年贈与を相続対策として行う場合に注意したいことが、相続が発生した7年前までに行われた贈与財産は、相続税の課税対象の財産に含まれる、生前贈与加算が相続税申告時に適用をされることです。
よって、暦年贈与が多い場合には、それらの贈与が生前贈与加算に該当をするものではないか、生前贈与加算が正しく相続税の申告時に計算されているか等の、税務署が厳しく確認を行う事項になります。
海外資産が多い場合
海外資産が多い場合、適正に相続人がそれを把握することが困難であり申告漏れが生じやすいという相続人が過失によって申告を誤ることのみならず、海外資産であれば税務署が把握できないであろうと故意に申告しなかった事例が多くあり、税務調査の対象となりやすくなります。
国外送金調書や国外財産調書の提出義務化等、法令の動きは海外財産の所有者の情報収集を強める傾向にあり、生前贈与と同様に、税務署が厳しく確認を行う事項になります。
税理士の関与無しで申告を行った場合
相続人が税理士の関与無しで申告書の作成をした場合、税理士の関与がある申告書よりも信ぴょう性に欠けることから、税務調査の対象となりやすくなります。
具体的に、税理士の関与があると、どのように信ぴょう性が高まるのか、税務調査の対象となりにくくなるのかについて、次の章で紹介しましょう。
税理士の関与で調査されにくくなる理由
税理士の関与があることで、調査の対象となりにくくなる理由は、下記の点で相続人が自身で申告書を作成することよりも、信ぴょう性の高い申告書の作成ができることにあります。
申告書の不備を防ぐことができる
相続人が自身で申告書を作成する機会は、一生のうちに何度もあるものではありません。
相続人が自身で申告書を作成するためには、書籍やインターネット、国税庁や税務署の情報を収集し、相続税法の理解から申告書の作成方法、相続税の納付方法まで網羅する必要があり、とても労力を費やすものです。
さらに、その労力を費やしても、不備のない申告書を作成することができるという保証はありません。
一方で、税理士は申告書を作成することが業務であることから、作成経験が豊富です。
特に、相続税に強いことを公言している税理士法人であれば、年に数千件もの申告実績がある場合もあります。
このように、申告書の作成経験が多く、国家資格として知識の認められた税理士が関与することが、相続税の申告書の不備を防ぎ、税務調査を受けにくくするために有効であるといえます。
財産の把握漏れを防ぐことができる
相続税の計算基礎となる相続財産を漏れなく把握すること、またその価額を正しく算定することは、納税額を決定するうえで非常に大切なことです。
相続財産を漏れなく把握することは、生前の相続対策として被相続人が財産目録を作成しておく等の、税理士の関与が無くとも一定の対策をとることができますが、財産の価額を正しく算定することは、相続人が自身で行うことは困難である場合があります。
財産の価額は、相続財産が現預金のみであれば、その実在する価額を相続財産の価額としますが、株式や不動産が相続財産に含まれる場合には、一定の計算を行い相続税の課税対象となる価額を決定する必要があります。
この相続財産の価額の決定は、相続人自身で行うこともできますが、不動産のうち土地は税理士によって算出する価額が多少異なるほど、計算過程が複雑です。
これを相違なく相続人自身が行うことは、困難なことでしょう。
よって、財産の把握漏れを防ぐ漏れを防ぐ、特に正しく相続財産の価額を決定するうえで、財産評価の経験の豊富な税理士の関与があることが、税務調査を受けにくくするために有効であるといえます。
法令解釈を適切に行うことができる
相続税の申告を正しく行うためには、相続税法の理解が必要になります。
相続税法は税理士が資格を取得するための受験科目のひとつですが、その合格には500時間程の勉強時間が必要といわれており、とても難解なものです。
これを、相続税法と初めて対峙する相続人が自身の相続のケースに当てはまる部分だけを理解しようとすると、当てはまる部分とそうでない部分を相続税法の中から正しく取捨選択することができるのか、また、取捨選択を正しく行うことができても、その内容を正しく理解することができるのか、という点が懸念されます。
この相続税法の法令解釈を適切に行うことができないと、誤った申告書を作成することになってしまいます。
適切な法令解釈を行い、正しい申告書を作成するためには、法令に精通した税理士の関与あることが、務調査を受けにくくするために有効であるといえます。
書面添付制度を活用することができる
書面添付制度とは、書面添付制度と意見聴取制度を総称したものです。
税理士の関与がある場合、相続税の申告書には税務代理権限証書という、税理士の関与によって申告が行われたことを証明する書類が添付されます。
これに加えて活用することができるものが、書面添付制度と意見徴収制度です。
書面添付は、税理士のみに認められた権利であり、関与方法によって下記の2つに区分することができます。
- 税理士又は税理士法人自らが申告書を作成した場合(法第33条の2①)その申告書の作成に関して、計算・整理し、又は相談に応じた事項を記載した書面を、当該申告書に添付することができます。
- 税理士又は税理士法人が、他人の作成した申告書につき相談を受けて審査した場合(法第33条の2②)当該申告書が法令の規定に従って作成されていると認めたときは、その審査した事項及び法令の規定に従って作成されている旨を記載した書面を、当該申告書に添付することができます。[3]
意見徴収制度は、その活用により下記の3つに区分する事項が、税務署から税理士に対して行われます。
- 事前通知前の意見聴取
- 更正処分前の意見聴取
- 不服申立てに係る調査の意見聴取
書面添付制度、意見徴収制度の活用により、書面に記載された事項は、税務の専門家である税理士からの申告書に関する情報であることから、申告内容の確認や調査の要否等の判断において活用され、事前通知前の意見聴取の段階で疑義が解消し、結果として調査の必要性がないと認められた場合には、相続人等に臨場して行う帳簿書類の調査に至らないこともあり得ます。
よって、この制度の活用は、税務署からの申告内容の確認において、信頼性を高めるとともに、税務調査前に審議すべき箇所があった場合の相続人と税務署の仲介役としての税理士の立場を明らかにし、税務調査を受けにくくするために有効であるといえます。
まとめ
一般家庭でも税務調査を受けることがあります。
紹介した事項に留意をしながら申告を行うことで、受ける可能性は下がりますが、最も効果的な税務調査対策は、相続人自身のみで申告せずに、税理士の関与を受けることです。
しかしながら、税理士の資格をもつ人であれば誰でも安心、とはいきません。
税理士にはそれぞれ得意分野があり、相続税の申告経験がない税理士もいます。
そのため、税務調査を受けにくくするという目的で選定する場合には、相続税に強い、相続税の申告実績が豊富、と掲げている税理士や税理士法人の関与を受けることをおすすめします。
ご参考になさってください。
[1]令和4事務年度における相続税の調査等の状況 [2] 令和4年分相続税の申告事績の概要 [3] 日本税理士連合会戸田譲三税理士事務所(現税理士法人みらいパートナーズ)、富士通株式会社 社内ベンチャー企業 勤務を経て2004年 桐澤寛興会計事務所 開業その後、2012年に響き税理士法人に組織変更。相続相談者様の悩みに寄り添うサービスを心がけている。
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